はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

春はそこまで

2009-01-27 11:57:53 | アカショウビンのつぶやき




 久しぶりに二階の窓から、ゆっくりと庭を眺めると、紅梅がちらほら開いている。慌ただしかった日々を振り返り、「あぁ、春はそこまできてるんだ…」とやっと気づかされた。

 年末から体調を崩し、人工呼吸器で命をつないでいた91歳の兄が旅立ち、山口までお別れに行ってきた。10日前に見舞ったときは、かすかに目を開き、声を掛けるとうなずいたように思えたのだが…。安らかな表情の兄は幸せだった。4歳のひ孫が、お線香を絶やさぬようにと何回も何回も小さな手を合わせて焼香していた。家族の優しさがジーンと伝わってくる。

末っ子の私とは16も歳が離れ、一緒に生活した期間が短いので、断片的な記憶しかないのだが、穏やかな兄だった。
器用な人で「器用貧乏ってお前のことを言うのかねえ」なんて、母に言われていた兄。兄が50年以上前に作ってくれた和箪笥は見栄えは良くないけれど今も健在。とうとう形見になってしまった。

バス、フェリー、新幹線つばめ、リレーツバメ、山陽新幹線と乗り継いでの長い旅だった。食欲が出るかなと、鹿児島駅で「篤姫べんとう」を買ってみたが、半分しか食べられなかった。

風は冷たいけれど春はもうすぐ。
慶事も近づいた…。さあ、気持ちを切り替えて歩き出そう。

生きている

2009-01-27 10:10:19 | はがき随筆
 新美南吉さん(1913~1943年)の名作「ごん狐(ぎつね)」を読んだ。独りぼっちのこぎつね・ごんのけなげさに心打たれる。ごんは、どうして独りぼっちになってしまったんだろう。兵十がもし銃を持っていなかったなら──。次から次へと空想が広がる。「手袋を買いに」のこぎつねや「うた時計」の廉のけなげさ、純粋さにも心を打たれる。子どもってこんなものだよと語りかけているようだ。
 30年という短い人生の中でたくさんの童話を残された。それは今でも人々に読み継がれ、ずっとずっと生きている。童話の中でずっとずっと生きている。
   出水市 山岡淳子(50) 2009/1/27 毎日新聞鹿児島版掲載