年々体の小さくなっていく87歳の母の服や寝間着の裄や丈を短くつめて、「お母さん、できたよ」と声をかける。
「はい、ありがと」
母はペコンと頭をさげる。何ともかわいい仕草である。
ふと、友人の話を思い出した。
やむを得ず、施設入所のお母様を外泊許可をとって家へ連れて帰ってきた時のことだという。
彼女は張り切って妹と2人でお母様の好きなものを作り、「お母さんできたよ」と食卓に呼んだらしい。ところが、庭に目を向けたままで何の反応もない。
聞こえていないのかなと思い、そばまでいって「お母さん」と呼んだ。それでも、キョトンとした顔をなさっていたそうだ。
そこで妹さんが思いついて「○○さん、食事ですよ」と名字で声かけをしてみたところ、「はい」と元気のよい返事がかえってきたという。
「ショックだったねえ、でも、お母さん、なんて、もうずっと長く呼ばれたことがないもんねえ」
友人は半分笑いながら、半分悲しそうな顔をしていたっけ。
ちょっぴりしんどいけど、「お母さん」と呼べば応えてくれる今を大事にしていこう。私はそう思っている。
長崎市 山口展子(55) 2008/2/15 毎日新聞「女の気持ち」掲載
「はい、ありがと」
母はペコンと頭をさげる。何ともかわいい仕草である。
ふと、友人の話を思い出した。
やむを得ず、施設入所のお母様を外泊許可をとって家へ連れて帰ってきた時のことだという。
彼女は張り切って妹と2人でお母様の好きなものを作り、「お母さんできたよ」と食卓に呼んだらしい。ところが、庭に目を向けたままで何の反応もない。
聞こえていないのかなと思い、そばまでいって「お母さん」と呼んだ。それでも、キョトンとした顔をなさっていたそうだ。
そこで妹さんが思いついて「○○さん、食事ですよ」と名字で声かけをしてみたところ、「はい」と元気のよい返事がかえってきたという。
「ショックだったねえ、でも、お母さん、なんて、もうずっと長く呼ばれたことがないもんねえ」
友人は半分笑いながら、半分悲しそうな顔をしていたっけ。
ちょっぴりしんどいけど、「お母さん」と呼べば応えてくれる今を大事にしていこう。私はそう思っている。
長崎市 山口展子(55) 2008/2/15 毎日新聞「女の気持ち」掲載