語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>搾取される作業員~イラクより1.75倍危険な原発~

2011年09月22日 | 震災・原発事故
(1)下請け構造・労働者派遣の構図(一例)
 (a)東京電力 → 労働者日当(100,000円弱) 
 (b)メーカー(日立、東芝) → ・・・・
 (c)東電3社(東電工業、東京エネシス、東電環境)など【注1】 → 労働者日当(50,000~100,000円?)
 (d)常駐下請会社【注2】 → 労働者日当(20,000円程度【注3】)
 (e)2次下請会社 → 労働者日当(17,000円程度【注4】)
 (f)3次下請会社(派遣会社) → ・・・・
 (g)4次下請会社(派遣会社) → ・・・・
 (h)5次下請会社(派遣会社) → 労働者日当(8,000円~6,500円程度【注5】)

(2)危険手当
 これもピンハネされている。
 震災後、労働者には賃金のほか危険手当が3、4月段階では1日10万円弱支給されていたが、それ以降は1万円程度の人、500~1,000円程度になった人、まったく貰えない人がいる。

(3)下請構造
 どの産業でも非正規労働者を「活用」しようとする傾向がある。法律上の「使用者」責任を負わずに労働者を使用できるからだ【注6】。また、景気変動の際には業者との契約解除だけで雇用量を調整でき、一般労働者を安く使えるからだ。【萬井隆令・龍谷大学名誉教授】
 原発では、こうした営利企業の一般的習性に加え、(a)被曝労働と癌、白血病などの発症の因果関係が立証されて安全配慮義務違反の使用者責任を問われるのを避けたい、という理由も加わる。また、(b)定期点検時に集中して大量の労働者が不可欠になるが、上限を超える大量の放射能を浴びた労働者はそれ以上就労させられない(線量が高い場所に人海戦術的に送りこまれる労働者の「使い捨て」は必至)。・・・・こうして外部労働力の利用(下請け化ないし請負、派遣依存)が必然となる。【萬井教授】
 原発労働に従事せざるをえない労働者、自治体の貧困問題もある。

 【注1】(c)と(d)の間に、メーカーが東芝の場合には東芝プラントシステム、日立の場合には日立プラントテクノロジーを「かませる」ケースがある。
 【注2】定期検査以外でも日常的に整備を請け負う。ほとんどは東京の業者で、地元業者はあまりいない。それぞれ機械、電気、計測、足場、重機など専門分野ごとのテリトリーがある。
 【注3】20年間くらい単価は変わっていない。
 【注4】【注3】の15%程度を手数料として常駐下請会社が抜く。
 【注5】津波によるがれき撤去作業のアルバイトの日給手取り10,000円より低い。
 【注6】川上武志氏は、全国の原発を「放浪」して原発労働に従事した後、03年8月から08年9月まで浜岡原発で働いた。彼は、4次下請のX社に「川上工業」というダミーの偽装出向会社を設立させられ、そこに出向する契約を結ばせられた。X会社は「使用者」の責任を免れていた。川上氏は、ある組合に入り、団体交渉を通じて「解雇」問題を含め勝利解決。現在労災を申請している。9月に実名で『原発放浪記』(宝島社)を刊行。

 以上、三浦直子(弁護士)「搾取される原発作業員」(「週刊金曜日」2011年9月9日号)に拠る。

   *

 作業員の多くは、4次下請より下位で雇われている日雇労働者や個人請負の「一人親方」だ。もっとも危険な原子炉建屋に入って、配線や電気ケーブル敷設作業を行っている作業員ですら、日当は1万数千円というケースが少なくない。
 原発敷地内で任務にあたった自衛隊員には、本俸に加えて、42,000円/日の手当【注】が支給される。

 【注】これは、陸上自衛隊がイラク・サマワ派遣された時の手当24,000円/日の1.75倍だ。事故った原発はテロが頻発するイラクよりも1.75倍だけ危険、というのが国の見立てらしい。

 大杉泰(ジャーナリスト)「フクシマ下請け労働者使い捨て 放射線管理員も逃げ出す汚染地獄」(「サンデー毎日」2011年9月18日号)に拠る。
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【震災】原発>20km圏の大半は居住不可能

2011年09月21日 | 震災・原発事故
 菅直人・前首相は、退陣直前の8月27日、「福島復興再生協議会」で、避難を続ける住民について次のように発言した。
 「帰郷に20年以上はかかります」

 伊藤博敏(ジャーナリスト)「福島原発事故処理の最重要課題に浮上した『除染ビジネス』に海外企業が群がっている」(「SAPIO」2011年10月5日号)に拠る。

    *

 (「週刊朝日」2011年月9日16日号および23日号の今西憲之+本誌取材班によるスクープ映像を見て、)凄まじい破壊が起こったことがよくわかった。
 運転を止めていた4号機は、下のほうまで壁が吹き飛んでいる。使用済み核燃料から水素が発生して爆発したなら建屋上部は破壊されたはずだが、3号機で発生した水素が大工とを通じて流れこんだのかも。4号機には1,535体の燃料集合体が入っている。補強工事が行われたようだが、余震などで建物が崩れ落ちた場合、強い放射線がばらまかれて誰も近づけなくなる【注】。
 1号機から3号機の炉心の核燃料は溶融体となって、何処にあるかも分からない。
 1号機に関しては、溶融体が圧力容器の鋼鉄を溶かして格納容器の下部に落ちている。さらに、格納容器を溶かして外に出ている可能性が高い。もし、コンクリートの土台や岩盤にめり込んでいれば、いくら水をかけても内部は冷やせない。
 冷却システムに高濃度の放射能を含んだ冷却水をためるタンクを遮蔽するものがない。気になる。
 地下に防壁を張りめぐらさないと、溶融体が地下水と接触し、放射能汚染が海に拡大する。
 2号機、3号機も内部の状況が分かってくれば、1号機と同様に燃料の溶融体が格納容器の外に出ていることが明らかになるだろう。
 壊れた建屋全体を覆う工事も必要だ。大気中への放射能汚染が止まっていないから。核燃料の崩壊熱は10年後も10分の1にしかならない。空調を付けて冷やしながらでもやるしかない。
 放射線管理区域を定める現行法を厳密に適用するなら、福島県の東半分、宮城県・茨城県・栃木県の一部、さらに千葉や東京都のホットスポットは無人にするしかない。

 【注】「【震災】原発>3号機も4号機も危機的状態 ~「米軍機密文書」~

 以上、小出裕章「地下に防壁を造らなければ汚染はさらに拡散する」(「週刊朝日」2011年月9日23号)に拠る。

    *

 福島第一原発1~3号機の格納容器を補修し、水を満たした上で上部から核燃料を取り出す、という東電の作業計画は実施不可能だ。
 スリーマイル島原発事故では核燃料を取り出したが、圧力容器が損傷せず健在だった。溶融した炉心は容器内にとどまっていた。他方、福島の場合は圧力容器の底に穴があき、その下部の基礎部分(ペデスタル)にまで核燃料が落ちた可能性があるのだ。
 「石棺」化するしかない。これも30年と持たないかもしれない。原子炉を解体・撤去して緑地化する「完全廃炉」は100年たっても実現しないだろう。
 そうした議論は後回しにして、政府には今すぐやらねばならぬ仕事が山ほどある。
 (a)20km圏の警戒区域の大半を始め、飯舘村も“全村離村”しかない。村ごと除染することはできない。その場を捨てるしかない。人が住めなくなる地域が3km圏で収まる道理がない。居住できなくなる範囲を一刻も早く住民に知らせなくてならない。政府は住民に新たな生活の場を早急に用意すべきだ。
 (b)原発事故をこれ以上進行させないためにどう措置するのか。放射能汚染水や廃棄物をどう処置するのか。 

 以上、小出裕章(談)「居住不能区域を知らせない無能政府」(「サンデー毎日」2011年9月25日号)に拠る。
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【震災】増税不要、復興に回せる余剰金 ~毎年10兆円以上~

2011年09月20日 | 震災・原発事故
 財務省が管轄する「国債整理基金」は、国の特別会計の一つだ。「将来の国債償還を円滑に行う」という名目で毎年積み立てられている。
 これが、毎年10兆円以上、平成20年度は11.1兆円、平成21年度は12.5兆円もの余剰金が発生している。
 この基金は、年度中に天災など「不測の事態」が生じ、国債が償還できなくなった場合に備えて政府に歳出権が与えられている。
 余剰金は、これまでは「不測の事態」が起きていないから、という理由で基金に繰り入れられていた。
 だが、いま、まさに「不測の事態」が発生している。いまこそ使うべきだ。
 と・こ・ろ・が・・・・

<例1>
 川内博史 : 「不測の事態」如何?
 財務省主計局司計課長 : 天変地異のことです。
 川内 : 東日本大震災は天変地異にあらずや?
 課長 : いや、明日もっと大きな天変地異が起きるかもしれません。たとえば東京で大地震が起き、財務省の建物が倒壊するような事態です。

<例2>
 江田憲司・みんなの党幹事長 : この剰余金を使うべし。
 岡田克也・民主党幹事長(4月17日現在) : 国債整理基金への(剰余金)繰入があるおかげで国債の信認が保たれているので、できない。

 <例1>については、明文規定がない【注1】。
 <例2>については、国債償還のための基金を積み立てる制度があるのは、OECD加盟国などの先進国で日本だけだ。それに、国債整理基金を知った上で国債を購入する投資家はほとんどいない【注2】。
 使えるカネがあるのに、国民の、被災者の懐にまで手を突っ込んで税金をとるのか。

 日本政府が保有する資産は、約750兆円ある。政府保有の資産を活用して予算を組むのが当然ではないか。 

 【注1】・・・・と川内は言っているが、財務大臣(そして内部委任された司計課長)に「国債整理基金」に係る有権的解釈の権限があるならば、どの事態が「不測の事態」であるかは司計課長の判断による。たとい、その解釈に内在する矛盾があろうとも(<例>司計課長の言いまわしに従うならば、仮に「財務省の建物が倒壊するような事態」が起こったときにも、より一層の巨大な事態(<例>東海大地震の発生、浜岡原発の倒壊)が今後生じ得るから今は使用しない、と先送りすることができる)。司計課長の判断を動かすのは政治だが、川内にはそうした政治力はないらしい。
 【注2】「はっきりいおう。今年度の日銀引受12兆円を30兆円に増額して18兆円の復興財源を捻出しても、今年度の予算の範囲内の話である。国債整理基金の10兆円を復興財源に回しても、過去に何度も行われてきた話だ。これらを実行しても、年率30%のインフレにはならないし、通貨の信認も国債の信認も失われない」【高橋洋一「「復興増税」論の隠された意図を暴く 「通貨」の信認と「国債」の信認の正体  ~高橋洋一の俗論を撃つ 【第12回】 ~」(2011年4月21日 DIAMOND online)】

 以上、インタビュイー:川内博史・民主党衆議院議員/インタビュアー:古川琢也「国債整理基金の余剰金10兆円で復興増税は不要だ」(「週刊金曜日」2011年9月16日号)に拠る。

   *

 【参考】
  「【震災】増税で復興できるか? ~『官僚の責任』~
  「【震災】原発>3兆2千億の原子力埋蔵金~補償に回すべき隠し金~
  「【震災】復興資金調達>財務官僚の観点と日本経済の観点
  「【震災】消費税臨時増税は不公平で経済を攪乱 ~復興経費と社会保障経費の財源~
  「【震災】日本にベストな復興資金調達法、それを阻害する2つの要因
  「【震災】復興の財源(案) ~社会資本整備特別会計と農林漁業関係公共事業予算の統合など~
  「【震災】増税も嫌、円高も嫌、ということなら消費者が復興の費用を負担することになる
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【震災】原発>経産省が裏であやつる「原子力安全庁」準備室

2011年09月19日 | 震災・原発事故
 8月15日、菅直人政権の下、次のように閣議決定された。 
 「原子力安全庁」は、原子力安全・保安院を経産省から切り離し、内閣府の原子力安全委員会などと統合し、環境省の外郭として12年4月に設置する。モニタリング業務のほか、事故の初動など危機管理も担当する。
 そして、8月26日、内閣官房に設立準備室が設置された。準備室は、経済産業省や警察庁など37人で構成される。室長には、環境省の森本英香・審議官が就いた。

 鈴木哲夫・BS11報道局長は、古賀茂明・経産省大臣官房付の見解を以下のように敷衍して伝える。
 この準備室がクセ者だ。原発は官邸中心でやるべきだ。環境省は、CO2削減する立場で、原発“容認派”。しかも原発に関しては素人。仕事の中身や人事などすべて経産省が影響力を残す。いま、原発の賠償や将来の電力市場も経産省がやっている。これまで電力が天下りポストを用意することで、逆に経産省が電力に人質をとられてきた。そんな電力に言いなりの経産省が絵を描くのは不適切だ。安全庁も組織を変えたように見せて、“原子力ムラの利権”を経産省が握ったまま。茶番だ。抜本的に組織を変えようとする意識がない経産省の腐敗を糺すには、「霞が関の抜本改革」しかない。霞が関をリストラし、信賞必罰で大臣が人事権をしっかり握るシステムなどにしない限り、何も変わらない。

 古賀茂明は、8月に「事務所」が変わった。新しい「事務所」には秘書もいない。冷蔵庫も、扇風機も、テレビもない。誰も訪ねてこない。「・・・・最後にひと言--/『もう、辞めちゃおうかな』/何だか胸が詰まりました」【注1】
 ということで9月26日付けで退職・・・・になりそうだっただが、16日、枝野幸男・経産相が「私が直接、対応すべき人事の対象ではない。事務次官以下に任せる」と述べたため、辞表を撤回。再度大臣としての判断を求めることになった【注2】。しかし、枝野・経産相の事務方に委ねる方針は変わらず、9月22日、辞表を提出した【注3】。

 【注1】萩原博子「経済産業省の“原発の尾”を踏んでしまった古賀茂明さん ~幸せな老後への一歩 第249回~」(「サンデー毎日」2011年9月4日号)に拠る。
 【注2】記事「政権批判の経産官僚・古賀氏、辞意を撤回」(2011年9月16日22時50分 asahi.com)。
 【注3】記事「政権批判の経産官僚・古賀氏、結局は辞表」(2011年9月22日23時13分 asahi.com)。

 以上、山田厚俊(ジャーナリスト)「改革派官僚古賀茂明が退職前に憂う『原子力安全庁の茶番』」(「サンデー毎日」2011年9月25日号)に拠る。

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【震災】原発>福島を「核ゴミ捨て場」とする経産省案

2011年09月18日 | 震災・原発事故
 経産官僚が仮に名づけるところの「プロジェクトO」のオーは、沖縄のOだ。米軍普天間基地の移転問題と同じ構図だからだ。
 すなわち、

 第一段階。
 東電は、中間貯蔵施設を福島第一原発の敷地内に設置する。
 政府は、周辺の土地を国有化する。ここで放射性物質に汚染された瓦礫や土壌を処理し、数十年単位で保管する。

 第二段階。
 最終処分場を全国の各地方自治体に打診する。
 しかし、設置に抵抗が強く、どこも色よい返事をしない(見こみ)。
 そこで、第一段階の(福島第一原発の敷地内の)中間貯蔵施設に手を加え、最終処分場に移行させる。
 放射能が弱まるまで10万年程度の使用済み核燃料の貯蔵を視野に入れる・・・・。

 以上、鳴海祟(本誌)「『核ゴミ捨て場』『福島第2原発稼働』の2大謀略を暴く」(「サンデー毎日」2011年9月25日号)に拠る。
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【震災】原発>測定と除染 ~妊婦と子どもを守るために~

2011年09月17日 | 震災・原発事故
 児玉演説では発言時間は15分と限られたので、このたび改めて対策について述べる。

(1)放射性物質の「総量」で考える
 ある地域は安全か危険か避難すべきか、ある数量は安全か否か・・・・は、無用な神学論争だ。
 最先端の遺伝子研究に立てば、福島第一原発事故による放射能汚染への対応は、放出された放射性物質の「総量」で考えねばならない。熱量から概算すると広島型原爆の29.6個分、放射線量から概算すると20個分だ。
 これだけの大量の放射性物質が、広範囲にわたって、遠く静岡まで、大気や海水に撒き散らされ、土壌に降り注いだのだ。そして、これから大気、水、土、家畜、人体など自然界のあらゆる領域で、移動し、拡散し、濃縮され、循環していく。どう広がっていくか、予測しがたい。
 外部被曝と内部被曝の危険性を減らすには、除染し、適切な方法で処理し、封じこめるしかない。

(2)内部被曝の解明
 放射性物質が体内に入ると特定の場所に集まり、濃縮される。放射性ヨウ素131は甲状腺に、ストロンチウムは骨に。セシウムは腎臓から尿に分泌されるため尿管、膀胱の細胞が増殖性の変化を起こしやすくなる。同量の放射線をだす放射性物質なら、外部被曝より内部被曝のほうが人体への害は大きい。
 30年代から造影剤として使用されてきたトロトラスト(商品名)は、20~30年後、投与された人の25~30%に肝臓癌を引き起こした。トリウムの放射線がDNAのP53(DNAの修復や突然変異した細胞を自死させる)を変異させたのだ。
 チェルノブイリの高濃度汚染地域で事故後に膀胱癌が65%も増加したが、セシウム137によるP53の変異と15年にわたる慢性の低線量被曝による細胞の活性化が重要であることがわかった(福島昭治・バイオアッセイ研究センター所長)。
 21世紀に入り、ヒトの30億塩基対のゲノムが解読され、遺伝子研究が飛躍的に進んだ。「低線量放射線」による内部被曝のメカニズムがかなり明確にわかってきた。
 チェルノブイリで見られた子どもの甲状腺癌では、RET遺伝子が変異すると活性化され、さらにもう一つの遺伝子が変異すると暴走して癌になる(遺伝子解析による証明)。
 それだけでは放射線障害が原因とは言いきれなかったが、06年、ヒトゲノム全体で遺伝子の数を確かめる方法ができた(東大先端研の油谷浩幸教授・石川俊平准教授らのグループ)。11年6月には、被爆者では染色体7q11のコピーが増加することが分かった(ロンドンのハマースミス病院のウンガー博士ら)。被曝の足跡がDNAに残る可能性が初めて確認された。
 なお、07年、放射線があたってDNAが切断されると2コピーが3コピーになる現象(パリンドローム仮設)は、ヒトの細胞でも起こることが証明されている(クリーブランド・クリニックの田中尚博士)。

(3)妊婦と子どもの被曝
 放射線に最も弱いのは、最も早く成長している妊婦の胎内の胎児であり子どもだ。
 東北、関東、四国で11年5月18日から6月3日まで108人の母乳を調査したところ、福島県在住の7人の母親から1リットル当たり1.9から13.1Bqのセシウムが検出された。福島県は、15年かけて増殖性膀胱炎を引き起こしたチェルノブイリ周辺と同等の放射能汚染のレベルにある(推定)。
 巷間では100mSv以下の「低線量被曝」が健康被害をもたらすか否か、というあまり意味のない議論が展開されている。これまで遺伝子への影響はきちんと検査できなかたので「確率的影響」でみるしかなかった。しかし、閾値は一律に議論しても意味がない。<例>甲状腺に濃縮されるのか、膀胱の細胞が被曝するかで違う。
 特定の部位のDNAの損傷を繰り返せば、それはほぼ確実に癌を発生させる。チェルノブイリの子どもの甲状腺癌の増加と消失の歴史【注1】は、放射線の影響を受けやすい人がいることをはっきり示した。だから、  
 (a)政府と国民は内部被曝は少なければ少ないほどいい、という考えに立つべきだ。
 (b)受動的な姿勢(<例>この数値以上は危険だ、いやここまでなら大丈夫だ)では被曝の防護に限界がある。
 (c)能動的・積極的な放射能防護計画のため、今こそ政府と国民は総力を結集すべきだ。具体的には「測定」と「除染」だ。大量に撒き散らされた放射性物質の「総量」を減らし、できるだけ身の回りの放射線レベルを下げるための除染が、今とるべき最善の方法だ。

(4)測定と除染
 (a)食品検査・・・・わずかなガンマ線を感知し、モニター画像に可視化する最新鋭のBGO検出器を用いた高性能イメージング機器を開発し、食品検査に投入すべきだ。空港の持ち物検査をするように流れ作業で大量の食品を検査する機器は、3ヵ月もあれば開発できる(北村圭司・島津製作所)。政府の初動が早ければ、すべての食品を検査できる体制がすでに整っていたはずだ。
 (b)「緊急除染」・・・・妊婦と子どもが日常的に生活する場を中心に、高線量ホットスポットを発見し、それを細かく丁寧に除染する。新たな被曝を避けるために、必ず専門家の指導の下で。各地方自治体に「コールセンター」と「すぐやる課」を作る。
 (c)「恒久的除染」・・・・計画を政府と地方自治体の協力を得て、住民が中心となって作りあげ、着実に実行する。
 (d)放射能汚染地図・・・・ヘリコプターを使って放射線測定をし、詳細な放射能汚染地図を作る。ヤマハの無人ヘリシステムを使って高度15mから精密なマップを作る技術が開発されている(鳥居建男博士ら・日本原子力研究開発機構)。家屋ごと、家屋周辺の状況の綿密で徹底的な調査が必要だ。
 (e)選択肢の提示・・・・除染の効果、リスク、コストを住民に説明する。国・地方自治体が住民と、どこまで放射線量を落とすのが望ましいかを話し合い、そのためにはどのような除染の方法があるのか、それぞれの経済的なコストと効果を示した上で提案する【注2】。

(5)体制づくり
 (a)(4)-(e)のために各地に除染研究センターを創設する。日本の民間企業は、除染のさまざまなノウハウをもって世界で活躍している。しかし、政府と企業の連携がうまくとれていないので、民間のノウハウはまったく生かされていない。 
 (b)除染するなら、放射性汚染物の保管場所を非常に多くの地域に作らねばならない。通常の土壌汚染は線量が低いから、セシウムが粘土(ケイ酸塩の層状構造)に非常に強く結合して離れない性質を利用して、埋め立てるのが一番だ。自治体ごとに3層構造の人工バリアを備えた中規模の低レベル保管場所を地区ごとに公平に作る。津波に備えて新たに作られる盛り土堤防を使うのも一法だ。
 (c)除染計画の策定には高い信頼性が求められる。清新で信頼されるベスト&ブライテストの人材を集めて除染委員会を作る。大規模で巨額の国費を要する除染計画には、国民的な理解と同意が必要だし、除染作業を巨大な利権事業にしてはならないからだ。
 (d)現行法は、少量で高濃度の放射性物質の取り扱いを想定していた。今のように大量の放射性物質が広範囲に拡散してしまった状況はまったく想定していない。汚染土の運搬、保管にしても、除染活動を根拠づける法律がない。現状に対応した法体系を早急に整備しなくてはならない。
 法律を作るにあたって最も大事なのは、住民主体で除染計画を選択できるようにすることだ。
 最もやってはいけないのは、危険/安全という二分法による「強制収用」や「強制借り上げ」だ。もう一方では、「この線量なら安全だから何もしない」という放置だ。いずれも、まだら状で細かく絶えず変化している汚染をきちんと測定し、的確に除染して再生していくことを試みない、という点で共通する。

 【注1】0歳から20歳までの甲状腺癌の患者数は、95年ごろをピークに、04年ごろに事故以前の水準に戻った。WHOによって、事故との因果関係が承認された。【児玉教授】
 【注2】放射性物質を吸収する植物を植えて除染するのが一番安上がりだが、ひまわりの効果は小さい【注3】。アマランサスという植物が最も有効だ。【児玉教授】
 【注3】記事「ヒマワリ除染、効果ありませんでした… (読売新聞)」(2011年9月15日9時9分 楽天ニュース)

 以上、児玉龍彦「除染せよ、一刻も早く」(「文藝春秋」2011年10月特別号)に拠る。
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【震災】原発>息を吹き返す東京電力(2) ~賞与回復~

2011年09月16日 | 震災・原発事故
 東電は、福島第一原発事故前と同じ繁栄を取りもどしつつある。その証左は、半減した賞与の復元だ(検討中)【注1】。
 (1)原子力賠償機構法によって、東電の生き残りが確定した。
 (2)6月に閣議決定された原子力賠償法の見直しが1年以内に行われ、東電の負担に上限が設定されれば、賠償負担の大部分を国民に転化できる。
 (3)東電は今も具体的なリストラ策を明らかにしない。それどころか、避難区域の除染などのため「人手が必要」とアナウンスを繰り返している。かてて加えて、9月には電気料金値上げに踏み切る可能性も出てきた【注2】。
 (4)福島第一原発はどうするのか。東電関係者は解説する。・・・・経営から事故の処理業務を切り離す。廃炉や廃棄物処理と一体化し、政府のカネで“事故清算会社”を立ち上げる。国鉄が民営化する際に長期債務償還を背負わせた清算事業団のようなものだ。東電は、懐をまったく痛めず、身ぎれいになれる。


 【注1】【注2】値上げにともなって、削減中の社員賞与の水準を元に戻すことも東電は検討している。【記事「東電、値上げ期間は3年間を想定 賞与半減終了も同時」(2011年9月14日付け朝日新聞)】
 なお、半減しても、現状で公務員平均(行政職平均35・6歳、56万4800円)を上回る社員は多い。【記事「東電ツラの皮厚すぎ~!国会、報道、原発作業員に噴飯対応」((2011年9月14日 ZAKZAK))】
 「東電に関する経営・財務調査委員会」は、認めていない。【記事「東電の賞与回復「認められない」 調査委」(2011年9月15日3時6分 asahi.com)】
 批判の一例は、増沢 隆太「東電値上げとボーナス/年収へのリアクション」(2011年9月15日23:22 INSIGHT NOW!)。

 【参考】「【震災】原発>息を吹き返す東京電力

 以上、鳴海祟(本誌)「フクシマ国営清算会社 許されざる東電の生き残り」(「サンデー毎日」2011年9月25日号)に拠る。

   *

 原子力賠償支援機構法成立後、最近はあれほど丁寧だった記者会見などでも、記者の質問に「ちょっとご質問の趣旨が分かりませんが」などと切り返す場面が見られるようになった。かつての、自分たちに不利な報道を徹底的に押さえ込んだ東電が復活しつつある。
 震災以前は、メディアが少しでも原発を批判的に取り上げると、電事連が「ご説明に上がりたい」と慇懃無礼な口調で連絡してきたものだが、その時の姿勢は変わっていない。

 これまで各種団体などに大盤振る舞いしてきた会費などをカットしているが、その基準は「東電から人を出しているかどうか」だ。人を派遣している団体は会費を一律半減、派遣していない団体は全部打ち切る。つまりOB押し込み先温存が眼目だ。本気で内容を精査した上でムダな支出にメスを入れる姿勢は見られない。
 それどころか、震災から半年、ほとぼりが冷めつつあると見たのか、リストラの手を緩めるかのごとき動きも見られる。震災直後、東電のワシントン事務所は「会費が払えない」という理由でワシントンの商工会から脱退した。撤退のポーズをとったが、事務所は閉鎖されなかった。世論の風当たりが緩んだ、と見て方針を翻した。
 北京事務所も同様だ。原発を売り込む拠点として設置された。撤退やむなし、から、民主党政権が輸出計画の断念を決断できない間に、なし崩し的に存続の方針に変わった。

 東電の舵取りは勝俣会長次第だ。彼は、責任の一翼を担いながら、一向に辞める気配はない。
 それどころか、8月、東電が川崎市で7千キロワットのメガソーラー「浮島太陽光発電所」の運転を開始したが、この建設工事を一括受注した東芝の広報担当者は勝俣の子だ。
 癒着構造は温存されている。

 記事「東京電力『反省なき値上げ』を許すな」(「週刊文春」2011年9月22日号)に拠る。
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【震災】原発>児玉龍彦教授、「除染法」第56条改正を要求 ~原子力安全委員会批判~

2011年09月16日 | 震災・原発事故
 11年9月3日、児玉龍彦・東京大学教授/東大アイソトープ総合センター長が福島県南相馬市で、「放射線の測定と除染 こどもと妊婦を守るには」と題して講演した。その中で、民自公3党が成立させた「除染法」(通称)を批判した。

 除染法は、国民にほとんど知られないまま、8月末に成立した。採決直前に、「原子力安全委員会が諮問する」という第56条が国会審議抜きで突然加えられた。これを直ちに改正されたい。
 問題1、「SPEEDI」問題などで大失敗した原子力安全委員会が権限をもつ。
 問題2、原子力安全委員会に、今最も求められている測定と除染の専門家がまったくいない。
 問題3、「除染法」そのもに問題が少なくない。<例>除染対象を年間被曝線量20mSvを超える地域としている。
 ・・・・政府に求めたのは、清新でベストでブライテストな人で構成され委員会を設置し、国会にすべてを報告する透明性の高い仕組みだ。ベストな専門家を集め、母親代表が加わるなど新しい地域主体の組織を作る必要がある。日本企業には技術がある。旧来の組織(<例>原子力機構)が出てくるのではなく、地域が民間のトップの技術を引き出せるよう政府は全力を尽くしてほしい。

 以上、横田一(ジャーナリスト)「児玉龍彦教授が56条改正を要求 ~『原子力安全委員会』に権限持たせた除染法成立~」(「週刊金曜日」2011年9月9日号)に拠る。
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【震災】原発>核廃棄物40トン、9月に日本へ ~広島型原爆2,280個分~

2011年09月15日 | 震災・原発事故
 11年9月、英国から日本への高レベル核廃棄輸送は、通算2回目で、福島原発事故以来初めだ。
 日本の原発で生み出された核廃棄物が、英国で「再処理」されたものだ。40トン以上の核廃棄物、広島型原爆2,280個分の死の灰だ。 英国PNTL社が運行する核輸送船「Pacific Grebe」号による。関西電力、四国電力、九州電力に割り当てられた3つの容器に、高レベル核廃棄物のガラス固化体が76体積まれていた。日本に到着した後、青森県むつ小川原港で下ろされ、日本原燃の六ヶ所村核燃料サイクル施設で貯蔵される。

 日本で原発が動き始めてから今まで大量の核のゴミが生み出されてきた。69年から98年まで、「再処理」のため英国と仏国に送られていた。日本から送られた核廃棄物は、合計7,100トン、輸送回数は約170回に及ぶ。
 英仏両国の「再処理」された後の高レベル核廃棄物は、95年から日本へ返還されてきた。プルトニウム単体の「商品」のほとんどは使用されず、日本国内で貯蔵されている。
 長年、核のゴミ問題は「後回し」にされてきた。おかげで日本の原発は、「すみやかに運転を続けることができた」のだ。

 「Pacific Grebe」号は二重構造になっていない。安全性が危惧されていた。
 日本の核輸送には、航路沿線上の諸国延べ70ヶ国以上から切実な抗議や憂慮の声があがっている。95年にはチリ海軍が出動し、輸送船に遠ざかるよう要求した。
 今回の輸送にも、カリブ共同体(CARICOM)が7月20日、輸送の即時停止を求める声明を発表した。
 英国の反核団体COREもいう。「この誰もほしくない地上最高の放射能濃度を持つ物質の輸送はカリブ諸国と他の沿線諸国の長い間の断固とした反対をなりふりかまわずに無視して行われている」
 だが、日本国内からは、反対の動きはちっともない。

 日本政府が採用している国際原子力機関(IAEA)の輸送基準は、本来陸上輸送のためのもので、長距離海上輸送は想定していない。その耐水テストの基準は、海上輸送の事故に対応できない。
 97年、放射性セシウムを輸送中の船舶「MSC Carla」が大西洋で嵐に遭遇し、二つに折れた。放射性物質の入った複数のコンテナが海底3,000メートルに沈んだ。仏国の規制局は、コンテナが破裂する可能性を認めたが、引き上げていない。

 核輸送国(日英仏)は、次の諸点において無い無いづくしだ。
 (1)輸送の安全性を確認する環境アセスメントを行っていない(日本沿岸近辺のものだけしかなく、しかもお粗末)。
 (2)事故の補償制度を確立していない(どの国が何に責任をとるのか、責任の所在が不明)。
 (3)非常事態の対策・計画が皆無だ(沈没した積み荷を引き上げる計画が存在しない、etc.)。
 (4)輸送ルート諸国から事前了解を得ないで航海している。
 (5)護衛が不十分だ。
 (6)放射能漏れがないにもかかわらず輸送生が事故を起こしたことで風評被害を受けた場合の補償体制を沿線諸国は長年要請してきたが、この体制を日本は確立していない。
 (7)70ヶ国以上の抗議、輸送船の近海通過拒否の声明、憂慮の声などに対し、一度として誠実な対応をしていない。

 福島原発事故から半年。陸上でさえ、いまだに事故後の対策をきちんとやっていない。
 その日本が、緊急時の対応計画もない海上輸送で、一体どうやって、沿岸諸国の人々が被害を受けない対策をとることができるのか。

 以上、アイリーン・美緒子・スミス「海を渡った40トンの核廃棄物」(「週刊金曜日」2011年9月9日号)に拠る。
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【震災】原発>なぜ東京で電力は余ったのか? ~原発の不良資産化~

2011年09月14日 | 震災・原発事故
 今夏で最も電力需要の多かった8月18日の4,922万キロワットでさえ、供給力に対する比率は87%にすぎなかった【注1】。東電の述べ17基、発電能力計1,730万キロワットのうち、柏崎刈羽原発の5、6号機の2基235万キロワットしか稼働していないにもかかわらず、東電は供給危機に陥らなかった。それどころか、供給力に大幅な余裕をもち、東北電力と関西電力に応援融通するほどだった。 
 (a)供給側からみた理由
  ①長期休止や停止していた火力発電所を数ヶ月かけて運転可能な状況にまで整備した【注2】。
  ②C重油などの燃料も調達して稼働させた。
  ③企業のもつ自家発電設備などから電力購入を勧め、原子力以外の供給力を拡大した。
  ④既存の液化天然ガス(LNG)火力や石炭火力発電所の燃料を追加調達し、稼働率を上げても燃料不足に陥らない体制を構築した。
  ⑤当初、発電能力として発表しなかった揚水発電所も戦列に加わった。

 (b)需要側からみた理由
  ①大口需要家が照明、空調、エレベーターなどの利用抑制を進めた効果が電力会社の予想以上に大きかった。
  ②製造業では自動車メーカーが工場稼働を週末にシフトし、平日昼間の節電に協力したことも地味だが着実な効果をあげた。
  ③一般家庭でも、エアコンを扇風機に切り替えた家庭が少なくなかった。
  ④電気を使わずに涼しく過ごせる様々なアイデア商品が登場し、売れ筋になった。
  ⑤節電は首都圏を中心に、新しい社会規範、ファッション、生活スタイルとなり、電力業界の予想をはるかに上回る需要抑制効果を生んだ。

 電力不足の危機が幻に終わったことで、東電は原発の早期再稼働の根拠のひとつを失った。
 それ以上に東電にとって深刻なのは、需要本格減退の兆候が出ていることだ。今回、製造業の経営者はコスト削減効果を目の当たりにした。制限が解除されても従来の消費量までは戻らない。むしろ、電力供給不安や値上げで、コージェネレーション(熱電供給)設備などが急加速し、電力会社離れはさらに進むだろう。
 今後、日本から生産拠点が逃げだすだろう。電力需要にはますます余裕が生じ、原発再稼働を求める社会的圧力は低下するだろう。電力会社にとって、原発は巨大な不良資産になりかねない。

 【注1】予備能力
 電力会社の発電能力は、想定される最大需要に、予備能力(8%前後)を加えて設定されている。最大需要の伸びを見越して、毎年、発電能力を増強してきた。経営的にはきわめて不合理なことだ。1年間を通して、もしかするとわずか数分間しかない最大需要に合わせて設備を作れば、ほとんど稼働しない設備を抱えることになるからだ。一般の産業では、まちがいなく「過剰投資」として切り捨てられる。だが、一般産業では処理能力を超える需要が発生して問題が起きてもある程度やむを得ない、と社会的に受容されている。しかし、大規模停電が発生すれば電力会社は厳しい批判を浴びる。経営トップの引責辞任にすらつながる。
 厳しい基準を課せられているからこそ、電力会社は発電設備への投資を続けられる仕組みを国によって担保されてきた(「総括原価方式」)。

 【注2】余剰設備
 (a)00年以降、大口需要家向けの料金は新規参入者や他電力との競争で決まる市場価格になった。他方、一般向けを中心とする小口の電力は依然として地域独占が認められ、「コスト+利潤」の発想で料金が認可されている。1基4,000億円の原発を電力会社が次々と建設できたのは、コスト回収の仕組みがあったからだ。原発は、電力会社の競争力の中核となった。
 大口電力の自由化(00年)は、既存の電力会社の経営環境を変え、設備投資戦略に転換を迫った。00年代には、電力業界全体の設備投資額は90年代初頭の年間5兆円超からほぼ3分の1まで減った。一方、日本経済の長期低迷、産業空洞化などによって電力需要は鈍化した。電力会社の経営は、一般会社と同様に余剰設備を減らし、適性規模の設備能力しか持たない・・・・という方向に、いったんは向かいかけた。
 (b)ところが、03年を境とする石油、天然ガスなどの化石燃料の価格高騰が、状況を再び変えた。火力発電で電力業界を脅かしかけていた新規参入者の勢いが突然止まった。石油などを燃料とする自家発電設備をもつ一般製造業も、コスト高になったため、自家発電を止め、電力会社からの電力購入に切り替えるケースが続出した。
 電力会社は、再び発電設備への投資の手綱を緩めた。原発の新設、増設にアクセルを踏みこんだ。火力発電では、コストの安い大型石炭火力や高効率の最新鋭LNG火力の新設を進めた。老朽化し、小型で効率の悪い発電設備を大型で高効率の発電設備に置換することで、コスト競争力を高め、一般製造業の自家発電に対して競争優位を確立してしまおうとした。
 (c)新規参入者に対して競争優位を得た電力会社にとって、余剰設備の維持はもはやそれほど大きな負担ではなかった。むしろ、「オール電化」など需要開拓を進め、需要が伸びた際に必要になるかもしれない供給力の隠し玉にしようする狙いもあった。
 一方、余剰設備を処分し、売却するという選択肢は電力会社にはなかった。新規参入者に買われる恐れがあり、「敵に塩を送る」よりは自社内で飼い殺しのように持ち続けるという発想だった。
 (d)それが、今回の震災で図らずも役立った。3・11の時点で、電力会社、殊に東電は「戦略的な発電設備の更新、組み替え」の過渡期にあり、古い設備が残っていた。余剰設備が続々と再稼働することで、止まった原発の穴埋めをし、供給力を確保できたのだ。
 だが、多数の余剰設備能力を持っていることは、コスト削減や財務体質改善の観点で、電力ユーザーや経産省に説明できなかったのは間違いない。これが、震災直後の供給能力不足の主張、「計画停電」という名の「無計画停電」を実施した背景だ。

 以上、仲川孝治一(ジャーナリスト)「なぜ東京で電力は余ったのか?」(「世界」2011年10月号)に拠る。
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【震災】原発>経産官僚の暗躍 ~原発戦犯たちの懲りない所業~

2011年09月13日 | 震災・原発事故
 50年間で68人のOBが天下るなど電力会社と根深い癒着関係を築いた経産省が、事もあろうに事故対応やエネルギー政策の見直しをリードしようとしている。

(1)偽装更迭人事
 事務次官、資源エネルギー庁長官、原子力安全・保安院長の「更迭」は役人が決めた人事だ【注】。

(2)東電救済スキーム
 松永・事務次官(当時)は、3月下旬、奥正之・三井住友銀行頭取/全国銀行協会会長と密談し、東電への2兆円の緊急融資を引き出した。また、子飼いの北川慎介・総括審議官/「原子力発電所事故による経済被害対応室」長らを使って、損害賠償スキーム作りの陣頭指揮も執った。
 他方、「古賀ペーパー」は握りつぶした。
 (a)損害賠償スキームには、菅首相(当時)が表明した自然エネルギーへの転換を阻止する仕掛けが組みこまれていた。東電の利益から賠償金を捻出する仕組みなので、利益の源泉たる地域独占体制や送電網・発電施設が温存されることになったのだ。自然エネルギー拡大に効果がある発送電分離をしようとしても、東電の利益が減って賠償金の返済が滞る事態を招くからだ。時の政権のトップが打ち出した方針を、経産官僚が骨抜きにしたわけだ。
 (b)原子力損害賠償機構法案は、自公民の修正協議でさらに改悪された。①賠償機構に税金を投入する道が追加された。②「政府の責任」が入り、賠償金支払いだけではなく、東電が原発を推進する費用も払える道を新たに開拓した。・・・・自公民の「密室談義」において、「機構法案において、修正が許されないポイント」と題する文書を経産官僚が作成し、修正協議を担当した西村康稔・衆議委員議員(旧通産省出身)/経産委員会自民党筆頭理事に根回しをした(疑惑)。

(3)新エネルギー政策の官僚主導
 エネルギー政策の見直しは必至とみた松永・事務次官(当時)は、4月28日に「今後のエネルギー政策に関する有識者会議」(エネルギー政策賢人会議)を設置。立花隆、寺島実郎ら多忙な著名人をメンバーに選んで、議事進行を事務局の官僚が仕切ろうとした。
 しかし、菅首相(当時)は、「賢人会議」をエネルギー政策の議論の場にすることを了承しなかった。
 すると、国家戦略室に出向しているエネルギー政策担当の経産官僚を使って、「エネルギー・環境会議」を立ち上げ、経産色を消し、官邸主導を全面に押し出し、超多忙の大臣や副大臣をメンバーにして、出向組の経産官僚が事務局として仕切る、という常套手段を採った。事務局が作った素案から菅首相(当時)が検討を表明した「送発電分離」(東電解体)を外し、安全性強化とセットにして原発推進を盛りこむ、という工作も仕掛けた。
 しかし、これにも菅首相(当時)が異論を唱え、その結果、発送電分離が議論の対象となり、経産省から原子力安全・保安院を分離する項目が押し込まれた。
 官僚主導は困難、とみた経産官僚は、菅政権打倒に動いた。原発推進に二人三脚を組んできた自民党に、福島第一原発への海水注入を中断するよう首相が指示したという偽情報を提供し、早期退陣寸前へ追いこむ片棒を担いだ。

(4)玄海原発
 経産省は、夏が近づくにつれて、読売新聞、産経新聞と連携しながら、電力需要逼迫キャンペーンを始めた。 
 原発再稼働の試金石となった玄海原発をめぐって、「経済産業省のあやつり人形」海江田万里・経産相(当時)は安全のお墨付きを出した。
 経産省は、6月26日、佐賀市内で原発の安全対策などについて住民説明会を開いた。説明会に参加した県民は、経産省が地元広告代理店に依頼して選んだ7人で、説明会の模様はケーブルテレビやインターネットで中継されたものの、会場は非公開で、報道関係者の取材も許可しなかった。
 玄海原発の再稼働は、菅首相(当時)によるストレステストの実施表明に加えて、古川康・佐賀県知事が発端となったやらせメールの発覚、古川と九州電力との癒着が次々に明るみに出て、凍結された。 

 【注】退職金は、自己都合の場合は2割減額されるが、松永和夫、細野哲弘、寺坂信昭は「勧奨退職」扱いとなった。【記事「更迭経産3首脳、退職金規定通り…6000万~8000万円」(2011年月日 YOMIURI ONLINE)。】

 以上、横田一(ジャーナリスト)「蠢く経産省官僚 ~原発戦犯たちの懲りない所業~」(「世界」2011年10月号)に拠る。
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【震災】小沢一郎による自民党つぶしのテクニック ~戸別所得補償~

2011年09月12日 | 震災・原発事故
 新内閣がまず取り組むべき課題は、予算の編成だ。来年度予算の編成作業を進行させ、復興のための第3次補正予算を早急に成立させる必要がある。本来なら、もう来年度予算概算要求の締め切りになっているはずだ。また、復興のための補正予算はすでに成立していなければならない。
 にもかかわらず、財源をどうするか、まだはっきりしていない。本来なら、復興投資が増加し、金利が上昇し始めていてしかるべき時期だ。
 復興財源に関する基本的な認識の誤りが幾つもある。住宅も工場も社会資本も次世代がその便益にあずかるのだから、負担の一部は次世代も負うべきだ。社会保障などの経常的経費の場合には「負担を次世代に転嫁しない」ことが重要だが、復興経費は、それとは経済的性質が違う。
 内国債では負担を次世代に送ることはできない。
 外国債を発行するか、対外資産を取り崩すことだ。多額の対外資産を保有する日本としては、対外資産の活用が最も合理的な方法だ。
 復興会議の「基幹税の臨時増税」という方向づけは根本的に誤っている。

 来年度予算に関して、第一の論点はマニフェストをどうするか、だ。マニフェストは、政策とはいえない。財源を無視して思いつきだけを並べたものだ。高速道路無料化は、なんの効果もなく、混乱だけをもたらした。農業者戸別所得補償は、農業の生産性をさらに低下させる【注1】。
 社会保障で今後多額の支出が予測されることを考えれば、こんなムダなことに巨額の予算を使う余裕など、無い。
 「予算を見直せば財源は出てくる」という認識は、まったく誤っていた【注2】。

 来年度予算に関して、第二の論点は税と社会保障の基本的見直しだ。
 社会保障とその負担に関して、自民党はあまりに無責任だった。長らくこの問題を放置してきた。そして、民主党に至っては、基礎年金の国庫負担に必要な財源を埋蔵金で賄い、さらにそれを第1次補正予算で復興財源に回し、いまだに財政手当を行っていない。
 年金制度の抜本的見直しが不可欠だ。今のままでは、厚生年金の積立金は2030年頃に枯渇する。はっきり言えば、もう手遅れだ。

 【注1】【注2】野口の経済学的議論は明快だが、政治がからむと明快でなくなる。戸別所得補償は、じつは自民党の支持基盤を崩壊させるため道具だった。後述。

 以上、野口悠紀雄「新内閣の緊急課題は復興と社会保障改革 ~「超」整理日記No.577~」(「週刊ダイヤモンド」2011年9月17日号)に拠る。

   *

  戦後、農地改革で自作農=小地主となった元小作人は、急速に保守化した。保守化した農村を組織したのは農協だ。農協は、戦前の農業・農村に係る統制団体を農林水産省がアレンジして作った。
 農協が農業資材を高く販売しても、そのまま生産者米価に参入された。高い米価や農業資材価格は、農協の販売手数料収入の増加に結びつく、というカラクリがあった。
 多数の兼業農家を維持すれば、農協は政治力を誇示できる。加えて、葬祭業から損害保険まで、日本のどの法人にも認められていないオールマイティの機能を誇る。また、職能組合なのに、準会員制度をもち、会員を増やした。原資も増え、融資、投資で大きな利益をあげた。農協は、貯金残高83兆円(2008年度)というメガバンク相当の規模になった。
 食糧管理制度時代、農協が主導した生産者米価引き上げによって、農家も農協も脱農・兼業化で豊かになった。
 米価引き上げで消費が減り、生産が増えたため、コメは過剰になった。過剰生産をなくし、政府買い入れを抑制して財政負担を軽減するため、減反政策が導入された(70年)。年間200億円、累計7兆円の補助金が税金から支払われた。国民は、高い米価という消費者負担と、減反補助金という納税者負担の往復ビンタをくらった。
 減反政策のため、品種改良が行われなくなった。今では、日本のコメの単収は、米国カルフォニアより4割も少ない。
 こうした農政を推進してきたのが、農政トライアングルだ。農協は農村の集票マシンとして機能し、自民党はそれに深く依存し、農林水産省は予算確保のため自民党の政治力に頼る、という構造だ。
 このトライアングルにくさびを打ちこんだのが、小沢一郎だ。党代表に就任(06年4月)に就任した小沢は、すべての農家に直接払いする助成金、生産費所得補償制度に着目し、「戸別所得補償」と名付けた。自民党の構造改革に戸惑い、米価急落に不安を抱く農業従事者の不安心理を衝いて、参議院選挙(07年)で民主党が過半数をとる一因となった。
 政権交代(09年)により戸別所得制度が始まると、算定の基礎となる市場価格の透明性が求められるようになった。卸売業者との相対取引に移行していた農協は、市場の過半を握っていたにもかかわらず価格操作が困難になった。他方、自民党時代には米価が下がると政府は市場から買い入れて価格を戻してきたが、民主党政権は農協のたび重なる要請にもかかわらず、コメの政府買い入れを拒否した。農協は困ったが、農家は戸別所得補償があるから困らない。戸別所得補償の真のねらいは、じつはここにあった。
 しかも、戸別所得補償の財源は、予算の「見直し」によって、つまり自民党の有力な政治基盤「全国土地改良事業団体連合会」に絡む5,000億円を63%削ることによって、捻出された。戸別所得補償は、小沢の政敵、野中広務が会長を務める全土連をばっさり斬り捨て、返す刀で農協と農家を分断したのだ。【注】

 【注】このくだり、記事「政局の象徴『個別所得補償』の不安」(「週刊東洋経済」2011年9月10日号)に拠る。

 以上、以上、山下一仁「政治に翻弄され続けたコメ政策 政権交代で『政官農協』の絆崩壊」(「週刊ダイヤモンド」2011年9月10日号)に拠る。
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【読書余滴】佐々淳行の、原発事故という危機管理

2011年09月11日 | 震災・原発事故


●ABCD危機
 A:アトミック(原子力)
 B:バイオロジー(生物兵器)
 C:ケミストリー(化学兵器)/コンピュータ/カルト
 D:ディザスター(災害)

●核の危機2つ
 「A」は、「アトミック」で原子力だ。核の問題だ。大きく分けて2つある。
 (a)核の拡散。身近なところでは北朝鮮だ。その他にもインド、パキスタン、イスラエル、イラン、イラクなども核を所有している公算が大きい。核の拡散によって、すでに核抑止力がきかなくなってしまっている状況にあるわけだ。
 (b)事故。86年4月に起きたチェルノブイリ原発事故が代表的なものだが、国内でもしばしば発生している。<例>99年9月30日、茨城県東海村のウラン加工施設JCOで臨界事故が起きた。当時の小淵恵三内閣は、国家レベルでの対策は何もできていなかった(00年6月に原子力災害対策特別措置法施行)。02年8月29日には、東京電力の福島、新潟の原発で、またもや29件のトラブル隠しが発覚し、同9月2日に幹部ら5人が責任をとって辞任した。01年11月の中部電力浜岡原発の冷却水漏れ事故もそうだが、原発事故は起きないとは決して言えない。

●臭い物に蓋
 1986年4月26日、ソ連のチェルノブイリ原発事故が起きた。
 恐るべきことに、ソ連共産党幹部の指導者たちは、この住戸の重大性を知りながら隠そうとした。
 運悪く5日後、恒例行事のメーデー祭典の日が訪れた。共産党幹部は、あろうことか、キエフの街で1万人の市民に死の灰が降る中を祭典の大行進に参加するよう命じたのだ。これが、被爆者の数をさらに増やした。
 しかも、モスクワのゴルバチョフ書記長が事故の報告を受けたのは、事故発生後2日目【注1】だった、という。ゴルバチョフにペレストロイカの断行を決意させたのは、このチェルノブイリ原発事故だった、ともいう。

●ネガティブ・リポート
 安全管理、具体的には「定期点検」と「異常なし」報告が徹底されていれば、東海村JCO臨界事故は未然に防ぐことができた。
 あれは、恐ろしいことに、ウランをバケツで持ち運ぶような作業をしていたことがわかっている。原子力の技術も知識もない人たちを危険な作業に従事させていた会社側のいい加減さはもちろん、その上部組織の企業や所管の科学技術庁が、1年に1回でも現場作業をしっかり点検していたら、危険なバケツ作業が明らかになっていたはずだ。各関係者の感覚は、まったくどうかしている。

●3・11
 菅直人総理直率の「緊急災害対策本部」の設置は誤りだった。総理に権限を集中すると、総理の無能ぶりが拡大されてしまう。自衛隊、警察、消防、海上保安庁を主軸とする「安全保障会議設置法」による官房長官指揮の国家安全保障体制を築くべきだった。【注2】

 【注1】佐々は、『新・危機管理のノウハウ ~平和ボケに挑むリーダーの条件~』(文藝春秋、1991)では、事故の真相がゴルバチョフ書記長の耳に達するのに3日かかった、と記す。「事故発生後3日目にしてようやくその事実を知ったゴルバチョフは激怒し、党や政府の官僚主義を打破すべくペレストロイカを協力に推進する決意を固めたと伝えられる」
 【注2】このくだりは、佐々淳行「統一地方選で民主党に『天罰』を」(「文藝春秋」2011年5月号)に拠る。

 以上、佐々淳行『重大事件に学ぶ「危機管理」』(文春文庫、2004)に拠る。
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【震災】原発>東京電力の技術力が低い理由 ~丸投げ体質~

2011年09月10日 | 震災・原発事故
 東京電力の「技術力」には重大な欠落があった。それを端的に表しているのが、“原子力のドン”、豊田正敏・元東京電力副社長の発言だ。
 彼は、「非常用発電機、冷却ポンプを配置したコンサル会社が悪い」(「週刊文春」4月21日号)の中で、問題点の一つとして非常用ディーゼル発電機がタービン建屋にあったことを挙げている。
 「後でそのことを知って驚きました。原子炉建屋に入っていれば被害はここまで広がらなかったと思う」
 「原子炉の設計をしたGE社と東電の間には米国のコンサルタント会社『エバスコ』が入り、(中略)その(エバスコから受け取った)図面を誰もチェックしていなかったのです。エバスコの設計通りに作ったとはいえ、悔やまれてなりません」
 これでは、東電は輸入した米国の技術を妄信し、自ら問題点を発見する能力がなかった、と吐露しているのも同然だ。

 日本の原発は、すべて海岸線に建設されている。
 世界の原発のうち、海岸線にあるものは全体の25%以下だ。
 日本で使用されている軽水炉は、米国で開発された技術だ。米国では104基の原発のうち94基が内陸部に造られている。大きな河川があって、そこから冷却水をとることができるからだ。津波の脅威に備える必要はない。
 米国の原発は、基本的に内陸部に設置されることを想定している。
 それを地震国でもある日本で、海岸部に設置したことから「津波対策」という新たな技術的な問題が生じた。しかし、その対応策を考えるべき東電は、それを米国のコンサルタント会社に丸投げしてしまった。しかも、そのこと自体、“原子力のドン”さえまるで知らなかった。

 88年、福島第一原発4号機について、製造上の欠陥が指摘されたことがある。元設計者が、「製造の最終工程で圧力容器にゆがみが発生し、それをジャッキで無理に形を整えて運転している」と告発した。
 これについて、東電の技術課長は、「いちいちメーカーに過程を指示家訓しなければならないなら、そんな会社には最初から頼まない」と言い放った。
 東電は単に発注するだけ、問題が起きたら製造を担当したメーカーが悪い、というわけだ。

 こうした東電の“丸投げ体質”の弊害が最も顕著にあらわれるのは、“想定外の事態”だ。
 02年、東電は大規模なデータ改竄事件を引き起こした。福島第一、第二柏崎刈羽それぞれの原発の炉心隔壁にひび割れが生じていたのを放置し、国に通報していなかった。
 東電が通報しなかったのは、単にトラブルを隠したい、という理由だけではなかった。“想定外の事態”だったため、どう対応してよいか、わからなかったからだ。
 東電は、技術的な判断がまったくできなかった。そして、思考停止に陥った。東電がとった選択は、検査データを隠蔽し続けることだった。
 今回の事故への対応、後手後手にまわる情報開示を見ても、東電の体質は変わっていない。

 原発をめぐる国内議論も、東電の思考停止を招く一因となった。
 94年、東電は福島第一原発2号機の炉心隔壁にひび割れが生じていることを公表した。東電は、新品と取り替えず、小手先の安全策で逃げようとした。「取り替えを実施したら、原発反対派から『取り替えが必要なほど、深刻なひび割れが生じているのではないか。そんな危険な原発は即座に廃炉すべきだ』と言われてしまう」というのが、東電の論理だった。
 だが、このような場合に必要なのは、今の危機をできるだけ現実的に、できるだけ早く取り除く、という姿勢だ。そして、起きている事態を正確に公表し、安全に関する議論を深めていけばよい。全否定と隠蔽との連鎖は、安全の向上につながらない。

 日本の原子力技術の抱える大きな問題は、電力会社に原子力政策の根幹を握らせてしまったことだ。
 原子力開発政策の実質的な策定社は電力会社であり、そのうち一番大きな権限をもつのは東電だ。だから、安全規制に関しても、すべてが東電の思うがままになってしまう。
 これは、国の問題でもある。監督官庁の経産省などにチェック能力が欠如していることが、東電の肥大化を招いてしまった。
 <例1>96年、通産相は原発の寿命を測定するための具体的な評価法や評価例を示す報告書を公表した。東電などの事業者は、これに基づいて具体的な検討を開始している。しかし、実は、この報告書は、電力会社等の報告書の梗概にすぎなかった。
 <例2>02年のデータ改竄事件の際、通産省の担当者は、東電の提出した検査データに「損傷」という言葉があったのを、「兆候」と書き換えるよう指示した。「損傷」だと役所として通せないので、言葉を換えて誤魔化せ、というわけだ。
 <例3>日本原子力研究所(原研、現・日本原子力研究開発機構)では、事故や故障のたびに、人事部長通知が出た。「想定済みのことだから沈黙するように」と。その強制に反して、軽水炉の安全性について論じた研究者に対しては、組織外しなどの人事処分が繰り返された。
 <例4>原研はさらに、研究者に、外部発表票や外部投稿票の提出が義務づけた。講演原稿や論文を事前に室長に提出し、原子力や軽水炉に無条件に肯定的な内容でなければ、許可しない。研究者は、鉄格子の中に入れられた状態だった。

 国は、安全性に関する真摯な研究の芽を摘み、事業者に都合のよい安全規制を繰り返してきた。
 その中で、東電は裸の王様になってしまった。

 以上、桜井淳「東京電力『35年の堕落!』」(「週刊文春」2011年9月8日号)に拠る。
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【震災】原発>食品>「全頭・全量検査」の虚実 ~外食産業~

2011年09月09日 | 震災・原発事故
(1)「全頭・全量検査」の虚
 外食チェーンの放射能検査は、中途半端で、単なる売上げ対策にすぎない。【堀埜一成・サイゼリヤ社長】
 国の定める暫定基準(500Bq/kg)を正確に測るには、ゲルマニウム半導体検出器が必要だ。この測定器は、日本に100台程度しかない。購入費用が高い【注】。しかも一つのサンプルを処理するのに1時間かかり、前処理にも半日以上かかる。
 仮に100台を24時間フル稼働させても、年間で88万弱の検体しか測定できない。他方、肉用牛だけで、全国で120万頭が出荷されている。外食向けの食材はその一部ではあるものの、「全頭・全量検査」は現実に可能か。
 じじつ、「全頭・全量検査」を標榜する各社は、どう実施するかの根拠を示していない。
 全国に878店舗(7月末)を展開する低価格イタリア料理店「サイゼリヤ」を含めて、各社が使用している測定器は簡易型のシンチレーションカウンターだ。この簡易測定器の使い方が、他社ではお粗末だ。中途半端だ。

(2)サンプリング検査の実
 多くの外食チェーンは食材のみに目がいく。それだと、例えば肉の脂身にシンチレーションカウンターを当てて暫定基準以下だ、ということになってしまう。セシウムは赤身にしか入らないので、脂身に当てても意味がない。
 結果ではなく、プロセスを重視しなければならない。全体の工程の中で、最も危険率の高い食材を厳選し、外部でサンプル処理するのだ(自分たちでは食材そのものを測定しない)。 
 「サイゼリヤ」は、レタス、トマト、コメに係る契約農家(白河市の200戸強)に社員が足を運び、外部環境をモニタリングしながら、どの食材の危険率が高いか、分析する作業を継続的に行っている。社員がシンチレーションカウンターを持参し、白河から西郷まで、毎日ホットスポットを調査している。放射性物質が飛んで来ないか、各市町村のホームページをチェックしている。
 産地の特徴を押さえたうえで、食材周辺の環境検査を行う。コメの場合、土、水、成長した稲の茎などすべての放射量の環境値を測定している。最も高い値が出たものを抜き出す。露地栽培は、この方法で検査し、選んだ食材の測定を外部に委託する(ゲルマニウム半導体検出器による)。未検出なら使用可能ということだ。
 こうした一連の流れがあるから、食材に自信を持てる。
 ゲルマニウム半導体検出器の数が限られている以上、外部環境のモニタリングから始めて、サンプルを厳選するしか安全性を担保できない。

(3)偽装とその対策
 多くの外食チェーンは、商社を通じて食材を買っている。変な商社もあって、入れ替えや産地偽装を平気でやるので信用できない。いろんなところから買い付けるから、商社に頼らざるをえなくなるのだ。スポット発注が増え、ますます安全性を確認しづらくなる。
 各社の自主検査は、全量を標榜する時点で形骸化している。仕入れ段階で、すでに危ないものが入っている、ということを消費者は知るべきだ。コメは、産地のロンダリングが有名だが、今年は“年度偽装”が起こるだろう。
 直接買い付けるか、産地を絞るとよい。体力のない企業は、経営者が現地を見に行くのだ。現地に行き、生産者と話し、箱や袋のラベルを確認すれば、ほぼ偽装の過程がわかる。
 「サイゼリヤ」は、サイゼリヤ野菜生産者協会に生産委託し、協会が各農家に割り振り、必要数量を納める、というスタイルを取っている。他に、単一農協から仕入れるケースもある。
 「サイゼリヤ」社員は、生産地に足を運んだとき、トラックのナンバーを確認している。「産地偽装していないか」とカマをかけて電話するだけで品質が変わる団体も、中にはあるのだ。生産現場で何が起きているかの確認は、放射能問題で消費者の懸念が高まっている以上、外食企業としては当然の行為だ。
 放射能よりも、信頼のない取引先と付き合うほうがリスクが高い。双方の信頼があってこそ、確実に安全なものを出せる。

 【注】1台2,000万円近くする。宮城県は、これを複数購入した。【インタビュー記事:村井嘉浩/聞き手:二階堂澄馬「風評被害の防止に向けコメは万全の体制を敷く」(「週刊東洋経済」2011年9月10日号)】

 以上、インタビュー記事:堀埜一成(サイゼリヤ社長)「業界の放射能検査は甘い コメは年度偽装が起こる」(「週刊東洋経済」2011年9月10日号)に拠る。
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