海からの帰りに国道で子ネコを拾ったのが、この春の4月20日だった。まだ目が開いたばかりのブサイクな風体で、まあ一猫前になるまでは飼うしかないな・・・くらいのつもりで育てることにした。
プロテインミルクを私と同じカップから飲む子ネコは、日増しに可愛くなり、元気いっぱいのチビに成長していった。オスらしいので福と名付けた。私のことを完全に親だと思っているらしい。日を追うごとに無邪気と愛らしさが増していく。私は過去3回、捨て猫を拾い育てたことがあるが、コイツほど愛おしいと思ったことはない。
3週間ほど前、海に連れて行った際は、窮屈なバスケットから出して、海岸植物の茂みに放してやった。ここはドングリの大木が木陰を作ったり、処々にユリの花なども匂う瀬戸内海岸の楽園の一つである。
ところが、しばらく目を離している間に、コイツは忽然と消えてしまった。ずいぶんと探し回った。結局どこにもいない。この海岸はその端に、人が一人やっと通れるくらいの通路があるが、ここまで来たとも考え難い。おそらく、あんまり可愛いので誰かネコ好きが連れて帰ったのだろう・・・と思うことにした。それが誰であれ、大切にしてくれればそれで良い。しかし、私の寂しさは、少しず薄れてきてはいても、ずっと心に残っていた。
そして、一昨日の朝食時。中庭で突然「ミャー」という声がした。急いで裏戸を開けると今度はコイツだ。生後三ヶ月くらい。尻尾が短いのを除いてあのチビとソックリだ。こんな時期に、君はどこから、どうして、うちに来たのか・・・。
私の周りでは、こんな出来事はそう希(まれ)でもないけれど、これを現代の科学的・合理的方法で説明することはいくらか難しい。ユングに言わせれば「意味のある偶然」。私に言わせれば「ご縁の必然」。何にしても、この奇妙に不思議な動物との付き合いは当分続きそうだ。