「自転車で、目指すは佐多岬……か。面白そうじゃないか!」。新年紙面を議論していた支局の企画会議。若手記者の思いつきに即座に飛びついた。実際に走るのはもちろん私じゃなく言い出しっぺである。無責任な支局長の後押しで、村尾哲記者の運命は決まった。
行きがかり上、当日は大隅地区担当の新開良一記者(鹿屋通信部)と共にサポート役を務めた。新開記者は四輪駆動車、当方は650㏄の大型バイク。いずれも折り畳み式自転車に比べれば楽ちんこの上ない。当日は雲一つない快晴、絶好のツーリング日和となり、3人の中で多分、私が一番はしゃいでいたと思う。
実は佐多岬を訪れたのは初めてだった。聞きしに勝る絶景に感動した半面、いくつかの不満も覚えた。まず「ゴール」となる駐車場。ここが本土最南端の地だと分かる表示は電話ボックスに書かれたものだけ。実際の岬はやや離れた場所だから仕方がないと言えばそれまでだが、ちょっと肩すかしを食らった気分だ。
入園料を払って一路、岬へ。左右に開ける展望に心を奪われていると突然、廃屋と化したレストハウスが出現。眺めがすばらしいだけに落差を感じることはなはだしい。また台風でガラス戸が吹き飛んだままの有料展望台。結果的に素通しとなって抜群の眺めを損なわずに済むのは皮肉だ。
観光地として往時のにぎわいに程遠いことは知っている。それでも「最南端」の魅力は捨てたものではないようだ。現地の神社に置かれたノートには「日本一周(縦断)」「九州一周」などの文字と共に熱いメッセージが数多く記されていた。自転車の人(ただし「もう少し性能のいい自転車」だが)が少なくないことにも驚かされた。
人工物で固めた観光地がいいとは思わない。観光のニーズも時と共に変わる。だが観光立県をうたうなら「資源」の生かし方に課題は多そうだ。
鹿児島支局長 平山千里 2009/1/5 毎日新聞掲載
行きがかり上、当日は大隅地区担当の新開良一記者(鹿屋通信部)と共にサポート役を務めた。新開記者は四輪駆動車、当方は650㏄の大型バイク。いずれも折り畳み式自転車に比べれば楽ちんこの上ない。当日は雲一つない快晴、絶好のツーリング日和となり、3人の中で多分、私が一番はしゃいでいたと思う。
実は佐多岬を訪れたのは初めてだった。聞きしに勝る絶景に感動した半面、いくつかの不満も覚えた。まず「ゴール」となる駐車場。ここが本土最南端の地だと分かる表示は電話ボックスに書かれたものだけ。実際の岬はやや離れた場所だから仕方がないと言えばそれまでだが、ちょっと肩すかしを食らった気分だ。
入園料を払って一路、岬へ。左右に開ける展望に心を奪われていると突然、廃屋と化したレストハウスが出現。眺めがすばらしいだけに落差を感じることはなはだしい。また台風でガラス戸が吹き飛んだままの有料展望台。結果的に素通しとなって抜群の眺めを損なわずに済むのは皮肉だ。
観光地として往時のにぎわいに程遠いことは知っている。それでも「最南端」の魅力は捨てたものではないようだ。現地の神社に置かれたノートには「日本一周(縦断)」「九州一周」などの文字と共に熱いメッセージが数多く記されていた。自転車の人(ただし「もう少し性能のいい自転車」だが)が少なくないことにも驚かされた。
人工物で固めた観光地がいいとは思わない。観光のニーズも時と共に変わる。だが観光立県をうたうなら「資源」の生かし方に課題は多そうだ。
鹿児島支局長 平山千里 2009/1/5 毎日新聞掲載