折にふれて

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同潤会代官山アパートメント 三上延

2022-02-21 | 折にふれて

「同潤会代官山アパートメント 三上延(新潮文庫)」

 


かつて、代官山に実在した同潤会アパートメントをモチーフに

そこで暮らした家族四代の物語だ。

昭和2年(1927年)に関東大震災の教訓から、

日本最初の鉄筋コンクリート造集合住宅が

東京の各地に建設された。

そのひとつ、新築されたばかりの代官山アパートメントに

震災で大切な人を失った新婚夫婦が入居してくる。

最初こそぎこちない新婚生活だったが

ふたりは次第に心を通わせ、

やがて物語は子や孫、ひ孫へと語り手を継いで

70年にわたる家族の肖像が紡がれていく。

クライマックスというべきものはない。

ただ淡々と簡潔な文章で物語は綴られる。

けれどもその中に、

人のやさしさや思いやりが幾重にも編み込まれ

それが静かな感動として何度も伝わってきた。

 

三上延という作家を知っていて、読み始めたわけではない。

新聞の広告欄で目にした「同潤会アパートメント」という言葉に惹かれたのだ。

今、建設の仕事をしているが、そのきっかけとなったのが集合住宅の企画だった。

そして、その集合住宅のあり様を考える上で、

大いに参考となったのが「同潤会アパートメント」だった。

その中でも、もっとも知られていたのは表参道の青山アパートメントだったが、

当時、折しも、老朽化によるアパートの解体と再開発が計画されていた。

また、その一方で、保存を求める声が広がってもいた。

ケヤキ並木のゆるい坂道にそって建つ青山アパートメントは

地元だけでなく、その景観を知る人たちに広く愛されていたからだ。

仕事上の興味と景観への憧れ、

さらに解体騒動がきっかけとなり、

各地の同潤会アパートメントを調べ始め、

代官山アパートメントについても知ることとなった。

 

代官山アパートメントもすでに解体されているが

その顛末は小説の最終章でも語られている。

    

  代官山 2011.01  Leica M6  Summicron F2/50㎜

掲載した写真は解体を経て、その後の再開発で建設された

高層の複合施設「代官山アドレス」付近で撮ったものだ。

 

さらに、もう一枚。

こちらは表参道に沿って続く在りし日の青山アパートメントを撮ったものだ。

傘をさして歩いている二人は家内と義母。

義母が亡くなって16年経つのでおそらくは20年以上は前の風景だ。

ちなみに、現在この地には表参道ヒルズが建っている。

    

折にふれて 記憶の中の風景 表参道にて 2013.12.13

 

「同潤会代官山アパートメント」というタイトルを目にした瞬間、

代官山と表参道の景色が蘇り、懐かしさのあまりこの小説を手にした。

そして、さわやかな読後感とともに「記憶の中の光景」をあらためて手繰り寄せようとしたのである。

 

 

 

 

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