こたつの回りに本を積み、筆記用具を並べ、おやつのミカンを置く。愛用の火鉢に火をおこし、テレビと蛍光灯のリモコンも忘れない。それらを整えて、夫はこたつの人となる。そして冬季ゴローと自称する。
ゴロー氏べったりの猫がいる。こたつの中で、突き出た足のすき間をぬって寝そべっている。彼女はおしっこの時いつも、「誰か戸を開けて」と訴えるが、ゴロー化した冬季家の人が誰も動かないと、勝手口のたたきに用を足す。木枯らしや冷たい雨の夜、特にたたきが濡れている。冬季家の名に恥じない立派な猫だとゴロー氏は言う。
ある日、ゴロー氏がカツ丼を作ると言いだした。料理番組を見て、心が動いたようだ。肉をたたく音がして、だし汁と揚げ物の香りがこたつまで届く。
ゴロー氏は、料理は苦にならない。朝のみそ汁、昼のめん類はよく作る。ただ妻の口出しだけは受けたくない。1人で、自分流に、自分の手順で作りたい。
カツ丼が運ばれてきた。妻は幸せに浸った。思い描いていたカツ丼とは違うゴロー流カツ丼。
「だしが利いていて上出来よ」
食後、ゴロー氏は満足げに猫と再びこたつの人となる。台所はパン粉や卵が飛び散り、油まみれの鍋類が積まれていた。
冬季家の冬は続く。
中島フヂ子(61) 2008/2/8 毎日新聞/女の気持ち掲載
ゴロー氏べったりの猫がいる。こたつの中で、突き出た足のすき間をぬって寝そべっている。彼女はおしっこの時いつも、「誰か戸を開けて」と訴えるが、ゴロー化した冬季家の人が誰も動かないと、勝手口のたたきに用を足す。木枯らしや冷たい雨の夜、特にたたきが濡れている。冬季家の名に恥じない立派な猫だとゴロー氏は言う。
ある日、ゴロー氏がカツ丼を作ると言いだした。料理番組を見て、心が動いたようだ。肉をたたく音がして、だし汁と揚げ物の香りがこたつまで届く。
ゴロー氏は、料理は苦にならない。朝のみそ汁、昼のめん類はよく作る。ただ妻の口出しだけは受けたくない。1人で、自分流に、自分の手順で作りたい。
カツ丼が運ばれてきた。妻は幸せに浸った。思い描いていたカツ丼とは違うゴロー流カツ丼。
「だしが利いていて上出来よ」
食後、ゴロー氏は満足げに猫と再びこたつの人となる。台所はパン粉や卵が飛び散り、油まみれの鍋類が積まれていた。
冬季家の冬は続く。
中島フヂ子(61) 2008/2/8 毎日新聞/女の気持ち掲載