はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

本土最南端

2009-01-05 21:36:11 | かごんま便り
 「自転車で、目指すは佐多岬……か。面白そうじゃないか!」。新年紙面を議論していた支局の企画会議。若手記者の思いつきに即座に飛びついた。実際に走るのはもちろん私じゃなく言い出しっぺである。無責任な支局長の後押しで、村尾哲記者の運命は決まった。

 行きがかり上、当日は大隅地区担当の新開良一記者(鹿屋通信部)と共にサポート役を務めた。新開記者は四輪駆動車、当方は650㏄の大型バイク。いずれも折り畳み式自転車に比べれば楽ちんこの上ない。当日は雲一つない快晴、絶好のツーリング日和となり、3人の中で多分、私が一番はしゃいでいたと思う。

 実は佐多岬を訪れたのは初めてだった。聞きしに勝る絶景に感動した半面、いくつかの不満も覚えた。まず「ゴール」となる駐車場。ここが本土最南端の地だと分かる表示は電話ボックスに書かれたものだけ。実際の岬はやや離れた場所だから仕方がないと言えばそれまでだが、ちょっと肩すかしを食らった気分だ。

 入園料を払って一路、岬へ。左右に開ける展望に心を奪われていると突然、廃屋と化したレストハウスが出現。眺めがすばらしいだけに落差を感じることはなはだしい。また台風でガラス戸が吹き飛んだままの有料展望台。結果的に素通しとなって抜群の眺めを損なわずに済むのは皮肉だ。

 観光地として往時のにぎわいに程遠いことは知っている。それでも「最南端」の魅力は捨てたものではないようだ。現地の神社に置かれたノートには「日本一周(縦断)」「九州一周」などの文字と共に熱いメッセージが数多く記されていた。自転車の人(ただし「もう少し性能のいい自転車」だが)が少なくないことにも驚かされた。

 人工物で固めた観光地がいいとは思わない。観光のニーズも時と共に変わる。だが観光立県をうたうなら「資源」の生かし方に課題は多そうだ。

鹿児島支局長 平山千里 2009/1/5 毎日新聞掲載

娘のチェック

2009-01-05 16:01:33 | はがき随筆
 最近、私の文章に11歳の娘がチェックを入れるようになった。机の上に置いた書きかけの原稿用紙が、ちょっ変! 微妙に動いている。見たな!! 案の定、11歳の娘という文字の横に「現在」と書き添えてある。思わずニヤリ、の私。今までは決して私の書く物を読んだり興味を示したりすることはなかったのに、ちょっと変わってきた。無関心のふりをして、しっかり気にしているようなのだ。どんな様子で読んでいるのか想像するとおかしいが、私は今の状況を気に入っている。今年は、もっと手厳しくチェックする女子中学生になるだろう。楽しみ!
 鹿児島市 萩原裕子(56) 2009/1/5 毎日新聞鹿児島版掲載

大皿は残った

2009-01-05 15:55:39 | はがき随筆
 物を捨てられないので台所の収納は昔のままだ。みそ作りを楽しんだ蒸し器も、今はお呼びがないまま鎮座ましましている。もったいない気持ちは分かるけど思い切らないと片づかないと言う娘に「はい、そうですね」と言う心境ではないが、次々と片づけられていく物たちがいとおしく思える。いったん運び出したものの、未練がましく大皿1枚を取り出した。子どもたちが、大盛りの手作り餃子を競い合って食べたころを思い出す。懐古趣味だと笑われるが、次は孫たちに手作りをと、ちらっと娘を見ながら大皿は残った。
   鹿児島市 竹之内美知子(74) 2009/1/4 毎日新聞鹿児島版掲載