産経新聞2017.12.13 07:10
東北弁でシェークスピア劇を演じる仙台の劇団「シェイクスピア・カンパニー」が来月、「アイヌ オセロ」を上演する。四大悲劇の一つ「オセロ」の舞台を仙台藩が対ロシア警戒に当たった幕末の北海道に置き換えた作品だ。主役のオセロをアイヌ民族に翻案した前作は上演開始後の平成23年3月、札幌公演を前に中断。劇団は東日本大震災による活動休止を経て、被災地をめぐり他作の上演活動を続けてきた。7年近くたち、“悲願の再演”となる今回は、アイヌ民族とのコラボレーションが実現し、新たな地平が広がる作品となった。(高梨美穂子)
◇
仙台市若林区の若林市民センターで10日、「アイヌ オセロ」の稽古が行われた。阿寒アイヌ工芸協同組合専務理事でユーカラ劇脚本・演出家など多彩な顔を持つ秋辺デボさん(57)と、アイヌ文化を国内外に発信する舞踊集団「ピリカップ」のメンバー5人が北海道から参加した。
主役の旺征露(おせろ)役、●守勇さん(46)を前に、秋辺さんは「神様に対する所作は手指を少し開く。何も持っていないことを知らせるように」と指導した。
冒頭の結婚式の場面にはヤナギの木で作った儀礼具、パスイ(捧酒箸)でアイヌの神に酒をささげるしぐさ。伝統的な模様の入った花ござの配置は秋辺さんのアイデアだ。
秋辺さんは今回、劇団主宰で東北学院大教授、下館和巳さん(62)と共同で脚本、演出、プロデュースに関わる。「アイヌの神様さやるしかねえな」という妻殺しを決心するせりふは「神様さ返すしかねえな、がいい」と、下館さんに伝えた。
物語の舞台は万延元(1860)年。択捉に生まれ、ロシア人に父母を殺され祖母に育てられたアイヌ民族の旺征露は、高田屋嘉兵衛に認められ仙台藩の択捉脇陣屋の筆頭御備頭に抜擢(ばってき)され、仙台藩士の娘、貞珠真(でずま)と結婚する…。仙台藩が幕府から蝦夷地警備を任されていた史実からヒントを得た。前作の「アトゥイ オセロ」(アトゥイはアイヌ語で「海」)と設定は同じだ。
だが、震災を経たからこその違いも生まれた。メンバーも被災し劇団は活動休止を余儀なくされた。そして下館さんは仙台で高齢女性から声を掛けられる。
「下館さんだすぺ。やめるのすかわ? いっつも楽しんみにしてだがら、やめねで。んでも、長ぐない、誰も死なないシェークスピアやってけさいん」
震災約1年後。悲劇に喜劇の色と温かさを持たせ、上演時間は軽めにした。被災地の小学校や公民館などをめぐり上演を続け、今回の作品につながった。
秋辺さんは「東北弁でシェークスピアをやっているのは面白そうと思った。アイヌ民族は150年間厳しい差別と阻害に遭い、伝統的な歌や踊りに固執しているが、今は先住民族復興の機運の時期。だからあえて新しいものに手を出す時なのかもしれない」。
下館さんは「デボがアイヌの血や信仰、心を注ぎ込んでくれた。来年で作品の構想開始から10年。ようやく神様がゴーサインを出してくれたのかな」と話す。
仙台公演後は、6月に東京、7月に札幌、8月には英国ロンドンでの上演を予定。6月の東京公演前までの間、沿岸部の被災地でも上演する計画だ。
仙台公演は来年1月12~14日、エル・パーク仙台(仙台市青葉区)のスタジオホールで行われる。情報や問い合わせは劇団ホームページで。
●=けものへんに犬
http://www.sankei.com/region/news/171213/rgn1712130046-n1.html
東北弁でシェークスピア劇を演じる仙台の劇団「シェイクスピア・カンパニー」が来月、「アイヌ オセロ」を上演する。四大悲劇の一つ「オセロ」の舞台を仙台藩が対ロシア警戒に当たった幕末の北海道に置き換えた作品だ。主役のオセロをアイヌ民族に翻案した前作は上演開始後の平成23年3月、札幌公演を前に中断。劇団は東日本大震災による活動休止を経て、被災地をめぐり他作の上演活動を続けてきた。7年近くたち、“悲願の再演”となる今回は、アイヌ民族とのコラボレーションが実現し、新たな地平が広がる作品となった。(高梨美穂子)
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仙台市若林区の若林市民センターで10日、「アイヌ オセロ」の稽古が行われた。阿寒アイヌ工芸協同組合専務理事でユーカラ劇脚本・演出家など多彩な顔を持つ秋辺デボさん(57)と、アイヌ文化を国内外に発信する舞踊集団「ピリカップ」のメンバー5人が北海道から参加した。
主役の旺征露(おせろ)役、●守勇さん(46)を前に、秋辺さんは「神様に対する所作は手指を少し開く。何も持っていないことを知らせるように」と指導した。
冒頭の結婚式の場面にはヤナギの木で作った儀礼具、パスイ(捧酒箸)でアイヌの神に酒をささげるしぐさ。伝統的な模様の入った花ござの配置は秋辺さんのアイデアだ。
秋辺さんは今回、劇団主宰で東北学院大教授、下館和巳さん(62)と共同で脚本、演出、プロデュースに関わる。「アイヌの神様さやるしかねえな」という妻殺しを決心するせりふは「神様さ返すしかねえな、がいい」と、下館さんに伝えた。
物語の舞台は万延元(1860)年。択捉に生まれ、ロシア人に父母を殺され祖母に育てられたアイヌ民族の旺征露は、高田屋嘉兵衛に認められ仙台藩の択捉脇陣屋の筆頭御備頭に抜擢(ばってき)され、仙台藩士の娘、貞珠真(でずま)と結婚する…。仙台藩が幕府から蝦夷地警備を任されていた史実からヒントを得た。前作の「アトゥイ オセロ」(アトゥイはアイヌ語で「海」)と設定は同じだ。
だが、震災を経たからこその違いも生まれた。メンバーも被災し劇団は活動休止を余儀なくされた。そして下館さんは仙台で高齢女性から声を掛けられる。
「下館さんだすぺ。やめるのすかわ? いっつも楽しんみにしてだがら、やめねで。んでも、長ぐない、誰も死なないシェークスピアやってけさいん」
震災約1年後。悲劇に喜劇の色と温かさを持たせ、上演時間は軽めにした。被災地の小学校や公民館などをめぐり上演を続け、今回の作品につながった。
秋辺さんは「東北弁でシェークスピアをやっているのは面白そうと思った。アイヌ民族は150年間厳しい差別と阻害に遭い、伝統的な歌や踊りに固執しているが、今は先住民族復興の機運の時期。だからあえて新しいものに手を出す時なのかもしれない」。
下館さんは「デボがアイヌの血や信仰、心を注ぎ込んでくれた。来年で作品の構想開始から10年。ようやく神様がゴーサインを出してくれたのかな」と話す。
仙台公演後は、6月に東京、7月に札幌、8月には英国ロンドンでの上演を予定。6月の東京公演前までの間、沿岸部の被災地でも上演する計画だ。
仙台公演は来年1月12~14日、エル・パーク仙台(仙台市青葉区)のスタジオホールで行われる。情報や問い合わせは劇団ホームページで。
●=けものへんに犬
http://www.sankei.com/region/news/171213/rgn1712130046-n1.html