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アイヌの今、正面から 写真集「AINU」 池田宏さん

2019-03-13 | アイヌ民族関連
毎日新聞 3/12(火) 6:53配信

 瞳が、見つめ返す。
 写真家、池田宏さん(38)は2008年から北海道に通い、アイヌの人たちを撮影してきた。一人ひとりに正面から向き合い、その「今」を収めた写真集「AINU」(リトルモア)を1月末に出版した。
 海外の民族に関心を抱き、外国語を学んでいた大学時代、初めてカメラを買い、旅に出た。中国からポルトガルまで陸路で移動し、その地で暮らす同世代の若者を撮った。そこには自分の生活とそれほど変わらない日常があった。一方、日本にはない地続きの国境でのいがみ合いにも遭遇した。現場に来て初めて分かることがある、と肌で知った。卒業後、東京のスタジオへ入り、写真の世界に飛び込んだ。
 働きながら自分の作品を模索する中で、視線は海外から国内へ。北海道のアイヌ民族に興味を持った。「どんな人たちなんだろう」。夜行バスと鉄道を乗り継いで、平取(びらとり)町の二風谷(にぶたに)にたどり着く。アイヌ初の国会議員、故萱野茂氏の出身地だ。
 集落では、アイヌ民族のことを丁寧に教えてくれた女性を撮影した。帰京後に現像して、手応えを感じた。「もっと知りたい。撮りたい」。年に一、二回のペースで通いはじめた。
 ◇「もう来たの?」
 行動範囲が広がらず足踏みしていた2011年、転機が訪れた。関東で暮らす北海道出身のアイヌの女性を取り上げた新聞記事に目が留まった。女性に連絡を取ると、郷里での先祖供養の儀礼などに同行させてくれた。これをきっかけに、縁がつながりだす。静内、白老、帯広、釧路、網走、旭川――。道内各地の儀式や儀礼に参加し、知り合った人たちと語り、山へ行き、酒を酌み交わした。行事を手伝い、時間を共有し、少しずつ居場所をつくっていった。格安航空会社が就航すると、撮影旅行は2カ月おきに。「もう来たの?」と驚かれることもあった。
 時を見て、愛機の中判カメラ「ペンタックス67」を出す。細かく計画したり、表情をつくるよう頼んだりはしない。イメージの型にはめたくないからだ。団地のベランダで。カラオケスナックで。スーパーの前で。シャッターを切る。サケを鉤銛(かぎもり)で突く伝統漁。帰り道。成人式。なんでもない日にも、特別な日にも、レンズを向けた。寝転ぶ赤ちゃん。はにかむ高校生。ブーケを持つ新婦と新郎。雪上のハンター。お笑いコンビ。豊かなひげを蓄えた長老。神への祈りの風景も、公園での花見も撮った。
 ◇入り口の一つに
 撮影に応じてくれた人たちの「アイヌであること」をめぐる思いは、それぞれだ。伝統の着物を着て文化の伝承活動に携わる人もいれば、「意識しない」という人もいる。池田さんは民族への関心を超えて、人間そのものに魅了されていった。「予想外のドラマがいくつもあった。写真集は、そのかたまりです」。自らを語る言葉も伝えたいと、5人のインタビューも掲載した。
 写真集にはアイヌの血を引くことを公言していない人も登場する。葛藤を抱かせる現状がある。池田さんは語る。「文化や歴史、誰かとの出会い。アイヌに関心を持つ入り口が増えれば、人の思いへの想像力も広がるはず。僕の写真がその一つになれば本当にうれしい」
 「AINU」は2900円(税別)。【岡本同世】
 ◇プロフィル
 いけだ・ひろし 1981年、佐賀県小城市生まれ。大阪外国語大(現大阪大外国語学部)でスワヒリ語を学ぶ。2006年にstudio FOBOS入社、09年に独立。雑誌「実話ナックルズ」(ミリオン出版)や「ソトコト」(RR)、ウェブサイト「vice」などで活躍。「この続きは、聞き書きを主体にした一冊を出したい」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190312-00000003-mai-soci

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<乗松聡子の眼> 【24】 3・1運動100年と沖縄 脱植民地阻む軍事同盟

2019-03-13 | ウチナー・沖縄
琉球新報 2019年3月12日 09:01 乗松聡子
※10日付3面に掲載された「乗松聡子の眼」〈24〉の最初の段落の記述が抜けていました。お詫びして訂正させていただきます。
 最初の段落を含む全文を掲載させていただきます。
 「ここにわが民族は日本および世界各国に対し、わが民族に自決の機会を与えることを要求する。もしその要求が受け入れられなければ、わが民族はその生存のために自由行動をとることで、わが民族の独立を期成せんことをここに宣言する。」 
  1919年2月8日、植民地支配下で日本に留学していた朝鮮人学生たちが起草し、3週間後の「3・1独立運動」の導火線の役割を果たしたと言われる、「2・8独立宣言」の結びの文である。その100周年の記念式典がさる2月8日に東京の韓国YMCAで開催され、私はその片隅に列席する機会を得た。
 この式典は韓国語の進行だったが、唯一、在日本大韓民国民団の代表者は日本語で、「きょうは勇気を振り絞って来てくれた日本の方に」と呼び掛けた。それを聞いて、私は、自分がそこに「勇気を振り絞って」来ていたわけではないことに気づいた。
 この式典は、日本が開国以来、朝鮮征服への試みを着々と進めた歴史、とりわけ日本が朝鮮を強制併合した1910年以来の「行政、司法、警察などの諸機関が朝鮮民族の人権を侵害し、公的にも私的にもわが民族と日本人の間に優劣の差別を設け、わが民族には劣等の教育を施し、永遠にわが民族を日本人の使役者にしようと」(2.8独立宣言より)した歴史を振り返る場であった。
 民団の人の言葉によって、自分は加害側の日本人として、この歴史の「重み」を十分に感じずにそこにいたのではないかと、恥じ入る気持ちになった。
 その後私は「3・1」100周年まで東京に滞在し、関連イベントに片っ端から出席した。とりわけ、2月23日の横浜における宋連玉(ソン・ヨノク)青山学院大学名誉教授の講演「植民地主義に抗した朝鮮女性たち」には心を突き動かされた。2・8独立宣言に参加し、その後逮捕され過酷な拷問を受けた金マリアのような女性はたくさん存在した。
 宋氏が強調したのは、女性で独立運動に参加するということは、おぞましい性拷問を受け、それを生き延びたとしてもその後の人生を、性被害の女性を受け入れない儒教社会の中で生きることを引き受ける、ということだった。
 私は自らに問うた。運動家の勇敢さをたたえることは容易であるが、自分だったらそれができただろうか。分からない。そもそも、植民地支配さえなければこんな苦しみはなかったのだ。言葉を失う。ただ、その女性たちの前にひれ伏すしかない。
 この3月は、朝鮮全土で200万人がデモに参加した「3・1独立運動」の100周年であると同時に、1879年3月27日、明治政府が武力を伴い、約5世紀にわたり続いた琉球王国を滅ぼし、「沖縄県」として強制併合した140周年に当たる。朝鮮と同様に、琉球の言葉、信仰、文化、誇りが奪われた。「3・1」の100年と、「3・27」の140年はつながっており、共に日本人が心に深く刻まなければいけない歴史だ。
 そして現在も両地域に対する植民地主義は続いている。その根幹にあるのが世界最大の軍事的脅威である米国との軍事同盟であり、「日米安保」によって、朝鮮半島の統一と独立を阻み、沖縄に基地を集中させている。
 2月24日行われた沖縄の辺野古埋め立てを巡る県民投票は、52%以上の有権者のうち7割が「反対」に一票を投じた。これはすでに明確な民意の再確認ではあったが、多くの沖縄の人にとっては、日本に対し自分たちの自己決定権を強く訴えるという意味があった。
 その県民投票の同日、沖縄に対する植民地主義を象徴するような出来事があった。「天皇在位30周年記念式典」において、天皇が作った琉歌に皇后が曲をつけ、なんと沖縄出身の歌手に歌わせていたことだ。私は目を疑った。私の住むカナダは英仏の植民者が先住民の土地を支配して作った国だが、カナダはいまでも元首が英国女王であり、カナダには女王代理の総督という立場の人がいる。
 もしその人が、自分のための祝賀行事で、自らが先住民の言葉で作った歌を、先住民のアーティストに歌わせたりしたら、権力者による被支配者の「文化盗用(cultural appropriation)」であると、非難ごうごうになるのは間違いない。
 この催しでは安倍首相の発声で「天皇陛下万歳!」の三唱まで堂々と行っていた。一体この国は大日本帝国の歴史から何を学んだのか。
 しかしこの式典を問題視する人がリベラル側にほとんど不在であった。なぜか。「天皇タブー」があるからではないか。日本の植民地主義は天皇制を問うことなしには語れない。タブー視、異論封じなどをしている限りこの国は民主主義の国とは言えない。
 朝鮮「3・1」の100周年、琉球「3・27」の140周年を迎えるにあたり、日本の植民地主義を克服するには壁は厚いと感じるが、日本人としての責任を踏まえながら、アジア同胞と共に歴史に学び、平和の未来を作る一端を担いたいと思う。
 以上、3・1の100周年当日、600人が集まった新宿アルタ前の大集会のリレートークで、妨害に来た右翼の怒声で自分の声も聞こえなくなる中、私はこのような話をした。終わることのない学びの入り口に立っていたような思いだった。(「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」エディター)(随時掲載)
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-887483.html

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