著者は、『雇用崩壊と社会保障』終章で、雇用崩壊・社会保障危機への処方箋を交付する。
ここでは、社会福祉の再構築に係る提言を抜き書きする。
(1)高齢者・障害者総合福祉法の構想
介護保険法は、医療費(とくに高齢者医療費)の抑制もねらいとしている。医療制度改革により必要な医療やリハビリテーションが受けられなくなった高齢者の受け皿となっている。ために、十分な訓練を受けていない介護福祉士が医療行為の一部を受けもつことができる、といった規制緩和がおこなわれた。
また、介護保険は、事務量が膨大になり、職員は事務作業に追われて本来のケアに支障をきたしている。事務経費もかかる(介護保険の要介護認定だけで年間600億円の公費負担)。以下、提言。
(ア)介護保険から、訪問看護や老人保健施設などは医療の給付に戻し、福祉サービスの給付に特化する。そうすれば、高齢者と障害者の福祉サービスに差異を設ける必要はない。
(イ)そこで、高齢障害者も対象とする総合福祉法、高齢者・障害者総合福祉法を定める。介護保険も障害者自立支援法も廃止する。
(イ-1)高齢者・障害者総合福祉法は、シンプルにして、利用者にわかりやすく、職員がケアに専念できる制度にする。
(イ-2)同法では、市町村が福祉を実施する(現物給付)。対象者は、市町村が福祉的支援が必要であると認定した人すべてとする。認定は、法の定める基準にもとづく。市町村の福祉専門員と協議・調整のうえ「支援計画」を作成し、それに基づいて具体的な福祉サービスを給付する。福祉専門員は、いまの介護支援専門員や市町村のケースワーカーなどを独立の専門職として養成し、増員して市町村に必置とする。
(イ-3)同法では、福祉サービスの給付にあたり、一定の設備・人員配置基準を満たして都道府県知事の認可を受けた事業者・施設に委託することもできるものとする。人員配置基準は、いまの介護保険法・障害者自立支援法の指定基準より手厚くする(常勤換算方式を廃止し、常勤職員の配置を基本とする)。
(イ-4)同法では、認可事業者は非営利法人を基本とする。委託を受けて福祉サービスを給付し、市町村は認可事業者に実施費を支給する。実施費は、国2分の1、都道府県4分の1、市町村4分の1の負担割合とする。人件費・管理費などに区分して使途を限定し、月単位で支給する。これにより認可事業者の安定的な運営が可能になり、福祉労働者の大幅な待遇改善が期待できる。さらに、福祉サービスについては、全額公費で負担し、無料を原則とする。
(2)高齢者福祉施設と認可保育所の増設
(ア)施設を中心にサービス整備計画を作成する。これにもとづき、不足している特別養護老人ホームなどの高齢者施設の増設を進める。国が整備に必要な財政支援をおこなう。
施設の増設は地域のインフラ整備になる。これは、道路工事などの公共事業が削減されている地域に、新たな公共事業による雇用を生みだす。同時に、福祉労働者の待遇改善とあいまって、雇用創出につながる。
(イ)待機児童解消のため、早急に保育所整備計画を策定し、必要な財政支援を行い、認可保育所を増設する。5か年計画で進めれば、待機児童を解消する展望がひらける。いま国がやるべきことは、新保育制度の導入などではなく、現在の公的保育所の充実である。
60人定員、約110坪の保育所をつくるのに建築坪単価を80万円とすると、一園あたり8,800万円。国の補助率は2分のだから、1,000か所整備しても、年間440億円。仮に国が全額補助しても、子ども手当の満額支給に要する財源の60分の1程度で可能だ。
認可外保育施設の約4割が認可施設への移行を希望している。国と自治体が補助金をだし、これらの施設を認可保育所に移行させ、早急に待機児童の増大に対応する。認可保育所の増設は、地域子育て支援の拠点を増やすことにもなる。
公務員削減が叫ばれているが、先進諸国にくらべて日本の公務員はまだ少ない。福祉事務所のケースワーカーや児童相談所の児童福祉司をはじめ、労働基準監督官など、必要な人員が不足しているところには、国が財政支援しつつ、公務員を増やしていくべきである。
企業頼みではなく、国・自治体が労働・医療・福祉行政に携わる公務労働者を増やすことで、新たな雇用を創出できる。それが現時点で、日本がとりうるもっと有効な成長戦略であり、雇用創出策である。
【参考】伊藤周平『雇用崩壊と社会保障』(平凡社新書、2010)
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ここでは、社会福祉の再構築に係る提言を抜き書きする。
(1)高齢者・障害者総合福祉法の構想
介護保険法は、医療費(とくに高齢者医療費)の抑制もねらいとしている。医療制度改革により必要な医療やリハビリテーションが受けられなくなった高齢者の受け皿となっている。ために、十分な訓練を受けていない介護福祉士が医療行為の一部を受けもつことができる、といった規制緩和がおこなわれた。
また、介護保険は、事務量が膨大になり、職員は事務作業に追われて本来のケアに支障をきたしている。事務経費もかかる(介護保険の要介護認定だけで年間600億円の公費負担)。以下、提言。
(ア)介護保険から、訪問看護や老人保健施設などは医療の給付に戻し、福祉サービスの給付に特化する。そうすれば、高齢者と障害者の福祉サービスに差異を設ける必要はない。
(イ)そこで、高齢障害者も対象とする総合福祉法、高齢者・障害者総合福祉法を定める。介護保険も障害者自立支援法も廃止する。
(イ-1)高齢者・障害者総合福祉法は、シンプルにして、利用者にわかりやすく、職員がケアに専念できる制度にする。
(イ-2)同法では、市町村が福祉を実施する(現物給付)。対象者は、市町村が福祉的支援が必要であると認定した人すべてとする。認定は、法の定める基準にもとづく。市町村の福祉専門員と協議・調整のうえ「支援計画」を作成し、それに基づいて具体的な福祉サービスを給付する。福祉専門員は、いまの介護支援専門員や市町村のケースワーカーなどを独立の専門職として養成し、増員して市町村に必置とする。
(イ-3)同法では、福祉サービスの給付にあたり、一定の設備・人員配置基準を満たして都道府県知事の認可を受けた事業者・施設に委託することもできるものとする。人員配置基準は、いまの介護保険法・障害者自立支援法の指定基準より手厚くする(常勤換算方式を廃止し、常勤職員の配置を基本とする)。
(イ-4)同法では、認可事業者は非営利法人を基本とする。委託を受けて福祉サービスを給付し、市町村は認可事業者に実施費を支給する。実施費は、国2分の1、都道府県4分の1、市町村4分の1の負担割合とする。人件費・管理費などに区分して使途を限定し、月単位で支給する。これにより認可事業者の安定的な運営が可能になり、福祉労働者の大幅な待遇改善が期待できる。さらに、福祉サービスについては、全額公費で負担し、無料を原則とする。
(2)高齢者福祉施設と認可保育所の増設
(ア)施設を中心にサービス整備計画を作成する。これにもとづき、不足している特別養護老人ホームなどの高齢者施設の増設を進める。国が整備に必要な財政支援をおこなう。
施設の増設は地域のインフラ整備になる。これは、道路工事などの公共事業が削減されている地域に、新たな公共事業による雇用を生みだす。同時に、福祉労働者の待遇改善とあいまって、雇用創出につながる。
(イ)待機児童解消のため、早急に保育所整備計画を策定し、必要な財政支援を行い、認可保育所を増設する。5か年計画で進めれば、待機児童を解消する展望がひらける。いま国がやるべきことは、新保育制度の導入などではなく、現在の公的保育所の充実である。
60人定員、約110坪の保育所をつくるのに建築坪単価を80万円とすると、一園あたり8,800万円。国の補助率は2分のだから、1,000か所整備しても、年間440億円。仮に国が全額補助しても、子ども手当の満額支給に要する財源の60分の1程度で可能だ。
認可外保育施設の約4割が認可施設への移行を希望している。国と自治体が補助金をだし、これらの施設を認可保育所に移行させ、早急に待機児童の増大に対応する。認可保育所の増設は、地域子育て支援の拠点を増やすことにもなる。
公務員削減が叫ばれているが、先進諸国にくらべて日本の公務員はまだ少ない。福祉事務所のケースワーカーや児童相談所の児童福祉司をはじめ、労働基準監督官など、必要な人員が不足しているところには、国が財政支援しつつ、公務員を増やしていくべきである。
企業頼みではなく、国・自治体が労働・医療・福祉行政に携わる公務労働者を増やすことで、新たな雇用を創出できる。それが現時点で、日本がとりうるもっと有効な成長戦略であり、雇用創出策である。
【参考】伊藤周平『雇用崩壊と社会保障』(平凡社新書、2010)
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