6つの小説が納められた短編集。
どれも面白かった。どの主人公も孤独で、人とつながることを渇望している。がしかし、この著者の小説、幾重にもからくりと寓意がめぐらされ、ありえないはずの出来事を現実以上にリアルに活写する。
読む方も、目に見えることだけが真実ではなく、現実のちょっとした裂け目から覗いた世界のおぞましさ、人の不可思議さに気が付き、最後まで飽きることなく読むことができる。
と、説明しても、この本の魅力を全然表現しきれてない。
火に欲情する男、亡父の荷物の中から実弾入りのピストルが出てきた…、東北大震災の後、交通事故にあい、時間の流れる感覚に変調をきたした老劇作家などなど、設定も面白く、生身の人間の肉を断ち、心の中を腑分けするような書き方は、気持ち悪くも押しとどめがたい興味と、もしかしたら快感をも読者に喚起させる。
いえいえ、もってまわった言い方しなくてもいい。単純に面白いです。人の存在の不可思議さ。それを小説として定着した秀作だと思う。