はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ねえ、お母さん

2008-02-15 07:38:41 | 女の気持ち/男の気持ち
 年々体の小さくなっていく87歳の母の服や寝間着の裄や丈を短くつめて、「お母さん、できたよ」と声をかける。
 「はい、ありがと」
 母はペコンと頭をさげる。何ともかわいい仕草である。
 ふと、友人の話を思い出した。
 やむを得ず、施設入所のお母様を外泊許可をとって家へ連れて帰ってきた時のことだという。
 彼女は張り切って妹と2人でお母様の好きなものを作り、「お母さんできたよ」と食卓に呼んだらしい。ところが、庭に目を向けたままで何の反応もない。
 聞こえていないのかなと思い、そばまでいって「お母さん」と呼んだ。それでも、キョトンとした顔をなさっていたそうだ。
 そこで妹さんが思いついて「○○さん、食事ですよ」と名字で声かけをしてみたところ、「はい」と元気のよい返事がかえってきたという。
 「ショックだったねえ、でも、お母さん、なんて、もうずっと長く呼ばれたことがないもんねえ」
 友人は半分笑いながら、半分悲しそうな顔をしていたっけ。
 ちょっぴりしんどいけど、「お母さん」と呼べば応えてくれる今を大事にしていこう。私はそう思っている。
   長崎市 山口展子(55) 2008/2/15 毎日新聞「の気持ち」掲載

花の風景

2008-02-15 07:09:40 | はがき随筆
 門扉の下の小さな亀裂に一本、石蕗(つわぶき)が伸びてきたので「ど根性石蕗」として大事に見守ってきた。昨年に続き今年も、年末年始に門を彩ってくれた。
 その石蕗もすっかり枯れ果て寂しく思っていたら、水仙の花が庭のどこそこに伸び上がり、高貴な香りを醸してくれる。貧しくても、朝夕は豊かな気持ちだ。庭に立つのがうれしい。
 水仙の花の長持ちを願っていたら、生け垣に沈丁花(じんちょうげ)の蕾が緩みはじめ、台所の窓近くでは雪柳がもうすぐ満開だ。八重桜の芽も膨らみはじめた。
 「春隣」という言葉がぴったりの毎日だ。
   鹿児島市 福元啓刀(78) 2008/2/15 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はmumboさんからお借りしました。