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「そこへ行くな」 井上荒野

2019-04-11 | 読書

7つの短編から成る。前に読んだ「静子の日常」が、元気印のおばあちゃんの話で、元気が出たけれど、こちらは都会を舞台にした、希薄な人間関係の中で起きる事件、出来事の恐ろしさ、奇妙さを題材としている。

いろいろな小説の書ける人だけど、この人の真骨頂は矢張り不安定な人の関係を書いたものだと思う。

私たちの世代だと、都会だろうと田舎だろうと安定した人間関係の経験のある人がほとんどだと思う。特に田舎では何世代も前からの家ぐるみの付き合い。人が何を考え、何をするか前もって予測もできる。

その対極にあるのがこの中の作品。例えば遊園地。一緒に暮らして子供までいるのに、出張の多い相手は家をよく空ける。謎の多い人。それに結婚さえしていない。どうやら他にも家庭があるらしいことを暗示して短い作品は唐突に終わり、読者には不安感と謎が残される。

知っているはずの相手を、今の時代の人間はどこまで知っているのだろう。一歩踏み込むと、そこには思いがけない展開が待っている…

公園に併設した野球のグラウンド、そこの予約管理をする女性と、チームの男たちが深い仲になる。お互い、武勇伝のように語るうちに、女性がいなくなる。事件かもしれない。そして、誰も女性の素顔を知らない。

人間の孤独をよく書いた作品と思った。「静子の日常」よりは深く、面白かった。

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