はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

美しい河口

2006-12-07 12:15:35 | はがき随筆
 私の故郷を、万之瀬川という川が流れている。白砂青松の海岸が続き、とても美しい所である。この河口を夕日が染めて沈む時は、特に美しい。アララギの歌人中村憲吉も「砂丘の裾をめぐりて川ひくく夕映えの色を海にそそげり」と詠んでおり、その歌碑も立っている。
 この付近は、釣りをする人もよくいるが、秋になると数百羽の鴨の群が渡ってきて越冬する。国際保護鳥クロツラへラサギも十数羽くる。私は時々、ここに来て心身を癒すが、故郷にこういう素晴らしい場所があるのを心から誇りに思っている。
   南さつま市 川久保隼人(72) 2006/12/7 掲載
写真はぷちとまとさんよりお借りしました。

心に残る旅

2006-12-06 09:35:09 | はがき随筆
 今回は7年前の東欧の音楽中心の旅とは違った。アウシュビッツ強制収容所跡を訪れた時は余りの恐怖に誰も声が出なかった。強烈な印象。残酷だ。
 夕べの祈りのパイプオルガンの音色と優しい半月にやっと救われた。粗末な列車(一等車?)の窓からは聖霊の日のお供えの色とりどりの蝋燭と、おびただしい菊の花が帯のように流れる。
 ハンガリーの民族音楽ディナーの一時を想起し平和な日々に感謝した旅でもあった。
   薩摩川内市 上野昭子(78) 2006/12/6 掲載

写真は本文と関係ありません。

桜島は応援団長

2006-12-05 18:03:04 | はがき随筆
 「選手の皆さん、桜島が歓迎しています」。鴨池陸上競技場の放送に、全九州マスターズ陸上選手権大会に参加したアスリートたちは、南岳の噴煙に「オーすごい!」と感動の声をあげる。迫力に見とれ、招集係に促される人もいて、笑いが号砲前の緊張を和らげる。桜島の勇姿や呼吸にパワーを得たのか好記録が続出した。特に薩摩オゴジョがトラック競技で次々に出す新記録に、スタンドが大いに沸いた。私も桜島の〝気〟をもらったせいか、20㍍走で32秒15の記録で4位入賞。桜島は、いろいろなスポーツ選手を育み励ます応援団長に思えてくる。
  出水市 清田文雄(67)2006/12/5掲載

ぼけ対策

2006-12-04 17:55:57 | はがき随筆
 つり目は垂れ目に、乳も腹も日々垂れていく……。脳細胞もプツンプツンと音をたててつぶれていく。顔、体は鏡を見ない努力で解決できそう。でも頭だけは、ある程度、まともでないと生活できない。何か対策をと考えていた矢先、水曜版に〝数独〟が載るようになった。興味のない分野のものであるが、やってみたら面白く虜になった。1から9までの数字を縦・横の列、3×3のブロックに一つずついれるルールで、既に書いてある数字以外のマスを埋めていくというもの。心身共に色あせていた私に福音がもたらされたような気持ちだ。
   鹿児島市 馬渡浩子(59)2006/12/4掲載 特集版-6

重篤なる病

2006-12-04 17:48:12 | はがき随筆
 毎年給料が下がり続けて8年目、この4月からは3%のカットも。市内に越してからは住居関連の支出が6万余り、と結構きつい。
 これまでの芝居三昧で貯金もほとんどゼロ。「野口英世の世界」で暮らしている。
 ある会合でカラオケ代を立て替えてほしいと頼まれた時なぞは青ざめて、管理費を入れた封筒からン千円を支払ったような次第。
 大好きな芝居を見るにも通帳と相談しながら、赤字覚悟で出かけている。芝居を見たい病と金欠病。どちらもかなりの重態である。
   鹿児島市 本山るみ子(54) 2006/12/4 掲載 特集版-5

写真は「博多座」但し、本文とは関係ありません。

お巡りさんに感謝

2006-12-04 17:20:07 | はがき随筆
 朝夕は深まる秋を感じるこのごろ、早朝散歩にジャケットも要るようになった。それでも雨が降らない時は散歩に行く。ある日、暗い道を夫と歩いているとパトカーが目の前で急に止まった。「何事だろうか……」と驚き、胸がドキドキした。お巡りさんが車から降りて「これを2人とも身につけてください」と反射帯を着けてくださった。「ありがとうございます」と言う間もなく、パトカーは闇に消えた。反射帯を着けるたびにあの時の喜びと感謝の気持ち、またお巡りさんに対しての優しさと温かいイメージを忘れない。
   出水市 橋口礼子(72) 2006/12/4 掲載 特集版-4

愛車と共に

2006-12-04 17:15:34 | はがき随筆
 冬の木枯らしにも負けず、颯爽と駆けた若いころのようにはいかない年齢になったけれど、年を重ねてなお手放せない唯一、私の愛車「ミニバイク」。5年間隔で新車に買い替え、現在6台目で運転歴30年の初老ドライバーである。四季折々、近隣の町周辺を遠出したり、小回りの利く利点もあり日常の用達はもとより、気の向くままに乗り回して来たが、加齢と共に時折、心身の機能低下の不安がよぎる。人生、立ち止まる事も大事かと肝に銘じ、急がず、ゆっくり、年相応に可能な限り、分身のような「ミニバイク」とかかわって生きたい。
   鹿屋市 神田橋弘子(69) 2006/12/4 掲載 特集版-3

錦繍の秋

2006-12-04 17:10:11 | はがき随筆
 いつの間にか柿の葉は散り、子守柿もなくなっていた。暖かいせいか庭の木は紅葉しないまま落葉していく。ころころ転がる落ち葉を集めていると、わずか枝先の1、2枚を真っ赤にしたモミジがあった。美しいなと眺めているうち壮大な錦繍(きんしゅう)の秋を思い出した。
 6年前、中国を旅した折、万里の長城に行った。階段を上がりながら辺りの木々の紅葉に感嘆の声を上げた。やっと上りついた時、遠く延々と続く長城に驚いたが、更に眼下に広がる錦に彩られた風景。それも長城に沿って続いていた。もう一度、訪ねてみたい。
 出水市 年神貞子(70) 2006/12/4 掲載 特集版-2

妻の背中

2006-12-04 17:05:49 | はがき随筆
 妻は朝刊が届くと、まず折り込みチラシを入念に見る。「今日はポイントが5倍」とか「商品によっては定価の半額よ」と独り言。主婦の仕事を済ませ、スーパーの開店時間に会わせて自宅を出る。先日、スーパーに行った妻から電話があった。品物が安いので買い過ぎた。自転車に積みきれないので迎えに来てと言う。「老生の俺まで呼び出して」と、つぶやきながら電動自転車にまたがり向かった。スーパーの入り口に妻がいて、買った品物を私の電動自転車の荷台にも積んだ。帰路、妻が自転車を懸命にこぐ姿を見て、なぜか目頭が霞んできた。
   姶良町 谷山 潔(80) 2006/12/4 掲載 特集版-1

小さな助っ人たち

2006-12-03 23:01:43 | はがき随筆
 暇をみて、愛宕山に登る。ふと、世間の煩を忘れるのがいい。410段、曲がり具合にも親しみを覚える。
 前年は、初参加した陸上マスターズでは見事、ビリだった。もう止めようかと迷いながらも登り始める。
 頂上付近でホーと声を出す。すると不思議なことによく野鳥が現れる。彼らは歌がうまい。間を張りを主張するらしいのは一話で声を四方に響かせる。小さくたえず囀っているのはアベックで来た雄であろう。
 私はとても嬉しくなる。知らず知らずに応援をもらっている。紫尾の連山を南に眺め、西へ不知火の海を望む。
   出水市 松尾 繁(71) 2006/12/3 掲載
写真はBird Watchingさんよりお借りした「カシラダカ」です。冬鳥として渡来し大きな群れで冬を越す、ホオジロの仲間です。

私のカレー物語

2006-12-02 11:54:58 | はがき随筆
 15歳のとき、大分の飛行兵学校で訓練を受けていた。昼食で教室に帰ると、おいしそうな香りが食欲をそそる。席につくと、いつもと違うどろどろした汁がどんぶりに注いである。
 みんな汁をご飯にかけ、目を輝かせて食べていた。私は汁かけご飯は猫が食うものと、祖母に躾られていたから汁と飯を別々に食べていると、戦友が「貴様これライスカレーだからご飯にかけろよ」と言う。「いや俺は猫じゃないから」と言い合った。
 その戦友も戦死した。今、彼は故郷の紅葉を浴びて、母親と安らかに眠っているだろう。
   鹿児島市 福元啓刀(77) 2006/12/2 掲載
写真はboncoさんよりお借りしました。

ツワ咲けり

2006-12-01 09:12:24 | はがき随筆
 ツワブキの花が咲き始めた。4年前、鹿児島から阿久根に引き上げるとき、俳句の師にいただいたものだ。
 うっとりと見ほれていると、草花が好きなA子さんがやって来て、「わあ、ツワの園になったね」と言いながら畑を見て回っている。
 ふと、吟行で訪れた鹿児島市郊外の美術館や俳句仲間が恋しくなった。
 「先生ツワが咲きました」
 ケイタイに入れると
 「俳句会をしましょうか」
 なんともうれしい返事が来た。
 草に覆われていた青空工房も復活させて、みんなのおいでを待とう。
   阿久根市 別枝由井(64) 2006/12/1 掲載
写真はnakayoshiさんからお借りしました。