はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

節目を迎えて

2020-06-17 12:08:31 | はがき随筆
 年齢を出すのを嫌う人がいるが、私は平気。もうすぐ80歳になりますと誇りを持って言う。生まれた日から一日一日の積み重ねの2万9200日である。
 小さいときハシカと水ぼうそうが重く危なかったという。戦争もかいくぐってきた。父は戦死。母は女で一つで苦労して私を高校までやってくれた。就職、結婚、子育て。やがて祖母となった。14年前に思いがけなく夫の急逝に遭い、その5年後に母も見送った。今は気楽な一人暮らし。病気や手術もしたけれど、現在はとても元気だ。お蔭さまである。余命は知らないが、精いっばい生きていく。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(79) 2020/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載

友達だったの?

2020-06-16 22:44:10 | はがき随筆
 東京に暮らした頃、気候が良くなると近くの哲学堂公園を散策したものだった。
 ある日、草地でカラスがカアカア鳴いている。その先を見ると猫がニャアニャアと何か文句を言っているらしい。 
 どうみてもカラスが猫をからかっている。猫も負けじと一歩前に出る。するとカラスはちょっと後ずさりをして依然からかうそぶり。
 しばらくそうやっていたが、最後にカラスがピョンと近づくと猫は逃げていった。
 あのふたりはケンカをしていたのだろうか。それとも仲良く遊んでいたのだろうか。
 鹿児島市 種子田真理(68) 2020/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載

新ジャガ

2020-06-16 22:37:41 | はがき随筆
 今年も新ジャガイモを掘り終えた。それほど広くはない菜園だが老骨には結構こたえる広さである。
 腰を曲げたり伸ばしたりしてようやく彫り上げたジャガイモである。「今年は小ぶりが多いね」と家内が言う。「そうでございますね」とわざと敬語で返す。「調理するにはこれくらいの大きさがちょうどいいとよ。いつもあげると喜ばれる〇〇さんとこに明日でも持って行っとくわ」と労をねぎらってくれる。「よろしくお願いします」とまた敬語。コロナ禍の中、聴けばカエルがあくびでもしそうななんとも平和なひとときである。
 宮崎県都城市 堀之内明(82) 2020/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載

本能寺の変

2020-06-16 22:30:41 | はがき随筆
 呉座勇一さんの「陰謀の日本中世史」を読みました。本能寺の変で知らなかった事、大変勉強になりました。信長と光秀の人となりが描かれて吸い込まれる面白さを感じました。いつの時代でも語り継がれるのは信長の心と同じものが私たちの中にあるからだと思います。事件の心髄は作家や歴史研究家の方々がいろんな角度から書かれています。本能寺で信長の死体は発見されなかったので生存説をとなえる人も出たとか。本能寺の変の11日後に光秀は秀吉から討たれてしまう。人生の縮図を見る感じがします。歴史は人生を教えてくれます。
 熊本県八代市 相場和子(93) 2020/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載

自然の価値

2020-06-16 22:21:21 | はがき随筆
 田舎に暮らしてみると、都会との価値観の違いに驚く。
 山があり川があり、藪があり空き地があり、ビルがなくて工場がなく人混みがない……。それを都会の人間は自然と賛美して深呼吸しながら田舎ってよいな、と景色を眺めて叫ぶ。その同じ風景を田舎の人間は町が寂れたさびれたと嘆く。
 銀行がなくなりコンビニがなくなり、果ては病院までがなくなりJRが廃線になる。人が暮らしに不便と出て行きまた寂れて、田舎の人が寂れて、田舎の人が寂れたさびれたとまた嘆き、都会の人が豊かな自然をよいな、いいなと声高らかにまた叫ぶ。
 鹿児島県湧水町 近藤安則(66) 2020/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載

ビデオ通話

2020-06-16 22:14:30 | はがき随筆
 東京の長男一家の恒例の里帰りも、不要不急の外出自粛でかなわない。
 孫の発案で、初めてビデオ通話をすることになった。約束の時間、女房と緊張してスマホの画面を見入る。
 まず長男夫婦が笑顔で画面に登場、重なるように、宮崎の次男も画面に現れた。福岡、埼玉からも、孫らが次々に参加だ。「元気にしてる?」「変わりない?」のあいさつが行き交う。「お父さんが見えないよ」と催促。スマホの角度を変え、「ほら、元気だよ」と顔を出す。
 リアルタイムで語り合え、安心した一日だった。
 宮崎市 実広英機(74) 2020/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載

法事に会うて

2020-06-16 22:06:02 | はがき随筆
 男の子は花を摘み、女の子は石を拾う。7歳と3歳の姪の子供が面白い。花を知る人。絵を描く人。畑や自然を教えたい人。パソコン上手のパパ。怒りん坊のママ。多くの大人を見知って、それぞれの性格で学ぶだろう。素直でやさしいと、聞かん気で恥ずかしがり。甘えん坊は共通。だが7歳ともなると、もう社交家。一人前の自己紹介をしお経を解らぬまでも最後まで読む。あまりの利口ぶりに、つい期待値があがってしまった。大人は身勝手。伸び伸び育てと言いつつ負荷を与える。でも子供時代はもっと子供らしくて良いんだよ。ただ健やかにあれ。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(65) 2020/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載

ラッキョウの味噌漬け

2020-06-16 21:57:24 | はがき随筆
 「おいしくて、今日は冷やっこにつけて食べましたよ」。ラッキョウの味噌漬けをおすそ分けした友からうれしいメール。
 ラッキョウが出始めると母は必ずこれを作った。ラッキョウを千切りにし、ほぐした生ま節と生味噌を混ぜ込む。暑いご飯によくあった。
 私もラッキョウを買うと作る。砂糖を加えるのが母との違い。夫も気に入り、友人にも届ける。生節もこの時期に出始めるから初夏の旬の味ともいえる。
 県外の子供たちには時折手作りの味を送るが、これは作ってほしい味。ラッキョウ好きの夫を持つ次女にまず伝えようか。
 宮崎県高鍋町 井手口あけみ(71) 2020/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載

あら、しもた

2020-06-16 21:50:26 | はがき随筆
 ある朝、お茶配りに職員さんがやってきた。ベッドに寝そべり「ごめん日めくりカレンダーが高いから破ってくれない」とお願いした。職員さんは「それはいつもされている事ですよね。できない事はお手伝いします」とやってくれない。「冷たいね。もう何もしなくていい」。私は冗談ぽくすねてみた。「それじゃ爪切りも背中洗いもしないから」。職員さんもわざとらしく売り言葉に買い言葉で話された。次の日の入浴の時間、職員さんがさっと来て背中を洗ってくれた。その瞬間「あらしもた! 洗ってもた」。その言葉を聞いた途端2人で大笑いした。
 熊本県玉名市 馬場征子(78) 2020/6/12 毎日新聞鹿児島版掲載

体力

2020-06-16 21:29:53 | はがき随筆

 リハビリの理学療法士によれば100人中99人はできるというつま先立ちが、私にはできない。そのため立ったままの作業が困難。庭の花の写真撮影にも椅子を使わなくてはならない。
 アヤメを上から写したかったので、高めの椅子に座り、デジタル一眼レフの液晶画面を見ながらシャッターを切り、なんとか写すことができた。
 次にアマリリスを狙った。隅の方で咲いているため離れたところからズームレンズで写す。正面からとるために椅子を移動するのに大汗。写真撮影もボケ防止だが、体力がものをいうことを痛切に感じている。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(83) 2020/6/11 毎日新聞鹿児島版掲載


母と姉

2020-06-10 17:18:12 | はがき随筆
 先日、亡くなった母と姉が2人そろって夢に出てきました。2人の笑顔がさわやかでとってもうれしかったです。
 母は去年の11月19日に96歳で亡くなりました。姉は9年前の同じ日に62歳の若さで亡くなっています。母と姉は性格も似て働き者でけんかもしたけど気の合う2人でした。「母ちゃんもういいよ、こっちへおいで。父ちゃんもいるよ」と姉が呼んだのでしょうか。
 姉ちゃん、こっちは新型コロナ問題で大変ですよ。そっちはどうですか。また夢に出てきてね。今度はゆっくりとお願いします。ありがとね。
 宮崎県えびの市 松元京子(68) 2020/6/10 毎日新聞鹿児島版掲載

そら豆

2020-06-09 20:01:37 | はがき随筆
 そら豆を収穫した。ポツポツ1週間くらい食べた後に全部収穫したら、バケツに6杯もあった。今年は調子が良くて、豆もビックリするくらい大きい。
 2人の生活ではとても食べきれないので、あちこちに配ったら「わー大きい」と喜んでもらった。そら豆は人気がある。
 秋に、からからに完走したタネ豆をまく。おはぐろを斜め下に向けて土に押し込んでおくと、1週間もするとふっくらと水分を含み芽が出てくる。芽が出たのを見つけたときは、うれしくて「でたでた」と思わず声を出してしまう。
 熊本市北区 岡田政雄(72) 2020/6/9 毎日新聞鹿児島版掲載

四季を味わう

2020-06-09 19:53:48 | はがき随筆
 「モゼ(かわいい)とが上がったなー」と通りがかりの人が声を掛けてきた。青空に悠々と小さなこいのぼりが3匹。数年前から忘れていた四季の行事の楽しさを「味わってみよう」と始めた一つ。100円ショップのこいのぼりである。春は小川と桜、夏はぎらぎら太陽、秋は稲刈り、冬は雪景色、そして節分の豆まき、5月の節句はこいのぼりとマッ(ちまき)、初夏のホタル狩り、秋の十五夜と綱引きなど……。ふるさとの風景は心を豊かにしてくれていた。このご時世、こいのぼりを眺めていると、あの日の記憶がぐんぐん近づいてくる。
 鹿児島県南さつま市 小向井一成(72) 2020/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載

赤信号

2020-06-09 19:46:41 | はがき随筆
 赤信号で車を停め、工事中の歩道を見た。人々は堀あげられた土やブロックを避け、注意深く歩いていた。紫色のナッパズボンをはいた作業員の若者は人が来る度に手を休め、通り過ぎるのを待っていた。
 足元のおぼつかないお年寄りが手押し車を押して来ると、若者は素早く車を受け取り、手を引いて通してあげた。丁寧にお辞儀するお年寄りに、照れ笑いする若者の顔には、まだ幼さが残っていた。
 ほんの数分の光景であったが、赤く染めた髪と白い歯が印象に残り、コロナ鬱の気持ちを少し和らげてもらった。
 宮崎県延岡市 松本由美子(79) 2020/6/7 毎日新聞鹿児島版掲載

詐欺防止策

2020-06-09 19:40:19 | はがき随筆
 3年前に流ちょうな日本語で「年金の銀行はいくつお使いですか」と聞いてきた。あ、詐欺だとひらめいて「あなたはオレオレ詐欺だ」と返せば「違う」と答えた。私はすぐに電話を切って、消費生活センターにそのことを告げた。警察からはオレオレ詐欺防止策の電話装置を頂いた。詐欺師の声が録音できる仕組みになっている。その後、電話は来なかった。
 コロナウイルが猛威を振るう今日、コロナに伴って悪い犯罪などが起こりうる。おのおの心がけたいものです。油断大敵。変だと気付いたら役所などに問い合わせましょう。
 鹿児島県姶良市 堀美代子(75) 2020/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載