語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】ロバート・フロスト「雪の夕べに森のそばに立つ」 ~隠喩の力~

2015年07月11日 | 詩歌
 この森の所有者はだれか、わたしにはわかっている。
 だが、彼の家は村の方にある。
 雪の降り積もった森を眺めようと、
 ここに立ち止まっているのは彼に見えないだろう。

 わたしの小さな馬は不審に思っているに相違ない。
 森と凍った湖のあいだ
 近くに農家もないところに立ち止まるのを、
 それも一年じゅうで一番暗い夕べに。

 馬は何か間違ったことはないかと
 馬具についた鈴を一ふり鳴らす。
 あたりでほかに聞こえるものは
 雪ひらを伴って吹きすぎる風の音ばかり。

 森は美しく、暗くて深い。
 だが、わたしには約束の仕事がある。
 眠るまでにまだ幾マイルか行かねばならぬ。
 眠るまでにまだ幾マイルか行かねばならぬ。

 Whose woods these are I think I know.
 His house is in the village though;
 He will not see me stopping here
 To watch his woods fill up with snow.

 My little horse must think it queer
 To stop without a farmhouse near
 Between the woods and frozen lake
 The darkest evening of the year.

 He gives his harness bells a shake
 To ask if there is some mistake.
 The only other sound's the sweep
 Of easy wind and downy flake.

 The woods are lovely, dark and deep.
 But I have promises to keep,
 And miles to go before I sleep,
 And miles to go before I sleep.

 *

●訳注(安藤一郎)
 フロストの詩のうちで、もっとも親しまれている詩の一つ。ニューイングランドの山地は冬季に深い雪で蔽われるので、フロストには雪の詩で優れたものが少なくない。あとに出てくる「冬のエデン」や「荒寥の地」もそうである。
 ここの雪景色は、墨絵のように美しくて寂しい。しかし、単なる自然詩ではない--自然は人間のいる場面になっていて、焦点に馬がおかれている。この詩は「死」を象徴的に暗示しているとか、最後に「眠るまでは・・・・」を二度繰り返しているところにモラルがあるとか言う批評家もあるが、これを教訓的に解釈する必要はない。雪の降る森の美しさに接していても、そこに生活にたいする意識が自然と平行して浮かび上がってくる。そういう人間の営みの間に入ってくる自然こそ、ほんとうに美しく感じられるのである。

 *

●J・L・ボルヘス(鼓直・訳)「2 隠喩」(『詩という仕事について』(岩波文庫、2011)から引用
 そして、われわれは今ボストンの北にいるのですから、ロバート・フロストによる、恐らく知られ過ぎた詩を思い出すべきだと、私は思います。

 The woods are lovely, dark and deep.
 But I have promises to keep,
 And miles to go before I sleep,
 And miles to go before I sleep.

 「森は美しく、暗く、深い、
  しかし、私には果たすべき約束がある、
  眠りに就く前に歩くべき暗い道のりが、
  眠りに就く前に歩くべき暗い道のりが」

 これらの詩行は完璧そのもので、トリックなどは考えられない。しかしながら、不幸なことに、文学はすべてトリックで成り立っていて、それらのトリックは--いずれは--暴かれる。そしえ読み手たちも飽きるわけです。しかしこの場合は、いかにも慎ましいものなので、それをトリックと呼ぶのが恥ずかしいほどです(ただし、他に適当な言葉がないので、そう呼ばせてもらいます)。何しろここでフロストが試みているのは、誠に大胆なものですから。同じ詩行が一字一句の違いもなく二度、繰り返されていますが、しかし意味は異なります。最初の “And miles to go before I sleep.” これは単に、物理的な意味です。道のりはニューイングランドにおける空間としてのそれで、 sleep は go to sleep 「眠りに就く」を意味します。二度目の “And miles to go before I sleep.” では、道のりは空間的なものだけでなく、時間的なそれでもあって、その sleep は die 「死ぬ」もしくは rest 「休息する」の意であることを、われわれは教えられるのです。詩人が多くの語を費やしてそう言ったとすれば、得られた効果は遙かに劣るものとなったでしょう。私の理解によれば、はっきりした物言いより、暗示の方が遙かにその効果が大きいのです。人間の心理にはどうやら、断定に対してはそれを否定しようとする傾きがある。エマソンの言葉を思い出してください。 “Arguments convince nobody” 「論証は何ぴとをも納得させない」と言うのです。それが誰も納得させられないのは、まさに論証として提示されるからです。われわれはそれをとくと眺め、計量し、裏返しにし、逆の結論を出してしまうのです。

□ロバート・フロスト(安藤一郎・訳)「雪の夕べに森のそばに立つ」(安藤一郎・新倉俊一・訳編『ディキンソン・フロスト・サンドバーグ詩集 ~世界詩人全集12~』(新潮社、1968))
□Robert Frost “STOPPING BY WOODS ON A SNOWY EVENING”(“NEW HAMPSHIRE”,1923/“SELECTED POEMS”,PENGUIN BOOKS)
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【食】気軽に使っていいのか? ~種類豊富な「麺だれ」~

2015年07月11日 | 医療・保健・福祉・介護
  ①ミツカン「ぶっかけつゆ すだちおろし」
  ②永谷園「お好みの麺で楽しむジャージャー麺の素」(セブンプレミアム)
  ③ハウス食品「冷たくても、温かくてもおいしい たらこクリームうどんの素」(セブンプレミアム) 

 (1)暑い季節、人の体は熱くなり、食欲も落ちがちだ。そのため、喉ごしのよい冷たい麺類が食卓に頻繁にのぼることになるのだが、毎回同じ麺つゆだと飽きてしまう。そこで、市販のさまざまな麺だれが登場することになる。
 自分で作れば、つゆの原材料(しょうゆ・みりん・すだち)に大根おろし、すだちの5材料で作ることができる。
 しかし、例えば①には11もの材料が入っている。
 うち食品添加物は、調味料(アミノ酸等)、増粘剤(キサンタンガム)、香料。
 調味料と香料は一括表示名が認められている。種別名しか書かれていないので、何種類の添加物が配合されているかを裏ラベルから読み取ることはできない。一括表示名の内訳をカウントすると、前記11の材料はぐんと増える。
 ちなみに、②の場合、食品添加物は糊料(加工でん粉)、調味料(アミノ酸等)、カラメル色素、カロチノイド色素、酸味料、甘味料(スクラロース)。酸味料は一括表示名が認められている。
 ③の場合、食品添加物は増粘剤(加工でん粉・キサンタンガム)、調味料(アミノ酸等)、乳化剤、香料、紅こうじ色素。乳化剤は一括表示名が認められている。

 (2)昨今の加工品の原材料には食品添加物よりも「食品」が多く使われている。<例>「加工でん粉」
 健康への影響は「少ない=ないに等しい」ように思いがちだが、実はこれが盲点で、食品として表記されているこれらの原材料には多くの不安要素が多々隠されている。
 大根・しいたけ・たけのこの産地は? 栽培方法は?
 鶏肉の産地は? 飼育方法は? 飼料は?
 砂糖や食塩の精製方法は?
 醤油は本物の醤油? 加工醤油?
 植物油脂・ポーク・酵母のエキスの製造方法は?

 (3)多くの「食品」が加工助剤やキャリーオーバーなどの扱いで、表示義務がないため、私たちはその安全性を確認することができない。加工助剤やキャリーオーバーは、ある数値以下の残留はゼロとされるため、加工食品を多く摂取すると、これら食品に残留している成分を知らずに大量に摂ってしまう可能性がある。
 安全性が「担保」されているのは、その商品だけを食べた場合に限られる。複数の加工食品を食べた時の安全性は考慮されていない。というより、健康にどのような影響が出てくるのか、わかっていない。今まさに私たちの体で、壮大な実験が行われていると言っても言い過ぎではない。

 (4)糊料、増粘剤として使用される加工でん粉は、11種類中の2種類をEUが乳幼児向け食品への使用禁止措置をとっている。小麦や米アレルギーを引き起こす可能性がある、と指摘する専門家もいる(危険性が解明されていない添加物)。
 暑い夏、「流水麺」【注】といっしょに添加物いっぱいの麺だれを食べる食生活は、いずれどんな健康被害を引き起こすのか。

 【注】「【食】お手軽「流水麺」の落とし穴

□沢木みずほ(薬食フードライフ研究家)「種類豊富な「麺だれ」だけれど気軽に使っていいのでしょうか?」(「週刊金曜日」2015年7月3日号)
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 【参考】
【食】「トクホのノンアルコールビール」 ~その危険性~
【食】こんなに危ない豚肉&内臓の生食 ~規制やむなし~
【保健】大企業の「販売促進手段」に化したトクホ ~不当表示~
【保健】大企業の「販売促進手段」に化したトクホ ~ノンアルコール飲料~
【食】機能性表示食品の安全性 ~茶カテキン過剰摂取の危険性~
【食】健康食品の七つの大罪 ~2兆円規模の成長産業~」 
【食】復活した「魚肉ソーセージ」 ~添加物満載~
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【保健】2兆円市場の「真実」 ~健康食品・サプリ~
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