北海道新聞 04/24 05:00
24日で開設まで1年となったアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」を生かし、消滅の危機にあるアイヌ語を復興する取り組みが進んでいる。ウポポイ内の案内などは第1言語をアイヌ語とし最上位に表記。外来語などの新しい言葉もアイヌ語で表現する方法を検討する。中核施設の「国立アイヌ民族博物館」は、展示エリアの解説文のアイヌ語執筆に道内外のアイヌ民族約15人が協力しており、関係者たちは「アイヌ語が自然に存在する社会に」と願っている。
「今の自分たちの暮らしに照らし合わせて、アイヌ語を考えるきっかけになった」。協力者の1人、神奈川県鎌倉市在住の瀧口(たきぐち)夕美さん(47)=釧路市阿寒町出身=は、修正を重ねたアイヌ語の解説文を眺めながら話す。
施設内はアイヌ語を最上位に置き日本語と英語も明示。中国語や韓国語など他言語の表記も検討中だ。
■解説文執筆
協力者は、言語学者らとペアを組み、「カムイとの関わり」「現代の仕事」など博物館の展示エリアごとにアイヌ語の解説文を考える。アイヌ語はかつて口承のみで文字を持たなかったため、カタカナで発音を表記する方針。各地の方言で書き、多様性も生かす。
瀧口さんは15年ほど前、アイヌ語を学び始めた。例えば、キツネは「ケマコシネカムイ(足の軽い神)」の他に「チロンヌプ(われわれが殺すもの)」という表現もある。言葉の連なりから文化の成り立ちを実感でき、アイヌ語を通して「自分の中で不確かだったアイヌ像を捉えられつつある」と話す。
アイヌ語は、明治政府が日本語教育を強制したことなどにより衰退し、現在の話者は極めて少ない。国連教育科学文化機関(ユネスコ)公表の危機的言語・方言の中でも、5段階評価で最も危機的なランクに位置づけられている。
解説文の執筆に協力する札幌大4年の葛野大喜さん(21)は、静内町(現日高管内新ひだか町)でエカシ(長老)と慕われた祖父の故辰次郎さんのアイヌ語の言い回しを参考に文を考えた。「自分だからこそ書ける解説にしたい。じいちゃんたちが日常的に使っていた言葉を大切にしていけたら」と願う。
■新語も翻訳
博物館の設立準備室は昨年度、言語学者やアイヌ文化伝承者ら約10人のアイヌ語新語検討ワーキング会議を発足させ、「ベビーカー」や「非常口」などかつて存在しなかった単語の表記方法を検討中。例えばイスは「上に座るもの」など言葉を組み合わせる。
準備室の佐々木史郎主幹は「あくまでウポポイ内での表現として、文法的に誤りがなければ広く採用している。言葉が時代に伴い変化していくように、使いやすい単語が自然と残っていく形にしたい」と話す。
アイヌ民族で、同会議メンバーの北大アイヌ・先住民研究センターの北原次郎太モコットゥナシ准教授(43)は「アイヌ語の復興は、現代のアイヌの民族意識を支えるだけでなく、アイヌ語の音声や記録を読み解き、かつての思想や暮らしを知る糸口にもなる」と意義を説明する。
施設内の職員の業務連絡をアイヌ語にしたり、ガイドブックを作って来場者にもアイヌ語を話してもらうことなどを提案。「ウポポイに関わる全ての人が少しでもアイヌ語を使うという行動を通じ、民族共生の言葉を体現していってほしい」と話している。(斉藤千絵)
◆ケマコシネカムイのシ、チロンヌプのプは小さい字
◆北原次郎太モコットゥナシ准教授のシは小さい字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/299382
24日で開設まで1年となったアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」を生かし、消滅の危機にあるアイヌ語を復興する取り組みが進んでいる。ウポポイ内の案内などは第1言語をアイヌ語とし最上位に表記。外来語などの新しい言葉もアイヌ語で表現する方法を検討する。中核施設の「国立アイヌ民族博物館」は、展示エリアの解説文のアイヌ語執筆に道内外のアイヌ民族約15人が協力しており、関係者たちは「アイヌ語が自然に存在する社会に」と願っている。
「今の自分たちの暮らしに照らし合わせて、アイヌ語を考えるきっかけになった」。協力者の1人、神奈川県鎌倉市在住の瀧口(たきぐち)夕美さん(47)=釧路市阿寒町出身=は、修正を重ねたアイヌ語の解説文を眺めながら話す。
施設内はアイヌ語を最上位に置き日本語と英語も明示。中国語や韓国語など他言語の表記も検討中だ。
■解説文執筆
協力者は、言語学者らとペアを組み、「カムイとの関わり」「現代の仕事」など博物館の展示エリアごとにアイヌ語の解説文を考える。アイヌ語はかつて口承のみで文字を持たなかったため、カタカナで発音を表記する方針。各地の方言で書き、多様性も生かす。
瀧口さんは15年ほど前、アイヌ語を学び始めた。例えば、キツネは「ケマコシネカムイ(足の軽い神)」の他に「チロンヌプ(われわれが殺すもの)」という表現もある。言葉の連なりから文化の成り立ちを実感でき、アイヌ語を通して「自分の中で不確かだったアイヌ像を捉えられつつある」と話す。
アイヌ語は、明治政府が日本語教育を強制したことなどにより衰退し、現在の話者は極めて少ない。国連教育科学文化機関(ユネスコ)公表の危機的言語・方言の中でも、5段階評価で最も危機的なランクに位置づけられている。
解説文の執筆に協力する札幌大4年の葛野大喜さん(21)は、静内町(現日高管内新ひだか町)でエカシ(長老)と慕われた祖父の故辰次郎さんのアイヌ語の言い回しを参考に文を考えた。「自分だからこそ書ける解説にしたい。じいちゃんたちが日常的に使っていた言葉を大切にしていけたら」と願う。
■新語も翻訳
博物館の設立準備室は昨年度、言語学者やアイヌ文化伝承者ら約10人のアイヌ語新語検討ワーキング会議を発足させ、「ベビーカー」や「非常口」などかつて存在しなかった単語の表記方法を検討中。例えばイスは「上に座るもの」など言葉を組み合わせる。
準備室の佐々木史郎主幹は「あくまでウポポイ内での表現として、文法的に誤りがなければ広く採用している。言葉が時代に伴い変化していくように、使いやすい単語が自然と残っていく形にしたい」と話す。
アイヌ民族で、同会議メンバーの北大アイヌ・先住民研究センターの北原次郎太モコットゥナシ准教授(43)は「アイヌ語の復興は、現代のアイヌの民族意識を支えるだけでなく、アイヌ語の音声や記録を読み解き、かつての思想や暮らしを知る糸口にもなる」と意義を説明する。
施設内の職員の業務連絡をアイヌ語にしたり、ガイドブックを作って来場者にもアイヌ語を話してもらうことなどを提案。「ウポポイに関わる全ての人が少しでもアイヌ語を使うという行動を通じ、民族共生の言葉を体現していってほしい」と話している。(斉藤千絵)
◆ケマコシネカムイのシ、チロンヌプのプは小さい字
◆北原次郎太モコットゥナシ准教授のシは小さい字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/299382