語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>広島原爆29.6個分の放射性物質 ~児玉演説~

2011年08月16日 | 震災・原発事故
 7月27日、衆議院厚生労働委員会は震駭した。参考人の児玉龍彦・東京大学アイソトープ総合センター長が16分間にわたり、政府の放射線対策を痛烈に批判したからだ。
 さしあたって健康に問題はない、どころではない、大変なことになる・・・・。
 福島原発の総量を東電と政府ははっきりと報告していない【注1】・・・・。
 7万人が自宅を離れてさまよっているときに、国会は一体何をやっているのか・・・・。
 この模様が「YouTube」などにアップロードされると、ツイッターやSNSを通じて瞬く間に伝播し、8月10日までに40万回以上視聴された【注2】。

 委員会で児玉教授が明らかにした事実は、聞く者に衝撃を与えた。
 (a)福島第一原発から漏出した放射線の総量・・・・熱量として広島原爆の29.6個分、ウラン換算で20個分だ。さらに残像量は、原爆が1年後に1,000分の1に低下するのに対し、原発の汚染物は10分の1程度しかならない【注3】。
 (b)遺伝子レベルで見た放射性物質の危険性・・・・甲状腺に集まるヨウ素131、膀胱に集まるセシウムだけでない【注4】。トロトラストは、造影剤として使った結果、20~30年後には肝臓ガンを25~30%の確立で発症させる。
 (c)放射性物質と健康被害・・・・20~30年を経て因果関係が証明されるものが多い。統計学の視点で判断するのは、子どもたちを守る観点に立ってない。
 
 児玉教授は、5月下旬から毎週末のように南相馬市を訪れ、幼稚園などで除染活動を行っている【注5】。
 除染した高線量の土を現地に残すわけにはいかないから、「法律違反」【注6】だが、東京へ持ち帰っている、と児玉教授は委員会で公言した。子どもの被曝を減少させる法律の制定が必要だ、「子どもに渡す日本の国土を守ってほしい」。【注7】
 8月6日、南相馬市とアイソトープ総合センターは、共同で警戒区域以外の市内全域を除染する、と発表した。

 【注1】専門家が放射線障害をみる時は、放射線総量をみる。【記事「居並ぶ国会議員を硬直させた児玉龍彦東大教授の魂の叫び」、「週間朝日」2011年8月19日号】
 【注2】再生回数は、数日間で20万を突破した。【前掲誌】 ⇒児玉演説の<動画><テキスト版>
 【注3】半減期30年のセシウムが原爆に比べて大量に放出されるからだ。【大場弘博(本誌)「セシウムが引き起こす『膀胱がん』」、「サンデー毎日」2011年8月21・28日号】
 【注4】児玉演説は「チェルノブイリ膀胱炎」に触れている。内部被曝が発症させるのだが、国はICRPの見解に依拠して内部被曝の影響を軽視している。【前掲「サンデー毎日」誌】
 【注5】少なくとも7回訪れている。【前掲「週間朝日」誌】
 【注6】「放射線同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」では、各施設で扱える放射線量、核種等が定められている。南相馬市の多くの施設は、セシウムの使用権限なぞ持っていない。車で運搬するのも違反だ。しかし、母親たちに高線量のものを渡してくるわけにはいかないから、ドラム缶に詰めて東京に持ち帰った、と児玉教授はいう。【前掲「週間朝日」誌】
 【注7】どこの党が議員立法などで迅速に動くか、国民は注視すべきだ、と児玉教授は語る。【前掲「週間朝日」誌】

 以上、井上和典(編集部)「『広島原発の29.6個分』」(「AERA」2011年8月22日号)に拠る。
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【震災】原発>3兆2千億の原子力埋蔵金~補償に回すべき隠し金~ 

2011年08月15日 | 震災・原発事故
 日本の電力会社は、原子力発電に関連して「電力埋蔵金」3兆2千億円の積立金を保有している。原発事故の賠償資金や被災者支援に使おうとすれば使える金だ。
 この埋蔵金は、電力会社を通じて国民がせっせと積み立ててきた。核燃料サイクル計画に必要な再処理費用と、最終的に発生する高レベル放射性廃棄物の処分費用だ。11年4月から追加された「太陽光促進付加金」と違って、電気料金請求書には明記されていないが、国民は負担している【注1】。月額200円前後だ。
 再生可能エネルギー特別措置法が成立すれば、将来的に200円ほど買い取り価格が転嫁される。電力会社は、すでに同じ額の負担をこっそりと徴収しているのだ。
 しかも、電力会社は、この積立金を無税で積み立てている。通常は税引き後の利益を内部留保として蓄えるが、電力会社は外部の公益財団法人「原子力環境整備促進・資金管理センター(原環センター)」に、そのまま課税されることなく積み立てている。
 積立金は、ほとんど国債で運用している。10年度末残高は、(a)再処理後の超高濃度汚染水の最終処分費用に8,200億円、(b)周辺廃棄物の最終処分費用に170億円、(c)再処理費用に2兆4,410億円、合計3兆2千億円もの積立金だ。

 核燃料サイクルの主要施設は、再処理工場と、高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)がある。事故続きで稼働せず、停止中の維持管理費だけで1日5,500万円の税金を食う。技術的困難から、各国は核燃料サイクル構想から次々に撤退した。日本だけが、はるか先の50年の実用化目標を掲げて莫大な税金を注ぎ続けている。
 原発そのものの安全神話が崩れ去った現在、この構想は消滅するしかない。
 となれば、積み立ててきた3兆2千億円は、もはや不要だ。今そこに困っている国民に、そのまま返還されるべきだ。
 (a)は、核燃料サイクル構想が消滅しても、使用済み核燃料などの最終処分に使わなければならない。すぐに手をつけることはできない。
 が、少なくとも(c)は使い切っても何の問題もない。
 再処理等積立金法に係る特例法案を緊急の議員立法で採決すれば、速やかに処理できる【注2】。政治的意思さえあれば、赤字国債とは逆に、国民負担を劇的に減少させることができる。
 ちなみに、今後増設される計画のあった14基の原発は着工される見こみがない。となれば、立地自治体へのアメ玉「迷惑施設料」電源立地交付金は今後不要となるはずの費用だ【注3】。

 巨額資金を管理する原環センターの役員、評議員は、原子力ムラの村民だ。
 埼玉県新座市に豪邸をかまえる並木育朗・理事長は、71年に一橋大学を卒業、東電に入社し、10年7月から原環センターに転じた。役員報酬規定によれば、本給月額106万円だ。
 古賀洋一・専務理事には、経産省の天下りだ。
 非常勤理事には、木村滋・電機事業連合会副会長(東電取締役)、鈴木篤之・日本原子力研究開発機構理事長。評議員には、日本原燃社長、原子力発電環境整備機構事業本部長、中部電力原子力本部長らがズラリと顔をそろえる。
 電力会社を通じて巨額の資金が流れ、蓄積される原子力ムラにはまだ村民が跋扈し、その地下に埋蔵金が眠る【注4】。

 【注1】業界団体への不要不急にして巨額の支出、例えばシンクタンク「(財)電力中央研究所」に売上げの0.2%、毎年100億円も出しているのだが、この支出も電気料金の原価に上乗せされている。「【震災】原発>東電の埋蔵金」参照。
 【注2】「【震災】復興の財源(案) ~社会資本整備特別会計と農林漁業関係公共事業予算の統合など~」参照。
 【注3】原子力関係予算は、02年度から11年度まで過去10年間で4兆5千億円に上る。このうち4割の1兆8千億円(年平均1,800億円)が、世界でも稀れな制度である立地対策費だ。財源は電源開発促進税で、同税は電気料金に上乗せされ、最終的に消費者が負担する。【記事「原子力予算 10年で4.5兆円 4割が地元対策に」、2011年8月14日付け東京新聞】
 【注4】原子力関連独立行政法人/公益法人のうち最大の日本原子力研究開発機構には、年間1,700億円の予算が投入されている。「【震災】原発>原子力予算・埋蔵金を賠償に回せ、電気料金を値上げする前に」参照。

 以上、佐藤章(編集部)「原発補償、被災者支援にすぐ使える 3兆2千億の電力埋蔵金」(「AERA」2011年8月22日号)に拠る。
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【大岡昇平ノート】原発事故または戦争の事 ~8月15日のために~

2011年08月15日 | ●大岡昇平
 東京およびその周辺都市に放射能のホットスポットが発覚している。
 福島第一原発事故は、健忘症の都会人に、田舎に建設した原発で電力を調達しようとする時、都会人がどういう目に遇うかを示している。それだけではなく、どんな害を田舎に及ぼすものであるかも示している。その害が結局、都会人の身に撥ね返って来ることを示している。被災者の証言は多面的である。原発が放出した死の灰に覆われた土は、その声を聞こうとする者には聞こえる声で、語り続けているのである。

 【注】下敷きは大岡昇平『レイテ戦記』の「エピローグ」。なお、ポツダム宣言受諾は8月14日。日本では1963年以降、8月15日が終戦の日となっているが、諸外国では終戦の調印が行われた9月2日が終戦記念日とされる。

   *

 レイテ島の戦闘の歴史は、健忘症の日米国民に、他人の土地で儲けようとする時、どういう目に遇うかを示している。それだけではなく、どんな害をその土地に及ぼすものであるかも示している。その害が結局自分の身に撥ね返って来ることを示している。死者の証言は多面的である。レイテ島の土はその声を聞こうとする者には聞こえる声で、語り続けているのである。

【出典】大岡昇平『レイテ戦記』の「エピローグ」

   *

 昭和19年12月5日、レイテ島はマリトボの東方、山間のルビに置かれた第35軍司令部に到着した田中光祐少佐(第14方面軍派遣参謀)は、周辺を視察してぞっとした。
 飢餓に瀬している第26師団の兵士たちは、「いずれも眼ばかり白く凄味をおびて、骨と皮ばかりである。まるでどの顔も、生きながらの屍である。地獄絵図のような悽愴な形相である。その上丸腰で、武器をもっていないために、全く戦意を喪失していた」。
 これは師団主力ではなく、先遣重松大隊の傷病兵か井上大隊の状況であった。
 「やがてブラウエン作戦が中止、退却に移ってからは全軍が似たような状況に陥る」

【参考】大岡昇平『レイテ戦記』((『大岡昇平集 第10巻』、岩波書店、1983)の「21 ブラウエンの戦い」
 ⇒「『レイテ戦記』にみる第26師団(2)

   *

 私は頬を打たれた。分隊長は早口に、ほぼ次のようにいった。
 「馬鹿やろ。帰れっていわれて、黙って帰って来る奴があるか。帰るところがありませんって、がんばるんだよ。そうすりゃ病院でもなんとかしてくれるんだ。中隊にゃお前みてえな肺病やみを、飼っとく余裕はねえ。見ろ、兵隊はあらかた、食糧収集に出動している。味方は苦戦だ。役に立たねえ兵隊を、飼っとく余裕はねえ。病院へ帰れ。入れてくんなかったら、幾日でも坐り込むんだよ。まさかほっときもしねえだろう。どうでも入れてくんなかったら――死ぬんだよ。手榴弾は無駄に受領してるんじゃねえぞ。それが今じゃお前のたった一つの御奉公だ」
 私は喋るにつれて濡れて来る相手の唇を見続けた。致命的な宣告を受けるのは私であるのに、何故彼がこれほど激昂しなければならないかは不明であるが、多分声を高めると共に、感情をつのらせる軍人の習性によるものであろう。情況が悪化して以来、彼等が軍人のマスクの下に隠さねばならなかった不安は、我々兵士に向かって爆発するのが常であった。この時わが分隊長が専ら食糧を語ったのは、無論これが彼の最大の不安だったからであろう。
 いくら「座り込ん」でも病院が食糧を持たない患者を入れてくれるはずはなかた。食糧は不足し、軍医と衛生兵は、患者のために受領した糧秣で喰い継いでいたからである。病院の前には、幾人かの、無駄に「座り込ん」でいる人達がいた。彼等もまたその本隊で「死ね」といわれていた。

【出典】大岡昇平『野火』(『大岡昇平集 第3巻』、岩波書店、1982)の「1 出発」
 ⇒「『野火』とレイテ戦(2) ~主人公の行動~
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【震災】原発>経産省人事の旧態依然 ~安達事務次官と東電との癒着~

2011年08月14日 | 震災・原発事故
 海江田万里・経済産業相は、8月4日、緊急の記者会見を開き、同省の松永和夫・事務次官、寺坂信昭・同省原子力安全・保安院長、細野哲弘・同省資源エネルギー庁長官の3首脳を更迭すると、声高らかに発表した。今回の人事は、「人心を一新する」ため大幅なものになる、と。【注1】
 また、海江田・経産相は、3首脳の後任は、同省内で原子力行政や電力事業の改革に積極的な人物を起用する方向だ、と述べた。【注2】
 寺坂の更迭は、その無能ぶりが永田町界隈で批判の的になり、省内外で更迭論がたびたび取りざたされていたため、意外性はない。【注3】
 しかし、「改革」に向けた人事となるかどうか、いちはやく懐疑的な意見が出ていた。「官僚と一緒に考えた組織防衛のための人事」だ、と。【注4】

 はたして、後任は年功序列という組織の論理で、安達健佑・経済産業政策局長が起用された。【注5】
 安達は、97年に資源エネルギー庁の公益事業部業務課長に就き、その後、同部開発課長に横滑りし、電両業界を約2年間所管した。51歳のとき(04年)電力・ガス事業部長になり、2年間電力業界に睨みをきかせた。合計4年間、電力所管ポストをこなした省内「電力閥」の雄だ。
 彼は、電力自由化を掲げた村田成二・元事務次官(現・新エネルギー・産業技術総合開発機構理事長)の門下生、「村田チルドレン」の一人だった。ただし、村田が真の改革派だったかどうか、議論が分かれる。輸出課長時代に東芝ココム事件に遭遇した村田は、民間企業に対する強権行使を無上の喜びとする悪癖があったからだ。東電への厳しい態度は、村田のそうした性質にも由来する。
 安達が電力改革の意思を有するか、疑わしい。なぜならば、安達の娘は東電に総合職として入社し、いま内幸町の本店に勤務しているからだ。いわば、東電に人質を預けている。ちなみに、不倫騒ぎで更迭された西山英彦・大臣官房付も、電力・ガス事業部長の経験者で、やはり娘を東電に入社させている。
 歴代の資源エネルギー庁幹部の子女が東電社員というのは、偶然ではない。

 公になっていないが、経産省内には「白球会」というテニス倶楽部がある。【注6】
 規約には、会員5名以上の照会と役員会の承認を受けなければならない、とある。つまり、この倶楽部は、将来を嘱望され、上司や先輩から声をかけられたキャリアしか入会できない。事実上、経産幹部と所管の業界団体の社交場だ。
 東京電力の総合グランド(東京都杉並区)をはじめ、テニスコートをもつ大手企業の担当者に連絡すると、週末であればコートの何面かを一日中空けてくれる。クラブハウスの食事もすべてタダ。省の幹部や政治家には車の送迎までつく。
 「白球会」の会員名簿には、松永を筆頭に、安達、技官トップの西本淳哉・技術総括審議官、高橋泰三・秘書課長、赤石浩一・会計課長、宗像直子・政策審議室長ら現職幹部30人以上が名をつらねていた。
 伊藤敏・元原子力安全広報課長も会員だった。伊藤は、原子力安全・保安院が国主催のシンポジウムなどで電力会社にサクラの動員を求めていたことを認めている。
 歴代の会長は経産省幹部だ。さらに経産OBの名も載っている。自民党では、町村信孝・元外相、細田博之・元官房長官、西村康稔・元外務政務官。民主党では、鈴木寛・文部科学副大臣、小林興起・元財務副大臣だ。
 経産省出身の岸博幸・慶応大学大学院教授は、いう。新体制の下では、発送電分離など思い切った改革を実行できるとは思えない。

 【注1】記事「経産次官ら3首脳更迭 原発対応で海江田氏「人心一新」」(2011年8月4日15時0分 asahi.com)に拠る。
 【注2】記事「経産省首脳後任、省内の改革派の昇格検討 海江田経産相」」(2011年8月4日15時0分 asahi.com)に拠る。
 【注3】徳丸威一郎(本誌)「原子力ムラ メルトダウン ~経産省、保安院幹部更迭は“終わり”の“始まり”」(「サンデー毎日」2011年8月21・28日号)に拠る。
 【注4】岸博幸「“やらせ質問”の次は“やらせ人事”か 経産省幹部3人の更迭問題を考える ~岸博幸のクリエイティブ国富論 第149回~」(2011年8月5日 DIAMOND online)に拠る。
 【注5】このくだり以下は、大鹿靖明(編集部)「腰抜け人事は菅の敗北」(「AERA」2011年8月22日号)に拠る。
 【注6】このくだり以下は、記事「スクープ! 食事も送り迎えもすべて企業持ち 経産省と東電の仲良し倶楽部」(「週刊朝日」2011年8月19日号)に拠る。
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【震災】原発>小売店や茶・ジュース・ビール製造大手の放射能対策

2011年08月13日 | 震災・原発事故
 「サンデー毎日」誌は、全国の主な百貨店、スーパー、コンビニ30社に汚染の独自検査などについてアンケートを実施した。
 回答のあったのは25社。

(1)独自に放射線量を検査しているのは2社【注】。
 (a)イオン(千葉)
 7月28日、関東地区で放射性物質の独自検査を済ませた牛肉の販売を開始した。
 外部機関に委託し、暫定規制値(500Bq/kg)を下回っていることを確認のうえ、「全頭検査済み」と表示。
 今後、取扱いを全国の1,000店舗に拡大する予定だ。

 (b)イズミヤ(大阪)
 プライベートブランドの豚肉の検査を実施。「検出なし」だった。
 豚は個体識別番号制度がなく、「国産」表示だけでよいが、同社は独自に生産履歴を公表する。
 牛肉は、仕入れ先を一本化し、定期的な抜き取り検査や仕入れ前検査を強化する。

(2)独自に放射線量を検査していないのは23社。
 大半が、国や自治体の基準・方針に従う、としている。
 「独自検査の実態は現実的でない」(サークルKサンクス)
 「百貨店の場合、テナント店の商品を調べるのは無理」(中合)
 食品の検査機器導入には、1台2,000万円が必要で、1点の検査に1時間要する。
 検査機器の不足が一番のネック。検査は物理的に手いっぱいで、膨大な費用を負担できるのは一部大手に限られる。チェルノブイリ、スリーマイル島事故後のデータを生かすべきだが、政府がデータ収集のためにどの程度努力したか、疑わしい。汚染が心配な消費者は、輸入品を買うしかない。【田島眞・実践女子大学教授】

(3)豚肉
 セシウム汚染は、豚肉にも広がるおそれが出てきた。熊本県内の業者が、念のために、6月に購入した福島産の豚15頭のうち2頭を検査したところ、暫定規制値は大幅に下回ったものの、6.6~10.1Bqのセシウムが検出された。飼料は輸入原料だ。福島で飼育されている間に与えられた水が原因と推定されている。
 原発事故後、他県に出荷された豚は、約1万頭とみられる。
 業者間の取引の実態は不明で、他の業務に忙殺されているため、出荷された豚の数を把握するのは不可能だ。【福島県畜産課】
 放し飼いにされた鶏の肉や鶏卵も汚染リスクは高い。

(4)対策
 国全体で安全が確保されているのが本来の姿なのに、政府に信頼感がないのが一番の問題だ。【阿南久・全国消費者団体連絡会事務局長】
 各社が企業努力で可能な対策は、(a)福島第一原発から離れた地域から仕入れたり (b)JAS法では原産国の表示だけを義務づけている精肉類に都道府県名を表示することだ。一部の企業では実施している(そごう・西部、名鉄百貨店)。
 企業の独自対策は、法的責任の追及に備えるというよりも、客の信頼を勝ちとるビジネス戦略としての意味があるのではないか。国産品がまったく売れない事態になれば流通業界が求めるような制度作りは進みそうだが、そうでなければ国の動きには期待できない。【森田果・東北大学准教授】

 【注】店頭販売ではないが、組合員向け宅配の東都生協(東京)、生活クラブ生協(神奈川)などは、精肉、野菜、鶏卵、米などを独自検査している。グリーンコープ(福岡)は、銚子港に水揚げされた魚介類、北海道産メロン、韓国産ノリなどを検査対象に加えている。

 以上、奥村隆(本誌)「イオン、ファミリーマート、三越伊勢丹・・・・全国30社の放射能対策」(「サンデー毎日」2011年8月14日号)に拠る。

   *

 浄水場では、河川から取水した水の汚れを「凝集沈殿」させて上澄み水を砂の層で濾過する。セシウムは、この過程で除去される。
 東北、関東では、この浄水場から出る汚泥からセシウムが検出され続けている。東京都の検査(7月13日)では、6浄水場の汚泥から290~2,900Bq/kgを検出。汚染水の流入が続いていることを裏づける。
 地上のホットスポットのように、水中で汚染水がまだらに点在する恐れがある。日に1回、コップ1杯程度のサンプル検査では、検査後に濃度の高い汚染水が流れてくることがあり得る。原発事故で膨大な量のセシウムが地表に落ちている。河川、地下水への流入は長期に及ぶ。検査頻度を上げるか、常時監視すべきだ。【白石久二雄・元放射線医学総合研究所内部被ばく評価室長】
 検査結果の「不検出」に疑問がある。東京の浄水場では、2~7Bq以下は不検出で、各県の浄水場も同じだ。しかし、米国のビキニ水爆実験(54年)で汚染されたマグロを捨てる基準は、1.6Bq相当だった。今なら「不検出」扱いだ。水は毎日大量に摂取するので、微量でも被曝量の累計は上がる。幼児や若い母親が水道水を飲んでも大丈夫、とは言えない。【矢ヶ崎克馬・琉球大学名誉教授】
 
 茶、ジュース、ビールなどに使われる水はどうか。主に地下水、水道水を使うが、原産地表示義務はない。 
 「サンデー毎日」誌は、メーカー8社に独自検査体制や採水地などを訊き、回答を田島眞・実践女子大学教授、阿南久・全国消費者団体連絡会事務局長に分析してもらった。
 独自検査は、全社が実施。日本コカ・コーラ、サントリーHD、キリンビールの3社は独自基準を設けている。
 全体としてよくやっている。独自基準も評価できる。採水地の表示は、現行法では難しい。が、消費者の関心は高い。任意表示する企業努力が必要だ。企業が依拠せざるをえない国の暫定規制値は、知見を集めて設定しかのか、疑問が残る。【田島教授】
 独自検査の内容や結果を公表すべきだ。独自基準は、他社との差別化を図るためでなく、業界全体で考えるべき問題だ。【阿南事務局長】

 以上、大場弘行(本誌)「『その水は安全ですか?』 油断できない水道水、お茶、ジュース、ビール製造大手8社の回答一挙公開」(「サンデー毎日」2011年8月14日号)に拠る。
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【震災】原発>「やらせメール」知事指示のメモ、九電の証拠隠滅

2011年08月12日 | 震災・原発事故
 7月30日の会見で、古川康・佐賀県知事は、知事公舎で密会した際【注1】、九州電力の原発担当副社長【注2】、原子力発電本部長(常務)、佐賀支店長(いずれも肩書きは当時)の3幹部に対してやらせメールを誘発する発言をしたことを認めた。
 「自分の所に来るのは反対ばかりだが、電力の安定供給の面から再開を容認する意見を出すことも必要だと話した」「当事者である九電に『声を出すべきだ』と発言したのは軽率だった」【注3】
 九電側も、郷原信郎・第三者委員会委員長が会見で明言した。「九電が賛成意見の投稿を社員に要請したメールには添付されたメモに、知事が九電にネットを通じて賛成意見を出すよう要請したと受け取られる文面があった」【注4】

 九電は、メモを添付したメールをいったん100人程度の社員に一斉に送信しながら、あわてて、その日のうちに削除するよう要請している。隠すよりあらわるるはなし。その「削除指示」がかえって疑問を呼び、九電社内には、関係者を超えてこのメモの噂話が一気に広がった【注5】。
 メモには、6月21日の日付があり、密会直後に作成されたものらしい。
 古川の発言のうち、「指示」を明らかに示す箇所を抜粋すれば、次のとおりだ【注6】。

----------------(引用開始)----------------
●今後の動きに関連して、以下の2点を九電にお願いしたい。
 ①自民党系の県議会議員さんはおおかた再稼働の必要性についてわかっているが、選挙を通じて寄せられた不安の声に乗っかって発言している。議員に対しては、支持者からの声が最も影響が大きいと思うので、いろいろなルートで議員への働きかけをするよう支持者にお願いしていただきたい。
 ②「国主催の県民向け説明会」の際に、発電再開容認の立場からも、ネットを通じて意見や質問を出してほしい。
----------------(引用終了)----------------

 古川による指示のメモが添付されたメールは、26日の県民向け説明会で「賛成意見の投稿」を「要請」し、次のように書かれている。
 「我々自身、極めて重大な関心事であることに加え、添付メモがあることから万難を排してその対応に当たることが重要と考えます。各位及び配下のメンバーに対して、説明会開催についてご周知いただくとともに、都合のつく限り、当日ネット参加へのご協力をご依頼いただきますようお願いいたします」云々。
 そして、6月24日締め切りで、協力できるメンバーの人数について返信を求めていた。

 【注1】「【震災】原発>九電の「やらせ」の背後に佐賀県知事、副社長と密会」参照。
 【注2】段上守・副社長(当時)の指示により、古川の発言メモが添付されたメールが社内に送信された。【記事「九電:副社長が知事の意向くむ 佐賀支社長「配信に驚愕」、2011年8月7日12時33分 毎日jp】
 【注3】ところが、8月9日の佐賀県議会原子力安全対策等特別委員会では、古川は、「公舎を使ったことに『密談だったのでは』と批判が集中した。『あくまで退任あいさつ。ただ再稼働が議論されたあの時期に九電と公舎で会ったのは甘い判断だった』と陳謝したが、『一般論として話したとしても相手がどう受け取るか考えなかったか』と“結果責任”を問われても、『話すべきではなかったが、要請はない』と強弁を繰り返した」【記事「「九電側の問題」 古川知事、やらせメールの責任否定」、2011年8月9日 佐賀新聞情報コミュニティ)】
 【注4】しかし、「ただメモには古川知事による九電への様々な働きかけが詳細に記されていたのも事実。九電は知事との面会後、社内外にやらせメールの投稿を依頼しており、同社が要請と受け取った可能性は否定できない」。【記事「「佐賀知事「発言の内容や真意違う」 やらせメール問題 県議会の参考人招致」、2011年8月9日22:43 日本経済新聞】
 【注5】渡辺武達・同志社大社会学部教授(メディア学)はいう。(a)事実を効果的に伝える「演出」と、虚偽を事実であるように伝える「やらせ」を九州電力は混同した。九電関係者であることを隠し、一般人の意見としてメールを送信したことはまさに「やらせ」で、許されない行為だ。(b)経営陣がやらせメール送信を協力会社の社員にまで要請していたのは、下請けはなんでも言うことを聞く、という時代錯誤な「おごり」だ。こんな連中に原発を管理運営させていいのか、という怖さを国民に抱かせてしまった。【記事「九電やらせメール、原発論議の足かせに 社長辞任先送り「延命…首相と一緒」、2011年7月31日21:29 産経ニュース】
 【注6】メモ全文は、ネットで入手できる。【記事「九電やらせ問題:古川知事発言 佐賀支社長メモ全文」、2011年8月9日20時3分 毎日jp】

 以上、本紙取材班「九電原発再開『やらせメール』 『知事が指示』のメモ入手」(「AERA」2011年8月15日号)に拠る。

   *

 8月9日夜、郷原信郎・第三者委員会委員長は、記者会見で、提出を求めた資料の一部を九電側が破棄していたことを明らかにした。
 7月下旬、中村明・原子力発電本部副本部長が部下に指示し、原発本部で保管していたプルサーマルのシンポジウム開催に関する2~3冊のファイルの中の何枚かの資料が破棄された【注7】。
 中村副本部長はまた、7月27日に発足した第三者委が、経営管理本部を通じて佐賀支社に提供を求めたファイル15冊についても破棄するよう、8月5日に指示した。この資料は、破棄前に回収された【注8】。
 これまでに関わった第三者委員会で、これほど悪質かつ露骨な証拠隠しは経験したことがない。深刻な事態だ。公益を担う企業がどういう理由で隠蔽したか、今後徹底的に調査する必要がある。【郷原委員長】

 【注7】破棄された資料には、佐賀県の県議や自治体関係者がプルサーマル推進の見返りに突きつけた要求、要望の記録が含まれていた。【記事「九州電力:原発やらせメール 幹部が廃棄指示の資料、地元の要望記録も」、2011年8月12日 毎日jp】
 【注8】中村、そして古川発言メモを作成した大坪潔晴・佐賀支社長は、8月中に解任される見こみ。【記事「九電、役員2人を解任へ 資料破棄指示とメモ作成」、2011年8月11日7時38分 asahi.com】

 以上、記事「九州電力が“証拠隠滅” 第三者委調査」(2011年8月9日 ライブニュース)、記事「九州電力 調査過程で証拠隠滅」(2011年8月9日 NHK NEWSWEB)に拠る。
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【震災】原発>自民党・公明党が作りあげた「東電救済法」 ~増える国民負担~

2011年08月11日 | 震災・原発事故
 「賠償法」は、政府案の段階では、東電の株主、債権者、社員などに一定の負担を課す、という考え方が入っていた。
 だが、自民・公明の要求を容れて修正した結果、政府から新たな資金提供を行うなど、徹頭徹尾、東電救済法になったのだ。債権者や株主に責任を取らせる法的整理は、これで一切できなくなった。東電の高額な年金も温存された。
 そして、国民負担が大幅に増えることになった。

 こうした「改悪」を大手メディアは、法案成立までほとんど報じなかった。
 その理由の一つに、「東電が債務超過であることを明らかにすべし」などと厳しい姿勢を示していた自民党の河野太郎衆議院議員が、自身のブログ(7月22日)でこの修正案を正常化に向けた「大きな一歩」と高く評価したことにあるのではないか。
 不勉強なマスコミは、修正案の中身を精査せず、誰が賛成・反対しているか、を基準に報道する。あの強硬派の高の議員が評価する以上、いい修正だ、と思いこんだのだろう。
 河野議員は、5日後のブログで「玉虫色」「一蹴しなければならない」と修正案の評価を一変させたが、時すでに遅し。

 結局、労組経由で東電の献金を受け取ってきた民主党も、経営者経由の東電マネーに毒されてきた自民党も、どちらも東電・経産省コンビに抱き込まれてしまった。かくして、東電温存法は成立してしまった。

 賠償コストは、電気料金に上乗せされる。泣くのは国民だ。
 政治家の責任は言うに及ばず、大手メディアの無知と不作為も罪深い。

 以上、ドクターZ「『賠償法』改悪をなぜ報じない ~ドクターZは知っている~」(「週刊現代」2011年8月20・27日号)に拠る。

   *

  原子力損害賠償支援機構法案の修正について、与野党の合意内容を見ると、元々の法案よりも東電に対して更に甘くなった。

 (1)もっとも問題なのは、実質的に東電に国費を無限定に投入できる仕組みを作ったことだ。
 元々の法案では、東電に賠償資金を援助する機構に対して、国は予算を直接投入するのではなく国債を交付する形にしていた(交付国債)。いずれは国に資金を返済させることを想定していた。
 ところが、与野党合意によって新たな条文が追加された。交付国債による資金で不足が生じる場合、返済義務のない純然たる予算を国が機構に直接投入できるようになった。機構から東電に対して資金援助が行われることを考えると、機構経由で国から東電に無限定に資金を投入することが可能になったのだ。
 国の責任を明確化自体は正しい。しかし、国の責任は、(a)関係省庁の幹部が相応の責任を取る、(b)既存の巨額の原子力推進予算を賠償の原資に回す、など国民負担を伴わない形で取るべきだ。それなのに、今回の与野党合意では、国の責任という名目の下で、国民負担に直結する予算投入のみが可能とされた。これほど安易な国民へのツケ回しはない。

 (2)次に問題なのは、東電を絶対に債務超過にしないという意思ばかりが優先されていることだ。
 与野党合意では、今回の事故に関する東電への損害賠償支援と、将来の事故に備える分の資金を別勘定にするかどうか、という点について、「勘定区分方式を求めるものではない」「あくまでも勘定は一つ」とされている。
 この部分は何を意図しているか。官僚が作成して与野党に根回しするのに使われた“賠償機構法修正ポイント”(最初のファイル)の2枚目に明らかだ。勘定を分けたら東電が債務超過になるおそれがある。勘定区分を分けないようにすることで債務超過になり得ないようにする、というのが役所の意向だった。
 それに政治が乗った結果が今回の与野党合意だ。このようにフィクションで東電の債務超過を無理矢理避けようというやり方は、市場と国民の双方をバカにしているとしか思えない。それが通用するほど市場は甘くないはずだ。

 (3)その他にも、今回の与野党合意には問題点が多い。
 <例>株主や債権者などのステークホルダーの責任をより明確にしたと言われており、実際、「関係者に対する協力の要請が適切かつ十分なものであるかどうかを確認しなければならない」という規定が追加された。
 しかし、“協力”の内容が何なのかは不明確なままだし、“要請”した結果がどうかは問われていない。つまり、法律的には空の文章が加わっただけで、実効性は何もない。
 また、“二段階方式の破綻処理”。法律の附則に、「この法律の施行後早期に・・・・国民負担を最小化する観点から、この法律の施行状況について検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講ずる」という規定を加えた。
 しかし、この規定の書きぶりでは、検討の期限も“必要な措置”の内容も不明だ。その一方で、法律の本体の規定に基づいて機構による東電支援は始まり、東電に国の資金が入ることになる。ひとたび支援が始まれば、「今さら破綻させたらこれまで投入した資金が返ってこなくなり、国民負担なる」といった理屈で延々と国の資金が東電に投下されることになる可能性が高い。
 つまり、この附則の文言は、実際にはあまり意味がない。

 (4)要するに、今回の与野党合意は、官僚の根回しに基づく政治の意思として、東電を正しく再生させるよりも、とにかく絶対に債務超過にさせないで延命させるという方向を選んだのだ。
 その結果として何が起きるか。ちょうど90年代の不良債権処理の失敗のときのように、国は延々と資金を投入し続けて国民負担も増え続けるけど、東電はまったく再生せず同じような危機を繰り返す可能性が高い。

 以上、岸博幸「原子力損害賠償法案の修正を許すな! 東電を債務超過にしないというフィクション ~岸博幸のクリエイティブ国富論 第148回~」(2011年7月29日 DIAMOND online)に拠る。
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【震災】原発>自民党・公明党が作りあげた「東電救済法」 ~増える国民負担~

2011年08月11日 | 震災・原発事故
 二重投稿につき、下記に一本化します。

【震災】原発>自民党・公明党が作りあげた「東電救済法」 ~増える国民負担~
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【震災】原発>安愚楽牧場の破綻 ~全国7万人の悲鳴~

2011年08月10日 | 震災・原発事故
 8月1日から3日間で、安愚楽牧場の出資者から約330件、50億円以上の相談が寄せられている。支払い停止がこのまま続けば、第二の豊田商事事件のような騒ぎになる。被害総額は数千億だ【注1】。今後は、全国的な弁護団が結成され、破綻処理に加え、全国の裁判所で出資金の返還訴訟など、処理に10年単位の時間がかかる。【紀藤正樹弁護士】

 安愚楽牧場は、全国に40ヵ所の直轄牧場と338ヵ所の預託牧場をもつ。国内最大級の「黒毛和牛」専門の畜産企業だ。同社は、約14万頭の黒毛和牛を保有する(国内の黒毛和牛総数の約8%)。
 同社の特徴は、経営規模もさりながら、運営手法「委託オーナー制度」にある。1口30~100万円の出資金を会員から募り、仔牛が成長して肉牛として売れた時点で売却益を会員に還元するのだ。4~7%の利回り【注2】に魅せられて、会員数は3万人にも及ぶ【注3】。
 「和牛預託商法」は、バブル崩壊直後に大流行したが、出資金詐欺などの事件が相次ぎ、行商が続々と摘発された。唯一の残党が安愚楽牧場だった。

 これまで配当が滞ったことはなく、11年3月期決算でも売上げが初めて1,000億円を超えるなど、業績好調に見えた。
 ところが、8月初めに、同社代理人弁護士名義で、全国の会員に次のような内容の通知があった。
 昨年の宮崎県の口蹄疫問題を皮切りに、放射線漏れ事故による牛の放牧制限【注4】、放射性セシウムの検出による福島県産牛肉の出荷制限など、同社の経営は大きな制限・打撃を受けた。さらに、その風評被害による食肉市場全体で牛肉消費が落ちこみ、経営を一気に悪化させた。支払いを停止し、1ヵ月かけて資産・負債状況を見直す、云々【注5】。

 1頭につき120円/日の預託料が出るが、7月分の支払いはない【注6】。口蹄疫で処分した牛に補償金が出たが、自分のところには安愚楽から月25万円が出ただけだ。本当に困っているのは、預託牧場では本社から指定されたエサしか与えてはいけない定めなのだが、そのエサが届かないことだ。牛が餓死する。本社に訊ねても、今後のことはわからない、と言われるばかり。【口蹄疫の被害を受けた宮崎県の預託牧場】
 生き物を投資対象としたリスクが、原発で浮き彫りになった。

 1千万円くらいの投資は珍しくなく、なかには数千万円の投資をしている人もいる【注7】。
 細野豪志・原発担当相は、同社について、賠償を受けられる可能性はある、という。セシウム汚染牛第1号を出荷した南相馬市の畜産業者は、安愚楽牧場の預託牧場だった。たしかに、同社や会員たちも「被害者」ではある。
 ただ、投資の世界では自己責任が問われる。これまで高利回りの恩恵を受けてきて、いざとなったらその損金を賠償金で穴埋めすることについては釈然としない向きもあるだろう。東電が支払うにせよ国が支払うにせよ、その原資は国民が払う電気料金または税金なのだ。

 安愚楽牧場は、いまは全国展開している【注8】が、81年に創業したときは栃木県の小さな企業にすぎなかった。創業者没後、未亡人の三ヶ尻久美子が社長を継ぎ、役員に親族が入っている。典型的な地方の同族企業だ。現社長は、遺産相続をめぐるトラブルでもそうだが、カネに対する執着心が強い。しかも、口蹄疫にかかった疑いのある牛がいたのに1ヵ月以上報告せず、11年1月に宮崎県から経営の改善指導を受けるなど、脇が甘い。

 【注1】安愚楽牧場は、8月9日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、財産保全命令を受けた。3月末時点で、負債額は619億8,700万円。オーナーから繁殖雌牛を買い戻す費用を含めると4千億円以上が必要になる。しかし、同社の再建計画案では、牛の買い戻し額は元本の1割程度と想定されている。オーナーにとっては大幅な元本割れになる可能性が高い。【2011年8月10日付け朝日新聞】
 【注2】利回りは、バブル期には年10%を超え、東日本大震災前で年3~4%だった。【前掲紙】
 【注3】契約していたオーナーは、47都道府県に約7万1千人。【前掲紙】
 【注4】3月以降、オーナーからの解約申し込みが従来の3~4倍に増えた。【前掲紙】
 【注5】再建計画案は、(a)全国に40カ所ある直営牧場を10カ所程度に集約。(b)333カ所の委託牧場も縮小か廃止。(c)飼育規模を現状の約15万頭から数万頭に減らす。(d)700人近い従業員の整理・・・・が柱。
 【注6】安愚楽牧場が取引先にあてた7月20日付け文書では、原発事故に伴う牛肉の放射性セシウム汚染などをあげ、売り上げの予定が全く立たない、と決済の延期を求めている。しかし、その事実をオーナーにはすぐには伝えていなかった。しかも、同社東京支店では7月28日まで社員が電話の問い合わせに応じ、新規契約も受け付けていた。同社月報誌でも、8月末を締め切りにして新規契約を募集していた。【前掲紙】
 【注7】投機目的で利用していたオーナーも多い。繁殖雌牛の購入費、飼育・管理費、えさ代など3億円を投じているオーナーもいる。【前掲紙】
 【注8】各地のオーナーが所有する和牛の繁殖雌牛は約7万頭。国内の繁殖雌牛の約1割を占める。今後財産整理の過程で肉用に処分されるなどすれば、国内の子牛生産基盤が1割減る。また、同社から和牛飼育を委託された農家は全国に300戸超。委託料支払いの停滞などで農家が急激な経営悪化に陥ることがないか、農林水産省畜産部は各県に調査を依頼した。【前掲紙】

 以上、記事「高利回り『和牛商法』破綻寸前! 安愚楽牧場に投資した会員3万人の『絶望』」(「週刊現代」2011年8月20・27日号)に拠る。
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【震災】宗教家の支援活動 ~曹洞宗の場合~

2011年08月09日 | 震災・原発事故
 今回特に目立つのは、これまで海外援助や社会問題(ホームレス支援・自死対策)に既に取り組んできた僧侶たちや団体がいち早く震災への対応に乗り出しことだ。【上田紀行】
 初めてボランティア活動に参加したのは1980年。この年から、曹洞宗はカンボジアの難民キャンプを支援している。以来30年近く、世界各地でボランティア活動をしている。【三部義道】

 阪神・淡路大震災や中越地震とは、災害そのものがまるっきり違う。感情的にも全然違う。地震だけであれば、家が倒壊しても、家そのものはその場所に残る。衣類、貴重品、思い出の品を掘り起こし、手にすることができる。今回は、木造の家そのものがほとんど流された。車も流された。船が流され、漁師は仕事も流された。町全体が流され、家族も流された。遺体すら奪われてしまった。喪失感の大きさは、まったく経験したことがない災害だ。【三部】

 震災の4日後、気仙沼に入った。第一の役割は拠点を作ることだった。公共の建物は避難所になっている。ボランティアの宿泊場所が必要だった。そこで、寺を活用できないか、と縁故を頼ったり、飛び込みで寺と交渉した。【三部】
 そこらへんが寺のネットワークの強みだ。日本の寺は全国で76,000と、コンビニエンスストアの数の2倍近くある。それが活用されれば、たいへん大きな力になる。【上田】
 みなさん、快く提供してくださった。拠点を作った後は、炊き出し支援を行った。従来は炊き出しは1週間あれば事足りた。しかし、自衛隊が10万人入っても、その仕事は遺体捜索、瓦礫撤去、道路整備など広範囲に及ぶ。炊き出しも重要な支援だと、続けた。【三部】
 炊き出しは誰でもできる。僧侶は僧侶にだけできる活動をすべきだ、という意見もある。【上田】
 寺は炊き出しが得意だ。普段から一度に100人、200人が集まって食事を作る機会がある。大きな鍋、たくさんの食器、ガスボンベがある。修行道場で食事を作る係もいる。その上、全国どこにでもある。寺が初期に有効な支援活動をできるのは間違いない。【三部】

 人が生きていく上で、地域社会の横のつながりと同時に、先祖や子孫との縦のつながりも大切になる。ところが、今回、墓も流されてしまった。縦のつながりが切られてしまいかねない状態になっている。【上田】
 瓦礫の中から位牌を探している人は、「先祖まで流してしまった」という罪悪感を感じていたようだ。罪悪ではないのだが、申し訳ないという思いがあったようだ。【三部】
 そうした中で「希望」をみつけるのは、なかなか難しい。【上田】
 ただ、東北地方が昔から培ってきた「地域の横のつながりの力」は随所に見られた。<例>牝鹿半島に外部から支援が入ったのは震災から10日後だった。集落で寺の本堂に40人ほど避難し、家にある冷蔵庫の食材を持ち寄って、分け合って暮らしていた。無住寺でも檀家が中心となって地域の人々を広く受け入れて方を寄せ合っていた。【三部】
 そうした絆のあるところでは災害にも強い、ということだ。【上田】
 心の問題よりも先に、葬式、なくなった位牌、墓など実務的な相談を多く受けた。心のケアももちろん必要なのだろうが、その前に目前の現実に向きあうことでしか傷を癒せなかったのかもしれない。【三部】
 僧侶としての役割を感じたのはどんなところか。【上田】
 ある寺で、位牌を綺麗に掃除していた時にお参りに来た人から感謝された、という話を聞いた。慰霊する対象として形があるのとないのとでは全然違う。その形を整えていくのも我々の仕事だ。49日、100箇日のお参りをすることで遺族にも新しいステージに入ってもらえる。【三部】 

 以上、上田紀行(東京工業大学大学院准教授、文化人類学者、医学博士)/三部義道(ぎどう・シャンティ国際ボランティア会副会長、松林寺住職、曹洞宗特派布教師)「救いの力を取り戻すには」(「週刊金曜日」2011年8月5日・8月12日合併号)に拠る。

   *

 宮城県石巻市の渡波地区は津波で甚大な被害があったが、同地区の寺「洞源院」(曹洞宗)は高台にあったため津波被害はなく、地震被害も軽微だった。
 震災当初、300人弱が避難してきた。1週間ほどすると、避難民は400人以上に膨れあがった。付近に学校、公民館といった避難所があるが、朝晩に炊き出しをしていたのは、同寺だけだったからだ。
 行政はなかなか来なかった。小野寺住職がまとめ役を務めた。3日過ぎると、津波被害のない地域へ行き、米を調達し、1週間しのいだ。その後は、自衛隊が給水支援に入ってきた。しかし、石巻市渡波支所は本庁と連絡がとれず、あてにできなかった。
 同寺には、ホームページがあり電子掲示板がある。情報交換に使われた。支援の輪が広がった。安否確認、必要な物資の連絡手段になった。
 避難所は閉鎖されるが、小野寺住職は、避難所生活をしてきた人たちとともに、仲間作りができるコミュニティ「洞源叢林舎」創設を考えている。困ったときに助け合いや相談ができる場所だ。いつかどこかで災害が起きたとき、恩に報いる活動をしたい。
 ところで、同寺は約束事8ヶ条を作り、役割を分担して共同生活した。<例>水調達の班は、飲料水確保のため、給水地点まで往復3時間をかけた。
 小野崎住職も、水の調達のため、被災していない地区に向かった。その時、不思議な感覚を味わった。地獄絵のようだった被災地区から山を越えると、日常と変わらない風景が広がっていた。「もしかすると、日常の中に極楽があるのかもしれない」・・・・小野寺住職の宗教観を揺るがす一瞬だった。

 津波で甚大な被害のあった宮城県南三陸町と栗原市とは、「塩の道」で結ばれる。
 栗原市築館薬師の寺「通大寺」(曹洞宗)は、3・11から通信が遮断された。三陸はめちゃくちゃ、という情報は、ようやく18日に入ってきた。栗原市内の火葬場は満杯になった。
 市内だけでも、一日7~8体。対応しきれなかった。火葬場では経を読むことしかできなかった。ガソリンもないので何もできなかった。そのため、周りでできることをするしかなかった。正解はない。その都度答を出していくしかない。【金田諦応・通大寺住職】
 金田住職は、震災後、遺体の浮いているはずの志津川湾を目にし、星や月が浮かんでいる夜空を「綺麗だ」と思うと同時に、「私とあなたという区別はない」と感じた。
 「私=あなた、We are always you.だ。それは本来、人間が持っていないといけない感覚だ。宗教者と一般の人が共に歩むことでもある」【金田住職】
 4月28日の「49日」には、金田住職の呼びかけで、栗原市内の住職たちが集まり、南三陸町で「鎮魂の行脚」を行った。
 5月15日から、移動喫茶「カフェ・ド・モンク」を開いた。南三陸町や石巻市の牝鹿関東などで、被災者の声に耳を傾けるのだ(傾聴活動)。「モンク」は僧侶のことだが、「文句」を言ってもいい、という意味でもある。
 日本の仏教は葬式仏教と揶揄されるが、これまでもグリーフ(悲嘆)ワークをしてきた。意識はせずとも、経験として身についてる。【金田住職】

 以上、渋井哲也(ジャーナリスト)「一緒に祈るしかない」(「週刊金曜日」2011年8月5日・8月12日合併号)に拠る。
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【震災】原発>「セシウム米」が稔る秋

2011年08月08日 | 震災・原発事故
 稲わらのセシウム汚染拡大は、米作農家にも衝撃を与えている。田んぼに置かれている稲わらが汚染されていれば、その土壌まで汚染された可能性がきわめて高い。しかも、福島だけでなく、宮城や岩手で稲わら汚染が発覚している。
 米作りでは田植えの前に細かく破砕した稲わらを田に鋤きこむ作業はよく知られ、わけても有機栽培農家に多い。稲わらが汚染されていることを知らず、田に鋤きこんだ農家があってもおかしくはない。新潟県も例外とはいえない。【野中昌法・新潟大学農学部教授】

 米(玄米)の暫定規制値は、500Bq、米の作付けを可能とする水田土壌のセシウム濃度の上限値は5,000Bqだ。米は野菜類と比べてセシウム吸収率が格段に高い。政府の定める移行係数は0.1(野菜は最大で0.04前後)だ。土壌1kg中セシウムの10%が玄米に移行するため、原発周辺区域のほか、5,000Bqを上回った地域では米の作付けが制限される。

 東北、関東など11県は、3月から5月にかけ、水田の放射能検査を実施した。
 (a)福島県の汚染状況が突出している。最大値は、福島第一原発北西に位置する飯館村長泥の15,031q。同村前田の9,644Bq、原発西方にある本宮市長屋の4,984Bqと続く。玄米のセシウム濃度を試算すると、1,503Bq、964Bq、498Bqと残映規制値を大幅に超過するか、それに匹敵する数値だ。
 福島県以外では、(b)栃木県では那須塩原市の1,826Bqが最も高く、日光市でも1,037Bqが検出された。
 (c)宮城県では、最大で柴田町の693Bqだ。
 (d)茨城県では、最大で竜ヶ崎市の496Bq。試算では規制値以下に収まる。

 (e)新潟県では、県内の下越、中越、上越地域の計5地点では、最大30.5Bq。一見、日本一のブランド米「魚沼産コシヒカリ」は安泰のようだ。
 しかし、県の検査だけでは安心とは到底言えない。原発から離れていても、放射能汚染とは決して無縁ではいられない。土壌検査がわずか5地点では、とても綿密とは言いがたい。しかも、県は検査地点を明らかにしていない。
 知られざるホットスポットが県内に存在すれば、県の農業には大打撃となる。7月中旬、福島県に接する魚沼市・南魚沼市や阿賀町で土壌近くの空間線量を計測したところ、最大0.5μSv前後と非常に高い数値だった。さらに最近、阿賀地方に近い福島県喜多方市の水田から1,977Bqの高濃度セシウムが検出された。稲に吸収されたセシウムの約20%が玄米に蓄積し、そのうち精米には約40%が残留する。【野中教授】
 仮に喜多方市に近い放射能汚染があった場合、玄米段階で197Bq、精米後は78Bqという試算になる。暫定規制値を大きく下回るものの、「魚沼産コシヒカリ」も「セシウム米」騒動に巻きこまれるかもしれない。
 土壌の性質は、地域によって千差万別だ。移行係数も田んぼの区画で異なるため、1ヶ所だけではあまり意味がない。【森敏・東大名誉教授】

 水田土壌のサンプル検査は、どこまで信頼できるのか。検査は、土の表層から15cmまでの土壌を採取しているが、「深すぎる」という異論がある。
 セシウム137は、表層から5cm前後の場所に90%以上が蓄積する。15cmまで掘り起こすのは、いかにも深すぎる。農水省が指導したこの方法では、セシウム汚染が正確に検出されたとは考えにくい。【野中教授】
 疑問は、これだけにとどまらない。
 検査当時は、田んぼが乾燥した状態(乾田)であり、田起こし後に農業用水が引かれたのは1ヵ月以上も後だった。水が引かれると田んぼの環境は激変する。用水が汚染されていない、とは言いきれない。ために、水田汚染が進行する恐れはゼロではない。セシウムは土壌に蓄積されるだけでなく、水溶性があり、水と一緒に稲に吸収される。とりわけ、土壌中の粘土含量、有機物含量の低い田んぼではセシウムが根から吸収されやすい。【野中教授】
 農水省は、田んぼに水を張った状態での土壌検査を推奨していない。

 穀倉地帯の東北、関東・信越が原発事故の直撃を受けた以上、汚染状況を正確に知りたいのが消費者心理だ。
 しかし、生育段階の米の汚染データはあまり入手できない。
 では、収穫後の玄米検査はどのように行われるのか。
 玄米検査は、現在農産物の線量測定に使用しているゲルマニウム検査機を使う方向で調整している。検査の対象地域や米のサンプリング方法、検査期間など具体的な内容は、都道府県の参考となる指針を定めるべく検討中だ。【農水省消費流通課】

 風評を打ち消すには、正確なデータを消費者に示すしかない。
 稲作検査を充実させて全情報を公開し、消費者の信頼を勝ちとるのが最善策だ。玄米検査前に、きめ細かい土壌検査を改めて実施すべきだ。例えば、表層から5cm、10cm、15cmと念入りにサンプルを採取することで全容が把握できる。それを消費者に開示すれば、安心して買ってもらえると思う。【野中教授】

 以上、徳丸威一郎・奥村隆(本誌)「『セシウム米』が実る秋」(「サンデー毎日」2011年8月7日増大号)に拠る。
 余談ながら、このタイトルは、「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘との偶然の出会い」(ロートレアモン)のように美しい。そして、残酷だ。現実は、超現実主義よりもシュールだ。
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【震災】原発推進は核兵器を担保する政策~『思想としての3・11』~

2011年08月07日 | 震災・原発事故


 このたびの原発災害の根が深い理由の一つは、核燃料サイクル政策だ。これは、日本が国策として中曽根康弘・元首相などを先頭に長年推進してきた政策だ。これは実は、核兵器を担保する政策だった。
 技術抑止は、核抑止より洗練された政策思想だ。
 核抑止は、核を持っているが使わない、隠しているけれども使おうと思ったらいつでも使える、というものだ。
 技術抑止は、作ろうと思ったらいつでも作れるけれども作らない、とはいえ何か問題が起こったら作る、という抑止だ。
 ソ連と米国が核軍縮交渉の理念として掲げていたのは、核をすべてなくして技術抑止までもっていく、というものだった。しかし、それは他のところに拡散してしまったから、できなくなった。
 拡散抑止と言いつつ、これを核の防止にもっていく、という理念の根本にあるのは技術抑止だった。核抑止の最高度概念といってよい。日本もその一環のなかで、技術抑止という考え方で、実は核抑止をやってきた。

 このたび、自民党の河野太郎議員がけっこう頑張っている。前述の核政策への反対を明言こそしていないが、核燃料サイクル政策を廃絶させようと目指している。明言しないのは、言ったら、たぶん猛烈な反発をくらうからだろう。
 2年くらい前に制作したウェブ公園のビデオでは、明らかにそのことを念頭に置いて警鐘を鳴らしている。小出裕章氏とか、反原発の人、それ以外の立場の人も、このことは認めている。

 日本はプルトニウムを50トン持っている。
 北朝鮮は45キロだ。彼らの場合、45キロでも何のために使うか、と言われ、原発をつくるのだ、と答え、信用されずに原発をつくるのだろう、と査問されている。
 日本の50トンは、その多くが英国と仏国に置いてある。日本で再処理ができないからだ。日本はこんなにたくさん持っていても、なぜ文句を言われないか。それは、核燃料サイクルがその最後の砦、口実なのだ。英国も仏国も他の国も、これで原爆をつくっている。だから当然、再処理する。その工場が必要となる。でも、日本は原爆を持たないことになっている。そのため、最後に高速増殖炉「もんじゅ」を作らなければならない。巨額を投じ、これからも投じなければならない。でも、その実現可能性はもうない。自民党ですら、2050年までは実現できない、とした。世界もそれについては手を引いている。

 では、どうするか。何をもってプルトニウム所持を正当化するか。この技術抑止のための暫定的な理由づくりのために考え出されたのがプルサーマルだ。従来の熱(サーマル)中性子炉でプルトニウム燃料を焚くやり方で、日本のほかに仏国、米国でもやられているが、この言葉自体は和製英語で、福島第一の3号炉がこれだ。
 だが、プルサーマルはウラン9割にプルトニウム1割を混ぜこむMOX燃料を使う。プルトニウム処理には、ほとんど用をなさない。しかも、プルトニウム用でない炉で焚くから、要件に会わない燃料を使う危険度の高い運転法でもある。そのために、また巨額を投じている。

 以上、加藤典洋「未来からの不意打ち」(河出書房新社編集部・編『思想としての3・11』、河出書房新社、2011)に拠る。
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古代ハスの園 ~白鳳の里~

2011年08月07日 | □旅
  
  
  
  
  
  
    

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【震災】原発>内部告発が続いた東京電力 ~『福島原発の真実』~

2011年08月06日 | 震災・原発事故


 福島第一原発事故は「安全神話」を崩壊させたが、堤防が決壊する前から小さな蟹穴からチョロチョロ水が漏れていた。
 堤防の水漏れという事故に対しては、事故隠しがあった。そして、隠蔽に対しては内部告発があった。
 代表的な内部告発は、倒壊村JCO臨界事故を契機に導入された「内部申告奨励制度」の第1号だ。すなわち、GEの子会社、GEIIが請け負っていた福島第一、第二の点検に係る記録の改竄だ。告発者は、GEIIの職員、日系のスガオカ・ケイ(01年後半に退社)。文書は00年7月に通産省に届き、01年に発足した原子力安全・保安院に引き継がれた。保安院は、告発者の氏名その他の資料を東電に渡し、後は放置した。事件は、02年8月に天下周知のものとなり、東電の経営幹部5人が骸骨を乞う羽目におちいった(第6章「握りつぶされた内部告発」)。

 佐藤栄佐久知事(当時)隷下の生活環境部原子力安全グループには、内部告発が続々と寄せられた。国(保安院)がアテにならないので、県へ通報したのだ。県には、立入調査や停止命令を出す権限がないので、情報提供者の個人情報を伏せたうえで保安院に通告するか方法はない(重大と思われるものは公表して善処を求めた)。
 <03年2月>定期検査期間短縮で十分なチェックができなくなっている。
 <03年4月>シュラウドばかり心配しているが、タービンのローターにもひび割れがある。 
 <03年9月>福島第一の何号機かの、発電機の置かれている部屋のコンクリート壁が飛び散り、発電機やその他の装置に被っている状態で運転している。東電は、いま止められないと運転を継続している。
 <03年10月>東電の社員は所内の作業を監督していない。ために、東電の知らないところで不正があった。現場でひびが発見されても東電に知らせないことがあった。作業マニュアルどおりに点検されてないことがあった。現場の請負企業では、作業後の放射性廃棄物の区別等を東電が監督していないところではきちんと行っていないことがあった。原子炉圧力容器下部周辺などの高い被曝が予想される作業では、線量計を外して高い数値が出ないようにしていることがあった。請負企業の放射線管理責任者が現場にいないことがあった。東電はこれらの事実関係を把握していない。
 <04年8月>99年6月に福島第一原発3号機で発生した爆発事故についての発表がない。
 <05年5月>4月に福島第二原発3号機の制御棒駆動機構ハウジング2本にひびらしきものが見つかった。東電は、ひびではなく線状の傷跡だとしているが、専門家によれば応力腐食割れの可能性を否定していない。
 <05年6月>福島第一原発6号機、3号機、5号機にて点検中に判明した湿分分離器の欠陥および抽気管の欠陥を、なぜその後に点検を始めた福島第一原発2号機の定期検査で実施しないのか。湿分分離器は点検すれば必ず欠陥が出る。それは電力会社もわかっているはずだ。
 <05年7月>福島第一原発6号機の可燃性ガス濃度制御系の、流量制御器内の流量換算式に用いられている補正係数は、検査を合格しやすくするため意図的に用いられたもので、20年前からマニュアル化されている。第一原発1号機の運転開始を優先するために、いまもその事実を隠している。会社ぐるみで不正を隠蔽している。
 <06年5月>定期検査終了後、東電の技術グループが100%出力で行う「総合負荷検査」において、立会検査前の社内検査で、記録および計器の不正があった。合格範囲以外のデータについて、計器のゼロ点をシフトさせ、規定値に合わせる不正だ。そのまま国の検査を受けた。
 ・・・・最後の告発について、佐藤栄佐久はコメントしている。
 「この情報提供も重大な指摘であるので公表し、東電からの回答を得た。(中略)データ改竄がまだ改まらない。データが都合悪くなると基準のほうを変えてしまおうとするのは企業風土であるようだ。安全は守られない」(第9章「止まらない内部告発」)【注】

 【注】電力会社は役所より役所的と言われる。当然、役所もまた、基準に合わせて現状を改善するのではなく、悪化した現状に合わせて基準を改悪する。事実、厚生労働省は、福島第一原発事故の発生後、経済産業省原子力安全・保安院の別枠設定要請に応えて、作業員の被曝限度を100mSvから急遽250mSvに引き上げた。また、文部科学省は、学校校庭の利用の暫定基準を年間20mSvに設定した福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」)。

 以上、佐藤栄佐久『福島原発の真実』(平凡社新書、2011)に拠る。
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【読書余滴】天下りは年功序列のなれの果て ~『官僚のレトリック』~

2011年08月05日 | 社会


 古賀茂明は、06年12月、渡辺喜美・行政改革・規制改革担当大臣(当時、現・みんなの党代表)から補佐官就任の要請を受けた。折悪しく、その年の7月に大腸ガンの手術を受け、抗ガン剤を服用しつつ闘病中だった。自分の代わりに後輩の原英史を推薦した【注】。
 原は、期待に応えて公務員制度改革に腕をふるうが、安倍政権を引き継いだ福田政権以降、改革は迷走した。原は、退官後、その経緯と原因を綴る。すなわち、『官僚のレトリック』だ。
 その第3章「自民党はなぜ公務員制度改革に敗北したのか」に、次のように記す。

 天下りのメカニズムは、「年功序列のなれの果て」(渡辺喜美)だ。
 Ⅰ種国家公務員試験に合格した「キャリア官僚」は、全省庁で年に約600人。財務省、総務省、経済産業省などの省庁で十数人ずつ採用される。人事は基本的にそれぞれの省内で行われ、横並びで一斉に係長、課長補佐、課長へと昇進していく。
 課長レベルまではともかく、さらに上位の審議官・部長、局長へと上がるにつれ、ポストの数は減る。ために、全員を同列で扱えなくなる。そこで、早い省では50歳前後から、早期退職勧奨=「肩叩き」が始まる。その際、各省の人事当局(役職でいえば官房長など)は、外郭団体などにポストを提示する。本人がそれに応じると(応じなかった例は希有)、「天下り」となる。
 「天下り」OBのいる団体には年間12兆円の予算が注ぎこまれている。

 「天下り」は、年功序列と表裏一体だ。それのみならず、「官僚主導」や「省益優先」と密接に関わる。各省が天下りポストを確保し、退職後の面倒まで見ていることが、本籍(各省)への忠誠心を生む。つまり、総理大臣や大臣より、退職後の面倒を見てくれる「各省」の先輩・同僚に顔を向けて仕事をしがちになる。これが「各省割拠主義」の源泉だ。
 そして、天下りを受け入れる企業・団体に、その見返りに「仕事」を発注する。こうした形で、国民が納めた税金の「無駄遣い」の源泉となる。あるいは、国の借金を増やし、国民に負担をかける元となる。「仕事」の中には、高コスト過ぎるもの、そもそも必要性のないもの、といったものまで紛れこむからだ。
 だからこそ、まず天下りにメスを入れることが官僚機構全体の改革につながる。
 この理解は、決して的外れではなかった。
 安倍晋三・総理大臣(当時)は、国家公務員法改正案を「戦後レジームからの脱却の中核的な改革の一つ」と表明した。
 また、渡辺喜美・行政改革・規制改革担当大臣(当時)は、「1940年体制(野口悠紀雄)からの脱却」という言葉をしばしば使って、改革の意義を説いた。
 「戦後レジーム」と「1940年体制」。多少歴史観にズレはあったものの、両者は共通して、現在の日本を虫食む古き仕組みの“象徴”としての「天下り」に挑もうとした。

 【注】古賀茂明『日本中枢の崩壊』(講談社、2011)の第1章「暗転した官僚人生」に拠る。

【参考】原英史『官僚のレトリック ~霞が関改革はなぜ迷走するのか~』(新潮社、2010)
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