はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

本場の味

2010-05-25 20:03:54 | はがき随筆
 ぼくたちの旅では、食べる楽しみを度外視しては計画が立たない。そしてついに食べることが目的地になる。
 中華料理を本場で食べようと向かった先が台北市。着いたその夜ホテルのレストランに陣取り、豚肉、鳥肉の炒め物でビールの乾杯。その後3日間中華三味となるが、期待の味とはちょっと違う。辛さは苦にならないが、独特の香辛料の香りと味付けの濃さが口に残る。日本の味、いや家内の味に順応した報いかしら。
でも異国情緒と至宝を目の当たりにした感動は、味覚に替えがたい味わいである。
  志布志市 若宮庸成(70) 2010/5/25 毎日新聞鹿児島版掲載

もう一人娘が

2010-05-25 08:16:43 | はがき随筆
 「父ちゃんを一人にしておくのが心配だ」
 「あなたの痛みを見るのが忍びない」
 夫婦でいろいろと話し合い、結局、妻はひざを手術した。2ヵ月余りの入院生活。一人でも大丈夫と思っていたが、何やかやとあり、ついにお手上げ状態に。
 娘が川崎から帰って来てくれて、助かった。妻の介護、炊事、洗濯、目まぐるしく動いてくれた。2ヵ月余り続いた介護。済まない気持ちでいっぱいになった。
 もう一人娘が欲しかったと思うことしきり。
  薩摩川内市 新開譲(84) 20105/24 毎日新聞鹿児島版掲載

「Kusse」の日

2010-05-24 17:48:59 | アカショウビンのつぶやき


 平成22年度鹿屋市自主文化事業として計画された「かのや第九演奏会」。

一般公募で結成された「かのや第九合唱団」ですが、発表まで200日を切り、もっとも難しいところにさしかかりました。

指導のために霧島市から2時間かけて来てくださるO先生は、昨日もジョーク連発で、自信を失いそうな団員を励ましてくださいます。

冒頭、O先生は「今日はキュッセの日です」。
??の私たち…。
あっそうか、シラーの「歓喜の歌」に「口づけを与えた…」のくだりがあったなぁ。
発声の口の形を指導する先生は、このように楽しい話題でわかりやすく教えてくださる。

しばらくして、女子高校生たちから一斉に笑い声が起こる。

なーんだ、今頃気がついたの…かわいいなあ。

開き始めた「タイサンボク」

2010-05-24 15:20:59 | アカショウビンのつぶやき


 一昨日、頂いたときは、カチカチだった「タイサンボク」の蕾。
夕べさわってみると、気のせいか少し柔らかくなったような感じだった。

 それが、今朝見るとほわーっとほころび、あたりに涼しげな香りを漂わせている。
大木に咲く「タイサンボク」も見事だったが、花瓶に挿した「タイサンボク」は、それ以上に豪華で気品がある。

 上側の花弁は引力に逆らえないのか、まだ開かない。
 明日は全開となるかなぁ…。

初夏の匂い

2010-05-23 19:10:36 | はがき随筆
 風が頬を撫でてゆく。テラスで時間がゆっくりと流れる。
 ばらの花柄のティーカップはこんなひとときのために通販で買い求めたお気に入り。古いカップは捨てた。もったいないという考えを捨てた。古びていく自分が新しくされていくような錯覚でいい。頭の中は空っぽで、ただ、座っている。
 チュンチュンとスズメが楽しげ。かすかに漂う初夏の匂い。花壇の春は終わった。初夏へバトンタッチだ。山吹、黄モッコウバラ、ネムの木にかわり、紫陽花の蕾が膨らんできた。そして、淡いブルーの花咲くルリマツリへと季節は移ってゆく。
  鹿屋市 田中京子(59) 2010/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

収穫

2010-05-23 18:55:23 | はがき随筆
 家庭菜園を始めて十年過ぎた。さまざまな野菜の収穫に与り、野菜作りが楽しい。
 この春、玉レタスを収穫した後、いつもは株を抜き耕すが、ふと、この株はこのままにしたらどうなるか試してみたくなり、そのままにした。
 しばらくすると古株に三つの芽が出て、そのうち葉を増し、固くしまった玉レタス3個になった。その成長は苗からより早い。1本の苗から2度収穫、しかも後は3個の大収穫に驚くやら嬉しいやら。ますます家庭菜園にはまった。今朝取れたレタスをサラダにした。その瑞々しさとうまさに大満足。
  出水市 年神貞子(74) 2010/5/22 毎日新聞鹿児島版掲載

タイサンボク

2010-05-22 20:49:30 | アカショウビンのつぶやき
 「今年も咲きましたよ」と度々お誘いを頂きながら、見に行くチャンスがなかった、Kさん宅のタイサンボク。

 今年は3月に急逝された、Kさんの奥様から、お誘いのメールが届いた。今年こそは! と、霧雨の中をおたずねした。

 根回りは1㍍を越えそうな大木に、大輪の花をつけたさまは実に堂々として存在感がある。芳香を放つというが、あまりにも高くて全然香りが届かない。

 「もっと近くで見たいですね…」なんて言ったものだから、「開くかどうかわかりませんが、しばらく楽しんでみてください」と一枝切ってくださった。

 堅く閉じた純白のつぼみは10㌢を越す大きさ。咲かすことができたら、見事だろうなあ。

 Kさんのご存命中にお伺いすれば良かった…。
 遺された広い庭には、奥様を慰めるように、たくさんの花々が咲き誇っていた。

随友はいいなあ

2010-05-21 18:42:17 | アカショウビンのつぶやき








 声だけで交流していた指宿市に住む、随友Aさんを訪ねた。
 Aさんと交流が始まったのは9年前「毎日ペンクラブ鹿児島」の文集作成のおり、お誘いしたのがきっかけだった。

 はがき随筆スタート当時から投稿していたAさんのエッセイは、巧みな文章構成と短い文に織り込まれたユーモアが魅力で、私はファンになってしまった。ある日の電話で、私の親友・Fさんが彼の幼なじみであることが判明。幼い頃の思い出を懐かしそうに話すAさんに私は、Fさんと一緒に会いに行くことを約束した。

 それからまた数年を経て、やっと夢が叶いご対面となった次第。Aさんは奥様と、指宿市で「食処心作」を経営している。
予約客のみという方針を貫く彼の姿勢は多くの人に支持され、次々に訪れる常連客と和やかに言葉を交わしながら包丁を振るうAさんの姿はかっこよかった。そして彼が心を込めて作った料理は、ほんとうに美味しかった。

 料理の合間にFさんと交わす47年前の思い出話はつきず、童心にかえった二人はいつまでも遠い昔を懐かしんでいた。
来て良かった! おなかも心も大満足。
 「まっちょっでなぁ、またきやいなー」という彼の暖かい声に送られて今日はお別れ。

 随友はいいなあ…。

「こわもての裏」

2010-05-21 18:29:44 | 岩国エッセイサロンより
2010年5月20日 (木)

岩国市  会 員   沖 義照

作業着を着た茶髪の若者2人と相席でラーメンを食べていた。その時入口のドアが開き、電動車いすに乗った年配の男性が入ろうとしていた。だが、間口が狭くて入れない。

 男性は引き返して行った。見ていた若者と私の目が合った。「入れてあげよう」と言うと、「うん」とうなずく。食べかけのラーメンを置いて飛び出して行った。だが、すぐに戻って来た。「おぶってあげようと言ったが断られた」と言う。

 私の一言で行動を起こしてくれた。スタートダッシュに遅れた私は、さっきとは違うまなざしで茶髪の若者を見ていた。
  (2010.05.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

こころを耕す

2010-05-21 18:26:48 | はがき随筆
 山門の外に2人の子どもを持たせて御夫人が急ぎ足で境内に入って来られた。何か用かと思っていたら、まわりを無視してトイレに向かわれた。何か不愉快になった。帰りはあいさつがあるかと期待したが、今度は下を向いて通りすぎ、子どもと車で立ち去って行ってしまった。これだけのことである。けれども何とも言えない空虚な思いであった。
 「福田を耕す」という言葉がある。耕すことを怠ると福田も荒れる。無邪気なあの子たちのこころを、あの母親は耕してくれるのだろうか。日本中、休耕田が増えているのでは……。
  志布志市 ー木法明(74) 2010/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆4月度入選

2010-05-21 18:10:35 | 受賞作品
 はがき随筆4月度の入選作品が決まりました。

▽出水市武本、中島征士さん(65)の「走り雨」(17日)
▽薩摩川内市祁答院町下手、森孝子さん(68)の「後ろ盾」(27日)
▽鹿児島市武2、鵜家育男さん(64)の「門出・旅立ち」(24日)
の3点です。

 エリオットの詩に、「四月は一番残酷な月、死んだ土からリラの花を芽生えさせ、追憶と欲望をかきまぜて、春の雨で気だるい根を奮い起す」(『荒地』)というのがあります。残酷」かどうかは読者に任せるとしても、確かに四月は「追憶と欲望」の月ではあります。感じのいい追憶と欲望の随筆3編を優秀作にします。
 中島征士さん「走り雨」は、雨宿りをしながら、小学校や大学時代のにわか雨の追憶に浸る内容で、亡き母の記憶、年上の女性の「甘い香り」などが思い出されています。甘美な思い出はいいですね。詩的な文章にまとまっています。
 森孝子さん「後ろ盾」は、小学校の時、友人との遊びの中の口喧嘩で、負けそうになると、校長などの「後ろ盾」を持ち出して、権威付けしたという思い出です。最後は必ず「マッカーサー」を持ち出した、という微笑ましい内容です。あの頃は、泣く子も黙るのがマッカーサー(連合国軍総司令官)でした。
 鵜家育男さん「門出・旅立ち」は、札幌に就職して任地に向かう道中の思い出です。西駅発寝台車でまずは東京まで。上野から青森へ、青函連絡船、列車で函館から「大望を抱く札幌」へ、今では想像もできない長旅でした。クラーク博士ではありませんが、「大志」を抱いた時間、まさしく青春です。
 これらの他に3編を紹介します。
 竹之内政子さん「繋がったよ~」(30目)は、可愛いエピソードです。子供が、公衆電話での話し中の信号音が理解できなくて、固定電話を借りに来た。しばらくして掛け直させると、繋がったと大喜び。徳永ナリ子さん「楠」(8日)は、常緑樹は落葉しないと思っていたのに、楠木で、「ゆっくりと新旧の葉の衣替え」をすることを知ったという驚きが書かれています。田中京子さん「リフレッシュ」(6日)は、年齢とともに、身の周りのものが増え身軽になれない。思いきって文学全集から処分しだしたというもので、誰にでもある悩みが軽快に描かれています。      
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)
 
 係から 入選作品のうち1編は29日午前8時半過ぎからMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。
  2010/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載

下駄

2010-05-21 17:56:12 | はがき随筆
 下駄の季節が来た。少年のころ、うれしかった正月の下駄。私は昔から下駄が好きだ。高校の時、木造校舎の廊下を下駄でそっと歩いていたら「この横着者め!」と通称タコどんに怒鳴られた。先生の顔を見ると「下履きで歩く廊下なのになぜですか?」とはとても言えなかった。大学時代の写真を見てもほとんど下駄姿である。
 中学教師としてへき地に赴任すると下宿から学校まで下駄で通勤した。田園地帯をカランコロンと歩いていたら「ゲゲゲの鬼太郎」と言われたものだ。
 今、雨の日でも下駄がいい。
  出水市 中島征士(65) 2010/5/21 毎日新聞鹿児島版掲載


歩いて帰る

2010-05-21 17:48:59 | はがき随筆
 バスの到着まで相当待たねばならない。加治木から歩いて帰ることにする。挑戦だ。
 最近、右ひざが痛かったりするので少し心配だったが、歩き出すと調子がいい。お天気もよく坂道をぐいぐいと登る。空港線の長い登り坂なのに息もきれない。昔の人は遥か遠くまで大地を踏みしめて行き来し、時間もゆったりと流れていたのだろうなどと思いながら歩く。
 途中、山藤、アザミの花を愛でつつ歩く。滝も見られた。土手に突き出た小さん竹を今晩のみそ汁にと少し頂く。いい遠足となったが、交通量も多く危なっかしい所もあった。
  霧島市 秋峯いくよ(69)2010/5/19 毎日新聞鹿児島版掲載

あのスタンドへ

2010-05-19 16:58:29 | ペン&ぺん
 多くのサポーターの記憶に残り、語り継がれるシーンや試合がある。例えば、前回W杯で日本が決勝トーナメント進出を逃し、ピッチに座り込む中田英寿の姿(2006年6月)。マリノスとの合併でチームが消えることが決まっていた横浜フリューゲルスが逆転勝ちを決めた天皇杯決勝(1999年1月)。野球で言えば、長嶋茂雄がサヨナラ本塁打を放った天覧試合のようなものだ。
 その意味では、08年11月のナビスコ杯決勝は日本のサッカー史に残る試合ではない。だが、歴史に残らぬ試合が人の人生を左右することもある。
     ◇
 その日の対戦は、大分対清水。前半、清水の攻撃を0点に抑えた大分が後半、高松、ウェズレイのゴールで2点を挙げ、快勝した。東京・国立競技場に詰めかけた観客は4万4723人。その1人に当時39歳で東京に住んでいた東理香(ひがしりか)がいた。
 スタンドは半分以上、大分のブルーのユニホーム姿のサポーターで埋まった。約1000㌔離れたホームから空路駆けつけた人。東京在住の大分県人会関係者など。オレンジ色の清水サポーターを数の上でも″運動量″でも圧倒していた。
東は大分県出身ではない。だが、同じ九州出身者として大分を応援していた。そして、思った。「これを、やりたい」。ほどなく東は郷里鹿児島へ戻った。もう一度、あのスタンドに、今度は仲間とともに戻るために。
    ◇
 今、東はFCカゴシマをサポートする「鹿児島をスポーツで元気にする会」のオフィシャルカフェにいる。カフェと言っても、ワインバーを昼間だけ間借り。チームは昨年、運営会社を設立したばかり。初の公式戦は今月23日、鹿児島市のふれあいスポーツランドで行われる。「夢は、大きく天皇杯優勝です」と語る東にとっても初戦だ。
    (文中敬称略)
 鹿児島支局長・馬原浩 2010/5/17 毎日新聞掲載


芸術は音楽

2010-05-18 18:49:30 | はがき随筆
 「CDデビューーしたよ」と娘が言いたくなるのももっともだ。持って来たCD四枚はそれぞれケースに入り「芸術」の「音楽」選択者全員の名前と顔写真までラベルにしてあった。
 この2年間、ギターを弾いたとか、ドイツ語で歌ったとか、はじめて経験してできるようになったことを、また誰がどれだけ上手かをよく話してくれた。
 そんな子供たちの歌と演奏を娘の解説入りで聴きながら緊張の様子や周囲の応援が見えるような気がした。そして、くっきり刻まれた高校2年間の足跡が、希望する方向に先へ先へと延びていく様を思い描いた。
  薩摩川内市 横山由美子(49)20105/18 毎日新聞鹿児島版掲載