スポーツ報知 8/22(日) 8:00
東京五輪・パラリンピック大会の公式文化プログラム「東京2020NIPPONフェスティバル」の映像作品「MAZEKOZE アイランドツアー」が22日午後4時から世界配信される。アートや音楽などを通じ、ジェンダーや国籍、障害の有無も受け入れる「まぜこぜの社会」を体験する作品。同作の総合構成、演出、総指揮を手がけた女優・タレントの東ちづる(61)がこのほどインタビューに応じ、今回の五輪パラで掲げられた「多様性と調和」というテーマについて、等身大の言葉で語った。(宮路 美穂)
「MAZEKOZE―」は、視聴者が飛行機に乗り込み、9つの個性的な島を旅するムービー。障害を持つパフォーマーやLGBTアーティスト、複数の国にルーツを持つキャストがそれぞれの色で輝きを放っている。
自身が代表を務める一般社団法人「Get in touch」で長年、生きづらさを抱える人たちとクリエイティブ活動を続けてきた東は、昨年11月に組織委から公式プログラムのオファーを受けたが、快諾できず1か月悩んだ。「オリパラに賛否両論があるのは分かっていたので、ネガティブな声が集まることで出演いただく方々に迷惑をかけては申し訳ないと悩みました。でも活動仲間に相談したとき『来た~!』と手放しで喜んで、涙する人もいて。ここまで一緒にやってきた人たちがいるんだから、もっと早く相談すべきだったな、と思いました」
構想は1週間程度で固まったが、完成までには紆余(うよ)曲折があった。壁のない社会を端的に表した「まぜこぜ」という言葉に、違和感を示す意見もあった。「『共生社会』とか『多様性と調和』とか『ノーマライゼーション』のような言葉をあまり使いたくなかった。説教っぽいし福祉くさくなる。エンタメとして分かりやすく『まぜこぜ』っていう言葉が浸透するといいなと考えていたのですが、『まぜこぜ』には秩序を乱したり、日本の和をないがしろにするイメージがあると受け止める人もいて…」
「多様性」や「共生」をどう表現するか。「以前、『共生社会という言葉を行政さんが使うのは分かるけれど、私たち障害者は言わない。上から受け入れてあげるよって言われてるみたいで抵抗がある』と言われた事があって。みんなが好きな方向を向いているけれど、それを支え合う配慮がなされていることが多様性である。混ぜご飯を作るとき、エビを塩煎りにしたりシイタケを甘辛く煮るとか、食材が立つ調理をして混ぜ合わせると、おいしい。そんな風に合理的な配慮があれば居心地のいい社会になるんじゃないか、って」
根気強く対話を重ねた末、「(組織委の)橋本聖子会長が『ミックスジュースじゃなくて、フルーツポンチってことですね。形がなくなるのではなくて、確かに存在があるということですね』とおっしゃっていただいて、それに一番ホッとしました」と、認識を共有することができた。「活動をしていると、賛同者ばかりが集まりがちになる。対話をすること自体がすごく重要だなと、社会勉強になりました」
撮影中はたくさんの気づきがあった。中盤に登場する「小人プロレス」のシーン。「『見せていいんですか』とか『小人という言葉は使えない』とも言われた。小人の方たちは『自分たちは小人。“背の低い病気”とか“低身長”ではなく小人って書いて下さい』って言っているのに、当事者不在の議論ですよね。先日、生放送のラジオ番組で初めて『小人』って言葉を使うことがOKになった。できるんじゃん、って。誰かが扉を開ければどんどん開いていくんじゃないのかなと思いました」
ダンサーの森田かずよさんが踊るシーンでも驚いたことがあった。今回初めて合流する技術スタッフもいたが「かずよさんがダンス中に義足を外し、さらに大きなダンスになっていく場面。義足を外した彼女の生身の脚が見えた途端に、カメラさんが顔に(画角を)持っていったんです。まじまじ見たら失礼だと思っているんですよね。『違うよ。義足は彼女のダンサーとしてのたくさんある武器の一つだから脚を撮って。照明も美しく当てて』とお願いすると『エッ…良いんですか?』って」。スタッフが滝のような汗を流しながらカメラを回すシーンが忘れられない。
撮影の最終日には、スタッフから「以前は障害のある人を見ても悪いと思っていたから、見ないふりというか普通を装っていた。でも今は困ってないかなとか、声をかけようかなとかフラットに対応できるようになった。撮影前と撮影後で明らかに自分が変わって、そんな自分にビックリしてます」と声をかけられた。「私たちの業界も変わるところにいる。例えば学園ドラマの人物に中に車いすの人や補聴器を付けている人、ゲイやレズビアンの人がいて、それが当たり前のものとして存在するようになれば、キャスティングの幅が広がるんではないかと思っています」
自身も29年のボランティア活動を通じ「生き方そのものが複雑になった」と語る。「人生が豊かにもなったし、知ることが増えたので面倒くさくもなりました。でもそっちの方が自分自身は生きやすい。私自身が高齢者になったり病気や障害者になった時、何もしなかった社会で我慢するのは嫌なので。あとは私自身も『助けて』『手伝って』とSOSを出せるようになったことは大きい。今回だって、私ひとりの妄想をスタッフキャスト合わせて約400人の方が実現してくれた。本当にすごいこと」
映像のラストでは、まぜこぜの人たちが「共に生きよう」と全員で声を合わせる。「普段はちょっと苦手な『共に生きよう』を、マイノリティーの人たちも含めて、みんなで言うといいかなって思った。上から目線ではなく、こっちからも言ってやる、ぐらいの気持ちで」。24日からは東京パラリンピックが開幕する。「描き方として、障害を乗り越えてとか克服してっていうのはいまだに違和感がある。克服するようなものではないし、あるものですからね。もうちょっと、ひとつのスポーツとして面白がれたらいいなと思います」
2020大会でテーマに掲げられ、何度となく報道にも登場した「多様性と調和」について、東は「まずは気づきだと思うんです」と語る。「他人事ではなく自分も含めて10人いたら10人の特性があるということ。個の集団なので、なかには相性が合わない人もいる。でもそれを社会が排除しなければいい。排除しないという意味のカジュアルなまぜこぜ社会でいい。映像を見てモヤモヤとしてもらえたらアップデートのチャンス。大いにモヤッて、考えるきっかけにしてほしい。浅く、広く、ゆるくつながっていけたらいいと思います」。そのモヤモヤはきっと、日本の未来が進化する第一歩になるはずだ。
◆東 ちづる(あずま・ちづる)1960年6月5日。広島県生まれ。大阪での会社員生活を経て芸能界入りし、ドラマや映画で活躍。92年から骨髄バンクなどのボランティア活動をスタート。2012年に一般社団法人「Get in touch」を設立し理事長に就任。17年には「まぜこぜ一座」を旗揚げし、舞台作品「月夜のからくりハウス」を上演している。
◆MAZEKOZE アイランドツアー 組織委員会の公式文化プログラム「東京2020NIPPONフェスティバル」の映像作品で、テーマは「共生社会の実現に向けて」。ドラァグクイーンの客室乗務員ドリアン・ロロブリジーダのガイドとともに、「超人の島」「カタイロッケ(アイヌ語で「愛」)の島」など9つの島を旅する内容。平原綾香、小島よしお、大阪の登美丘高ダンス部らも出演。東京2020公式Youtube、公式LINEなどで22日午後4時より世界配信。初回はキャストによる生パフォーマンスも予定されている。
報知新聞社
https://news.yahoo.co.jp/articles/ac7b4febea12d7d15aeca806d011a1e41104e2c0