(1)牛肉
牛肉の汚染は、厳しいチェック体制がとられた(はず)にもかかわらず発生した。この点で、葉物野菜や原乳の汚染問題とは大きく異なる。
肉用牛の場合、農水省は原発周辺県に対し、餌の管理などの注意を通達した。緊急時避難区域内を牛が移動する際には、さらに3段階の体制がとられた。牛の身体の表面を放射線測定器で測定し、農家への聞き取り調査を行い、放射性物質をチェックする・・・・ことになっていた。
ところが、実際は抜け穴だらけだった。
(a)農家への飼料摂取制限の通達は、水素爆発から1週間後に行われた。
(b)①緊急時避難準備区域と②計画的避難区域では、住民に対しては内部被曝の検査が行われた。しかし、牛に対しては、検査能力の限界などのため、事故後に出荷された約1万頭のうちモニタリング検査(内部被曝を測定する)が行われたのはわずかに60頭程度にとどまった。
(c)(b)-①および(b)-②を除く地域では、牛の表面を測る外部被曝の検査のみで出荷が許可されていた。
こうしたズサンな管理によって、7月8日、(b)-①に設定されている南相馬市の農家の牛肉から、暫定値を超える放射性セシウムが検出されるに至った。この農家は、7月8日より前にも出荷していた。すでに汚染の疑いのある牛肉が市場に出回っていたのだ。これが判明すると、日本中が大騒ぎになった。
稲わらについては、そうした管理さえ行われていなかった。
宮城県産の稲わらから高濃度の汚染が見つかったことをきっかけに、岩手、福島、宮城、栃木の4県で肉牛の出荷停止という事態に発展した。8月15日現在、汚染の疑いのある牛は4,441頭、うち1,044頭のモニタリング検査の結果は、74頭から規制値を上回る放射性セシウムが検出された。
この結果、政府は汚染により出荷できなくなった牛の買い上げなどの支援策に857億円もの費用を投じた。
仕事を手抜きして巨額の税金を費消する結果を招いた農水省生産局は弁明する。「野ざらしになっていた稲わらが餌になっていたことは想定できなかった」
しかし、東北地方では、秋にコメを収穫した後、乾燥が十分ではない等の理由で春先まで稲わらを外に放置することがある。農業の現場を少しで知っていれば、すぐわかることだ、と多くの農家は農水省の対応を厳しく批判する。
8月3日、汚染稲わらによる牛肉汚染対策の意見交換会が開かれた(財団法人「職の安心・安全財団」主催)。
そこで、原田英男・農水省生産局畜産企画課長は強調した。「通達を出すなど農水省はさまざまな対策をした」
「もとはといえば原発事故のせいだ」と繰り返した。
ここで国家公務員の原田は、原発は国が主導して建設したことを忘れている。原田の念頭には、国も国民もなく、農水省だけがある。
消費者の信頼回復のために、と生産者の多数が望む全頭検査についても、「必要ないと思っている。全頭検査はその検査体制を敷くだけで時間がかかり、現実的ではない。ゼロリスクを望むのは無理だ」と原田は一蹴した。
ちなみに、厚生労働省は「原発事故後、検査能力を増強している」【厚生労働省食品案演舞案園監視課】。
ただし、新規に導入予定の放射能測定器は、わずか3台。牛肉の検査には1検体の検査に2時間要する。24時間フル稼働しても、1日当たり30検体程度の能力増強でしかない。
(2)コメ
牛にはトレーサビリティ制度がある。にもかかわらず、汚染牛の流通を阻止できなかった【注1】。
ましてや、コメの場合には複数の産地のブレンドが多いから、流通経路はたどり難い【注2】。
11年産米の放射性物質検査はすでに始まった。対象範囲は、17都県と広い。福島県産以外の検査をまったく行わなかった牛肉の検査より改善している、と言えば言える。
しかし、「なるべく空間線量の高いところで計測してほしい」と農水省は言っているが、測定する水田の選定は自治体任せだ【注3】。
牛肉汚染問題は、「モニタリング調査をしているので、市場には安全な食品だけが出回っている」と言い続けてきた農水省の主張を根底からくつがえした。
国に任せておけない、と自主検査に踏み切る農家もある。放射線測定には1検体当たり2万円程度を要するから、負担は軽くない。
【注1】「【震災】原発>事故後に20キロ圏内にいた牛の肉が関東に流れている」
【注2】「【震災】原発>食品>新米は安全か?」
【注3】「【震災】原発>食品>汚染米のチェック機能不全/消費者側の対策」
以上、記事「コメでも二の舞のおそれ 『セシウム牛』を生んだ泥縄検査」(「週刊東洋経済」2011年9月10日号)に拠る。
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牛肉の汚染は、厳しいチェック体制がとられた(はず)にもかかわらず発生した。この点で、葉物野菜や原乳の汚染問題とは大きく異なる。
肉用牛の場合、農水省は原発周辺県に対し、餌の管理などの注意を通達した。緊急時避難区域内を牛が移動する際には、さらに3段階の体制がとられた。牛の身体の表面を放射線測定器で測定し、農家への聞き取り調査を行い、放射性物質をチェックする・・・・ことになっていた。
ところが、実際は抜け穴だらけだった。
(a)農家への飼料摂取制限の通達は、水素爆発から1週間後に行われた。
(b)①緊急時避難準備区域と②計画的避難区域では、住民に対しては内部被曝の検査が行われた。しかし、牛に対しては、検査能力の限界などのため、事故後に出荷された約1万頭のうちモニタリング検査(内部被曝を測定する)が行われたのはわずかに60頭程度にとどまった。
(c)(b)-①および(b)-②を除く地域では、牛の表面を測る外部被曝の検査のみで出荷が許可されていた。
こうしたズサンな管理によって、7月8日、(b)-①に設定されている南相馬市の農家の牛肉から、暫定値を超える放射性セシウムが検出されるに至った。この農家は、7月8日より前にも出荷していた。すでに汚染の疑いのある牛肉が市場に出回っていたのだ。これが判明すると、日本中が大騒ぎになった。
稲わらについては、そうした管理さえ行われていなかった。
宮城県産の稲わらから高濃度の汚染が見つかったことをきっかけに、岩手、福島、宮城、栃木の4県で肉牛の出荷停止という事態に発展した。8月15日現在、汚染の疑いのある牛は4,441頭、うち1,044頭のモニタリング検査の結果は、74頭から規制値を上回る放射性セシウムが検出された。
この結果、政府は汚染により出荷できなくなった牛の買い上げなどの支援策に857億円もの費用を投じた。
仕事を手抜きして巨額の税金を費消する結果を招いた農水省生産局は弁明する。「野ざらしになっていた稲わらが餌になっていたことは想定できなかった」
しかし、東北地方では、秋にコメを収穫した後、乾燥が十分ではない等の理由で春先まで稲わらを外に放置することがある。農業の現場を少しで知っていれば、すぐわかることだ、と多くの農家は農水省の対応を厳しく批判する。
8月3日、汚染稲わらによる牛肉汚染対策の意見交換会が開かれた(財団法人「職の安心・安全財団」主催)。
そこで、原田英男・農水省生産局畜産企画課長は強調した。「通達を出すなど農水省はさまざまな対策をした」
「もとはといえば原発事故のせいだ」と繰り返した。
ここで国家公務員の原田は、原発は国が主導して建設したことを忘れている。原田の念頭には、国も国民もなく、農水省だけがある。
消費者の信頼回復のために、と生産者の多数が望む全頭検査についても、「必要ないと思っている。全頭検査はその検査体制を敷くだけで時間がかかり、現実的ではない。ゼロリスクを望むのは無理だ」と原田は一蹴した。
ちなみに、厚生労働省は「原発事故後、検査能力を増強している」【厚生労働省食品案演舞案園監視課】。
ただし、新規に導入予定の放射能測定器は、わずか3台。牛肉の検査には1検体の検査に2時間要する。24時間フル稼働しても、1日当たり30検体程度の能力増強でしかない。
(2)コメ
牛にはトレーサビリティ制度がある。にもかかわらず、汚染牛の流通を阻止できなかった【注1】。
ましてや、コメの場合には複数の産地のブレンドが多いから、流通経路はたどり難い【注2】。
11年産米の放射性物質検査はすでに始まった。対象範囲は、17都県と広い。福島県産以外の検査をまったく行わなかった牛肉の検査より改善している、と言えば言える。
しかし、「なるべく空間線量の高いところで計測してほしい」と農水省は言っているが、測定する水田の選定は自治体任せだ【注3】。
牛肉汚染問題は、「モニタリング調査をしているので、市場には安全な食品だけが出回っている」と言い続けてきた農水省の主張を根底からくつがえした。
国に任せておけない、と自主検査に踏み切る農家もある。放射線測定には1検体当たり2万円程度を要するから、負担は軽くない。
【注1】「【震災】原発>事故後に20キロ圏内にいた牛の肉が関東に流れている」
【注2】「【震災】原発>食品>新米は安全か?」
【注3】「【震災】原発>食品>汚染米のチェック機能不全/消費者側の対策」
以上、記事「コメでも二の舞のおそれ 『セシウム牛』を生んだ泥縄検査」(「週刊東洋経済」2011年9月10日号)に拠る。
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