熱戦が繰り広げられている北京オリンピック。レスリング48kg級の伊調千春選手、悲願の金メダル成らず。...さぞ悔しい思いをしていただろうと思うのに、表彰式では 爽やかな笑顔を見せてくれました。トーナメント戦での銀メダルには 複雑な思いがあって当然ですが、暗い表情で表彰台に立つ日本人選手を なんとなくすっきりしない思いで見る事もある中、本当に素敵な笑顔でした。伊調千春選手、苦しい試合を戦い抜いての銀メダル
です。
少々遡りますが、14日 北島康介選手の二つ目の
金メダルを知ったのは、歌舞伎座。『女暫』の舞台番役 勘三郎の口からでした。
さてさて...
オペラ『アイーダ』を翻案した 野田秀樹演出の『愛陀姫』が上演される第三部が話題の八月納涼歌舞伎(歌舞伎座)ですが、その出来はともかく 福助演じるエセ降霊術師‘細毛(ほそけ)’が 実にいい。チケットを取っていたのは 第三部だけだったのだけど、福助がもっと観たい!! 最前より気になっていた 第一部の『女暫』を観ようじゃないかと、急遽 三階席を押さえ歌舞伎座へ。
結論☆ 今年の納涼歌舞伎、お薦めは 第一部です♪
(第二部は観てないけど...ネ)
第三部(八月十二日 一階一等)
『紅葉狩り』(舞踊劇)
竹本、常磐津、長唄、紅葉を全体に配し 中央に幹のうねった松と 華やかな舞台です。
勘太郎の更科姫 ─実は 鬼女の変化(へんげ)である─ は、長身ながらも凛とした気品がある。本性を現し鬼女の姿で舞う終盤とのギャップも見所。
従者の高麗蔵・亀蔵、局の家橘も それぞれにコミカルに踊ってみせる。
山神を演じる 三津五郎の長男:巳之助が、フレッシュ。
『野田版 愛陀姫』
『紅葉狩』が終わり 休憩時間の間に定式幕は捌けて 緞帳に変わります。
緞帳が上がると、ペーパークラフトの様な蛇腹の背景画。表は市井の風景、裏は金屏風。斬新な装置に 期待で胸がときめきます。合戦の様子を影絵風にスクリーンに映し出す演出には 会場も沸き立ちます。
が、NODA-MAPの『贋作 罪と罰』を観た時と似た違和感を感じるのです。おそらく原因は、原作が日本の物ではなく 文化や精神といった点で相違点があるにも拘わらず 案外そのまま設定を活かした内容になっている というところにあるのではないかしら...。今回は特に オペラに原作を摂ったということで、アリアの内容をセリフに置き換えている辺りが、元々‘立て板に水’的なセリフを得意とする野田芝居からしてみれば 案外うまくいく試みであったにもかかわらず、どこか説明的でぐっと来ない。内容的にも 終盤に向かってしんみりしていくので 観客の高揚感にも繋がらず、見所は色々ある割に なんとなくもったいない...「おもしろかったけどねぇ...」で 終わってしまった。オペラなら 歌声で生まれくる感動を セリフに置き換えた時 果たして何で補えば良いのか...、大きな課題を残したのではないでしょうか。
キャラクターとしては、扇雀と福助の祈祷師コンビ 荏原&細毛(エハラと来たら ミワと来るのかと思いきや、さすがに演劇人として ちゃかせる相手ではないらしい)、七之介の愛蛇姫が際立っていた。福助については、ちょっとクセのある役を演らせると 本当に伸び伸び演じる。賛否あるみたいだけど、一癖ある役で使っている域の声が たまらん好きです。山田五十鈴の様な哀川翔の様な...。分かる?
この日は、最後の最後の場で アクシデント発生。暗転がなかなか明けないと思っていたら、どうやら大セリにトラブルがあったらしく タイミング通りに上がらなかったらしい。やがて 徐にセリが上がるやいなや 慌てて定位置に倒れ込む橋之助の姿を目撃することとなり、観客としては 面白い日に当たったというところだけど、当事者は さぞ慌てふためいたことだろうと察します。なにしろ、セリが上がってこそのラストシーンでしたから。幕引き後、再度 緞帳が上がり 主要キャストによるお詫びの一幕となりました。
私はさぁ...夢の遊眠社時代の作品『贋作 桜の森の満開の下』を歌舞伎にするってのを ずっとずっと楽しみにしてるんだけどなぁ...。あれなら、歌舞伎座にピッタリなのにサ...。
第一部(八月十四日 三階A席)
予算を考えると 幕見の通し(2000円)だけど...、10時半開場の第一部に余裕を持って並ぶとなると 遅くとも8時半にはうちを出なくちゃならない
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頑張って並んだ末 立ち見にでもなったら それも辛い...
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料金表とにらめっこ。そうか
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三階B席でも 2000円か♪ よし! 三階B席だ!! ところが、第一部で唯一残っていた三階席ってのが 14日のA席(3500円)のみだったのです。が、ケガの功名。お陰様で 三階席ながら二列目で、肉眼でも お顔バッチリでした。
料金の落差が大きいのも 歌舞伎座の特徴。ひとりでふらっと行くには 嬉しい料金設定です。
『女暫』
良かった。実に良かった。頑張って行った甲斐がありました。
元来の『暫』すら、歌舞伎十八番の内の一本であるにも拘わらず、正直あまり良く知りませんでした。中村屋も成駒屋も やりませんものね。そもそも、納涼歌舞伎にこれまで‘歌舞伎十八番’が掛かった事は ないそうで...。
『暫』...どうやら、顔見せの要素があるらしく、華やかな顔ぶれが舞台上に連なり 台詞も均等にあったりする。なるほどなるほど...。
で、『女暫』は というと、鎌倉権五郎景政を巴御前に置き換えているというだけでなく、最初からパロディとして楽しむ作品になって居るんですね。いやぁ〜洒落っ気がある♪ だから、台詞の中にも「今の『しばらくぅ〜』は、聞いた事のない声だ」とか、「いつもの『暫』なら...」といった遊びがあったり、女を追い返すには 女が相応しかろうと宛がわれる女鯰の照葉(七之助)との会話も...
照葉 「これはこれは、どなたかと思えば 成駒屋のおねえさん」
巴御前「おや、これは中村屋の七さんじゃないか」
...なんてあるもんだから、客席も大ウケです。
忘れちゃならないのが、三津五郎演じる手塚太郎光盛。若い!
『女...』ならではの演出は、巴御前の痛快な救出劇が見事解決し 定式幕が引かれた後も続きます。一息ついた巴御前ならぬ福助は「このような大役を勤め上げる事が出来たのも 皆々さまのお陰...」と挨拶し、「早く楽屋へ帰ってこの重い衣装をを脱ぎたいものだけど、どうもこの太刀が重くてねぇ...。誰か! 誰か おいででないかい?!」と舞台袖に声を掛けると 登場するのが舞台番の勘三郎。
「お暑い中 皆さんこうやって 劇場まで足を運んでくださってるんですから、ここは 六方踏んで行かなくちゃぁなりませんョ」と嗜める。
「だけど、あたしゃ やったこともないし...」と尻込む福助。
「北島だって 二つ目の金メダル取ったんですから、あなた やらなきゃ☆」
湧き上がる会場
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勘「みなさん 北島の金メダルを見逃してまで 来てくださってるんですョ」
爆笑 ![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0140.gif)
福「それじゃぁ、お兄さん 教えていただけますか?」
「お兄さんの方が よくご存知だから」
勘「いや、私も 観るのは良く観てますけどね、やった事はありませんから」
「こういうのは 青葉台の目の大きい方が お得意なんですョ」
またまた、爆笑 ![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0140.gif)
引っ込みを手解きする勘三郎...
勘「あなた、ホントは ご存知なんでしょ?」
ウケるっ ![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0140.gif)
意を決し、六方を踏むも「この辺でご勘弁」と、恥じらいながら揚げ幕の奥へと姿を消すという寸法。
もう 最高 ![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0087.gif)
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成駒屋に縁の『女暫』巴御前...
福助 文句なしの嵌り役です。
『三人連獅子』(舞踊)
親獅子(橋之助)、子獅子(国生)、母獅子(扇雀)という取り合わせの 親子獅子。幕開きは、獅子の姿ではなく
毛卍文(けまんもん)の装束に身を包んだ人間の親子の姿で揚幕より仲むつまじく登場。舞台は、牡丹の花咲く立体感のある作りが美しい。
我が子の力を試す親獅子と心配する母獅子という ストーリー性が全面に出た舞踊になっていて、子獅子が実際に谷に落ちる振付があり 大変分かり易いと同時に 舞踊の質の高さという点で「堪能」とはいきませんでした。橋之助親子の共演という事で かなり楽しみにしていたのだけど、なんとなく物足りない感じ。見せ場の毛振りも 何処か思い切りが足りない。橋之助が 焦っているのか、なにか先走っている様に見えました。
三人での連獅子は、ドキュメンタリー番組で 中村屋の厳しい稽古を観たことがあるだけに「う~~ん こんなもん?」と思ってしまいました。もちろん、演目自体別のものだし 単純には比べられないと思うけどね...。
『眠駱駝物語 らくだ』
いやぁ〜笑った☆ 爆笑 爆笑、また爆笑♪
元は上方落語で、昨年「鶴瓶のらくだ」としても話題になった作品です。
勘三郎と三津五郎の掛け合いも小気味いいし、死人を演じる亀蔵もセンスがいい。一言も喋らない役で 会場を沸かせるとは、難役且つ なんともオイシイ役。殿が観たら 大喜びしそう。
‘紙屑買久六’という役は、勘三郎が最も得意とするタイプの役柄だろうし 楽なポジションで労せずして演じられることと思います。さすが、そりゃあ見事なクズ屋さん振りでした。でも、今回の納涼歌舞伎の中で言えば、第二部の舞踊劇『大江山酒呑童子』の様な 身体を使う役も もっともっと見せて欲しいと思います。狐忠信なんかも また観たいなぁ~。
しっかし、三階席って ひとりで来る人も多いってことは 個性的な方が多いのか...? 斜め前の男性は、趣味なのか 仕事なのか、上演中 しきりにノートを取っている。お隣の若い女性は、休憩に入るなり パッと立ち上がって席を外します。『三人連獅子』では、役者の姿を見るなり 溜息混じりに「太ってる...。太りすぎだ...。デブ...」とぼやいておいででしたョ。
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因みに 第二部は...
『つばくろは帰る』---新派の演目より。母子の生き別れ 再会の物語。
『大江山酒呑童子』---先代勘三郎の為に書き下ろされた 中村屋に縁の作品。
串田和美に依る美術が話題。