語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】HONZが選んだ150冊 ~ノンフィクションの魅力(2)~

2013年01月03日 | ノンフィクション
 

 「HONZ」は、フィクションを除くノンフィクション・・・・サイエンス、歴史、社会、経済、医学、アートなどあらゆる分野の本を対象とする書評サイトだ【注1】。論じるのは、それぞれ固有の生計手段をもつ普通の市民約20人で、彼らは余暇の多くの時間を割いて本を読み、本を論じる。
 「HONZ」の書評家たちが過去1年間に目をとおした2,000冊のうち、500冊余がサイトで紹介された。そのうち、150冊を「厳選」し、1冊の本として読みやすいように体裁を整えたのが『ノンフィクションはこれを読め!』だ。

 全体として、書評というよりは、本を深く読み込んだうえでの読書談義という気がする。事実の面白さに引きずられて、その面白さを追いかけ、紹介する作業に紙面のかなりの部分を割いている。
 それはそれで差し支えないと思う。彼らはネットに「書評」を公開することで、特別の報酬を得ているわけではないのだから。『精神と情熱に関する81章』のアランではないが、せめて書くという楽しみが報酬としてあってよい。 
 本を読み込み、その妙味を他に伝える、というだけで十分な報酬を得ているわけだ。

 複数の「書評家」がいるという点が重要だ。本を読みとおすには何日かかかるし、それについて書くにも日数がいる。プロでない以上、まとまった「書評」をあげるのは、月に数冊が限度だろう。だから、独りで書評サイトを運営するのは、骨だ。しかし、書き手が20人もいれば、毎日のように新たな本をサイトで紹介できる。

 本書には書き手一人ひとりの自己紹介的、身辺雑記的コラムも入っていて、本の読み方の多彩さを改めて感じさせる。このあたりも、アマチュア集団の美質が出ていると思う。

 ノンフィクションの妙味は、知らなかった事実を知ることができる点だ。事実の断片を知るだけでも、十分に面白いし有益だ【注2】。
 事実はしかし、他の事実と関連づけ、体系化することで、威力が何倍にも増す。この点も、本書の「書評」によって確かめることができる。

 【注1】「ノンフィクションはこれを読め!HONZ
 【注2】「【本】まず事実、何よりも事実 ~ノンフィクションの魅力(1)~

□成毛眞・編著『ノンフィクションはこれを読め! ~HONZが選んだ150冊~』(中央公論新社、2012.10)
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【本】まず事実、何よりも事実 ~ノンフィクションの魅力(1)~

2013年01月02日 | ノンフィクション
 人は二日に何を読むか。その答は知らないが、私は積ん読を片づける。例えば、「HONZが選んだ150冊」。そこで紹介された事実を幾つか、引いてみる。

●江戸時代の通貨は現在の貨幣価値に換算すると、いくらになるか。【35】
 1文=20円
 1朱=7,500円
 1分=30,000円 
 1両=4,000文=80,000円(公定レート)、=6,000文=120,000円(民間レート)
 ※かけそば=16文=320円、鰻=200文=4,000円、大きめの焼き芋=12文=240円。

●ダチョウの卵はでかい。【61】
 1.5~2kgで、鶏卵の25~30倍もある。
 ダチョウの1個の卵黄から4gの高純度な卵黄抗体(IgY)が精製できる。1羽のダチョウから半年で400gの高純度抗体の生成が可能で、これまで行われてきたウサギの血液から精製する方法で作られる抗体に比べると、1羽のダチョウが半年でウサギ800匹分の抗体を生み出す。しかも、ダチョウの寿命は60年で、土地さえあれば飼育は難しくない(モヤシやオカラで育つ)。1羽のダチョウはまだに「抗体工場」だ。これまでより格段に安く、抗体を大量生産できるようになった。

●江戸の鬼門【81】
 東京スカイツリーは、皇居から見たとき鬼門(北東の方角)にそびえ立つ。
 東京タワーは、裏鬼門(南西の方角)にそびえ立つ。
 ちなみに、江戸の街並みが、裏鬼門に位置する富士山と鬼門に位置する筑波山を手がかりにして造られた(有名な話)。

●漢字を覚えるにはパーツ本来の意味、成り立ちで。【83】
 「道」という字は、「支配の圏外に出るとき、異族神を祓うために、生首を持って進む」という字形だ。
 「舞」の字は、始め雨かんむりがつけられていた。元々神に捧げる雨乞いの踊りを意味した。

●日本赤十字の救い手【86】
 3・11の直後、アクセス数急増のためサーバーダウンしていた日本赤十字を救ったのは、ショッピングサイト最大手のAmasonだった。世界有数のショッピングサイトの構築を通して作りあげたITインフラを日赤を含む重要サイトに無償提供したのだ。

●メソポタミア文明衰退の原因【97】
 20~30万人の人口を抱える中心都市を繁栄させるには、大量のエネルギー(建造物に使われる煉瓦を焼くために必要な薪炭)が必要で、そのために大量の森林伐採を行った結果、土壌粒子迂、灌漑地の塩害が障子、植物が育たなくなってメソポタミアは衰退した。

●インターネットは売上げや雇用をあまり生み出していない。【99】
 インターネットは、社会構造を変えた点でイノベーションだが、自動車やテレビのようには売上げや雇用をあまり生み出していない。インターネットの場合、多くの業務はソフトウェアやサーバーなど無人で行われているため、GDPや雇用者数を押し上げる力は齢。世界中で3億人近いユーザー数を誇るTwitter社は、米国で300人しか雇っていない。あのiPodすら、13,920人しか雇用を創出していない。

 ・・・・これら断片的な事実だけでも興味深いし面白いが、より大きく広い事実の一部にすぎないし、後者のほうがさらに一層興味深くて面白い。

□成毛眞・編著『ノンフィクションはこれを読め! ~HONZが選んだ150冊~』(中央公論新社、2012.10)
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【本】井伏鱒二の訳詩

2013年01月01日 | 詩歌

 

 人は元日に何を読むか。その答は知らないが、私は井伏鱒二を読む。井伏は大岡昇平のようには研究心を喚起しないが、その分、気楽に読める。元日のノンビリにふさわしい。繰り返すが、私にとって。
 一冊の本の何処から読み初めてもよいし、どこで中断しても差し支えない。漱石のいわゆる非人情な読み方ができる。
 今年の元旦に手にしたのは、井伏の数ある作品のうち『厄除け詩集』だ。筑摩文庫版も手元にあるが、詩集はやはりハードカバーで読みたい。
 17編の訳詩が狙いだ。高適「田家春望」は訳詩が正月向きだが、余り好みではない。
 好みは、例えば柳宗元「登柳州蛾山」だ。井伏の訳詩を含めて。ただし、読み下し文は『厄除け詩集』にない、念のため。
 柳宗元は昨年岩波文庫に入り、入手しやすくなった。

 荒山秋日午  荒山 秋日 午なり
 獨上意悠悠  ひとり上る 意 悠悠たり
 如何望郷處  いかんぞ 郷を望む処
 西北是融州  西北はこれ融州

 アキノオンタケココノツドキニ
 ヒトリノボレバハテナキオモヒ
 ワシノ在所ハドコダカミエヌ
 イヌヰノカタハヒダノヤマ
 
□井伏鱒二『厄除け詩集』(筑摩書房、1977)
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