語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】狭い門を選べ

2018年08月15日 | ●佐藤優
 <狭い門からはいれ。滅びにいたる門は大きく、その道は広い。そして、そこからはいって行く者が多い。 命にいたる門は狭く、その道は細い。そして、それを見いだす者が少ない。 --「マタイによる福音書」7章13-14節

 キリスト教は、人間に選択を求める宗教だ。ここで人間に課されているのは、「狭い門」か「広い門」かの二つしか選択肢はないことだ。「第三の門」や「門をくぐらない」という選択はできないのである。
 キリスト教には「召命(しょうめい)」という考え方がある。あるとき、ある特定の場所で、特定の人を神が呼び出すのである。この呼び出しに対して、応じるか、応じないか、いずれの対応しか人間は取ることができない。神の呼び出しを拒否することは、そのまま滅びの道へとつながる。だから、常に神に従うことをキリスト教は説いている。
 人生において、私たちも選択を余儀なくされることが何度もある。そのときの選択基準として、客観的に考えて、より難しいと思う選択をすることをイエスは勧めている。「広い門」よりも「狭い門」を選ぶ、すなわち主体的に苦難を選んだ方が、人間は幸せになるという逆説を説くのである。私も特捜検察に逮捕されたとき「狭い門」を選んだ。そうしなければ、私が職業作家になる選択肢は消えていたと思う。>

□佐藤優『人生の役に立つ聖書の名言』(講談社、2017)の「苦難に負けない言葉」の「狭い門を選べ」を引用

 【参考】
【佐藤優】求めれば与えられる
【佐藤優】明日を思い悩むな
【佐藤優】思い悩むな
【佐藤優】まえがき ~『人生の役に立つ聖書の名言』~



【佐藤優】求めれば与えられる

2018年08月14日 | ●佐藤優
 <求めよ、そうすれば、与えられるであろう。捜(さが)せ、そうすれば見いだすであろう。門をたたけ、そうすれば、あけてもらえるであろう。 --「マタイによる福音書」7章7節

 キリスト教は不思議な宗教だ。その人間観は徹底した性悪説だ。なぜなら人間は一人の例外もなく原罪を負っている(もっともカトリック教会では聖母マリアだけが例外で、原罪を負っていない。それだから既にマリアは昇天し、天国にいる。これに対してプロテスタントは、マリアも他の人間と同じく原罪を負っており、最後の審判まで他の死者と同じように眠っていると考える)。原罪を負う人間の行動は、間違っている可能性が常にある。それにもかかわらず、キリスト教は楽観的人間観に立つ。
 なぜ、原罪を負った人間が楽観的になることができるのだろうか。それは、神の圧倒的な恩恵の力があるからだ。この場合、求めることも、門をたたくことも本質は同じである。人間が、何かを求めて必死になって神に祈れば、神はその望みを必ずかなえてくれるのである。ここで重要なのは、中途半端な事柄ではなく、本当に大切な事柄を命がけで求めることだ。そうすれば、必ずあなたが求めたとおりの結果になる。>

□佐藤優『人生の役に立つ聖書の名言』(講談社、2017)の「苦難に負けない言葉」の「求めれば与えられる」を引用

 【参考】
【佐藤優】明日を思い悩むな
【佐藤優】思い悩むな
【佐藤優】まえがき ~『人生の役に立つ聖書の名言』~




【佐藤優】資本主義の本質が現れる定年後の再就職市場

2018年08月13日 | ●佐藤優
★郡山史郎『定年前後の「やってはいけない」』(青春出版社、2018)

(1)郡山史郎
 <1935年生まれの郡山史郎氏は、一橋大学経済学部を卒業後、伊藤忠商事、ソニーなどに勤めた後、現在は自分で立ち上げた人材紹介会社CEAFOMの代表取締役社長をつとめる。本書を読むと、サラリーパーソンの定年後の生活が極めて厳しいことがわかる。>

(2)超エリートビジネスマンの定年後
 <まず、郡山氏自身の体験についてこう記されている。 
 〈私は50歳でソニーの取締役に就任し、60歳で子会社の社長となった。その後に同社の会長、ソニーの顧問を経て、退職したのは役員定年の70歳。しかしソニーの常務取締役でなくなった60歳のときに、自分は再就職市場に売り出されたつもりでいた。実際は、65歳を過ぎた頃から就職活動をスタートした。
 私は海外営業やマーケッティングの畑を歩んできたから、商品の売り込みは得意にしている。就職活動は自分という商品を売り込むのだから、セールスやマーケッティングに近い。50代の頃にはヘッドハンティングの誘いをたくさん受けたこともある。元ソニー取締役であり、子会社では社長、会長の経験もある。相当にバリューは高いと思っていた。
 しかし以前から知っている人材紹介会社の社長に頼んでみると、60代半ばを過ぎたビジネスマンの求人はゼロ。しつこく足を運んだら、そのうち社長が居留守を使うようになった。このときはじめて自分の市場価値を思い知らされた。〉
 客観的に見て、郡山氏は超エリートビジネスマンで、会社人生での勝ち組だ。それであっても、人材紹介会社の社長から居留守を使われるような状況になる。それだけ高齢者の再就職は難しいのだ。>

(3)新入社員と同じように働くのは難しい
 <結局、郡山氏は人脈を駆使して再就職先を見つける。
 〈2002年にようやく見つけた再就職先が、のちに一部上場企業となったクリーク・アンド・リバー社だった。当時はテレビ局などの映像産業に専門職を派遣する会社で、創業者の井川幸広氏とは以前からの知り合いだった。私はこのとき「給与も仕事内容も大学の新卒と同じ扱いにしてもらいたい」と自分から申し出て、67歳で4月の入社式(厳密にいうと入社式はおこなわれず、新入社員が全社員を前に決意表明をする集会だったが)にも参加した。
 私が望んだ「定年後の再就職では新卒と同じ扱いになる」仕組みのことを、自分では「定年退職者新卒制度」と称していた。しかし結局は、新入社員のように働くことが難しく、子会社の経営や本社の監査役を任されるようになった。
 そのように70歳近くになって再就職で苦労した経験が、自分で人材紹介会社を立ち上げる大きなきっかけになった〉>

(4)定年後の再就職は厳しい
 <一般論として、定年後の人材にどの程度の市場価値があるのだろうか。郡山氏は厳しい現実を提示する。
 〈試しに、ハローワークに集まっている求人から、高齢者も応募可能な「年齢不問」の求人をいくつかピックアップしてみよう。企業から示される月給を見れば、自分が望んでいる金額との差がわかるはずだ。
・調理業務 22万~32万
・清掃員 18万4,450~32万5,500円
・保守点検補助 18万~30万円
・介護スタッフ 18万5,000~20万5,000円
・一般事務 18万7,000~23万4,000円
 どの仕事も月給はほぼ20万~30万円である。フルタイムの仕事だ。パートタイムだと勤務日数や時間により月収はもっと少なくなる〉
 稀にはあるが、定年後に年収1,000万円以上の高収入の仕事に就ける人もいる。
 〈ただし、そうした厚遇を得られるのは、切った張ったの修羅場を数多くくぐり抜けてきた企業再生のプロフェッショナルや、中国語が堪能で特殊な工場設備に通じている技術者など、ほかの人にはない傑出した能力を持つ人だけである。どんなに定年を迎えるまで精力的に働き、ほかの社員の2倍、3倍の成果を出していた人であっても、そのことは定年退職最後の就職活動ではほとんど評価してもらえない〉
 定年後に前職と同等の収入を得られるという幻想は持たないほうがいい。>

(5)人に頼らずに自分でする習慣
 <再就職を成功させる秘訣は、コミュニケーション能力にある。仕事でも家事でも、人に頼らずに、自分でする習慣がついている人が再就職先を見つけやすい。
 そのときには、人材紹介会社から根掘り葉掘り、過剰な情報を得ようとする人はうまくいかないという。
 〈定年後の再就職活動でも、自分で考えて自分で動く人はすぐに採用されやすい。人材紹介の際に「その会社はどんな会社ですか?」「経営状態はどうですか?」「配属先はどのような位置づけですか?」など、必要以上に情報を欲しがる候補者がいるが、そういう人はたいてい決まらない。
 決まる人は、相手の会社名とポジションの情報だけ知って、あとはその会社の主力商品や組織、経営状態、そのポジションで求められる能力まで、自分で調べる。現代は会社の情報がインターネットなどでも公開されていて、調べやすい環境なのだから、必要な情報を自分で集めて、自分で決断するのもたやすいはずだ。
 再就職市場では自分自身は商品の1つであり、相手の会社が顧客になる。商品管理と市場分析を自分1人でできる人は、自分という商品を確実に売ることができるのだ〉>

(6)自分が労働力という商品であることの冷静な認識
 <マルクスは『資本論』で、資本主義の本質は、人間の労働力が商品となることであると喝破した。定年後の再就職においても、自己実現などという幻想を捨てて、自分の労働力としての商品価値が、市場でどのくらいであるかを冷静に認識した人でないと仕事を見つけるのは難しい。>

□佐藤優「資本主義の本質が現れる定年後の再就職市場 ~ビジネスパーソンの教養講座第93回~」(「週刊現代」2018年8月18・25日号)

 【参考】
【佐藤優】あのテロ事件の一級の史料
【佐藤優】幕末期思想家の影響力の源泉
【佐藤優】欧米列強 血みどろの20世紀
【佐藤優】「日中関係が好転」の理由
【佐藤優】「読書力」によって「知の天井」を形成せよ ~松岡正剛の千夜千冊~
【佐藤優】ポピュリズムに流されずに国会をウオッチする姿勢、「小さな政府」だった室町幕府、欧州諸国の外交における植民地支配の遺産
【佐藤優】内外政事情の全体像、読解術、精神科受診へのハードルを低くする努力
【佐藤優】理解し合えない家族という共同体の本質 ~細部の描写が秀逸~
【佐藤優】江戸時代の「鎖国」は反カトリシズムだった ~『「日本」論 --東西の“革命児”から考える』~
【佐藤優】「三回読み」という技法 ~『国語ゼミ AI時代を生き抜く集中講義』~
【佐藤優】外務省主流派による画策、バランスがとれた社会評論、社会変革に与える教育の重要性
【佐藤優】『日本を蝕む「極論」の正体』
【佐藤優】日本の政治エリートの本音、キリスト教の日本的変容、西部邁の思想書
【佐藤優】思考の「小島」を作る法、鬱病対策、自決・考
【佐藤優】哲学者でもある筒井康隆、福祉から排除された人が刑務所に、神学からの教育論
【佐藤優】「アイロニー」と「ユーモア」の弁証法的技法で「真の学知」を手に入れよ
【佐藤優】弱者の「疑似福祉施設」 ~『刑務所しか居場所がない人たち』~
【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~
【佐藤優】日本社会の矛盾が詰まった「団塊ジュニア」はこんな苦労を強いられている
【佐藤優】修験道の論理、教育改革、東京の問題を解決する商品
【佐藤優】「書く」鍛錬が現代社会で自由になるための方法 ~『小論文 書き方と考え方』~
【佐藤優】コラム傑作選、ロシアのことがよく分かる小説家、官僚の考現学
【佐藤優】『思考法 教養講座「歴史とは何か」』の「新書版まえがき」
【佐藤優】堕ちたエリート、小説という代理経験 ~『桜の森の満開の下』~
【佐藤優】うつ状態を克服する道、知識人の団結、医学部の現状
【佐藤優】正しいことをしていると思い込む者の暴力、組織が個人に責任をいかにかぶせるか、投獄経験を描いた自伝の傑作
【佐藤優】トランプvs.インテリジェンス・コミュニティー ~『炎と怒り』(その2)~ 
【佐藤優】日本はトランプ大統領に命運を託せるのか? ~マイケル・ウォルフ『炎と怒り』~ 
【佐藤優】収入格差と教育環境、女性の負担が却って増す懸念、生命医科学と倫理
【佐藤優】英EU離脱と北アイルランド、文科省が進める教育改革に対する批判的検討、イスラエル独自のミサイル防衛システム

【佐藤優】職場ハラスメントを生む土壌、外務官僚の機密費疑惑、キリスト教の教義と思想の基本事項
【佐藤優】われわれの思考の鋳型、沖縄をめぐる知的に富む対談、高校で全科目を学ぶと社会に出てから役立つ
【佐藤優】文語訳聖書 ~キリスト教の魅力は死生観にある~
【佐藤優】北朝鮮がソウルと東京を攻撃したら、ウィスキーの美味しさの秘密、明治新政府の権力奪取法
【佐藤優】よりましなポピュリスト、「普通の人」が豹変するストーカー、規格外のトランプ米大統領
【佐藤優】人工知能は意味をまったく理解できない/数学者が説く「シンギュラリティ」の不可能
【佐藤優】トップリーダーの孤独、紛争地域や犯罪組織への武器拡散、精神科医と諜報工作員の共通点
【佐藤優】混乱する現代との類似性 ~『応仁の乱』~
【佐藤優】自死した保守派論客の思想の根源 ~『保守の真髄』~
【佐藤優】「当事者にとって」と「学理的反省者として」の二重の視座 ~『世界の共同主観的存在構造』~
【佐藤優】テロ対策に関する世界最高レベルの教科書、宇野弘蔵の経済学を取り入れたユニークな社会学演習書、シンギュラリティ神話の脱構築
【佐藤優】憲法改正は見せ球に終わるか
【佐藤優】日本と米国の社会病理
【佐藤優】消費者金融のインテリジェンス
【佐藤優】官僚を信用していない国民
【佐藤優】中国が台頭しつづけたら、仏教の末法思想と百王説、時計の歴史
【佐藤優】子どもや孫の世代への重荷
【佐藤優】日本のレアルポリティーク
【佐藤優】巨大さを追求する近代的思考
【佐藤優】アナキズムという思考実験
【佐藤優】AIとの付き合い方を知る手引、宗教と国体論の危険な関係、若手官僚の思想の底の浅さ」
【佐藤優】伊藤博文の天皇観と合理主義、歴史の戦略的奇襲から得る教訓、「知の巨人」井筒俊彦
【佐藤優】教育費の財源問題で政局化か
【佐藤優】ホワイトカラーの労働者化
【佐藤優】指導者たちの内在的論理を知る
【佐藤優】世界規模のポストモダン現象
【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~
【佐藤優】カネとの付き合い方の秘訣、野外で生きる雑種ネコの魅力、前科者に冷たい日本社会
【佐藤優】着目すべき北極海の重要性、日本の政治文化に構造的に組み込まれている「甘え」、文明論と地政学を踏まえた時局評論
【佐藤優】リーダーが知るべき文明観、資本主義後の社会構想、刑務所暮らし経験者の本音
【佐藤優】地図から浮かぶ歴史のリアル、平成不況は金融政策のミス、実証的データに基づく貧困対策
【佐藤優】ケータイによる日本語の乱れ、翻訳の技術、ロシア人の内在的論理
【佐藤優】武蔵中高の教育、ルター宗教改革の根幹、獣医師にもっと競争原理を導入
【佐藤優】社会に活力をもたらす政策、具体的生活の上に立つ民族国家、開発至上主義が破壊する永久凍土の生態系
【佐藤優】日本のフリーメイソン陰謀論、ユニークな働き方改革、自衛隊元陸将によるリーダーシップ論
【佐藤優】ハプスブルク帝国史の「もし」、最新の進化論、神童の軌跡
【佐藤優】知識を本当に身に付けるには、テロ戦争におけるドローンの重要な役割、帰宅恐怖症
【佐藤優】北朝鮮との緊張の高まりに対して必要な姿勢、時間管理と量子力学、時間がかかるのは損
【佐藤優】川喜田二郎『発想法』 ~総合的思考と英国経験論哲学~
【佐藤優】日本の思想状況の貧しさ、頑丈にできている戦闘機、東方正教会に関する概説書
【佐藤優】資本主義の根底にある「勤勉さ」という美徳の淵源 ~『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』~
【佐藤優】手ごわいフェイクニュース、国を動かす政治エリートの意志、欧州内部における紛争
【佐藤優】×奥野長衛『JAに何ができるのか』
【佐藤優】『戦争論』をビジネスに活かす、現実社会の悪と闘う、ロシア人の意識と使命感
【佐藤優】面白い数学啓発書、日本人の思考の鋳型、攻める農業への転換
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【佐藤優】保守論客が見た明治憲法、軍事産業にシフトしていく電機メーカー、安全と安心を強化する過程に入り込む犯罪者
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【佐藤優】女性と話すのが怖くなる本、ネット情報から真実をつかみ取る技法、ソ連とロシアに共通する民族問題
【佐藤優】ヨーロッパ宗教改革の本質、相手にわかるように説明するトレーニング、ロシア・エリートの欧米観
【佐藤優】なぜ神父は独身で牧師は結婚できるのか? 500周年の「革命」を知る ~マルティン・ルター『キリスト者の自由』~
【佐藤優】政界汚職を描いた古典 ~石川達三『金環蝕』~
【佐藤優】生きた経済の教科書、バチカンというインテリジェンス機関、正しかった「型」の教育
【佐藤優】誰かを袋だたきにしたい欲望、正統派の書評家・武田鉄矢、追い込まれつつある正社員
【佐藤優】発達障害とどう向き合うか、アドルノ哲学の知的刺激、インターネットと「情報犯罪」
【佐藤優】後醍醐天皇の力の源 「異形の輩」とは--日本の暗部を突く思考
【佐藤優】実用的な会話術、ユーラシア地域の通史、宇宙ロケットを生んだ珍妙な思想
【佐藤優】キブ・アンド・テイクが成功の秘訣、キリスト教文化圏の悪と悪魔、理系・文系の区別を捨てよ
【佐藤優】企業インテリジェンス小説 ~梶山季之『黒の試走車』~
【佐藤優】中東複合危機、金正恩の行動を読み解く鍵、「型破り」は「型」を踏まえて
【佐藤優】後世に名を残す村上春樹新作、気象災害対策の基本書、神学の処世術的応用
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【佐藤優】現代ロシアに関する教科書、ネコ問題はヒト問題、トランプ氏の顧問が見る中国
【佐藤優】日本には「物語の復権」が必要である ~反知性主義批判~
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【佐藤優】イラクの地政学、誠実なヒューマニスト、全ての人が受益者となる社会の構築
【佐藤優】外交に決定的に重要なタイミング、他人の気持ちになって考える力、科学と職人芸が融合した食品
【佐藤優】『ゼロからわかるキリスト教』の著者インタビュー ~「神」を論じる不可能に挑む~
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【佐藤優】トランプ当選予言の根拠、猫の絵本の哲学、人間関係で認知症を予防
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【佐藤優】国際社会で日本が生き抜く条件、ルネサンスを準備したもの、理系情報の伝え方
【佐藤優】人生を豊かにする本、猫も人もカロリー過剰、度外れなロシア的天性
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【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次
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【佐藤優】普天間基地移設問題の本質、外務省犯罪黒書、老後に快走!
【佐藤優】シリア難民が日本へ ~ハナ・アーレント『全体主義の起源』~

【佐藤優】明日を思い悩むな

2018年08月12日 | ●佐藤優
 <あすのことを思いわずらうな。あすのことは、あす自身が思いわずらうであろう。一日の苦労は、その日一日だけで十分である。 --「マタイによる福音書」6章34節

 精神科医で哲学者の木村敏氏は、人間の時間間隔とうつ病の間に連関があると考える。「ポスト・フェストゥム(祭りの後)」という発想をする人にうつの傾向があると言う。ラテン語で、祭りは「フェスト」で、後が「ポスト」だ。即ち、祭りが終わってから「ああすればよかった」「取り返しのつかないミスをしてしまった」とくよくよ悩むことだ。こういう人は、「決して後悔しないように」と先回りして完璧な準備をしようとする傾向がある。その結果、いつも思い悩んでいることになる。
 もちろん誰にだって反省機能はある。しかし、それがあまり過剰になり、いつも思い悩んでいるとうつ病になってしまう。昨日の悩みは昨日悩めば十分、今日の悩みは今日悩めば十分、明日の悩みは明日悩めば十分と割り切って考えることだ。神は、この世界だけでなく、時間も支配している。それで何とかなると楽観的に生きていけばいい。>

□佐藤優『人生の役に立つ聖書の名言』(講談社、2017)の「苦難に負けない言葉」の「明日を思い悩むな」を引用

 【参考】
【佐藤優】思い悩むな
【佐藤優】まえがき ~『人生の役に立つ聖書の名言』~





【佐藤優】思い悩むな

2018年08月11日 | ●佐藤優
 <何を食べようか、何を飲もうかと、自分の命のことで思いわずらい、何を着ようかと自分のからだのことで思いわずらうな。命は食物にまさり、からだは着物にまさるではないか。 --「マタイによる福音書」6章25節

 人間は、食べること、着ることなくして生きていくことはできない。それだから、自分が努力して食べ物と衣服などを含む生活のために必要とされるものを確保しなくてはならないと、無意識のうちに考える。
 しかし、このような発想には、重大な欠陥がある。それは、現在置かれている自分の状況に感謝するよりも、自分の力によって、よりより食べ物、衣服などのものを確保するという欲望に支配される危険だ。食べ物や衣服は生きていくための手段であり、目的ではない。イエスはここで、手段と目的が逆転してしまう危険を指摘しているのだ。
 人間の目的は、「永遠の命」を得て「神の国」に入ることである。このために、現在、地上で生きている一人一人の人間に何が必要であるかということを、神はよくわかっている。私たちの命と体は神によって与えられている。この現実に感謝すれば、生きていく上での悩みはなくなる。>

□佐藤優『人生の役に立つ聖書の名言』(講談社、2017)の「苦難に負けない言葉」の「思い悩むな」を引用

 【参考】
【佐藤優】まえがき ~『人生の役に立つ聖書の名言』~


【佐藤優】まえがき ~『人生の役に立つ聖書の名言』~

2018年08月10日 | ●佐藤優
 <「聖書」は、永遠の古典だ。どの時代においても、私たちは聖書のテキストを通じて、特別の知恵を得ることができる。
 私は同志社大学神学部と大学院神学研究科の出身なので、六年間、聖書をいつも参照しながら勉強した。しかし正直に言うと、当時の私は聖書の言葉が持つ力をよくわかっていなかった。聖書の言葉よりも哲学や倫理学の用語を多用する組織神学に魅力を感じていた。
 大学院神学研究科を卒業すると牧師か研究職、教育職に就くのが通例だが、私は外交官になった。外交官になり、科学的無神論を国是とする当時のソ連に赴任した。ソ連で聖書は禁書ではなかったが、入手することは至難の業だった。しかし、神は存在しないという建前になっている共産主義社会の中で、聖書の言葉がロシア人の魂をとらえている現実を私は目の当たりにした。聖書の入手が容易ではないにもかかわらず、ソ連時代のロシア人は聖書に出てくるイエスのたとえ話や聖句をよく覚え、生きていく糧にしていた。
 ソ連崩壊後、ロシアは資本主義国に生まれ変わった。共産主義イデオロギーの押しつけと統制経済はなくなったが、当初は弱肉強食の新自由主義的経済政策による混乱、その後はプーチン大統領による権威主義的支配の下で、ロシア人はいつか真に自由な世界がやってくることを、急ぎつつ、待っている。こういう終末論的生き方を支えているのも聖書の言葉だ。
 私自身も、ソ連やロシアの動乱に巻き込まれて、命の危険を感じたことが何度かある。また、日本に戻ってきてからは北方領土交渉に本格的に関与することになり、その結果、鈴木宗男事件の渦に巻き込まれ、東京地方検察庁特捜部に逮捕され、512日間、東京拘置所の独房に閉じ込められるという経験もした。そのときの私を支えてくれたのも聖書の言葉だ。
 キリスト教徒でない日本人にとっても、誰もが避けられない挫折や逆境、仕事や人間関係の悩み、人生の岐路に立つとき、聖書の言葉にふれることを勧めたい。キリスト教は、言葉をたいせつにする宗教だ。なぜなら、神がロゴス(言葉)となって、私たちに救済のための真実を教えてくれるからだ。聖書の言葉を学ぶことで、目には見えないが確実に存在する、たいせつなものを捉えることができるようになる。
 この特別の力を持つ世界に読者を誘いたい。>

 【注】聖書からの引用は、『口語訳聖書』による。

□佐藤優『人生の役に立つ聖書の名言』(講談社、2017)の「まえがき」を引用


【佐藤優】社会を覆う自己責任論が生んだ「発達障害ブーム」

2018年08月09日 | ●佐藤優
★香山リカ『発達障害と言いたがる人たち』(SB新書、2018)

(1)香山リカ
 <香山リカ氏は、医学の臨床現場の経験を踏まえて、現下日本社会が抱えている問題を言語化する類い稀な能力がある。本書では、自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの発達障害であるとの自己意識を持つ人が増えている現象について、興味深い考察を行っている。>

(2)「発達障害ブーム」
 <まず、香山氏は、臨床経験から発達障害が一種のブームになりつつある状況について説明する。
 〈ここ7、8年ほど、診察室に時折こう訴えるひとがやって来るようになった。多くは女性だ。
 「私、発達障害なんじゃないでしょうか。たぶん注意欠陥障害(ADD)か注意欠如・多動性障害(ADHD)だと思います。あ、コミュニケーションも苦手だから、アスペルガー症候群の可能性もあるかもしれません」
 最初の頃は私も、「子どものうちには見逃され、おとなになってからはっきりする発達障害も多いらしい。この人もその可能性が高いのではないか」と考えて、問診を進めていた〉
 どういう人が、自分は発達障害であると訴えているのか。
 〈「成人型のADHD」は診断ガイドラインが確立しているわけではないので、子ども時代の様子なども振り返ってもらいながら話を聴くと、学校時代はとくに問題もなかったどころか、あるいは優等生や生徒会長だったという人がほとんどだった。
 では、その「片づけられない」というのがどの程度なのかと尋ねても、「もう春なのにまだ冬物のコートが出しっぱなし」「家族で食事をした食器を翌日まで洗わない」など、さほど深刻ではないことがわかる。「書類をすぐ提出できずに溜まってしまう」といった仕事上の支障について語る人もいるが、それでも会社勤めを続けていたり、中には役職に就いていたりするところを見ると、「どちらかといえば苦手」という程度ではないか。
 診察の範囲では、この人たちにはADD、ADHD、アスペルガー症候群などと診断されるような発達の障害は感じられず、むしろ何ごとも完璧にしないと気がすまない、理想の自分でないと許せない、という完璧主義的な性格が問題であるように思われた〉>

(3)障害のせいにする女性たち
 <精神科医から、「病気ではない」と言われれば、安堵するのが標準的反応と思われるが、発達障害を訴える人はそうでないようだ。
 〈私は発達障害についての専門的知識は乏しいので、絶対に正しい診断とは言えませんが」と断ったうえで、「あなたには何らかの発達上の問題があるとは思えません」と告げると、これまで経験した限りではすべての女性は失望の表情を見せたのだ。
 「えっ、そうなんですか。アスペルガーでもない? そうか・・・・」
 最初はその失望の意味がよくわからなかった。「障害の可能性は低い」と言われて、なぜがっかりするのだろうと不思議に思っていた。
 しかし、何人かに話を聴くうちに、「なるほど」とそのわけがわかった。やや厳しい言い方をすれば、彼女たちは自分が思うどおりに整理整頓や書類の提出ができないのは、「自分のやる気や性格のせいではなくて、障害のせい」と思いたがっているようなのだ〉>

(4)自己責任論の重圧
 <新自由主義的な競争原理が、職場、学校など、社会のあらゆる分野に浸透している。その結果、生きることに費やすストレスが飛躍的に増大している。学生もビジネスパーソンも主婦も、自己責任の圧力に常にさらされている。そのような状況で、発達障害という脳の機能に起因する自己の責に帰さない原因があるならば、自己責任論の重圧から逃れられるという(おそらく無意識のうちの)認識が、発達障害ブームを作り出しているのであろう。病気ならば許容できるが、自分の性格に起因する問題ならば、それを矯正する必要が出てくる。そのようなことに取り組むエネルギーがもはやないということなのだろう。>

(5)発達障害をマーケットにする資本主義
 <ところで、資本主義社会は、すべての事象を商品化し、金儲けの対象にする傾向がある。とくにうつ病に関しては、過剰診断が行われる傾向があるが、その背景には、製薬会社とマスメディアが一体化した「患者掘り起こし」がある。医師としては、できる限り、うつの症状を訴える人に寄り添って、治療しようと考えるので、結果として病名を与え、薬を投与することになる。医師には主観的には製薬会社と結託しているという意識がない故に、問題解決が一層困難になる。うつ病に続いて発達障害も有力なマーケットになりつつある。>

(6)過剰診療から身を守る
 <〈発達障害に関しては、先ほど述べたようにまだその原因が特定されていない。しかし、薬物療法は少しずつ確立しつつある。
 自閉症スペクトラムに効果的な薬物はまだ開発されていないが、ADHDに関してはドーパミン、ノルアドレナリンなどの脳内神経伝達物質の不足が関係していることがわかってきており、それらが脳内でうまく循環できるような薬が治療薬として認可を受けている。この薬は現在、「おとなのADHD」に対しての有効性も認められており、いま多くのおとなが「私が仕事を仕上げられないのはADHDだからではないでしょうか? よい薬があると聞きました」と診察室を訪れるようになった。
 また、テレビなどのメディアも最近、こぞって「発達障害を理解しよう」といった趣旨の番組を放映したり専用サイトを作ったりしている。これらはもちろん、薬の売上げのためではなく啓発の目的のキャンペーンであるが、実際には「私もそうかも」と見る人の「疾患掘り起こし」につながり、結果的にはその人たちが受診し、医師が診断し、さらには薬の処方を、となるケースも少なくないのだ〉 
 過剰診療から身を守るために本書はとても有益だ。>

□佐藤優「社会を覆う自己責任論が生んだ「発達障害ブーム」 ~ビジネスパーソンの教養講座第92回~」(「週刊現代」2018年8月11日号)

 【参考】
【佐藤優】あのテロ事件の一級の史料
【佐藤優】幕末期思想家の影響力の源泉
【佐藤優】欧米列強 血みどろの20世紀
【佐藤優】「日中関係が好転」の理由
【佐藤優】「読書力」によって「知の天井」を形成せよ ~松岡正剛の千夜千冊~
【佐藤優】ポピュリズムに流されずに国会をウオッチする姿勢、「小さな政府」だった室町幕府、欧州諸国の外交における植民地支配の遺産
【佐藤優】内外政事情の全体像、読解術、精神科受診へのハードルを低くする努力
【佐藤優】理解し合えない家族という共同体の本質 ~細部の描写が秀逸~
【佐藤優】江戸時代の「鎖国」は反カトリシズムだった ~『「日本」論 --東西の“革命児”から考える』~
【佐藤優】「三回読み」という技法 ~『国語ゼミ AI時代を生き抜く集中講義』~
【佐藤優】外務省主流派による画策、バランスがとれた社会評論、社会変革に与える教育の重要性
【佐藤優】『日本を蝕む「極論」の正体』
【佐藤優】日本の政治エリートの本音、キリスト教の日本的変容、西部邁の思想書
【佐藤優】思考の「小島」を作る法、鬱病対策、自決・考
【佐藤優】哲学者でもある筒井康隆、福祉から排除された人が刑務所に、神学からの教育論
【佐藤優】「アイロニー」と「ユーモア」の弁証法的技法で「真の学知」を手に入れよ
【佐藤優】弱者の「疑似福祉施設」 ~『刑務所しか居場所がない人たち』~
【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~
【佐藤優】日本社会の矛盾が詰まった「団塊ジュニア」はこんな苦労を強いられている
【佐藤優】修験道の論理、教育改革、東京の問題を解決する商品
【佐藤優】「書く」鍛錬が現代社会で自由になるための方法 ~『小論文 書き方と考え方』~
【佐藤優】コラム傑作選、ロシアのことがよく分かる小説家、官僚の考現学
【佐藤優】『思考法 教養講座「歴史とは何か」』の「新書版まえがき」
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【佐藤優】トランプvs.インテリジェンス・コミュニティー ~『炎と怒り』(その2)~ 
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【佐藤優】収入格差と教育環境、女性の負担が却って増す懸念、生命医科学と倫理
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【佐藤優】職場ハラスメントを生む土壌、外務官僚の機密費疑惑、キリスト教の教義と思想の基本事項
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【佐藤優】文語訳聖書 ~キリスト教の魅力は死生観にある~
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【佐藤優】『失敗の本質』/日本型組織の長所と短所
【佐藤優】世界を知る「最重要書物」 ~クラウゼヴィッツ『戦争論』~
【佐藤優】現代ロシアに関する教科書、ネコ問題はヒト問題、トランプ氏の顧問が見る中国
【佐藤優】日本には「物語の復権」が必要である ~反知性主義批判~
【佐藤優】サイコパス、新訳で甦る千年前の魂、長寿化に伴うライフスタイルの変化
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【佐藤優】外交に決定的に重要なタイミング、他人の気持ちになって考える力、科学と職人芸が融合した食品
【佐藤優】『ゼロからわかるキリスト教』の著者インタビュー ~「神」を論じる不可能に挑む~
【佐藤優】組織の非情さが骨身に沁みる ~新田次郎『八甲田山死の彷徨』~
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【佐藤優】国際人になるための教科書、ストレスが人間を強くする、日本に易姓革命はない
【佐藤優】ロシアでも愛された知識人の必読書 ~安部公房『砂の女』~
【佐藤優】トランプ当選予言の根拠、猫の絵本の哲学、人間関係で認知症を予防
【佐藤優】モンロー主義とトランプ次期大統領、官僚は二流の社会学者、プロのスパイの手口
【佐藤優】トランプを包括的に扱う好著、現代日本外交史、独自の民間外交
【佐藤優】デモや抗議活動のサブカルチャー化、グローバル化に対する反発を日露が共有、グローバル化に対する反発が国家機能を強化
【佐藤優】国際社会で日本が生き抜く条件、ルネサンスを準備したもの、理系情報の伝え方
【佐藤優】人生を豊かにする本、猫も人もカロリー過剰、度外れなロシア的天性
【佐藤優】テロリズム思想の変遷を学ぶ ~沢木耕太郎『テロルの決算』~
【佐藤優】住所格差と人生格差、人材育成で企業復活、教科書レベルの知識が必要
【佐藤優】数学嫌いのための数学入門、西欧的思考にわかりやすい浄土思想解釈、非共産主義的なロシア帝国
【佐藤優】ウラジオストク日本人居留民、辺野古移設反対を掲げる公明党沖縄県本部、偶然歴史に登場した労働力の商品化
【佐藤優】「21世紀の優生学」の危険、闇金ウシジマくんvs.ホリエモン、仔猫の救い方
【佐藤優】大学にも外務省にもいる「サンカク人間」 ~『文学部唯野教授』~
【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次
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【佐藤優】トランプの対外観、米国のインターネット戦略、中国流の華夷秩序
【佐藤優】元モサド長官回想録、舌禍の原因、灘高生との対話
【佐藤優】孤立主義の米国外交、少子化対策における産まない自由、健康食品のウソ・ホント
【佐藤優】アフリカを収奪する中国、二種類の組織者、日本的ナルシシズムの成熟
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【佐藤優】外山滋比古/思考の整理学
【佐藤優】何が個性で、何が障害か
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【佐藤優】英才教育という神話
【佐藤優】資本主義の内在的論理
【佐藤優】米国の戦略策定、『資本論』をめぐる知的格闘、格差・貧困問題の起源
【佐藤優】偉くない「私」が一番自由、備中高梁の新島襄、コーヒーの科学
【佐藤優】フードバンク活動、内外情勢分析、正真正銘の「地方創生」
佐藤優】日本の政治エリートと「天佑」、宇宙の生命体、10代が読むべき本
【佐藤優】組織成功の鍵となる人事、ユダヤ人の歴史、リーダーシップ論
【佐藤優】第三次世界大戦の可能性、現代東欧文学、世界連鎖暴落
【佐藤優】司馬遼太郎の語られざる本音、深層対話、米政府による暗殺
【佐藤優】著名神学者のもう一つの顔 ~パウル・ティリヒ~
【佐藤優】総理が靖国参拝する理由、NPO活動の哲学やノウハウ、テロ対策の必読書
【佐藤優】今後、起こりうる財政破綻 ~対応策を学ぶ~
【佐藤優】社会の価値観、退行する社会
【佐藤優】夫婦の微妙な関係、安倍政権の内在的論理、警察捜査の正体
【佐藤優】情緒ではなく合理と実証で ~社会の再構築~
【佐藤優】中曽根康弘、21世紀の資本主義分析、北樺太の石油開発
【佐藤優】日本人の思考の鋳型、死刑問題、キリスト教と政治
【佐藤優】中国株式市場の怪しさ、イノベーションの障害、ホラー映画の心理学
【佐藤優】普天間基地移設問題の本質、外務省犯罪黒書、老後に快走!
【佐藤優】シリア難民が日本へ ~ハナ・アーレント『全体主義の起源』~

【佐藤優】あのテロ事件の一級の史料

2018年08月08日 | ●佐藤優
 ①アンソニー・トゥー『サリン事件死刑囚 中川智正との対話』(KADOKAWA 1,400円)
 ②適菜収、山崎行太郎『エセ保守が日本を滅ぼす』(K&Kプレス 1,500円)
 ③佐藤優『いま生きる階級論』(新潮文庫 670円)

 (1)①は、優秀で心優しき若者たちがなぜオウム真理教とその教祖に心酔し、化学兵器を用いたテロ事件を引き起こしたかがよく分かる一級の史料だ。
 <私は6年間にわたって、彼と文通や面会をしてきた。彼を死刑囚としてでなく一人間として付き合ってきた。彼の今迄の犯罪を私は知っている。これらの罪は許されるものではない。しかし人間には誰にも明暗、または光と影がある。私は彼の「明」や「光」の片側だけと付き合っていたのかもしれない。彼の死刑執行という事実で中川という個体がこの世から消されてしまったことに対し、私は一抹の哀悼を感じる>
 とトゥー氏は述べる。偏見を排して接触したので、中川元死刑囚も公判では語らなかった事柄についても率直に述べたのだと思う。刑事裁判では、検察官も裁判官も犯罪事実の立証にだけ関心を持つ。オウム真理教事件の最大の問題は、思想であり、宗教的信条なのであるが、この点についての究明がなされないまま、関係者13人の死刑が執行されてしまったことに違和感を覚える。

 (2)②では、保守思想について根源的に考えるための重要な論点が提示されている。
 <山崎 いわゆる保守派の間では、いまだに共産主義に対する恐怖心や抵抗感がすごく強いですよね。彼らは共産主義者や共産主義にシンパシーを示す人たち、あるいは共産主義を批判しない人たちに対して猛烈な勢いで批判を加えています。これは共産主義者が非共産主義者たちを排除する姿勢に似ています。
適菜 そうなんですよ。もちろん保守は共産主義に反対します。しかし、三島由紀夫が言っているように、反共に熱狂してしまうと、むしろ共産主義的なものに近づいてしまいます。自称保守派たちは、左翼の連中を批判しているうちに、いつの間にか左翼的になってしまったんですよ>
 自らの信条を絶対視し、寛容性を失う態度自体が保守ではないことが本書を読むとよく分かる。

 (3)③では、
 <経済至上主義の世界では、知力のある者たちはみんな法学に向かうんですよ。経済学じゃないんです。資本主義システムで重要なのは、交換によって剰余価値を生み出していくポイントです。そして、それは法的なシステムによって可能になるわけだから、経済の論理をよく知っている人間よりも、法に通暁している人間の方がカネ儲けできるのです。すると、経済力に恵まれ知力がある人間は法学に進んでいく>
 との指摘がなされている。教育と新自由主義の連関を考える上で参考になる書だ。

□佐藤優「あのテロ事件の一級の史料 ~知を磨く読書 第259回~」(「週刊ダイヤモンド」2018年8月11日号)

 【参考】
【佐藤優】幕末期思想家の影響力の源泉
【佐藤優】欧米列強 血みどろの20世紀
【佐藤優】「日中関係が好転」の理由
【佐藤優】「読書力」によって「知の天井」を形成せよ ~松岡正剛の千夜千冊~
【佐藤優】ポピュリズムに流されずに国会をウオッチする姿勢、「小さな政府」だった室町幕府、欧州諸国の外交における植民地支配の遺産
【佐藤優】内外政事情の全体像、読解術、精神科受診へのハードルを低くする努力
【佐藤優】理解し合えない家族という共同体の本質 ~細部の描写が秀逸~
【佐藤優】江戸時代の「鎖国」は反カトリシズムだった ~『「日本」論 --東西の“革命児”から考える』~
【佐藤優】「三回読み」という技法 ~『国語ゼミ AI時代を生き抜く集中講義』~
【佐藤優】外務省主流派による画策、バランスがとれた社会評論、社会変革に与える教育の重要性
【佐藤優】『日本を蝕む「極論」の正体』
【佐藤優】日本の政治エリートの本音、キリスト教の日本的変容、西部邁の思想書
【佐藤優】思考の「小島」を作る法、鬱病対策、自決・考
【佐藤優】哲学者でもある筒井康隆、福祉から排除された人が刑務所に、神学からの教育論
【佐藤優】「アイロニー」と「ユーモア」の弁証法的技法で「真の学知」を手に入れよ
【佐藤優】弱者の「疑似福祉施設」 ~『刑務所しか居場所がない人たち』~
【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~
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【佐藤優】「書く」鍛錬が現代社会で自由になるための方法 ~『小論文 書き方と考え方』~
【佐藤優】コラム傑作選、ロシアのことがよく分かる小説家、官僚の考現学
【佐藤優】『思考法 教養講座「歴史とは何か」』の「新書版まえがき」
【佐藤優】堕ちたエリート、小説という代理経験 ~『桜の森の満開の下』~
【佐藤優】うつ状態を克服する道、知識人の団結、医学部の現状
【佐藤優】正しいことをしていると思い込む者の暴力、組織が個人に責任をいかにかぶせるか、投獄経験を描いた自伝の傑作
【佐藤優】トランプvs.インテリジェンス・コミュニティー ~『炎と怒り』(その2)~ 
【佐藤優】日本はトランプ大統領に命運を託せるのか? ~マイケル・ウォルフ『炎と怒り』~ 
【佐藤優】収入格差と教育環境、女性の負担が却って増す懸念、生命医科学と倫理
【佐藤優】英EU離脱と北アイルランド、文科省が進める教育改革に対する批判的検討、イスラエル独自のミサイル防衛システム

【佐藤優】職場ハラスメントを生む土壌、外務官僚の機密費疑惑、キリスト教の教義と思想の基本事項
【佐藤優】われわれの思考の鋳型、沖縄をめぐる知的に富む対談、高校で全科目を学ぶと社会に出てから役立つ
【佐藤優】文語訳聖書 ~キリスト教の魅力は死生観にある~
【佐藤優】北朝鮮がソウルと東京を攻撃したら、ウィスキーの美味しさの秘密、明治新政府の権力奪取法
【佐藤優】よりましなポピュリスト、「普通の人」が豹変するストーカー、規格外のトランプ米大統領
【佐藤優】人工知能は意味をまったく理解できない/数学者が説く「シンギュラリティ」の不可能
【佐藤優】トップリーダーの孤独、紛争地域や犯罪組織への武器拡散、精神科医と諜報工作員の共通点
【佐藤優】混乱する現代との類似性 ~『応仁の乱』~
【佐藤優】自死した保守派論客の思想の根源 ~『保守の真髄』~
【佐藤優】「当事者にとって」と「学理的反省者として」の二重の視座 ~『世界の共同主観的存在構造』~
【佐藤優】テロ対策に関する世界最高レベルの教科書、宇野弘蔵の経済学を取り入れたユニークな社会学演習書、シンギュラリティ神話の脱構築
【佐藤優】憲法改正は見せ球に終わるか
【佐藤優】日本と米国の社会病理
【佐藤優】消費者金融のインテリジェンス
【佐藤優】官僚を信用していない国民
【佐藤優】中国が台頭しつづけたら、仏教の末法思想と百王説、時計の歴史
【佐藤優】子どもや孫の世代への重荷
【佐藤優】日本のレアルポリティーク
【佐藤優】巨大さを追求する近代的思考
【佐藤優】アナキズムという思考実験
【佐藤優】AIとの付き合い方を知る手引、宗教と国体論の危険な関係、若手官僚の思想の底の浅さ」
【佐藤優】伊藤博文の天皇観と合理主義、歴史の戦略的奇襲から得る教訓、「知の巨人」井筒俊彦
【佐藤優】教育費の財源問題で政局化か
【佐藤優】ホワイトカラーの労働者化
【佐藤優】指導者たちの内在的論理を知る
【佐藤優】世界規模のポストモダン現象
【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~
【佐藤優】カネとの付き合い方の秘訣、野外で生きる雑種ネコの魅力、前科者に冷たい日本社会
【佐藤優】着目すべき北極海の重要性、日本の政治文化に構造的に組み込まれている「甘え」、文明論と地政学を踏まえた時局評論
【佐藤優】リーダーが知るべき文明観、資本主義後の社会構想、刑務所暮らし経験者の本音
【佐藤優】地図から浮かぶ歴史のリアル、平成不況は金融政策のミス、実証的データに基づく貧困対策
【佐藤優】ケータイによる日本語の乱れ、翻訳の技術、ロシア人の内在的論理
【佐藤優】武蔵中高の教育、ルター宗教改革の根幹、獣医師にもっと競争原理を導入
【佐藤優】社会に活力をもたらす政策、具体的生活の上に立つ民族国家、開発至上主義が破壊する永久凍土の生態系
【佐藤優】日本のフリーメイソン陰謀論、ユニークな働き方改革、自衛隊元陸将によるリーダーシップ論
【佐藤優】ハプスブルク帝国史の「もし」、最新の進化論、神童の軌跡
【佐藤優】知識を本当に身に付けるには、テロ戦争におけるドローンの重要な役割、帰宅恐怖症
【佐藤優】北朝鮮との緊張の高まりに対して必要な姿勢、時間管理と量子力学、時間がかかるのは損
【佐藤優】川喜田二郎『発想法』 ~総合的思考と英国経験論哲学~
【佐藤優】日本の思想状況の貧しさ、頑丈にできている戦闘機、東方正教会に関する概説書
【佐藤優】資本主義の根底にある「勤勉さ」という美徳の淵源 ~『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』~
【佐藤優】手ごわいフェイクニュース、国を動かす政治エリートの意志、欧州内部における紛争
【佐藤優】×奥野長衛『JAに何ができるのか』
【佐藤優】『戦争論』をビジネスに活かす、現実社会の悪と闘う、ロシア人の意識と使命感
【佐藤優】面白い数学啓発書、日本人の思考の鋳型、攻める農業への転換
【佐藤優】総合的思考と英国経験論哲学(2) ~川喜田二郎『発想法』~
【佐藤優】総合的思考と英国経験論哲学 ~川喜田二郎『発想法』~
【佐藤優】保守論客が見た明治憲法、軍事産業にシフトしていく電機メーカー、安全と安心を強化する過程に入り込む犯罪者
【佐藤優】就活におけるネット社会の落とし穴、裁判官の資質、象徴天皇制と生前退位問題
【佐藤優】痛みを無視しない、前大戦で「前線」と「銃後」の区別がなくなった、情報を扱う仕事の最大の武器
【佐藤優】海上権力を維持するために必要な要素 ~イギリスの興亡の歴史を通して~
【佐藤優】女性の貧困を追跡したノンフィクション、師弟関係こそ教育の神髄、イランは国際基準から逸脱した国
【佐藤優】2000年の時を経て今なお変わらないインテリジェンスの「真髄」 ~孫子~
【佐藤優】財政から読みとく日本社会、ラジオの魅力、高校レベルの基礎の大切さ
【佐藤優】嫌韓本と一線を画す韓国ルポ、セカンドパートナーの実態、日本人の死生観
【佐藤優】人間にとって「影」とは何か ~シャミッソー『影をなくした男』~
【佐藤優】文部省の歴史と現状、経済実務家のロシア情勢分析、中国の対日観
【佐藤優】学習効果が上がる「入門書」、応用地政学で見る日本、権力による輿論のコントロールを脱構築
【佐藤優】大川周明『復興亜細亜の諸問題』 ~イスラーム世界のルール~
【佐藤優】女性と話すのが怖くなる本、ネット情報から真実をつかみ取る技法、ソ連とロシアに共通する民族問題
【佐藤優】ヨーロッパ宗教改革の本質、相手にわかるように説明するトレーニング、ロシア・エリートの欧米観
【佐藤優】なぜ神父は独身で牧師は結婚できるのか? 500周年の「革命」を知る ~マルティン・ルター『キリスト者の自由』~
【佐藤優】政界汚職を描いた古典 ~石川達三『金環蝕』~
【佐藤優】生きた経済の教科書、バチカンというインテリジェンス機関、正しかった「型」の教育
【佐藤優】誰かを袋だたきにしたい欲望、正統派の書評家・武田鉄矢、追い込まれつつある正社員
【佐藤優】発達障害とどう向き合うか、アドルノ哲学の知的刺激、インターネットと「情報犯罪」
【佐藤優】後醍醐天皇の力の源 「異形の輩」とは--日本の暗部を突く思考
【佐藤優】実用的な会話術、ユーラシア地域の通史、宇宙ロケットを生んだ珍妙な思想
【佐藤優】キブ・アンド・テイクが成功の秘訣、キリスト教文化圏の悪と悪魔、理系・文系の区別を捨てよ
【佐藤優】企業インテリジェンス小説 ~梶山季之『黒の試走車』~
【佐藤優】中東複合危機、金正恩の行動を読み解く鍵、「型破り」は「型」を踏まえて
【佐藤優】後世に名を残す村上春樹新作、気象災害対策の基本書、神学の処世術的応用
【佐藤優】地学の魅力、自分の頭で徹底的に考える、高等教育と短期の利潤追求
【佐藤優】日本人の特徴的な行動 ~日本礼賛ではない『ジャパン・アズ・ナンバーワン』~
【佐藤優】知を扱う基本的技法、ソ連人はあまり読まなかった『資本論』、自由に耐えるたくましさ
【佐藤優】後知恵上手が出世する? ~ビジネスに役立つ「哲学の巨人」読解法~
【佐藤優】トランプ政権の安保政策、「生きた言葉」という虚妄、キリスト教の開祖パウロ
【佐藤優】「暴君」のような上司のホンネとは? ~メロスのビジネス心理学~
【佐藤優】物まね芸人とスパイの共通点、新版太平記の完成、対戦型AIの原理
【佐藤優】トランプ側近が考える「恐怖のシナリオ」 ~日本も敵になる?~
【佐藤優】弱まる日本社会の知力、実践的ディベート術、受けるより与えるほうが幸い
【佐藤優】トランプの「会話力」を知る ~ワシントンポスト取材班『トランプ』~
【佐藤優】「不可能の可能性」に挑む、言語の果たす役割の大きさ、NYタイムズ紙コラムニストの人生論
【佐藤優】人生は実家の収入ですべて決まる? ~「下流」を脱する方法~
【佐藤優】ソ連崩壊後の労働者福祉軽視、現代も強い力を持つ観念論、孤独死予備軍と宗教
【佐藤優】米国のキリスト教的価値観、サイバー戦争論、日本会議
【佐藤優】『失敗の本質』/日本型組織の長所と短所
【佐藤優】世界を知る「最重要書物」 ~クラウゼヴィッツ『戦争論』~
【佐藤優】現代ロシアに関する教科書、ネコ問題はヒト問題、トランプ氏の顧問が見る中国
【佐藤優】日本には「物語の復権」が必要である ~反知性主義批判~
【佐藤優】サイコパス、新訳で甦る千年前の魂、長寿化に伴うライフスタイルの変化
【佐藤優】イラクの地政学、誠実なヒューマニスト、全ての人が受益者となる社会の構築
【佐藤優】外交に決定的に重要なタイミング、他人の気持ちになって考える力、科学と職人芸が融合した食品
【佐藤優】『ゼロからわかるキリスト教』の著者インタビュー ~「神」を論じる不可能に挑む~
【佐藤優】組織の非情さが骨身に沁みる ~新田次郎『八甲田山死の彷徨』~
【佐藤優】プーチン政権の本質、2017年の論点、ロシアと欧州
【佐藤優】国際人になるための教科書、ストレスが人間を強くする、日本に易姓革命はない
【佐藤優】ロシアでも愛された知識人の必読書 ~安部公房『砂の女』~
【佐藤優】トランプ当選予言の根拠、猫の絵本の哲学、人間関係で認知症を予防
【佐藤優】モンロー主義とトランプ次期大統領、官僚は二流の社会学者、プロのスパイの手口
【佐藤優】トランプを包括的に扱う好著、現代日本外交史、独自の民間外交
【佐藤優】デモや抗議活動のサブカルチャー化、グローバル化に対する反発を日露が共有、グローバル化に対する反発が国家機能を強化
【佐藤優】国際社会で日本が生き抜く条件、ルネサンスを準備したもの、理系情報の伝え方
【佐藤優】人生を豊かにする本、猫も人もカロリー過剰、度外れなロシア的天性
【佐藤優】テロリズム思想の変遷を学ぶ ~沢木耕太郎『テロルの決算』~
【佐藤優】住所格差と人生格差、人材育成で企業復活、教科書レベルの知識が必要
【佐藤優】数学嫌いのための数学入門、西欧的思考にわかりやすい浄土思想解釈、非共産主義的なロシア帝国
【佐藤優】ウラジオストク日本人居留民、辺野古移設反対を掲げる公明党沖縄県本部、偶然歴史に登場した労働力の商品化
【佐藤優】「21世紀の優生学」の危険、闇金ウシジマくんvs.ホリエモン、仔猫の救い方
【佐藤優】大学にも外務省にもいる「サンカク人間」 ~『文学部唯野教授』~
【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次
【佐藤優】「イスラム国」をつくった米大統領、強制収容所文学、「空気」による支配を脱構築
【佐藤優】トランプの対外観、米国のインターネット戦略、中国流の華夷秩序
【佐藤優】元モサド長官回想録、舌禍の原因、灘高生との対話
【佐藤優】孤立主義の米国外交、少子化対策における産まない自由、健康食品のウソ・ホント
【佐藤優】アフリカを収奪する中国、二種類の組織者、日本的ナルシシズムの成熟
【佐藤優】キリスト教徒として読む資本論 ~宇野弘蔵『経済原論』~
【佐藤優】未来の選択肢二つ、優れた文章作法の指南書、人間が変化させた生態系
【佐藤優】+宮家邦彦 世界史の大転換/常識が通じない時代の読み方
【佐藤優】人びとの認識を操作する法 ~ゴルバチョフに会いに行く~
【佐藤優】ハイブリッド外交官の仕事術、トランプ現象は大衆の反逆、戦争を選んだ日本人
【佐藤優】ペリー来航で草の根レベルの交流、沖縄差別の横行、美味なソースの秘密
【佐藤優】原油暴落の謎解き、沖縄を代表する詩人、安倍晋三のリアリズム
【佐藤優】18歳からの格差論、大川周明の洞察、米国の影響力低下
【佐藤優】天皇制を作った後醍醐、天皇制と無縁な沖縄 ~網野善彦『異形の王権』~
【佐藤優】新しい帝国主義時代、地図の「四色問題」、ベストセラー候補の研究書
【佐藤優】ねこはすごい、アゼルバイジャン、クンデラの官僚を描く小説
【佐藤優】外交官の論理力、安倍政権と共産党、研究不正が起きるシステム
【佐藤優】遅読家のための読書術、電気の構造、本屋大賞
【佐藤優】外山滋比古/思考の整理学
【佐藤優】何が個性で、何が障害か
【佐藤優】大宅壮一ノンフィクション賞選評 ~『原爆供養塔』ほか~
【佐藤優】英才教育という神話
【佐藤優】資本主義の内在的論理
【佐藤優】米国の戦略策定、『資本論』をめぐる知的格闘、格差・貧困問題の起源
【佐藤優】偉くない「私」が一番自由、備中高梁の新島襄、コーヒーの科学
【佐藤優】フードバンク活動、内外情勢分析、正真正銘の「地方創生」
佐藤優】日本の政治エリートと「天佑」、宇宙の生命体、10代が読むべき本
【佐藤優】組織成功の鍵となる人事、ユダヤ人の歴史、リーダーシップ論
【佐藤優】第三次世界大戦の可能性、現代東欧文学、世界連鎖暴落
【佐藤優】司馬遼太郎の語られざる本音、深層対話、米政府による暗殺
【佐藤優】著名神学者のもう一つの顔 ~パウル・ティリヒ~
【佐藤優】総理が靖国参拝する理由、NPO活動の哲学やノウハウ、テロ対策の必読書
【佐藤優】今後、起こりうる財政破綻 ~対応策を学ぶ~
【佐藤優】社会の価値観、退行する社会
【佐藤優】夫婦の微妙な関係、安倍政権の内在的論理、警察捜査の正体
【佐藤優】情緒ではなく合理と実証で ~社会の再構築~
【佐藤優】中曽根康弘、21世紀の資本主義分析、北樺太の石油開発
【佐藤優】日本人の思考の鋳型、死刑問題、キリスト教と政治
【佐藤優】中国株式市場の怪しさ、イノベーションの障害、ホラー映画の心理学
【佐藤優】普天間基地移設問題の本質、外務省犯罪黒書、老後に快走!
【佐藤優】シリア難民が日本へ ~ハナ・アーレント『全体主義の起源』~

【佐藤優】マルクスを知らない政治家たち ~平成史(7)~

2018年08月07日 | ●佐藤優
 <片山/ソ連の崩壊から30年が過ぎようとしている今、そうした前提を知らない世代が誕生した。たとえば日本の大学ではソ連崩壊を境に、教授たちはマルクス主義の看板を下ろしてしまった。そのあとの世代には労農派や講座派 【注】といっても通じないでしょう。日本の敗戦後に教科書が黒塗りになったのと似ていました。
 ソ連崩壊時の大学生はいまや50歳。あそこで歴史が切断されて脈絡が飛んでしまったような気がします。
 歴史の切断という意味では、この時期印象深い出来事があるんです。77年に私が好きな林光さんという作曲家が天皇制を否定する「日本共和国初代大統領への手紙」という曲を発表しました。林さんは日教組の音楽の先生たちの理論的指導者でもありました。
 しかしその林さんが平成に天皇から紫綬褒章をもらった。周囲には「林さんが天皇陛下から勲章をもらっちゃダメ」と怒った人がたくさんいたけど、平然ともらっちゃった。あれは96年のことでした。昭和と平成の違いを象徴する出来事で印象に残っているんです。

佐藤/そう考えると平成という時代は、時系列の単純な積み重ねで成り立っているのではなく、いわば、ぐちゃぐちゃの雑炊のようなものと考えた方がいいかもしれない。
 
片山/なるほど。ポストモダンは80年代の流行語でしたが、真のポストモダンは平成に訪れたのかもしれませんね。いろんなブームが時代を超越して筋道抜きで登場する。
 最近の田中角栄ブームもそうです。田中角栄を参考にしても今の日本がよくなるはずがない。

佐藤/この状況で田中角栄の真似をしたらめちゃくちゃになるでしょうね。田中角栄は「今太閤」というイメージで語られますが、俗人的な要素が過大評価されている。

片山/戦後史で重要な役割を果たした人物には違いないけれども、もしも田中角栄がいなかったとしても、高度成長期に同じような立ち回りをした政治家は出てきたはず。

佐藤/そう思います。ただ彼はほかの政治家が決してやらないことをやった。これは鈴木宗男さんから聞いた話です。田中角栄は、かつて赤坂にあったホテルニュー赤坂とサボイというラブホテルの従業員を抱き込んで宿泊者リストを届けさせていたらしいんです。それで「昨日はハッスルしたらしいね」なんて声をかける(笑)。

片山/すごい。まさにインテリジェンスですね。そんなことをされたら言うこと聞いちゃいますよね。まさに忖度するしかない(笑)。

佐藤/そのえげつなさが金とともに彼の権力の源泉となった。ただ佐藤栄作らとは違い、背後に院外団(非議員たちからなる政治集団)のような暴力装置の影は感じない。

片山/田中角栄の上の世代の政治家は旧軍の人脈などの暴力装置と結びついていた。けれど田中角栄は戦後の成金だった。だから暴力じゃなくて、金だった。

佐藤/そう。金なんですよ。あれほど個人的に蓄財する政治家は珍しい。
 私は、田中角栄は永遠に生きたかったのではないかと思うんです。金をどんどん増やすことで永遠に影響力を維持できると信じていた。

片山/金を貯め続ければ、田中派もどんどん成長する。ずっと大きくなり続ける・・・・。刹那と永遠が結びついた資本主義的幻影に囚われていたのでしょうか。
 銀行とか図書館とか美術館は寿命を考えたら成り立たない。集めること・増やすことは永遠性と結びついている。田中派議員の数と蓄えた金額がパラレルに意識されていて、しかも終点が想定されていない。そんな幻想に生きて大胆に実践した政治家が、55年体制が終わった93年に亡くなった。とても象徴的ですね。高度成長期の政治家としか呼びようがありません。>

 【注】
【佐藤優】講座派vs.労農派、内ゲバのロジック ~いま生きる「資本論」(13)~
【佐藤優】講座派の特徴、「日本の特殊な型」 ~いま生きる「資本論」(14)~

□佐藤優/片山杜秀『平成史』(小学館、2018)の「第1章 バブル崩壊と55年体制の終焉/平成元年→6年(1989年-1994年)」の「マルクスを知らない政治家たち」を引用

 【参考】
【佐藤優】右傾化の原点 ~平成史(6)~
【佐藤優】宮崎勤事件と仮想現実 ~平成史(5)~
【佐藤優】世界史と相対化させよ ~平成史(4)~
【佐藤優】バブル崩壊でファミレス進化 ~平成史(3)~
【佐藤優】モスクワから見た狂騒ニッポン ~平成史(2)~
【佐藤優】天皇が中国と沖縄を訪ねた意味 ~平成史(1)~
【佐藤優】『平成史』概要



【佐藤優】右傾化の原点 ~平成史(6)~

2018年08月06日 | ●佐藤優
 <佐藤/政治の枠組みが大きく変わるきっかけになったのは92年です。東京佐川急便事件で自民党の金丸信が東京佐川急便から5億円のヤミ献金を受け取り、政治家や官僚の汚職や腐敗が社会問題になった。そのなかで実業家と右翼団体という暴力装置との絡み--つまり表の世界と闇の勢力の繋がりが明らかになりました。あれ以降、闇の勢力は表に出てこなくなった。
 
片山/東京佐川急便事件が引き金となり、翌年の93年に55年体制が崩壊します。社会に金権政治は許さないという空気が生まれた。
 佐藤さんは、まだモスクワですよね。55年体制崩壊はどう受け止めましたか?

佐藤/率直に言ってショックを受けました。外務省では非自民8党派連立内閣の首相となった細川(護煕)よりも小沢一郎に期待感が強かったんです。小沢は『日本改造計画』において軍事を含めた国際貢献も含めて「普通の国になれ」と主張していましたから。
 
片山/最近「日本は、急に右傾化してきた」と言う人がいるけれど、集団的自衛権は、91年に始まった湾岸戦争時のPKO協力法から重要な論点でした。30年越しのモチーフだった。

佐藤/おっしゃるように「普通の国になれ」は、そのころから外務省の総意でしたね。

片山/当時、東京佐川急便事件の影響もあり、反金権政治が錦の御旗として掲げられていました。イデオロギーや思想は二の次で社会主義やマルクス主義の人も、自由市場的な考えの人も野合して、新たな勢力を作った。アメリカのような二大政党制にすれば、政権交代が頻繁に起きるようになって、政官財の癒着に歯止めがかかるはずだと。その方向への過渡期としての細川大連立内閣や自社さ連立内閣が演出されていった。
 細川連立内閣の後を受けた羽田内閣が64日間で退陣し、自民党と日本社会党、新党さきがけが連立した村山連立内閣が成立したのは、94年6月でした。

佐藤/私は自社さ連立政権がなければ、96年の橋本内閣は絶対に生まれなかったと考えています。
 当時、モスクワの日本大使館に政治学者の佐藤誠三郎が訪ねてきました。日本大使に「橋本龍太郎は首相になる可能性はありますか」と聞かれた佐藤誠三郎は「本人以外の全員が反対するでしょう」と応えた。
 それほど橋本は政界で異質の存在だった。まず派閥の領袖ではなかった。それに政治家と一緒に飯を食わない。55年体制が続けば、大臣レベルで終わる政治家と誰もが見ていた。
 しかし、自社さ連立政権で、彼にチャンスが転がり込んだ。伝統的な自民党の政治家なら、橋本内閣が行った予算の上限を定めるキャップ制導入や省庁の再編などの新自由主義的な改革は行わなかったはずです。

片山/橋本政権の新自由主義の流れは、その後の森政権にも小泉政権にも引き継がれます。ソ連崩壊で21世紀はアメリカの一人勝ちと当時は想定された。いま思えば極めて安直な「新しい常識」に支配されて政界もアメリカ型二大政党制に再編されるべきと大新聞も政治学者も煽り続けた。
 とすれば、「政界再編過渡期内閣」としての自社さ連立政権は、冷戦構造崩壊後の判断ミスの時代が生み出したとも言えませんか。やはりソ連の崩壊がポイントです。

佐藤/私も同じ考えです。
 ソ連の崩壊とともに重要になってくるのが、日本社会党の位置づけです。社会党と聞くと、土井たか子や辻元清美をイメージする人が多いのではないかと思います。でも実は、彼女たちは右翼社民で社会党のメインストリームじゃない。辻元はおそらくマルクスの『共産党宣言』を呼んだ経験はないと思います。
 社会党のメインストリームは労農派マルクス主義者。特にマルクス・レーニン主義を指導原理とした社会主義協会に代表される左派です。ソ連崩壊で右翼社民が台頭して左派の力が失われていたから、自民党と社民党の連立が可能だったのです。>

□佐藤優/片山杜秀『平成史』(小学館、2018)の「第1章 バブル崩壊と55年体制の終焉/平成元年→6年(1989年-1994年)」の「右傾化の原点」を引用

 【参考】
【佐藤優】宮崎勤事件と仮想現実 ~平成史(5)~
【佐藤優】世界史と相対化させよ ~平成史(4)~
【佐藤優】バブル崩壊でファミレス進化 ~平成史(3)~
【佐藤優】モスクワから見た狂騒ニッポン ~平成史(2)~
【佐藤優】天皇が中国と沖縄を訪ねた意味 ~平成史(1)~
【佐藤優】『平成史』概要


【佐藤優】宮崎勤事件と仮想現実 ~平成史(5)~

2018年08月05日 | ●佐藤優
 <佐藤/アンドレイ・タルコフスキーの『ストーカー』が、81年に日本で上映されたときのタイトルは『スタルケル』。まだ日本にストーカーという概念がなかったから翻訳できずにロシア語の「スタルケル」のまま上映したんです。
 
片山/『二十歳の恋』にしても『スタルケル』にしてもストーカーという言葉が使われていなかっただけで、かつてもストーカー的な行為はあったし、ストーカー的な人は存在した。ストーカーは突然登場したわけでない。

佐藤/ユーミンの「まちぶせ」もストーカーの歌ですからね。時代は進みますが、桶川ストーカー殺人事件が起きたのが99年。その翌年に「ストーカー規制法」が制定されます。

片山/ストーカーが社会的に認知されて恐怖されるようになった。それは平成の新しい現象でしょう。
 コミュニケーションの不全な人間はいつもいるけれど、それを管理し制御することが社会にできなくなった。閾値を超えたというか。もちろんアトム化(希薄化・孤立化)が進行して、止めるべき人が周りにいないということもある。
 ストーカーは新しい人種ではなく、それを止めていた家族や共同体の方が壊れたと考えるべきなのかもしれません。つまり社会が崩壊して、ある種の人たちが目立つようになって、ストーカーが平成のキーワードの一つになった。

佐藤/外務省時代の同僚にもストーカーがいました。彼は手を出した研修生の女性に振られたとたんに豹変して、追いかけ回しはじめた。彼女の出張先に「白人が大好きな尻軽女です」というファックスを送りつけた。さすがに女性も怖くなって上司に相談した。
 その後、ストーカーになった男が強い警戒心を示すようになった。デスクを書類や書籍の山で囲んで「俺は誰かに追われていたんだ」とバックミラーまで設置した。
 
片山/追う側が追われる側になってしまったんですね(苦笑)。>

□佐藤優/片山杜秀『平成史』(小学館、2018)の「第1章 バブル崩壊と55年体制の終焉/平成元年→6年(1989年-1994年)」の「宮崎勤事件と仮想現実」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】世界史と相対化させよ ~平成史(4)~
【佐藤優】バブル崩壊でファミレス進化 ~平成史(3)~
【佐藤優】モスクワから見た狂騒ニッポン ~平成史(2)~
【佐藤優】天皇が中国と沖縄を訪ねた意味 ~平成史(1)~
【佐藤優】『平成史』概要

【佐藤優】世界史と相対化させよ ~平成史(4)~

2018年08月04日 | ●佐藤優
 <片山/佐藤さんは平成史の肝といえるソ連崩壊に立ち会った。日本ではソ連が崩壊したときに社会主義は終わったと誰もが思った。だからこそアメリカの資本主義や政治をコピーすれば、日本も100年は安泰と一時的にも信じられてしまった。そこに大きな間違いがあったと思います。

佐藤/同感です。平成史は歴史総合なんですよ。その意味では世界史と相対化させないと平成日本史は見えてこない。平成史は日本史であると同時に世界史なんです。
 たとえば、平成元年に消費税が導入されます。これは、付加価値税に反対の立場をとる、世界に類を見ない日本独自の社会民主主義の存在を明らかにした。そもそも付加価値税、つまり消費税は、社会民主主義の専売特許だったはず。消費税導入によって、日本の社会民主主義の矛盾が露わになりました。

片山/日本の社会主義は富裕層を叩く意識で発達しすぎたのですからね。急激な近代化のせいなのか、江戸時代の身分制度から四民平等に唐突に移行して、そこで明治政府のやったことは徴兵制や重税でしょう。
 民衆に権利意識を育てる暇がなかったのが尾を引いている気がします。権利を主張することよりも、余計な負担をさせるな、という「逃げたい意識」というか「解放されたい意識」が先行している。百姓一揆みたいな話になる。これ以上、一銭も払いたくないんだと。それが反転すると、上からむしりとることを考えて、下が自ら負担するというのはますます禁句みたいになる。
 下からの要求のために自ら負担するのではなく、上からの要求から逃れること、そのために誰か、別の上に期待するということが日本人のデフォルトになっているのではないですか。いずれにせよ相互扶助や階級宥和の意識が低すぎるので、何をやってもいびつになってしまいます。>

□佐藤優/片山杜秀『平成史』(小学館、2018)の「第1章 バブル崩壊と55年体制の終焉/平成元年→6年(1989年-1994年)」の「世界史と相対化させよ」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】バブル崩壊でファミレス進化 ~平成史(3)~
【佐藤優】モスクワから見た狂騒ニッポン ~平成史(2)~
【佐藤優】天皇が中国と沖縄を訪ねた意味 ~平成史(1)~
【佐藤優】『平成史』概要

【佐藤優】バブル崩壊でファミレス進化 ~平成史(3)~

2018年08月03日 | ●佐藤優
 <佐藤/バブル崩壊がどこに行き着いたのか。最近テレビを見て気づいたんです。『東京タラレバ娘』だったんじゃないか、と。視聴率は10%ちょっとだけど、社会的な影響がとても大きかった。
 一言で言えば、タラレバ娘で描かれていたのは生活保守主義です。アラサーの登場人物たちは、高い理想を掲げつつも、仕事はおろか、結婚もできず。かといって、不倫はもちろん“セカンド”もダメ。それは30歳を過ぎたら生活や人生がどうなるか分からないという不安を抱いているからです。

片山/不況の中で育った若者たちは騙されていたと気づいたんでしょうね。自由だ、自由だ、と言われて、実は捨てられているのだと。そこで身を守る術を発達させる。夢より用心。不自由でも安全。

佐藤/ドラマでは居酒屋で支払っているのは3,000円以内。テレビではビールを飲んでいるけど原作の漫画ではホッピーだから2,000円程度で済ませている。

片山/いまの若者たちはお金も使わず、物も持たないとよく言われますが、バブル崩壊以前の戦後日本とはまったく価値観が違いますね。高度成長期にはお金を使って物を増やす。そうすれば誰かが構ってくれて結果オーライ。予定調和を信じられた。

佐藤/現実でも私の周囲の女性編集者や研究者は20代後半で駆け込み結婚しています。彼女たちは、男女雇用機会均等法や「女性の活躍」という言葉を冷ややかに見ている。
 驚いたのは、恋愛結婚はイヤだという女子学生が少なからずいること。付き合っている男はいるけど、男を見る目に自信がないから恋愛結婚したくないと言うんです。
 でも、よく聞いてみるとまた違う理由がある。知らない男を家に連れて行って親との軋轢が生まれるのがイヤなんです。

片山/驚くべき現実主義ですね。少しでも軋轢を減らし、リスクを逓減して少ないエネルギーで身を守ろうとする意識は本当に高い。その一方で、たとえば予備自衛官の訓練を受けている学生もいます。頭のいい大学院生は外国に逃げだしたり、国を論ずるのも国を守るのも他人事ではない。シニカルに批評してはいられない。結婚から国防まで、人を信じて任せていては危ないと思っているのです。そして国を見限る人もいる。
 彼らは、バブルを経験した世代、いや、高度成長を当たり前と思った世代とはまったく違う価値観で生きています。

佐藤/しかし現代の若者の価値観もバブルを抜きに考えられません。バブル崩壊の結果、サイゼリヤなどのファミレスで、安価でそれなりのレベルの食事ができるようになった。コンビニを含めた食の幅も広がっていった。
 今の学生を見ていると、とにかく目の前のことだけに一生懸命になっているように見えます。たとえば、塾の講師のアルバイトを一日4時間、週6回やって年に200万円稼いでいる学生がいたとします。彼はそれでいいと満足している。
 でも、私は改めて考えてみろと言うんです。今から外交官試験を受けて外務省に入ってごらん、と。研修を終えて数年すれば、年収は1,000万円を軽く超える。彼は週6回のバイトに追われて、機会費用(得られたはずの利益)を失っている。そこまで言わないと、気づかない。

片山/今がすべてという日本古来の中今(なかいま)論(*15)にも通じますね。刹那主義とも言える。若者には今がよければいいという側面と、5年、10年先を考えても意味がないと諦めている側面の両面があるのでしょう。

佐藤/児童心理学では、3歳児や4歳児は、今かそれ以外という時間認識しかないそうです。それに似ている。

 【脚注】
 *15-中今論
  過去と未来の真ん中に位置する「今」を示す、神道における概念。遠い過去から未来にいたる間としての現在を賛美する意味で使われることが多い。>

□佐藤優/片山杜秀『平成史』(小学館、2018)の「第1章 バブル崩壊と55年体制の終焉/平成元年→6年(1989年-1994年)」の「バブル崩壊でファミレス進化」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】モスクワから見た狂騒ニッポン ~平成史(2)~
【佐藤優】天皇が中国と沖縄を訪ねた意味 ~平成史(1)~
【佐藤優】『平成史』概要

【佐藤優】モスクワから見た狂騒ニッポン ~平成史(2)~

2018年08月02日 | ●佐藤優
<佐藤/私はモスクワにやってくる新聞記者たちを見て、日本社会は本当に変になっているなと思いました。「カップヌードルを啜らねえと記事が書けねえ」という記者のために、私が、わざわざストックホルムからカップヌードルを空輸したこともありました。モスクワのサクラという和食レストランでは「仕出し弁当を作れ」という記者に「一つ1万円しますよ」と忠告したら「それでかまわない」と。

片山/えっ、一つ1万円って、どんな中身の弁当ですか?

佐藤/いま日本で買えば700円くらいの普通の弁当です。東京から食材を空輸しているから高いんです。天ぷら蕎麦が7,000円もするレストランですから。

片山/そのころ私は、大正や昭和初期の右翼思想の研究をしていたのですが、過激なものより、原理日本社(*12)のような、日本はありのままの今の日本でいいんだというような思想に興味を持ちましたね。時間が停滞していてその中で人間が受け身になって漂って能動性や主体性を失う感じの思想がともてアクチュアルに感じられました。
 バブルの前の高度成長をいったんやり遂げた感のあった日本には、一定の状態がフラットでずっと続いていく、その中で宙づりになって漂っているのが良いという雰囲気があったでしょう。ポストモダンという言葉で呼んでもいいのですが。そのことを、右翼思想と対比して確かめたかったのです。
 そんな研究に取り組んでいたさなかの90年10月、日経平均株価が2万円を斬ってバブルが崩壊しました。

 【脚注】
 *12-原理日本社
  1925年に蓑田胸喜らによって結成された右翼団体。機関誌「原理日本」などを通し、進歩派の大学教授への排斥運動や、天皇機関説攻撃の急先鋒となった。>

□佐藤優/片山杜秀『平成史』(小学館、2018)の「第1章 バブル崩壊と55年体制の終焉/平成元年→6年(1989年-1994年)」の「モスクワから見た狂騒ニッポン」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】天皇が中国と沖縄を訪ねた意味 ~平成史(1)~
【佐藤優】『平成史』概要

【佐藤優】天皇が中国と沖縄を訪ねた意味 ~平成史(1)~

2018年08月01日 | ●佐藤優
<佐藤/日本人は歴史認識の前提として明治、大正、昭和、平成という時代区分を自然に受け入れています。でも、天皇の代替わりごとに歴史を括るということは、世界の普遍的価値観からすると、極めて異質な分節化です。
 いま最高指導者の代替わりで歴史を区切っているのは、日本以外ではカトリック教会やロシア正教会か、北朝鮮くらいでしょう。

片山/日本では天皇が崩御すると元号が変わる。一世一元ですね。明治からの新しい習慣と言えます。明治維新で西洋型の近代国家を急造しようとするとき、天皇しか日本国民をまとめるものがない。将軍が大名をまとめ、大名が民をまとめる。このシステムを壊して、身分制度もやめて、あとに残るのは国民意識が未成熟な民だけということになると、まとまりが作れない。
 そこで将軍を任命していた天皇をたてて、あとは全部中抜きにして、天皇と民の二種類しかない国民国家をデザインした。あくまで建前ですが。とにかく日本人であればどこに住んでいても天皇を仰いで生きるのだと。そういう自覚を国民に徹底させるために元号の使用を徹底して、時間意識の面から天皇と共にあることの刷り込みを行おうとした。天皇の命とともに元号の年を重ねて生きるのですから、天皇が好きとか嫌いとかの個人的な次元に関係なく、天皇の国日本が内面化する。この維新政府の戦略はものの見事に当たったと言えるでしょう。
 たとえば昭和という言葉に、特に昭和を過ごした人々は特別な思いを込めているのではないですか。戦争も高度成長も懐かしいテレビ番組も流行歌も家族の思い出さえ、昭和の一語にからめとられ、日本人でないと分からない歴史意識で理解されてしまう。
 何しろ64年もありましたから、あまり広くて歴史を考えるときに適切とは言えないのですが、やはり昭和で通じてしまうでしょう。
 というわけですから、平成という時代も今上天皇と関係づけられないわけにはゆかない。一般論としても、一般論を超えるレベルとしても、平成という元号は平成の今上天皇によって特徴づけられる時代と感じます。
 今上天皇の思想と行動が時代の中身とリンクしてくることがあまりにも多い。とりあえずあたまの方だけに触れますと、今上天皇は92年に中国を初訪問し、その翌年には沖縄を訪れています。昭和天皇にとっては生々しすぎた中国と沖縄という戦後問題に向き合う実践の始まりです。平成は、昭和には露わにしないで済ませてきた戦後日本の歴史的課題が表立った時代と捉えられるでしょう。そこには昭和天皇の崩御も大きいと思います。さわりにくかったことにさわりやすくなったということですね。
 また91年の雲仙普賢岳の噴火でも被災者をお見舞いした。天皇の公的行為はどこまで認められるか。憲法上の規定もなく曖昧ななか、今上天皇は、その公的行為を非常に大胆に拡大して運用してきました。

佐藤/今上天皇の個性や思想と結びつくからこそ、個性を離れたときにどうなるか考える必要があります。

片山/「ポスト平成」の問題ですね。天皇が崩御することなく退位すれば、近代の天皇制が想定してこなかった前天皇が生きて存在することになる。崩御と代替わりのセットで保たれてきた維新以来のシステムは根底から動揺します。この国の構造というか正当性についての価値観も、また大きく変わるでしょう。

佐藤/日本で生前退位の話題が出たとき、誰も天皇制を廃して共和制に移行すべきだという主張をしなかった。もしも60年代、70年代なら社会党左派や共産党の議員は、間違いなく共和制への移行を論点にしたはずです。でもこれだけ政治家や論客がいながら誰も共和制を口にしなかった。

片山/共和制だけでなく、あらゆるイデオロギーや主義や主張が議論されなくなってしまった。昭和から平成になり、イデオロギーは完全に忘れられてしまいましたね。>

□佐藤優/片山杜秀『平成史』(小学館、2018)の「第1章 バブル崩壊と55年体制の終焉/平成元年→6年(1989年-1994年)」の「天皇が中国と沖縄を訪ねた意味」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】『平成史』概要