読売新聞 2021/08/29 05:00
【ロサンゼルス=渡辺晋】先住民族の子供に強制的な同化教育が行われていたカナダの寄宿学校跡地から大量の遺骨や墓が相次いで見つかった問題が、米国にも波及している。米内務省は、国内の寄宿学校について実態調査を始めると表明した。調査に後ろ向きだった米国も「負の歴史」と向き合うことになる。
■「大きな誤り」
先住民族のシーウォーカーさん(本人提供)
「米国は歴史を直視せず、過ちを認めようとしなかった。それは大きな誤りだ」。コロラド州デンバー在住の先住民族ダニエル・シーウォーカーさん(37)は、そう力を込めた。現在、学生時代に出会ったロンドン在住の英国人の写真家カルロッタ・カルダナさん(39)と、先住民族の歴史を記録に残すプロジェクトに取り組む。
シーウォーカーさんの祖母と父親もかつて寄宿学校に入れられていた。これまで祖母やプロジェクトの過程などで出会った人たちから、耳をふさぎたくなるような話を聞いた。思い出すだけで今も涙がにじむ。
無理やり髪を切られ、部族の言葉で話すと、罰として地下室に閉じ込められた。特定の化学物質の服用や一定期間の絶食による肉体的・心理的な影響を調べられる「実験」も行われていた。
寄宿学校の多くは、米政府から資金援助を受けたキリスト教の各宗派が運営していた。神父が女子生徒を妊娠させ、生まれた子供を火葬して埋葬することもあったという。
■虐待横行
先住民族団体によると、米国では「文明化」の名の下で、1870年頃から1960年代にかけて少なくとも367の寄宿学校が運営されていた。親から引き離された数十万人の子供が、独自の文化や言葉などを禁じられる同化教育を受けた。
正確な数は不明だが、25年頃には6万人以上が在籍した。26年までの在籍数は学齢期にある先住民族の子供の8割を占めたという。学校では虐待が横行し、多くの子供の行方は今も分かっていない。
トラウマは世代を超えて影響を及ぼす。先住民族のコミュニティーでは暴力や虐待の連鎖などが報告されている。シーウォーカーさんも「親の愛情を知らずに育ち、部族のアイデンティティーも失った祖母や父は、自分が親になっても家族に愛情表現ができなかった」と語る。
カナダでも1800年代後半から100年以上、ローマ・カトリック教会が運営する約130の寄宿学校で約15万人が同化教育を受け、数千人が死亡した。カナダ政府は2008年、学校での身体的・性的虐待を認めて謝罪。今年5、6月には、二つの学校跡地から215の遺骨と751の墓標のない墓が見つかった。
■初の閣僚
米国では政府による寄宿学校の本格的な調査は行われていなかったが、米内務省のデブ・ハーランド長官は6月下旬、カナダでの遺骨発見などを受け、米国でも調査を始めると表明した。
調査では、記録や情報を収集し、学校の位置や死亡した子供の埋葬場所や身元、部族などを特定する。来年4月1日までに最終報告書をまとめ、その後、発掘調査などに移るとみられる。
先住民族で初めて閣僚に就任したハーランド氏も、祖父母が寄宿学校の経験者だった。「調査には痛みを伴うが、過去を知ることで初めて誇りを持って未来に向かうことができる」と訴える。米最大の先住民族組織「アメリカインディアン国民会議」は、「我々が過去と折り合えるようになるための重要な一歩だ」と評価している。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20210828-OYT1T50359/
【ロサンゼルス=渡辺晋】先住民族の子供に強制的な同化教育が行われていたカナダの寄宿学校跡地から大量の遺骨や墓が相次いで見つかった問題が、米国にも波及している。米内務省は、国内の寄宿学校について実態調査を始めると表明した。調査に後ろ向きだった米国も「負の歴史」と向き合うことになる。
■「大きな誤り」
先住民族のシーウォーカーさん(本人提供)
「米国は歴史を直視せず、過ちを認めようとしなかった。それは大きな誤りだ」。コロラド州デンバー在住の先住民族ダニエル・シーウォーカーさん(37)は、そう力を込めた。現在、学生時代に出会ったロンドン在住の英国人の写真家カルロッタ・カルダナさん(39)と、先住民族の歴史を記録に残すプロジェクトに取り組む。
シーウォーカーさんの祖母と父親もかつて寄宿学校に入れられていた。これまで祖母やプロジェクトの過程などで出会った人たちから、耳をふさぎたくなるような話を聞いた。思い出すだけで今も涙がにじむ。
無理やり髪を切られ、部族の言葉で話すと、罰として地下室に閉じ込められた。特定の化学物質の服用や一定期間の絶食による肉体的・心理的な影響を調べられる「実験」も行われていた。
寄宿学校の多くは、米政府から資金援助を受けたキリスト教の各宗派が運営していた。神父が女子生徒を妊娠させ、生まれた子供を火葬して埋葬することもあったという。
■虐待横行
先住民族団体によると、米国では「文明化」の名の下で、1870年頃から1960年代にかけて少なくとも367の寄宿学校が運営されていた。親から引き離された数十万人の子供が、独自の文化や言葉などを禁じられる同化教育を受けた。
正確な数は不明だが、25年頃には6万人以上が在籍した。26年までの在籍数は学齢期にある先住民族の子供の8割を占めたという。学校では虐待が横行し、多くの子供の行方は今も分かっていない。
トラウマは世代を超えて影響を及ぼす。先住民族のコミュニティーでは暴力や虐待の連鎖などが報告されている。シーウォーカーさんも「親の愛情を知らずに育ち、部族のアイデンティティーも失った祖母や父は、自分が親になっても家族に愛情表現ができなかった」と語る。
カナダでも1800年代後半から100年以上、ローマ・カトリック教会が運営する約130の寄宿学校で約15万人が同化教育を受け、数千人が死亡した。カナダ政府は2008年、学校での身体的・性的虐待を認めて謝罪。今年5、6月には、二つの学校跡地から215の遺骨と751の墓標のない墓が見つかった。
■初の閣僚
米国では政府による寄宿学校の本格的な調査は行われていなかったが、米内務省のデブ・ハーランド長官は6月下旬、カナダでの遺骨発見などを受け、米国でも調査を始めると表明した。
調査では、記録や情報を収集し、学校の位置や死亡した子供の埋葬場所や身元、部族などを特定する。来年4月1日までに最終報告書をまとめ、その後、発掘調査などに移るとみられる。
先住民族で初めて閣僚に就任したハーランド氏も、祖父母が寄宿学校の経験者だった。「調査には痛みを伴うが、過去を知ることで初めて誇りを持って未来に向かうことができる」と訴える。米最大の先住民族組織「アメリカインディアン国民会議」は、「我々が過去と折り合えるようになるための重要な一歩だ」と評価している。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20210828-OYT1T50359/