時事ドットコム12月28日(木)
雪がなく交通量が多ければガラスのようなアイスロードの表面が現れる。写真はイエローナイフからデタ村に向かうグレートスレーブ湖のもの【時事通信社】
「陸の孤島」とは一体どうなっているのか。
旅が後半にさしかかり、アクセスできる地図に道が載っていない集落を見たいとの思いが強く募る。
それを確かめるため、厳冬期のおよそ3カ月間だけ通れるアイスロードでイエローナイフから北に一路、先住民の集落ワチを目指した。
イエローナイフから105キロ離れた最初の村ベチョコまでは、グレートスレーブ湖に沿って舗装された道路が北西に伸びている。視界の左右に広がる森は雪に覆われているが、道路は除雪されている。建築資材などを運ぶ大型トレーラーと擦れ違うが、交通量は少ない。
ベチョコを過ぎてマリアン湖上のアイスロードに入る。入り口につながる道路には「最大重量18500キロ」と標識が立てられている。
この日のアイスロードは雪に覆われ、ガラスのように見えない。車をいったん停めてアクセルを強めに踏み込むと、四輪駆動のSUVが後部を左右に振りながら走り出す。
しばらくするとアイスロードの端に設置された標識が見えてきた。
「ROAD CLOSED(通行止め)」
近寄ってよく見ると、黒っぽい湖の水が氷上にしみ出している。万が一、ここに気付かずに走行すれば氷が割れ、車が水没する恐れがあるため、アイスロードの一部を三角コーンで囲って注意を促しているのだ。
ワチにつながるアイスロードは今年、2月5日に乗用車が通れるようになった。氷が厚さを増す2月に末以降はタンクローリーやトラックの通行ができるようになり、1年分の燃料、大量の生活必需品をはじめ、小型機に積めなかったり、高い運賃がかかったりするものを一気に輸送する。だが、今年は暖冬が影響し、氷のコンディションが良くないという。
実際、ワチよりさらに北のアイスロードでは直前、タンクローリーが走行中に氷が割れ、一部が水中に沈む事故が発生。集落の人々にとってライフラインとなるアイスロードは全面的に通行止めとなり、住民の生活や移動に大きな影響が出た。
アイスロードは想像以上にデリケートだ。よく注意して見てみると、一方の岸と対岸は最短距離の一直線で結ばれていない。車は岸の手前で大きくカーブして、陸地につながっている。
「ポコポコポコ」
イエローナイフとデタを結ぶアイスロードでは、車が通過するときに氷のしなる音が聞こえた。
湖面が厚い氷で覆われても、重い車が通れば氷がしなって下の水がわずかに波打つ。その波が車の進行方向に向かって勢いを増し、岸辺の氷が割れてしまう事態が起きるのを防ぐため、アイスロードは岸の近くでカーブを描くのだ。
全長約30キロに及ぶマリアン湖のアイスロードを抜け、白樺やカラマツの森に入る。夏には一面、湿地帯となるが、雪が地表を覆っている。お尻が時々シートから浮かんでしまうほどのでこぼこ道が続き、まるで悪路を走行するラリーカーに乗ったような気分になる。
イエローナイフから約210キロ。およそ5時間をかけてワチに到着した。
人口550人の小さな集落には、ブルーやオレンジといったカラフルな平屋が建ち並ぶ。村を挙げて開かれる先住民伝統の賭け遊び「ハンドゲーム」の大会を翌日に控え、住民は準備に追われていた。
トリチョ族の人々はどことなく日本人に似ている。子宝に恵まれた世帯が多く、村の中心にある学校では、日が暮れた後も子供たちがスノーモービルで雪の積もった氷点下の校庭を走り回っている。
「さあ、食べて、食べて」
学校の体育館に設けられた食堂で、村の女性にカリブーのシチューなど、ワチの味で「おもてなし」を受けた。人々は気さくで次々と話しかけてくる。
「どっから来たんだ。日本?ハンドゲームを見に来たのか?見ないで参加したらどうかね?」
アイスロードができて陸の孤島でなくなるこの時期、遠くから多くの先住民が参加するハンドゲームには、どんな魅力があるのだろう。期待に胸が膨らむ。
https://www.jiji.com/jc/v4?id=201603canada-northwest0007

雪がなく交通量が多ければガラスのようなアイスロードの表面が現れる。写真はイエローナイフからデタ村に向かうグレートスレーブ湖のもの【時事通信社】
「陸の孤島」とは一体どうなっているのか。
旅が後半にさしかかり、アクセスできる地図に道が載っていない集落を見たいとの思いが強く募る。
それを確かめるため、厳冬期のおよそ3カ月間だけ通れるアイスロードでイエローナイフから北に一路、先住民の集落ワチを目指した。
イエローナイフから105キロ離れた最初の村ベチョコまでは、グレートスレーブ湖に沿って舗装された道路が北西に伸びている。視界の左右に広がる森は雪に覆われているが、道路は除雪されている。建築資材などを運ぶ大型トレーラーと擦れ違うが、交通量は少ない。
ベチョコを過ぎてマリアン湖上のアイスロードに入る。入り口につながる道路には「最大重量18500キロ」と標識が立てられている。
この日のアイスロードは雪に覆われ、ガラスのように見えない。車をいったん停めてアクセルを強めに踏み込むと、四輪駆動のSUVが後部を左右に振りながら走り出す。
しばらくするとアイスロードの端に設置された標識が見えてきた。
「ROAD CLOSED(通行止め)」
近寄ってよく見ると、黒っぽい湖の水が氷上にしみ出している。万が一、ここに気付かずに走行すれば氷が割れ、車が水没する恐れがあるため、アイスロードの一部を三角コーンで囲って注意を促しているのだ。
ワチにつながるアイスロードは今年、2月5日に乗用車が通れるようになった。氷が厚さを増す2月に末以降はタンクローリーやトラックの通行ができるようになり、1年分の燃料、大量の生活必需品をはじめ、小型機に積めなかったり、高い運賃がかかったりするものを一気に輸送する。だが、今年は暖冬が影響し、氷のコンディションが良くないという。
実際、ワチよりさらに北のアイスロードでは直前、タンクローリーが走行中に氷が割れ、一部が水中に沈む事故が発生。集落の人々にとってライフラインとなるアイスロードは全面的に通行止めとなり、住民の生活や移動に大きな影響が出た。
アイスロードは想像以上にデリケートだ。よく注意して見てみると、一方の岸と対岸は最短距離の一直線で結ばれていない。車は岸の手前で大きくカーブして、陸地につながっている。
「ポコポコポコ」
イエローナイフとデタを結ぶアイスロードでは、車が通過するときに氷のしなる音が聞こえた。
湖面が厚い氷で覆われても、重い車が通れば氷がしなって下の水がわずかに波打つ。その波が車の進行方向に向かって勢いを増し、岸辺の氷が割れてしまう事態が起きるのを防ぐため、アイスロードは岸の近くでカーブを描くのだ。
全長約30キロに及ぶマリアン湖のアイスロードを抜け、白樺やカラマツの森に入る。夏には一面、湿地帯となるが、雪が地表を覆っている。お尻が時々シートから浮かんでしまうほどのでこぼこ道が続き、まるで悪路を走行するラリーカーに乗ったような気分になる。
イエローナイフから約210キロ。およそ5時間をかけてワチに到着した。
人口550人の小さな集落には、ブルーやオレンジといったカラフルな平屋が建ち並ぶ。村を挙げて開かれる先住民伝統の賭け遊び「ハンドゲーム」の大会を翌日に控え、住民は準備に追われていた。
トリチョ族の人々はどことなく日本人に似ている。子宝に恵まれた世帯が多く、村の中心にある学校では、日が暮れた後も子供たちがスノーモービルで雪の積もった氷点下の校庭を走り回っている。
「さあ、食べて、食べて」
学校の体育館に設けられた食堂で、村の女性にカリブーのシチューなど、ワチの味で「おもてなし」を受けた。人々は気さくで次々と話しかけてくる。
「どっから来たんだ。日本?ハンドゲームを見に来たのか?見ないで参加したらどうかね?」
アイスロードができて陸の孤島でなくなるこの時期、遠くから多くの先住民が参加するハンドゲームには、どんな魅力があるのだろう。期待に胸が膨らむ。
https://www.jiji.com/jc/v4?id=201603canada-northwest0007