語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【片山善博】【沖縄】辺野古審査請求から見えてくる国のモラルハザード

2015年11月17日 | ●片山善博
 (1)2015年10月13日、翁長雄志・沖縄県知事は、仲井眞弘多・前知事が行った米軍普天間基地の移転先である名護市辺野古沿岸の埋立て承認を取消した。
 これに伴う問題を、ここでは、もっぱら民主主義や国家権力のあり方という観点から取り上げる。

 (2)国(防衛省)は、知事承認取消し処分を無効にするため、行政不服審査法に基づき国土交通大臣に審査請求をした。
 これは理解できない行為だし、的外れでもある。
 そもそも、行政不服審査法とは、「国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによって、簡易迅速な手続きによる国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする」(同法第1条1項)のだから、国や自治体が行使する公権力から国民を守るためにあるのであって、国の機関を守るためにあるのではない。
 にもかかわらず、このたびは国(防衛省)がたまたま県から承認をもらう立場であることを理由にして、あたかも自らが私人であるかのように振る舞い、国民に与えられている権利を臆面もなく行使しているのだ。
 国の関係者には、行政不服審査法の趣旨、つまり圧倒的に力が強く、優越した立場にある国に対し、弱い立場にある国民の権利を擁護するために設けられているのだということがまるで理解できていない。

 (3)法的リテラシーが低い組織であれば、例えば自衛隊の海外での活動に法が歯止めをかけたとしても、その意味や限界をちゃんと理解することができないし、守れない。
 安倍首相は、我が国は法の支配を尊重する民主主義国家としばしば吹聴しているが、既に権力の内側からそんな原理は空洞化しているのではないか。
 これでは民主主義国家の看板が泣く。

 (4)いや、彼らは行政不服審査法の趣旨を理解した上でこんな振る舞いをしているのかもしれない。
 強引に法律の拡張解釈をすれば、自分たちだって国民に含まれる。ならば、行政不服審査法を活用して何が悪い。憲法9条の解釈を無理やり変更して制定した安全保障法制に比べればたいしたことはない。法律上の疑義が生じても、今のあの内閣法制局なら間違いなく助け舟を出してくれる。ずるいと言われようとどうしようと、利用できるものなら何でも利用させてもらう。
 こんな厚顔無恥やモラルハザードが蔓延しているのだとしたら、ここでもやはり民主主義国家は根腐れしている。

 (5)このまま行政不服審査法の手続きが進行すると、知事の埋立て承認取消し処分の当否を国交大臣が審査することになる。国交大臣が登場するのは、そもそも埋立ての免許や承認の事務は国(国土交通省)の事務とされ、それを県に委任しているという建前をとっているからだ。
 この種の事務を法定受託事務という。法定受託事務に関して県知事の措置に文句のある国民は、その事務の主管大臣(埋立て承認を取消しについては国交大臣)にその旨を申し出よという次第だ。

 (6)この点でも、行政不服審査法を利用できるのは国民であり、国は対象から除外されていると考えるのが当然だということが明らかになる。
 仮に国が審査請求をしたとすると、その案件も国が審査することになるのだが、それでは公正で客観的な審査は到底できない。とりわけ今の安倍政権のように、政府内でも与党内でも異論が出ないように周到に抑え込むのを得意とする政権の場合には、殊にそのことが言える。 
 一般に、審査したり、裁いたりする立場にある者が、その案件と深い関わりがある場合には、あえてその立場につかせない仕組みを採っている。公正さを担保するためだ。
 公正さを担保するために、こうした制度を行政不服審査の過程でも取り入れるとすると、今回のような場合には国は審査する立場を離れなければならなくなり、必然的に審査する者がいなくなる。
 そうであれば、はじめに戻って、やはり国が審査請求を出すことには法律の文言上だけでなく現実の運用面でも無理があることに気づくはずだ。
 国はそれでも怯むことなく強引に審査請求の処理を行うのだろう。結論は最初から決まっている。現・沖縄県知事の「承認取消し処分」を取消し、前知事による埋立て承認の効力を継続させる決定を下すことになるだろう。その結論の当否はともかくとして、身内で審査し、身びいきをしたに違いないとの疑惑は当分ついて回る。そんなやり方が通用しないことぐらい、子どもでもわかることだ。

 (7)では、国(防衛省)が知事に対抗するにはどんな手段があるのか。
 それは、悪知恵を働かせて私人を装ったりするのではなく、法で認められた国家権力を行使すればよい。その術はある。地方自治法の規定に基づき、国は県に対して是正の指示をすることができる。
 具体的には、国からの法定受託事務について、県による処理が法令に違反していると認めるとき、あるいは著しく適性を欠いていて明らかに公益を害していると認められるときには、国はその違反を是正ないし改善させるために必要な措置を講ずるよう、県に指示することが認められている。実際にこのたびの知事の取消し処分が法令に違反しているとか、著しく適性を欠いているかどうかは定かではない。ただ、法律上は国がそう判断すれば、取りあえずは是正の指示を出すことができる。

 (8)その後はどうなるか。今度は県の側で、国からの指示に不服があれば(このたびの場合は不服はあるだろう)、国地方係争処理委員会に審査の申し出をすることができる。
 国地方係争処理委員会は、地方自治法上設けられている仕組みであり、国と自治体とが対等であるとの原理のもとに、国が自治体に対して行った関与(各種の許認可のほか(7)の是正の指示などを含む)に対する不服や疑義について、自治体からの申し出を受けて審査する機関だ。委員には、地方自治や行政法に精通する専門家などが国会の同意を得て任命され、それなりに公正で信頼のおけそうな印象はある。

 (9)国地方係争処理委員会の結論がどうなるか予断を許さないが、国の側も県の側もその結論に不服があれば、こんどはいよいよ訴訟に持ち込み、法廷で争うことになる。
 国地方係争処理委員会の審査を経る道行きを、国はまどろっこしい、あるいはそれこそ昨今お得意の「面倒くさい」と考えているのか。それとも、ひょっとして、そこで自分たちに不都合な結論が出ることを恐れているのか。
 国がなりふり構わず、行政不服審査法を窃用し、そそくさと都合のいい結論を出そうとする態度は、いかにも姑息で卑怯に映る。前知事からもらった埋め立て承認に瑕疵がなく、絶対の自信があるなら、もっと正々堂々と法が認めた手続きを踏めばいい。

□片山善博(慶應義塾大学教授)「辺野古審査請求から見えてくる国のモラルハザード ~日本を診る第73回~」(「世界」2015年10月号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【沖縄】見返りから“賄賂”へ 振興費を区へ直接支給
【佐藤優】沖縄・日本から分離か、安倍「改憲」を撃つ ~知を磨く読書~
【佐藤優】沖縄の自己決定権確立に大貢献 ~翁長国連演説~
【詩歌】【沖縄】山之口獏「沖縄よどこへ行く」
【詩歌】【沖縄】山之口獏「耳と波上風景」
【詩歌】【沖縄】山之口獏「がじまるの木」
【詩歌】【沖縄】山之口獏「浮沈母艦沖縄」
【詩歌】【沖縄】山之口獏「沖縄風景」
【詩歌】【沖縄】山之口獏「島」
【詩歌】【沖縄】山之口獏「弾を浴びた島」
【佐藤優】慌てる政府の稚拙な手法には動じない ~翁長雄志~
【佐藤優】ある外務官僚の「嘘」 ~藤崎一郎・元駐米大使~
【佐藤優】自民党の沖縄差別 ~安倍政権の言論弾圧~
【沖縄】翁長知事訪米のインパクト ~メディアが伝えてないもの~
【佐藤優】【沖縄】知事訪米を機に変わった米国の「安保マフィア」
【佐藤優】ハワイ州知事の「消極的対応」は本当か? ~沖縄~
【沖縄】辺野古対抗と「わが軍」 ~安倍政権の思考停止~
【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
【沖縄】辺野古対抗と「わが軍」 ~安倍政権の思考停止~
【沖縄】の今(2) ~日米同盟の再構築へ向けて~
【沖縄】の今(1) ~東アジアの中の琉球~

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【心理】インフォーマル・コミュニケーション ~飲み会は雑学で(1)~

2015年11月17日 | 生活
 酒席では、毒にも薬にもならない話をする。呑むときには、話の中身がなくても面白ければいい。
 ネタがひとつあれば、10回くらいの酒席をこなせる。持ち歌がひとつあれば、10回くらい二次会、三次会のカラオケに付き合えるのと同じように。
 組織のなかで人間関係を円滑にするためには、いろいろな工夫が必要だが、毒にも薬にもならない話題もその工夫の一つだ。天候と野球やサッカーの話ばかりでは座がもたない。
 同席する人びともまた、組織の中で悩む人間だ。
 気くばりのすすめ。同じ集団の一員だから、インフォーマル・コミュニケーションで気くばりすれば、相手からも気くばりされる。
 雑学もインフォーマル・コミュニケーションでやりとりされる。毒にも薬にもならない雑学のひとつが「会社命名学」だ。

●会社命名学
 ・ダスキン ← 前の会社をのっとられ、新しく会社を興すとき、インパクトのある名をつけようとして、(株)ゾーキンにしようとしたが、社員が泣いて引き止めて、ダスト(ほこり)+ゾーキン で妥協し、ダスキンとなる。後に脱皮(ダッスキン)の意味もつく。
 ・任天堂 ← 人事を尽くして天命を待つ。
 ・資生堂 ← 万物資生(万物はこれをもとにして生まれる)(『易経』)
 ・キャノン ← もとは精機光学工業、商品名カノン1号から。
 ・アデランス ← アドヒアレンス(くっつく、根ざす)、社会に根ざし頭に根づくという意味で。
 ・アートネイチャー ← 自然で芸術的な髪を。
 ・花王 ← 顔
 ・ヤクルト ← エスペラント語のヤフルト(ヨーグルトの意)
 ・キッコーマン ← 創業当時、近くにあった亀甲山から「亀甲萬」と。
 ・イトーヨーカ堂 ← 創業当時、近所で繁盛していた日華堂をまねて「羊華堂洋品店」と。
 ・ロッテ ← 重光社長の愛読書『若きウェテルの悩み』に登場するシャルロッテから。

□夏目房之助+週刊朝日『夏目房之助の学問』(朝日新聞社、1987)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【詩歌】中原中也「冬の長門峡」

2015年11月16日 | 詩歌
 長門峡に、水は流れてありにけり。
 寒い寒い日なりき。

 われは料亭にありぬ。
 酒酌くみてありぬ。

 われのほか別に、
 客とてもなかりけり。

 水は、恰あたかも魂あるものの如く、
 流れ流れてありにけり。

 やがても密柑みかんの如き夕陽、
 欄干らんかんにこぼれたり。

 ああ! --そのやうな時もありき、
 寒い寒い 日なりき。

□中原中也「冬の長門峡」(『在りし日の歌』(創元社、1938)所収)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【詩歌】中原中也「雪の宵」
【詩歌】中原中也「言葉なき歌」
【詩歌】中原中也「北の海」
【詩歌】中原中也「春日狂想」
【詩歌】中原中也「幸福」
【詩歌】中原中也「朝鮮女」
【詩歌】中原中也「朝の歌」
【詩歌】中原中也「曇天」
【詩歌】中原中也「つみびとの歌 ~阿部六郎に~」
【詩歌】中原中也「夕照」
【詩歌】中原中也「骨」
【詩歌】中原中也「月夜の浜辺」
【詩歌】中原中也「一つのメルヘン」
【詩歌】中原中也「湖上」
【詩歌】中原中也「汚れつちまつた悲しみに・・・・」
【詩歌】中原中也「サーカス」
【詩歌】丸ビル風景 ~正午~

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【詩歌】岩田宏「いやな唄」

2015年11月16日 | 詩歌
 あさ八時
 ゆうべの夢が
 電車のドアにすべりこみ
 ぼくらに歌ういやな唄
 「ねむたいか おい ねむたいか
 眠りたいのか たくないか」
 ああいやだ おおいやだ
 眠りたくても眠れない
 眠れなくても眠りたい
  無理なむすめ むだな麦
  こすい心と凍えた恋
  四角なしきたり 海のウニ

 ひるやすみ
 むかしの恋が
 借金取のきもの着て
 ぼくらに歌ういやな唄
 「忘れたか おい 忘れたか
 忘れたいのか たくないか」
 ああいやだ おおいやだ
 忘れたくても忘れない
 忘れなくても忘れたい
  無理なむすめ むだな麦
  こすい心と凍えた恋
  四角なしきたり 海のウニ

 ばん六時
 あしたの風が
 くらいやさしい手をのばし
 ぼくらに歌ういやな唄
 「夢みたか おい 夢みたか
 夢みたいのか たくないか」
 ああいやだ おおいやだ
 夢みたくても夢みない
 夢みなくても夢みたい
  無理なむすめ むだな麦
  こすい心と凍えた恋
  四角なしきたり 海のウニ
  海のウニ!

□岩田宏「いやな唄」(『いやな唄』(ユリイカ、1959)所収)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【詩歌】岩田宏「海底の騎士」
【詩歌】岩田宏「動物の受難」
【詩歌】岩田宏「むすめに」
【詩歌】岩田宏「感情的な唄」
【詩歌】岩田宏「頭脳の戦争」 ~頭のなかの甲乙丙~
【詩歌】岩田宏「部屋」 ~おふくろ~
【詩歌】岩田宏「ささやかな訪問」
【読書余滴】すべてをルフランに変える青春の無知

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】冷静な分析と憂国の情、ドストエフスキーの闇、最良のネコ入門書

2015年11月16日 | ●佐藤優
 ①稲村公望『黒潮文明論』(彩流社 3,200円)
 ②亀山郁夫『新カラマーゾフの兄弟』
  (河出書房新社 <上>1,900円、<下>2,100円)
 ③大石孝雄『ネコになる本』(双葉社 1,400円)
   
 (1)①は、旧郵政省の元幹部で、奄美諸島・徳之島出身の著者によるユニークな作品だ。有能な実務家としての冷徹な分析と、憂国の情が、この作品の中で見事に総合されている。
 中央政府のエリート官僚でありながら、国家権力に対して批判的視座を著者が持ち続けたのは、彼のルーツが奄美にあることと関係している。1952年4月に発効したサンフランシスコ条約で、沖縄や小笠原とともに奄美も日本本土から切り離され、米軍の施政権下に置かれた。翌1953年12月に奄美の施政権が日本に返還された。そのときの記憶が著者に鮮明に残っている。
 <小学校六年生の頃、「朝は明けたり」の曲と詩が異民族支配から解放された喜びを噛みしめるように鼓舞したのだろうか。
 (中略)「朝だ 奄美の朝だ 日に焼けた君らの胸に盛り上がる復興の熱 そうだそうだみんなの汗で生みだそう明るい奄美」という行進曲調の歌が筆者の耳底には今も残るが、もう誰も知らない>
 境界人としての感覚を持ったエリートの奥行きの深さが伝わってくる。

 (2)日本におけるロシア文学研究の第一人者にしてドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』などの新訳で著名な著者が②の小説を上梓した。ドストエフスキーの世界観を著者の自分史に投影し、知的好奇心を刺激する作品だ。
 <「ああ、どこかで聞いたことがある。でも、何なんだ、そのH教授団って」
 「オウムとは別に、最近、急激に勢力を伸ばしはじめている組織なんです。ロシアともかなり関係が深いらしくて」
 イサムが一瞬、目をぎらつかせながらリヨウを見やった。
 「ソ連が滅びてから、ロシアはずいぶんその筋に好かれているみたいだな」
 「ええ」リヨウは笑いながら答えた。「彼らには、宗教というパンがありますからね。そちらで生きられるんです」リヨウは明るい声で説明した。
 「何だい、その宗教のパンて?」
 「いえ、ドストエフスキーです」>
 殺人を慫慂するカルト宗教に強い影響を与える闇が、ドストエフスキーの思想に隠されていることがよく分かる。

 (3)ネコ研究の第一人者である著者による③は、ネコに関する最良の入門書だ。
 著者は強調する。
 <殺処分されるネコを減らすには、不妊手術(避妊・去勢)を進めて野外での繁殖をなくすことと、飼い主に子ネコを捨てさせないモラルの向上が求められています>
 ドイツでは、ネコの殺処分ゼロに成功している。人間の都合でネコの命を奪うことを一日も早くなくすべきだ。

□佐藤優「冷静な分析と憂国の情 ~知を磨く読書 第125回~」(「週刊ダイヤモンド」2015年11月21日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】「クルド人」がトルコに怒る理由 ~日本でも衝突~
【佐藤優】異なるパラダイムが同時進行 ~激変する国際秩序~
【佐藤優】被虐待児の自立、ほんとうの法華経、外務官僚の反知性主義
【佐藤優】日本人が苦手な類比的思考 ~昭和史(10)~
【佐藤優】地政学の目で中国を読む ~昭和史(9)~
【佐藤優】これから重要なのは地政学と未来学 ~昭和史(8)~
【佐藤優】近代戦は個人の能力よりチーム力 ~昭和史(7)~
【佐藤優】戦略なき組織は敗北も自覚できない ~昭和史(6)~
【佐藤優】人材の枠を狭めると組織は滅ぶ ~昭和史(5)~
【佐藤優】企画、実行、評価を分けろ ~昭和史(4)~
【佐藤優】いざという時ほど基礎的学習が役に立つ ~昭和史(3)~
【佐藤優】現場にツケを回す上司のキーワードは「工夫しろ」 ~昭和史(2)~
【佐藤優】実戦なき組織は官僚化する ~昭和史(1)~
【佐藤優】バチカン教理省神父の告白 ~同性愛~
【佐藤優】進むEUの政治統合、七三一部隊、政治家のお遍路
【佐藤優】【米国】がこれから進むべき道 ~公約撤回~
【佐藤優】同志社大学神学部 私はいかに学び、考え、議論したか」「【佐藤優】プーチンのメッセージ
【佐藤優】ロシア人の受け止め方 ~ノーベル文学賞~
【佐藤優】×池上彰「新・教育論」
【佐藤優】沖縄・日本から分離か、安倍「改憲」を撃つ、親日派のいた英国となぜ開戦
【佐藤優】シリアで始まったグレート・ゲーム ~「疑わしきは殺す」~
【佐藤優】沖縄の自己決定権確立に大貢献 ~翁長国連演説~
【佐藤優】現実の問題を解決する能力 ~知を磨く読書~
【佐藤優】琉球独立宣言、よみがえる民族主義に備えよ、ウクライナ日記
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】ネット右翼の終わり、解釈改憲のからくり、ナチスの戦争
【佐藤優】「学力」の経済学、統計と予言、数学と戦略思考
【佐藤優】聖地で起きた「大事故」 ~イランが怒る理由~
【佐藤優】テロ対策、特高の現実 ~知を磨く読書~
【佐藤優】フランスにイスラム教の政権が生まれたら恐怖 ~『服従』~
【佐藤優】ロシアを怒らせた安倍政権の「外交スタンス」
【佐藤優】コネ社会ロシアに関する備忘録 ~知を磨く読書~
【佐藤優】ロシア、日本との約束を反故 ~対日関係悪化~
【佐藤優】ロシアと提携して中国を索制するカードを失った
【佐藤優】中国政府の「神話」に敗れた日本
【佐藤優】日本外交の無力さが露呈 ~ロシア首相の北方領土訪問~
【佐藤優】「アンテナ」が壊れた官邸と外務省 ~北方領土問題~
【佐藤優】基地への見解違いすぎる ~沖縄と政府の集中協議~
【佐藤優】慌てる政府の稚拙な手法には動じない ~翁長雄志~
【佐藤優】安倍外交に立ちはだかる壁 ~ロシア~
【佐藤優】正しいのはオバマか、ネタニヤフか ~イランの核問題~
【佐藤優】日中を衝突させたい米国の思惑 ~安倍“暴走”内閣(10)~
【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~
【佐藤優】日本に安保法制改正をやらせる米国 ~安倍“暴走”内閣(8)~
【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
【佐藤優】安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本 ~安倍“暴走”内閣(1)~
【佐藤優】ある外務官僚の「嘘」 ~藤崎一郎・元駐米大使~
【佐藤優】自民党の沖縄差別 ~安倍政権の言論弾圧~
【書評】佐藤優『超したたか勉強術』
【佐藤優】脳の記憶容量を大きく変える技術 ~超したたか勉強術(2)~
【佐藤優】表現力と読解力を向上させる技術 ~超したたか勉強術~
【佐藤優】恐ろしい本 ~元少年Aの手記『絶歌』~
【佐藤優】集団的自衛権にオーストラリアが出てくる理由 ~日本経済の軍事化~
【佐藤優】ロシアが警戒する日本とウクライナの「接近」 ~あれかこれか~
【佐藤優】【沖縄】知事訪米を機に変わった米国の「安保マフィア」
【佐藤優】ハワイ州知事の「消極的対応」は本当か? ~沖縄~
【佐藤優】米国をとるかロシアをとるか ~日本の「曖昧戦術」~
【佐藤優】エジプトで「死刑の嵐」が吹き荒れている
【佐藤優】エリートには貧困が見えない ~貧困対策は教育~
【佐藤優】バチカンの果たす「役割」 ~米国・キューバ関係~
【佐藤優】日米安保(2) ~改訂のない適用範囲拡大は無理筋~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】外相の認識を問う ~プーチンからの「シグナル」~
【佐藤優】ヒラリーとオバマの「大きな違い」
【佐藤優】「自殺願望」で片付けるには重すぎる ~ドイツ機墜落~
【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
【佐藤優】戦勝70周年で甦ったソ連の「独裁者」 ~帝国主義の復活~
【佐藤優】明らかになったロシアの新たな「核戦略」 ~ミハイル・ワニン~
【佐藤優】北方領土返還の布石となるか ~鳩山元首相のクリミア訪問~
【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~
【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
【佐藤優】暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~ボリス・ネムツォフ~
【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【言葉】目よりも耳

2015年11月16日 | 批評・思想
【言葉】目よりも耳

 <たしか、ヴァレリーだったと思いますが、神さまは人間に目と耳とどちらを選ぶかというと、耳を選ぶ。目はなくても生きられるけれども、耳がなくなるとこまると。最近も、よく言われましたが、アインシュタインは、死ぬということはモーツァルトを聴けなくなるということだと。つまり欧米の人たちは生命というものは耳から入ってくる、心・情緒はそういうものだ、と言ってます。つまり耳を失うことは、生きている心、人間を失うことなんだと。ところが日本人は目と耳とどちらを選ぶかというと、非常に多くの人が、耳は失っても目はおいてほしい、と。食物でも見ために美しさが大事といっています>

□杉山平一「三好達治の詩と人柄」(『杉山平一詩集』、思潮社、2006)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】無関心の共存は可能か ~ キリスト教の限界(10)~

2015年11月15日 | ●佐藤優
 (承前)

(10)無関心の共存は可能か
 まったく予測不能だが、一度、ナチスに代わるものが出現した。戦後の東西冷戦時の共産主義だ。
 バルト主義者たちは、ナチスと対峙したバルトの枠組みを使って反共戦線をつくろうとした。霊感説の立場に立って、反共十字軍をつくろうとしたのだ。バルトの盟友の神学者エミール・ブルンナーも反共十字軍に参加した。
 しかし、バルトはそれに異を唱えた。バルト自身は、ナチズムはキリスト教徒、プロテスタントにとって誘惑になったが、共産主義は誘惑にならないから危険性は少ないと釈明した。
 そもそもバルトは、他のプロテスタント神学者と比較して、ロシア革命に対して肯定的な評価をした。共産主義体制を積極的には支持しないが、西側の反共主義には反対した。
 バルトは第二次世界大戦後、西ドイツ再建に参与するか、スイスで主著『教会教義学』の執筆を継続するかについて悩んだ。結論は、スイスに留まるという選択だった。結局は未完のままで終わったが、完成に努力した。
 バルトは自分の問題点や欠陥も非常によくわかった上で、身を処した。相当な自己理解能力と自己批判能力があったわけだ。
 バルトが反共戦線に加わらなかった理由の一つは、社会的な公平や労働者の状況改善という共産主義者の訴えは、本来ならキリスト教の役目だという見方だ。共産主義運動は、神の前での自己批判としてしっかり受け止めねばならないと考えた。
 神がプロテスタント教会の不甲斐ない現状に怒り、もっと真面目にやりなさいと、鞭としての共産主義を作り出したという発想だ。反共主義者となって共産主義を排除することは、鞭を振るう神に対して逆らうことになる。
 それはユダヤ教の論理と同じだ。ユダヤ教の人びとは、バビロニアやアッシリアが攻めてくるのは、神の与える試練の鞭だと考えた。
 その立場からすると、イスラム教が勢力を伸ばしてきた場合、バルト神学にはどのような選択肢があるか。
 隣人となったムスリムとは関わらない、という形の共存はあり得る。
 無関心だから共存できる、という考え方だ。それはバルト神学から導き出される一つのあり方だ。
 してみると、米国のプロテスタントは、歴史を勉強すればキリスト教の他宗派だけでなく、イスラム教やユダヤ教と無関心な併存という賢明な選択が可能ではないか。
 無関心の併存、共存を考えるなら、三つの一神教の聖地エルサレムに学ぶべきところは非常に大きい。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教のさまざまな宗派が集まっていたにもかかわらず、イスラエル建国までのエルサレムでは深刻な紛争はなかった。
 しかし、無関心からくる共存を世界的に保証する仕組みづくりは難しい。保障できない。世俗的国家が信教の自由という形で無関心な共存を保障しても、国家には境界がある。国家の外側までは保障できない。
 信教の自由を保障する世俗的国家がある反面、イラン・イスラム共和国のような原理主義国家をはじめ、いろいろな国家や組織が存在する。その間でいつ紛争が起きてもおかしくはない状況だ。

□佐藤優『あぶない一神教』(小学館新書、2015)/共著:橋爪大三郎
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
●第3章 キリスト教の限界
【佐藤優】イエス・キリストは「神の子」か ~ キリスト教の限界(1)~
【佐藤優】ユニテリアンとは何か ~ キリスト教の限界(2)~
【佐藤優】ハーバード大学にユニテリアンが多い理由 ~ キリスト教の限界(3)~
【佐藤優】サクラメントとは何か ~ キリスト教の限界(4)~
【佐藤優】何がキリスト教信仰を守るのか ~ キリスト教の限界(5)~
【佐藤優】第一次世界大戦という衝撃 ~ キリスト教の限界(6)~
【佐藤優】なぜバルトはナチズムに勝ったのか ~ キリスト教の限界(7)~
【佐藤優】皇国史観はバルト神学がモデル? ~ キリスト教の限界(8)~
【佐藤優】米国が選ぶのは実証主義か霊感説か ~ キリスト教の限界(9)~
【佐藤優】無関心の共存は可能か ~ キリスト教の限界(10)~

●第4章 一神教と資本主義
【佐藤優】資本主義は偶然生まれたのか ~一神教と資本主義(1)~
【佐藤優】なぜ人間の論理は発展したのか ~一神教と資本主義(2)~
【佐藤優】最後の審判を待つ人の心境はビジネスに近い ~一神教と資本主義(3)~
【佐藤優】15世紀の教会はまるで暴力団 ~一神教と資本主義(4)~
【佐藤優】隣人が攻撃されたら暴力は許されるのか ~一神教と資本主義(5)~
【佐藤優】自然は神がつくった秩序か ~一神教と資本主義(6)~
【佐藤優】働くことは罰なのか ~一神教と資本主義(7)~
【佐藤優】市場経済が成り立つ条件 ~一神教と資本主義(8)~
【佐藤優】神の「視えざる手」とは何か ~一神教と資本主義(9)~
【佐藤優】なぜイスラムは、経済がだめか ~一神教と資本主義(10)~

  
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】米国が選ぶのは実証主義か霊感説か ~ キリスト教の限界(9)~

2015年11月15日 | ●佐藤優
 (承前)

(9)米国が選ぶのは実証主義か霊感説か
 バルトが属したカルヴァン派は、非体系的、直感的な宗派だ。それを知りつつバルトは『教会教義学』でカルヴァン派の教義の体系をつくろうとした。大きなチャレンジだ。
 しかし、バルトのテキストは日常的な言語とも哲学論文とも異なった独特の言葉と文体なので、わかりにくい。『教会教義学』を自力で読み解くことができるようになれば、それ以外の神学書も読みこなせると言われているほどだ。
 『ローマ書講解』にしても、この人は何を言いたいのか、と一読しただけではよくわからない文章だ。この本は、1919年の発売直後、社会に無視された。当時の支配階級にいた神学者たちはバルトを狂人扱いにしたほどだ。
 しかし、4年ほど経ってドイツの混迷の深まりとともに除々に受け入れられはじめた。
 実証主義と素朴な霊感説。どちらかを選択しろと迫られれば、素朴な霊感説の立場に立つが、どちらかを選べと言われていない状況なので、私は助かった・・・・バルトは『ローマ書講解』でそんな意味のことを言っているが、この心理状態はいまの米国そのものだ。
 実証主義、つまり世俗主義や民主主義、ビジネスや科学・・・・みなキリスト教徒でありながら様々な活動を行っている。
 素朴な霊感説・・・・これは教会で聖書を読み、説教を聞く。
 米国では実証主義と素朴な霊感説の両方が、日常生活に取り込まれている。いや、そうあるべきだと思っている。いまは、幸いにも選択しなければならない状況ではないだけで、どちらか一方を選べと迫られたら、バルトのように後者である素朴な霊感説を選ぶ。
 この流れでいえば、米国の土台が揺らぐのは、実証主義か素朴な霊感説か、どちらかを選ばなければならない状況に追い込まれたときだ。
 これから国力がどんどん下がっていく米国が、何で国家を守るのか。選択肢は二つある。
  (a)科学技術(実証主義)。
  (b)キリスト教信仰(素朴な霊感説)。
 米国は、これまで(a)の発展と(b)を両立させて国を発展させてきた。しかし、それが限界にきている。
 バルトは、ナチスの台頭で選択を迫られた。そこで素朴な霊感説を選んだ。一方、実証性を重視した既存の神学を学んでいた人たちの多くはナチズムに引っ張られた。
 この現代、もう一度ナチスの代わりに何かが現れたら、果たして大多数はどちらに振れるか、まったく予想がつかない。

□佐藤優『あぶない一神教』(小学館新書、2015)/共著:橋爪大三郎
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
●第3章 キリスト教の限界
【佐藤優】イエス・キリストは「神の子」か ~ キリスト教の限界(1)~
【佐藤優】ユニテリアンとは何か ~ キリスト教の限界(2)~
【佐藤優】ハーバード大学にユニテリアンが多い理由 ~ キリスト教の限界(3)~
【佐藤優】サクラメントとは何か ~ キリスト教の限界(4)~
【佐藤優】何がキリスト教信仰を守るのか ~ キリスト教の限界(5)~
【佐藤優】第一次世界大戦という衝撃 ~ キリスト教の限界(6)~
【佐藤優】なぜバルトはナチズムに勝ったのか ~ キリスト教の限界(7)~
【佐藤優】皇国史観はバルト神学がモデル? ~ キリスト教の限界(8)~
【佐藤優】米国が選ぶのは実証主義か霊感説か ~ キリスト教の限界(9)~
【佐藤優】無関心の共存は可能か ~ キリスト教の限界(10)~

●第4章 一神教と資本主義
【佐藤優】資本主義は偶然生まれたのか ~一神教と資本主義(1)~
【佐藤優】なぜ人間の論理は発展したのか ~一神教と資本主義(2)~
【佐藤優】最後の審判を待つ人の心境はビジネスに近い ~一神教と資本主義(3)~
【佐藤優】15世紀の教会はまるで暴力団 ~一神教と資本主義(4)~
【佐藤優】隣人が攻撃されたら暴力は許されるのか ~一神教と資本主義(5)~
【佐藤優】自然は神がつくった秩序か ~一神教と資本主義(6)~
【佐藤優】働くことは罰なのか ~一神教と資本主義(7)~
【佐藤優】市場経済が成り立つ条件 ~一神教と資本主義(8)~
【佐藤優】神の「視えざる手」とは何か ~一神教と資本主義(9)~
【佐藤優】なぜイスラムは、経済がだめか ~一神教と資本主義(10)~

  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】皇国史観はバルト神学がモデル? ~ キリスト教の限界(8)~

2015年11月15日 | ●佐藤優
 (承前)

(8)皇国史観はバルト神学がモデル?
 (7)の「経綸的三一論」は日本人になじみ深い皇国史観に似ている。自己の信念を曲げないという決意と、命をかける覚悟があるならば、それが必ず実現するだろうという信念だ。
 皇国史観に影響を与えたのが西田幾多郎だ。師について『西田哲学の根本問題』(1936年)を書いたキリスト教神学者の滝沢克己はバルト門下生だ。この本を書く前に、滝沢は西田にドイツでハイデッガーのもとで学びたいと相談に行く。西田はしかし、ボン大学のバルトのものへ行けと説得した。いまの日本にとって、バルトから学ぶことが非常に重要だから、と。
 戦前に京大で教鞭をとっていた田辺元や高山岩男ら京都学派の哲学者たちにもバルトは大きな影響を与えた。皇国史観に代表される戦前の日本の思想が構築されていく過程において、バルト神学は一つの柱になった。
 だから、バルト神学、いや現代神学は、天皇への徹底した服従、自由主義、民主主義、社会主義などの排除を説いた『国体の本義』と考え方の親和性がとても高い。
 要するに、ナチスは危険だが、ナチスに勝利したバルトも危険だ。バルトのイデオロギーはナチスよりも力を持っていた。
 だが、バルトの考えには説得力が乏しい。実証主義に対して対話の拒否、論理のジャンプがある。
 それにひきかえハイデッガーは、理性と根拠にもとづいて議論を進めていく。論理をジャンプして立場を選択したり、奇妙なことを語りはじめたりはしない。
 バルトの本は、モノローグを展開しているだけで、相手なしに自問自答したのではないかと思われる瞬間がある。バルトは究極的に対話不能な神学者だ。同時に規格外の人間でもある。
 バルトは女性問題のトラブルが多い人だった。自分の奥さんとは知的な会話を一切行わなかった。その一方でバルトの自宅には、キルシュバウムという女性秘書も同居していた。バルトを語る上でタブーになっている女性だ。
 彼女はもともと看護師で、神学的な素質があった。キルシュバウムは最後に脳の病気で入院した。途端に当時手がけていたバルトの主著『教会教義学』の制作が滞った。『教会教義学』は事実上バルトとキルシュバウムの共作だ。にもかかわらずバルトはキルシュバウムに金を払わなかった。
 プロテスタントであれ、キリスト教のどの宗派であれ、人間を信頼してはならない、という原則がある。
 キリスト教はアンチヒューマニズムの宗教だからだ。現在を持つ人間を悪であり、弱いものであると考えて、手放しには肯定しないわけだ。
 だとすれば、バルトがどれだけ女性問題を抱えていたとしても、人間として信頼できない人だったとしても、問題はなくて、バルトが確立した神学の価値は揺らぐことはない。
 とはいえ、カトリシズムでは救済のためには「信仰と行為が必要である」と主張している。一方、プロテスタンティズムでは、「信仰のみ」の一元論を強調する。ただし、それは、行為がどうでもいいからではなく、信仰があるならば必ず行為に結びつく「信仰即行為」「行為即信仰」という立場から生まれた考えだ。
 だから身近な人とどのような関係を構築するかは、神学者として大切な要素だ。神学者には、他者に対する共感能力、他者の痛みを感じる能力が必要だ。
 いずれにしてもバルトの評価が難しいという事実には変わりない。
 プロテスタント教会はバルトを20世紀最大の神学者として尊重した。そして「究極的には対話不能な」バルトが構築した論理から栄養を受け取り、その神学や教義を形成しているとするなら、行き詰まるしかない。
 事実、どん詰まりなのだ。この40年ぐらい、神学的に意味がある議論がなされていない。だから一度、バルトを拒否して旧約聖書に回帰する動きや、もう一度エコロジーに帰る流れはある。
 エコロジーは自然の秩序だ。創造には神の秩序が反映されているという方向に戻ろうという動きだ。神学のなかでもこのような試みはいくつか出ている。
 しかし、「現代神学の父」と呼ばれるバルトの枠から外れることは難しい。

□佐藤優『あぶない一神教』(小学館新書、2015)/共著:橋爪大三郎
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
●第3章 キリスト教の限界
【佐藤優】イエス・キリストは「神の子」か ~ キリスト教の限界(1)~
【佐藤優】ユニテリアンとは何か ~ キリスト教の限界(2)~
【佐藤優】ハーバード大学にユニテリアンが多い理由 ~ キリスト教の限界(3)~
【佐藤優】サクラメントとは何か ~ キリスト教の限界(4)~
【佐藤優】何がキリスト教信仰を守るのか ~ キリスト教の限界(5)~
【佐藤優】第一次世界大戦という衝撃 ~ キリスト教の限界(6)~
【佐藤優】なぜバルトはナチズムに勝ったのか ~ キリスト教の限界(7)~
【佐藤優】皇国史観はバルト神学がモデル? ~ キリスト教の限界(8)~
【佐藤優】米国が選ぶのは実証主義か霊感説か ~ キリスト教の限界(9)~
【佐藤優】無関心の共存は可能か ~ キリスト教の限界(10)~

●第4章 一神教と資本主義
【佐藤優】資本主義は偶然生まれたのか ~一神教と資本主義(1)~
【佐藤優】なぜ人間の論理は発展したのか ~一神教と資本主義(2)~
【佐藤優】最後の審判を待つ人の心境はビジネスに近い ~一神教と資本主義(3)~
【佐藤優】15世紀の教会はまるで暴力団 ~一神教と資本主義(4)~
【佐藤優】隣人が攻撃されたら暴力は許されるのか ~一神教と資本主義(5)~
【佐藤優】自然は神がつくった秩序か ~一神教と資本主義(6)~
【佐藤優】働くことは罰なのか ~一神教と資本主義(7)~
【佐藤優】市場経済が成り立つ条件 ~一神教と資本主義(8)~
【佐藤優】神の「視えざる手」とは何か ~一神教と資本主義(9)~
【佐藤優】なぜイスラムは、経済がだめか ~一神教と資本主義(10)~

  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】なぜバルトはナチズムに勝ったのか ~ キリスト教の限界(7)~

2015年11月15日 | ●佐藤優
 (承前)

(7)なぜバルトはナチズムに勝ったのか
 19世紀に実証主義の大嵐がきた(代表:「史的イエスの研究」)。バルトはそれを必死に食い止めようとした。バルトは、イエス・キリストが実証できなくても、人びとがイエスを“神の子”だと信じてきたキリスト教の伝統の中に神がいる、それで問題ない、と考えた。
 人びとが“神の子”だと信じてきた伝統がある、我々としてはそこまでしか言えない、というのがバルトの立場だ。
 バルトのバックボーンは、父親がスイスのファンダメンタリスト(原理主義者)だった。普通は、ファンダメンタリスト的なバックボーンがあれば強い反発を覚えて、ファンダメンタリズムとは真逆の実証性を重視する方向で進むケースが多い。バルトはそうでなかった。
 では、バルトの立場とは何か。
 単なる実証主義には立たず、教会や聖書の伝統の立場を尊重する。その伝統野中にイエス・キリストは“神の子”だとあるから、自分もその考えを支持するという。その立場に立ちたいから立っている、と言っているだけで、説得力がない。
 一種の独断論だ。単に“神の子”だと断言しただけ。趣味の問題、好みの問題だと片付けられても仕方ない。
 好みを主張する権利は誰にもある。
 一見、柔軟な考えにも聞こえる。ただし、落とし穴がある。
 キリスト教徒が、神が世界を造ったという伝統の中でそれを主張するならば、ムスリムは異議がないだろう。しかし、キリスト教徒が、イエス・キリストが“神の子”であって“救い主”であるという立場に立つなら、ムスリムは反対の立場に立たざるを得ない。すると、キリスト世界とイスラム世界は永遠の平行線を辿ることになる。互いの立場を譲れないわけだから。
 否、永遠の平行線を辿ることにはならない。最終的には互いに力で解決しようとする。
 米国もそう考えるだろう。イスラム世界もそう思うだろう。残されるのは米国正規軍とテロリストの軍事対決という選択しかなくなる。
 その意味でバルト神学は危険な可能性を秘めている。
 実際、バルトも第二次世界大戦時にナチズムに対抗する思想を作り上げた。
 1934年、ナチスに反対する牧師や信徒が集結し、国家と教会を一体化させる「ドイツ・キリスト者」運動は偽りであるというバルメン宣言を起草し、告白教会という組織を立ち上げた。告白教会の理論的指導者はバルトだ。
 バルトは、ナチズムの嵐に巻き込まれていたヨーロッパのなかで、それに抵抗していくドクトリンを構築した。反ナチスのシンボリックな役割も果たした。60歳に近いバルト自身が鉄砲を担いでスイスの国境警備をやったのだ。
 結果としてナチスに勝利するのだが、彼にとって勝つのは自明だった。イエス・キリストというたった一言の前でアドルフ・ヒトラーは粉砕される。世界は神によって支配されて経営されているという考え(「経綸的三一論」)に基づいているから、そうなる理(ことわり)なんだ、と信じている。

□佐藤優『あぶない一神教』(小学館新書、2015)/共著:橋爪大三郎
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
●第3章 キリスト教の限界
【佐藤優】イエス・キリストは「神の子」か ~ キリスト教の限界(1)~
【佐藤優】ユニテリアンとは何か ~ キリスト教の限界(2)~
【佐藤優】ハーバード大学にユニテリアンが多い理由 ~ キリスト教の限界(3)~
【佐藤優】サクラメントとは何か ~ キリスト教の限界(4)~
【佐藤優】何がキリスト教信仰を守るのか ~ キリスト教の限界(5)~
【佐藤優】第一次世界大戦という衝撃 ~ キリスト教の限界(6)~
【佐藤優】なぜバルトはナチズムに勝ったのか ~ キリスト教の限界(7)~
【佐藤優】皇国史観はバルト神学がモデル? ~ キリスト教の限界(8)~
【佐藤優】米国が選ぶのは実証主義か霊感説か ~ キリスト教の限界(9)~
【佐藤優】無関心の共存は可能か ~ キリスト教の限界(10)~

●第4章 一神教と資本主義
【佐藤優】資本主義は偶然生まれたのか ~一神教と資本主義(1)~
【佐藤優】なぜ人間の論理は発展したのか ~一神教と資本主義(2)~
【佐藤優】最後の審判を待つ人の心境はビジネスに近い ~一神教と資本主義(3)~
【佐藤優】15世紀の教会はまるで暴力団 ~一神教と資本主義(4)~
【佐藤優】隣人が攻撃されたら暴力は許されるのか ~一神教と資本主義(5)~
【佐藤優】自然は神がつくった秩序か ~一神教と資本主義(6)~
【佐藤優】働くことは罰なのか ~一神教と資本主義(7)~
【佐藤優】市場経済が成り立つ条件 ~一神教と資本主義(8)~
【佐藤優】神の「視えざる手」とは何か ~一神教と資本主義(9)~
【佐藤優】なぜイスラムは、経済がだめか ~一神教と資本主義(10)~

  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】第一次世界大戦という衝撃 ~ キリスト教の限界(6)~

2015年11月15日 | ●佐藤優
 (承前)

(6)第一次世界大戦という衝撃
 キリスト教は第一次世界大戦を境に大きく変わった。イギリスの歴史家エリック・ボブズボームは1789年(フランス革命)から1914年(第一次世界大戦終了)までを「長い19世紀」と名づけた。「長い19世紀」は啓蒙の時代だ。多くの人が基本的には科学と人間の理性に頼ることで理想の社会が作られていくと考えていた。
 「長い19世紀」はナショナリズムの時代でもあった。第一次世界大戦で国家や民族という大義の前に命を投げ出す土壌がつくられてしまった。
 19世紀は基本的に啓蒙の言葉を継承していた。しかし、理性を基本にした社会から世界大戦が生じてしまった。伝統的な神学はこの世界を追認することしかできなかった。この限界を克服しようとする過程でバルト神学が生まれた。
 啓蒙主義より前のプロテスタンティズムでは、神は天上にいると考えられていた。しかし、それでは天体学や科学などと矛盾してしまう。矛盾しない場所に神を置く必要に迫られた。
 そんな時期、シュライエルマッハーは、神は心の中にいるという説を唱えた。
 しかし、神が心の中にいると、自分の主観的な感情と神を区別できなくなる。絶対的な存在の神を心の中に認めることで、人間の自己絶対化の危険性も生まれた。
 このシュライエルマッハーの考えを否定したのがバルトだ。
 神は物理的な意味で上にいないことを理解しながらも「神は上にいる」と主張した。人間は神ではないから神について知ることはできない。語ることもできない。しかし、牧師や神学者は信徒に神について語らなければならない。だから神学は「不可能の可能性」に挑戦するがくもんだと主張した。
 バルトが「不可能の可能性」と語ったのは第一次世界大戦後の1918年。その翌年『ローマ書購解』が刊行された。この本から、神の居場所がシュライエルマッハーのいわゆる「心の中」から「上」に変わったといえる。
 宗教や思想の領域を見るかぎり、第一次世界大戦が与えたショックは甚大で、第二次世界大戦はその二番煎じにすぎなかった。
 ボブズボームは、第一次世界大戦からソ連崩壊までを「短い20世紀」と言った。その中でも第一次世界大戦から第二次世界大戦までを合わせて「31年戦争」と呼ぶ。あれは二つの戦争ではなく、一つの戦間期だったと。
 第一次世界大戦の受け止め方は、日本とヨーロッパではまったく違う。日本にとっての第一次世界大戦は、帝国主義国として国際社会でのし上がっていくための一つのプロセスだった。棚からぼた餅のように国際連盟の常任国にもなれた。日本から見るとラッキーな戦争だった。第一次世界大戦がヨーロッパに与えた深刻な雰囲気を日本は知りようがない。
 米国も日本と同様に、ヨーロッパを覆った暗い空気を共有できてはいない。
 米国は、ヨーロッパが一枚岩になることをもっとも恐れている。ソ連と西欧が争う不均衡な状態は米国にとっては好都合だ。
 同じヨーロッパでもドイツ、スイス、チェコでは第一次世界大戦の受け止め方がまったく違う。
  (a)ドイツにとっては破滅であり、破壊だった。この先どうなるか、先が見えなかった。だから民衆だけでなく、多くの神学者がナチズムに救いを求めて接近していった。
  (b)スイス人だったバルトは、そこから距離を置いた。バルトは、ナチスに宣誓を求められたとき、国家公務員として一言だけ添え書きをした。「ただし、福音主義(プロテスタント)教会のメンバーとして従える範囲において」と。それでクビになった。最終的にはバルトは反ナチズムのドクトリンを築くのだが、当初は条件付きだが、忠誠を示した。中途半端な立ち位置はいかにもスイス人的だ。
  (c)チェコにとっては、解放だった。オーストリア・ハンガリー帝国が崩壊し、チェコスロバキアが独立した。500年間も統治を続けたハプスブルグ家のくびきから解き放たれて、開放的な雰囲気が漂った。

□佐藤優『あぶない一神教』(小学館新書、2015)/共著:橋爪大三郎
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
●第3章 キリスト教の限界
【佐藤優】イエス・キリストは「神の子」か ~ キリスト教の限界(1)~
【佐藤優】ユニテリアンとは何か ~ キリスト教の限界(2)~
【佐藤優】ハーバード大学にユニテリアンが多い理由 ~ キリスト教の限界(3)~
【佐藤優】サクラメントとは何か ~ キリスト教の限界(4)~
【佐藤優】何がキリスト教信仰を守るのか ~ キリスト教の限界(5)~
【佐藤優】第一次世界大戦という衝撃 ~ キリスト教の限界(6)~
【佐藤優】なぜバルトはナチズムに勝ったのか ~ キリスト教の限界(7)~
【佐藤優】皇国史観はバルト神学がモデル? ~ キリスト教の限界(8)~
【佐藤優】米国が選ぶのは実証主義か霊感説か ~ キリスト教の限界(9)~
【佐藤優】無関心の共存は可能か ~ キリスト教の限界(10)~

●第4章 一神教と資本主義
【佐藤優】資本主義は偶然生まれたのか ~一神教と資本主義(1)~
【佐藤優】なぜ人間の論理は発展したのか ~一神教と資本主義(2)~
【佐藤優】最後の審判を待つ人の心境はビジネスに近い ~一神教と資本主義(3)~
【佐藤優】15世紀の教会はまるで暴力団 ~一神教と資本主義(4)~
【佐藤優】隣人が攻撃されたら暴力は許されるのか ~一神教と資本主義(5)~
【佐藤優】自然は神がつくった秩序か ~一神教と資本主義(6)~
【佐藤優】働くことは罰なのか ~一神教と資本主義(7)~
【佐藤優】市場経済が成り立つ条件 ~一神教と資本主義(8)~
【佐藤優】神の「視えざる手」とは何か ~一神教と資本主義(9)~
【佐藤優】なぜイスラムは、経済がだめか ~一神教と資本主義(10)~

  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】何がキリスト教信仰を守るのか ~ キリスト教の限界(5)~

2015年11月14日 | ●佐藤優
 (承前)

(5)何がキリスト教信仰を守るのか
 イエスの言行のほとんどは実証できない。キリスト教は、イエス・キリストの解釈をめぐり、常に分裂する可能性を孕んでいる。
 イスラム教については、ムハンマドは人間だから、どんな実証によってもムハンマドの存在は脅かされない。
 ただし、補足すれば、ムハンマドの存在をめぐって議論は少なからず起こっている。シーア派の中には、ムハンマドではなく娘婿のアリーに本来は啓示が下るはずだったと考えている人もいるので、ムハンマドとアリーのどちらを重視すべきか、という議論がある。
 この議論は、日蓮宗の宗徒にとって仏教を興したブッダと日蓮宗をつくった日蓮のどちらを基本にするか、という問答に似ている。日蓮宗の大多数はおそらく日蓮と答えるだろう。
 ただし、ムハンマドの解釈をめぐる混乱は、イエス・キリストのそれより格段に少ない。キリスト教は、イエス・キリストの解釈をめぐって分岐、分裂を繰り返してきた。
 イエス・キリストの実証性については、「近代プロテスタント神学の父」シュライエルマッハーの影響が非常に大きい。彼は、現実に存在する教会は実証的なものだ、と語った。当時、プロイセン国家と教会は一体化していた。その教会と離れた場での神学はあり得ない。具体的に証明できる現実の問題のなかでしか、神については語れないと彼は唱えたのだ。
 つまり、神が人間に直接的に働きかける超越や啓示などを押しのけて、人間がつくった実証可能な教会こそが大切だという考え方だ。
 その結果、教会も信仰も救いも、国家や国家が定めた制度の一部にされてしまう。キリスト教が持つ超越性も危うくなり、キリスト教自体が成り立たなくなってしまう可能性がある。
 トマス・ホッブス『リヴァイアサン』における教会論によれば、普遍的な教会が存在し得るか、という疑問に対してホッブスは、地上に「普遍的な教会」はあり得ないと結論づけた。ここでいう普遍的教会は、神に代わって人間の救済を担保できる人間がつくった組織、と考えるとわかりやすいかも。
 では、何がキリスト教信仰を守るのか。
 ホッブスは国家という答えを導きだした。
 彼自身は、キリスト教を信仰する場を確保して、人間の救済を担保するためには教会は存続させなければならない、という考えだ。それなら、国家が聖書の選定、国民が信仰すべき教会を指定すべきだと結論づけた。国家が教会の上位に立ち、国民のキリスト教信仰を担保する必要があるというわけだ。
 国家はいくつもあるので、教会もいくつもあることになる。よって、普遍的な教会は存在できない。逆に言えば、普遍的な教会があれば国家は存在できない。
 実際にそのシステムを突き詰めたのが、20世紀初めにドイツで起きた「ドイツ・キリスト者」運動だ。国家と教会を結合させる運動だ。
 まず反ユダヤ主義を表明して、聖書のなかから旧約聖書や「パウロの手紙」などのユダヤ教に連なる文献をすべて排除した。その後「福音書」「使徒言行録」を中心とした新しい聖書を編纂した。
 その結果、キリスト教とナチスが結びついた。アドルフ・ヒトラーを現実的な救い主にするロジックを組み立て、ナチスの共鳴者だった神学者ミュラーを監督とした帝国教会を創設し、第三帝国の国教とした。
 「ドイツ・キリスト者」運動を起こしたのは、主にドイツ・ルター派の人びとだ。ヒトラーはルターを尊敬していた。帝国教会ができてから、ドイツ国内のほとんどの教会が傘下に入った。
 超越性を排除した教会は、ナチス時代のドイツに帝国教会という形で存在したことがあったわけだ。
 それは宗教の自殺だった。キリスト教どころか宗教でなくなったのだから。
 日本も教会の上位に国家が立つというシステムを取り入れて国家神道をつくったが、日本の国家神道は「宗教ではない」という立場をとった。最初から、宗教として自殺しないですむ構成にしていた。

□佐藤優『あぶない一神教』(小学館新書、2015)/共著:橋爪大三郎
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
●第3章 キリスト教の限界
【佐藤優】イエス・キリストは「神の子」か ~ キリスト教の限界(1)~
【佐藤優】ユニテリアンとは何か ~ キリスト教の限界(2)~
【佐藤優】ハーバード大学にユニテリアンが多い理由 ~ キリスト教の限界(3)~
【佐藤優】サクラメントとは何か ~ キリスト教の限界(4)~
【佐藤優】何がキリスト教信仰を守るのか ~ キリスト教の限界(5)~
【佐藤優】第一次世界大戦という衝撃 ~ キリスト教の限界(6)~
【佐藤優】なぜバルトはナチズムに勝ったのか ~ キリスト教の限界(7)~
【佐藤優】皇国史観はバルト神学がモデル? ~ キリスト教の限界(8)~
【佐藤優】米国が選ぶのは実証主義か霊感説か ~ キリスト教の限界(9)~
【佐藤優】無関心の共存は可能か ~ キリスト教の限界(10)~

●第4章 一神教と資本主義
【佐藤優】資本主義は偶然生まれたのか ~一神教と資本主義(1)~
【佐藤優】なぜ人間の論理は発展したのか ~一神教と資本主義(2)~
【佐藤優】最後の審判を待つ人の心境はビジネスに近い ~一神教と資本主義(3)~
【佐藤優】15世紀の教会はまるで暴力団 ~一神教と資本主義(4)~
【佐藤優】隣人が攻撃されたら暴力は許されるのか ~一神教と資本主義(5)~
【佐藤優】自然は神がつくった秩序か ~一神教と資本主義(6)~
【佐藤優】働くことは罰なのか ~一神教と資本主義(7)~
【佐藤優】市場経済が成り立つ条件 ~一神教と資本主義(8)~
【佐藤優】神の「視えざる手」とは何か ~一神教と資本主義(9)~
【佐藤優】なぜイスラムは、経済がだめか ~一神教と資本主義(10)~

  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】サクラメントとは何か ~ キリスト教の限界(4)~

2015年11月14日 | ●佐藤優
 (承前)

(4)サクラメントとは何か
 現代における神学の流れに大きな影響を与えたのは、「現代神学の父」カール・バルトのサクラメント論だ。
 カトリックには、7つの秘跡・・・・サクラメントがある。神の恩恵を信徒に授ける儀式で、救済を保証するためにキリスト教徒が行う大切な儀式だ。
 ①洗礼
 ②堅信・・・・洗礼を受けた後に聖霊の力の恵みを授かる。
 ③聖餐・・・・ブドウ酒を飲み、パンを食べる。
 ④告解・・・・罪を告白して赦しを得る。
 ⑤病者の塗油・・・・病人をいたわり油を塗る。
 ⑥叙任・・・・聖職者を任命する。
 ⑦結婚
 プロテスタントでは、このうち①と③だけがサクラメントだ。この二つだけが救済に直結していて、それ以外の5つは重視しないという立場をとっている。
 ところで、バルトは①はサクラメントではない、と否定してしまう。③の、キリストの血肉であるパンを食べ、ブドウ酒を飲んだものだけが救われると。
 バルトは晩年にそれまでの考え方を変え、①洗礼という制度と結びついた形でのキリスト教を否定すると主張している。①も人間が行う業だというわけだ。
 ③については、福音書にイエスがパンとブドウ酒を弟子たちに与えたと書いてある。①については、イエスが洗礼を受けた記述はあるが、イエスが授けたという記述はない。
 バルトは①洗礼という行為自体は否定していない。カトリックの7つのサクラメントのうち⑦と比較するとわかりやすいかもしれない。⑦をサクラメントとするカトリックは、原則として離婚を禁止している。
 他方、プロテスタントは⑦にサクラメントとしての地位を与えていない。離婚は奨励していないが、禁止もしていない。それはプロテスタンティズムが⑦結婚を人間的な事柄と捉えているからだ。
 バルトはプロテスタント神学の立場から、⑦が人間的な事柄であると徹底的に掘り下げた。同様に①洗礼も人間が行うことだから、とサクラメント性を否定した。裏を返せば、①を受けなくても人は救われるとバルトは解釈した。
 逆にいえば、カトリックでもプロテスタントでも③聖餐を受けないと人は救われない。
 バルトは、サクラメントをイエス・キリストのシンボルだとした。そのシンボルは唯一③だけだ、と考えた。
 新約聖書によれば、イエスはパンとブドウ酒をとって「私を思い出せ」と弟子たち語った。イエスの言葉が③にサクラメント性を与えているわけだ。
 イエス・キリストがいない現状で、彼の存在を何によって想起するのか。③はイエス・キリストを思い描く役割を担っている。キリスト教徒にとって、③が行われる場に特別な力が働くと考える。それが聖霊の力だ。
 キリスト教には、神とイエス・キリストと聖霊がいる。この三位一体論はキリスト教徒にとって当たり前のことだが、そこが日本人にはわからない。だから、なぜパンとブドウ酒を授かる③が特別な意味を持つのかもわからない。
 キリスト教徒にとって聖霊の働きは呼吸するのと同じくらい自明だが、キリスト教徒以外の人にとってわからない。
 多くの人は次のような疑問を持つだろう。パウロの手紙を書いたパウロは人間だ。なぜ人間の手紙を通してキリストの言葉を述べる福音書を解釈できるのか、と。
 キリスト教徒はたぶん「パウロに聖霊が働いていたから」と答えるだろう。マリアは処女のままイエスを懐妊したとされる。ここにも聖霊が働いているわけだ。しかし、聖霊が働いていたことは、どのように弁証されるのか、キリスト教徒以外の人を納得させるのは難しいことは確かだ。

□佐藤優『あぶない一神教』(小学館新書、2015)/共著:橋爪大三郎
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
●第3章 キリスト教の限界
【佐藤優】イエス・キリストは「神の子」か ~ キリスト教の限界(1)~
【佐藤優】ユニテリアンとは何か ~ キリスト教の限界(2)~
【佐藤優】ハーバード大学にユニテリアンが多い理由 ~ キリスト教の限界(3)~
【佐藤優】サクラメントとは何か ~ キリスト教の限界(4)~
【佐藤優】何がキリスト教信仰を守るのか ~ キリスト教の限界(5)~
【佐藤優】第一次世界大戦という衝撃 ~ キリスト教の限界(6)~
【佐藤優】なぜバルトはナチズムに勝ったのか ~ キリスト教の限界(7)~
【佐藤優】皇国史観はバルト神学がモデル? ~ キリスト教の限界(8)~
【佐藤優】米国が選ぶのは実証主義か霊感説か ~ キリスト教の限界(9)~
【佐藤優】無関心の共存は可能か ~ キリスト教の限界(10)~

●第4章 一神教と資本主義
【佐藤優】資本主義は偶然生まれたのか ~一神教と資本主義(1)~
【佐藤優】なぜ人間の論理は発展したのか ~一神教と資本主義(2)~
【佐藤優】最後の審判を待つ人の心境はビジネスに近い ~一神教と資本主義(3)~
【佐藤優】15世紀の教会はまるで暴力団 ~一神教と資本主義(4)~
【佐藤優】隣人が攻撃されたら暴力は許されるのか ~一神教と資本主義(5)~
【佐藤優】自然は神がつくった秩序か ~一神教と資本主義(6)~
【佐藤優】働くことは罰なのか ~一神教と資本主義(7)~
【佐藤優】市場経済が成り立つ条件 ~一神教と資本主義(8)~
【佐藤優】神の「視えざる手」とは何か ~一神教と資本主義(9)~
【佐藤優】なぜイスラムは、経済がだめか ~一神教と資本主義(10)~

  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】ハーバード大学にユニテリアンが多い理由 ~ キリスト教の限界(3)~

2015年11月14日 | ●佐藤優
 (承前)

(3)ハーバード大学にユニテリアンが多い理由
 けれどもユニテリアンを排除する教会は急速に弱っていく。
 ユニテリアンを認めないということは、実証性に背を向けることと同じだからだ。実証性に目を向けなければ、科学、哲学、歴史学という近代的な世界観と調和しない範囲でしか信仰が成立しなくなってしまう。
 すると、最終的には、日曜日の1~2時間だけのキリスト教徒になってしまう。その時間だけタイムカプセルで過ごす。信仰が、外の世界、日常の暮らしとの関わりを失ってしまう。
 その昔、ハーバード大学の教職員にも学生にも、ユニテリアンが大勢いた。ハーバードはユニテリアンの塊だった。ユニテリアン教会が自然科学を、人間と神とが交流する上でもっとも重要な手段だと考え、強力に後押ししたからではないか。大学にとって、これは強力な追い風になる。
 同様にビジネスも強力にプッシュする。ビジネスは地上の乏しい資源を価値あるものとして生み出して、なるべく多くの人びとに分け与えるための活動だから、一生懸命やりなさい、と奨励するわけだ。しかも24時間365日、信仰の立場から励め、と強く言っている。
 ユニテリアンはビジネスや学問だけでなく、教派縦断的だからほかの宗教との相性もいい。米国の従軍牧師やCIAの職員にもユニテリアンが多いのは、ムスリムやユダヤ教徒だけでなく、理神論者や無神論者とも軋轢を生まずにスムースにアクセスできるからだ。
 要するに、ユニテリアンは誰とでも話ができる。性的マイノリティとも。
 誰もやらなかったことを真っ先にやるのはユニテリアンの伝統のひとつだ。その反面、保守派からの風当たりが強い。
 だが、結局は現実社会で影響力を発揮できる宗教が生き残る。過去の伝統や遺産だけにしがみつく宗教に、魅力も将来性も感じられない。
 ただ、伝統や遺産を実証主義的な方法以外で正当化していくやり方はあるのではないか。ユニテリアンは、イエスは“神の子”ではなく、人間だと結論を出した。しかし、主流派のキリスト教会はこの立場をとれない。<例>三位一体説がキリスト教信仰の伝統なら、これを捨てたらキリスト教ではなくなってしまう可能性がある。おいそれとは捨てられない。
 ではなぜ捨てられないか。そこのところを突き詰めて、正当化する方法はあるのではないか。ここがこれからの神学でもっとも重要な部分だ。

□佐藤優『あぶない一神教』(小学館新書、2015)/共著:橋爪大三郎
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
●第3章 キリスト教の限界
【佐藤優】イエス・キリストは「神の子」か ~ キリスト教の限界(1)~
【佐藤優】ユニテリアンとは何か ~ キリスト教の限界(2)~
【佐藤優】ハーバード大学にユニテリアンが多い理由 ~ キリスト教の限界(3)~
【佐藤優】サクラメントとは何か ~ キリスト教の限界(4)~
【佐藤優】何がキリスト教信仰を守るのか ~ キリスト教の限界(5)~
【佐藤優】第一次世界大戦という衝撃 ~ キリスト教の限界(6)~
【佐藤優】なぜバルトはナチズムに勝ったのか ~ キリスト教の限界(7)~
【佐藤優】皇国史観はバルト神学がモデル? ~ キリスト教の限界(8)~
【佐藤優】米国が選ぶのは実証主義か霊感説か ~ キリスト教の限界(9)~
【佐藤優】無関心の共存は可能か ~ キリスト教の限界(10)~

●第4章 一神教と資本主義
【佐藤優】資本主義は偶然生まれたのか ~一神教と資本主義(1)~
【佐藤優】なぜ人間の論理は発展したのか ~一神教と資本主義(2)~
【佐藤優】最後の審判を待つ人の心境はビジネスに近い ~一神教と資本主義(3)~
【佐藤優】15世紀の教会はまるで暴力団 ~一神教と資本主義(4)~
【佐藤優】隣人が攻撃されたら暴力は許されるのか ~一神教と資本主義(5)~
【佐藤優】自然は神がつくった秩序か ~一神教と資本主義(6)~
【佐藤優】働くことは罰なのか ~一神教と資本主義(7)~
【佐藤優】市場経済が成り立つ条件 ~一神教と資本主義(8)~
【佐藤優】神の「視えざる手」とは何か ~一神教と資本主義(9)~
【佐藤優】なぜイスラムは、経済がだめか ~一神教と資本主義(10)~

  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【佐藤優】ユニテリアンとは何か ~ キリスト教の限界(2)~

2015年11月14日 | ●佐藤優
 (承前)

(2)ユニテリアンとは何か
 橋爪大三郎は、日本ではルター派の教会に属しているが、米国ではユニテリアンの教会に属している。ユニテリアンはほかの教会と二重に所属していても問題はない。
 ユニテリアンでは、キリスト教の大枠を維持しながらも、キリスト教の本質だと考えられていた三位一体説や、イエス・キリストは神の子であるというドグマ(教義)を排除している。
 ユニテリアンの大きなポイントは、教派縦断的で、ほかの宗派と同様にイエスが救いであること。ただし、神秘的、超越的な救いではなく、イエスを偉大な先生と考える。ユニテリアンにとってのイエスは、『論語』が伝える孔子に近い。
 三一論や神の子であるイエス・キリストという伝統的な考え方を排除していくと、ユダヤ教やイスラム教に近くなってくる。伝統的なドグマを排除していけば、キリスト教ではなくなってしまう。とはいえ、ユニテリアン教会に通う人びとの考え方や行動は、従来のキリスト教徒とほとんど同じだ。
 橋爪が通うユニテリアン教会は、もともとプロテスタントのカルヴァン派の教会だった。150年ほど前に、ユニテリアンの考え方をする人びとが多くなった。議論の結果、ユニテリアン教会に看板を掛け替えると決議した。カルヴァン派の信徒たちは、それなら自分たちは出て行く、とすぐ近くに同じ名前の教会を建てた。似た名前の教会が二つ近くにあることになった。
 なぜユニテリアンという宗派が生まれたのか。
 19世紀、キリスト教徒は、イエス・キリストの存在を実証できるか、奇蹟や啓示を証明できるか、という実証主義の波にもまれた。
 19世紀は、科学が楽天的に信じられていた時代だった。自然現象に加えて社会現象など、さまざまな対象に科学の方法が向けられていった。宗教も例外ではなかった。「史的イエス研究」もそうだ。聖書を人間がつくり出した文章と考えて、その成立の経緯や論理構造を化学的な方法で解明していった。
 当時の健全な一般市民が、共通して納得できるのは科学、哲学、歴史学だったから。しかし、科学、哲学、歴史学を通してイエス・キリストの存在を証明しようとしたが、できなかった。神の子の可能性もあるが、もしかしたらただの人間だったかもしれない、と。イエス・キリストとは何だったのか、という疑問だけが残った。
 その議論を通じてすべての人間が共通して納得できたのは、人間でアルということだ。だから、ユニテリアンも、イエス・キリストを人間だと考えた。むろん、神だと信じている人がユニテリアンのメンバーになってもいいけれど、ほかの人にその考えを強制しない、という約束がある。だから、ユニテリアン教会のメンバーには、キリスト教徒でない人もいる。
 イエス・キリストは、まことの神でまことの人だから、まことの人と考えているのなら構わない。そして偉大な先生でも、ただの人でもいいが、ただしイエスは救い主である、という態度だ。
 ユニテリアン教会では、ジーザスという名前はあまり耳にしない。ゴッドという言葉もあまり聞かない。Aさんがゴッドを信仰して、Bさんがブッダを、Cさんが人智を超えた超越的な何かを信じて、Dさんが唯物論者だとしても、互いが互いの信仰を尊重していればいいという考え方だ。
 それがひとつの宗派なのか・・・・実際、米国では、ユニテリアンをキリスト教ではないと考える人のほうが多い。

□佐藤優『あぶない一神教』(小学館新書、2015)/共著:橋爪大三郎
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
●第3章 キリスト教の限界
【佐藤優】イエス・キリストは「神の子」か ~ キリスト教の限界(1)~
【佐藤優】ユニテリアンとは何か ~ キリスト教の限界(2)~
【佐藤優】ハーバード大学にユニテリアンが多い理由 ~ キリスト教の限界(3)~
【佐藤優】サクラメントとは何か ~ キリスト教の限界(4)~
【佐藤優】何がキリスト教信仰を守るのか ~ キリスト教の限界(5)~
【佐藤優】第一次世界大戦という衝撃 ~ キリスト教の限界(6)~
【佐藤優】なぜバルトはナチズムに勝ったのか ~ キリスト教の限界(7)~
【佐藤優】皇国史観はバルト神学がモデル? ~ キリスト教の限界(8)~
【佐藤優】米国が選ぶのは実証主義か霊感説か ~ キリスト教の限界(9)~
【佐藤優】無関心の共存は可能か ~ キリスト教の限界(10)~

●第4章 一神教と資本主義
【佐藤優】資本主義は偶然生まれたのか ~一神教と資本主義(1)~
【佐藤優】なぜ人間の論理は発展したのか ~一神教と資本主義(2)~
【佐藤優】最後の審判を待つ人の心境はビジネスに近い ~一神教と資本主義(3)~
【佐藤優】15世紀の教会はまるで暴力団 ~一神教と資本主義(4)~
【佐藤優】隣人が攻撃されたら暴力は許されるのか ~一神教と資本主義(5)~
【佐藤優】自然は神がつくった秩序か ~一神教と資本主義(6)~
【佐藤優】働くことは罰なのか ~一神教と資本主義(7)~
【佐藤優】市場経済が成り立つ条件 ~一神教と資本主義(8)~
【佐藤優】神の「視えざる手」とは何か ~一神教と資本主義(9)~
【佐藤優】なぜイスラムは、経済がだめか ~一神教と資本主義(10)~

  
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする