怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

浜田宏一「アベノミクスとTPPが創る日本」

2014-10-02 21:36:57 | 
前著「アメリカは日本経済の復活を知っている」の続編ですが、出版が2013年11月で、日銀が不肖の弟子白川前総裁から黒田東彦総裁に代わり、まさにアベノミクスが華々しく打ち出され、絶好調の時期なので意気軒昂です。

黒田新総裁のもとでまさに浜田教授の主張していた大胆な金融政策即ち2%のインフレ目標を設定し目標達成のため異次元の金融緩和を行うとしたのです。
その結果一時ドル円で80円を切っていた円高は解消し100円前後へと円安が進み、財政出動の効果と相まって株価も上昇。円安で企業業績は回復、設備投資が拡大。消費マインドも上向いてきました。賃金が上がらないとか言われていますが、これは景気に対する遅行指数なので若干時間がかかるだけでしょう。
しかし、2014年になりアベノミクスにもそろそろ負の側面も現れてきています。
円安になり輸出が増えるはずだったのですが、輸出数量は増えていない。給料も上がらず、円安による物価上昇もあって、実質消費は落ち込んでいる。日本経済の貿易依存度は20%もなく、輸出で稼ぐはずの製造業も全産業の20%程度。加えて工場の海外移転は進んでおり、円換算の企業利益は大きく増えただけ。そもそも現在では日本の輸出企業は価格競争で勝ち残っているのではなくオンリーワンの技術力で勝負しているので円安になっても価格を下げて売り込む構造になっていない。日本経済全体でみると輸入品の価格が上がるデメリットのほうが大きいみたいです。
円高によって日本の製造業は壊滅的な打撃を受け、特に電機産業ではエピルーダはつぶれ、シャープもソニーもパナソニックも大変な苦境に陥っているとされていますが、シャープとパナソニックはコモデティ化した液晶なりプラズマの生産に拘るという経営判断の失敗があって苦境に陥ったのであり円高のせいに帰するのはいかがと思います。企業経営者なら世界経済の状況を見越して経営判断する必要があるはずですし、日立も三菱も東芝も円高の中で業績を上げています。
急激な円高は企業業績に大きな影響を与えますが、そのために為替ヘッジをし海外展開なりを進めていくのは当たり前にされているはずです。
デフレと言っても実質GDPはわずかながらプラスでしたし不況というほどの苦しい状況だったのかという議論もあります。
著者自身は消費税率アップは時期尚早との見解だったのですが、その影響も相まって今は行き過ぎた円安が心配されてきています。物価は上がるのですが実質給与も実質消費も増えず、消費税増税の駆け込み需要の反動で経済は停滞。生活は苦しくなるばかりで特に地方は円安のデメリットばかりを享受している。これではとても再度の消費税増税は無理…それにしても消費税増税の影響は予想外に大きかったみたいです。著者に言わせるとだから言ったじゃないか、俺の言う通りまだ早かったのにということになるのでしょう。
野口悠紀雄の論ではないですが、アベノミクスの効果はこの本に書いてあるいいことばかりではないようです。今の国会討論などを見ていると名目と実質のどちらも都合のいいほうを取って議論が噛み合っていません。名目では給与も消費も上向いているのですが、物価上昇には追い付いていなくて実質では前年割れ。マイルドなインフレこそ経済活性化に大切という立場なら名目でしょうけど、実質が早く追いつかないとこれはダメでしょう。給与が遅行指数ということでいつまで我慢できるかですね。
TPPについては、こんなにいいことばかりだよという啓蒙書になっていますが、問題は日本の交渉力がデメリットを何とかでないように妥結できるかということ。アメリカも議会は強硬で簡単にはまとまりそうもない中、これまたいいことばかりではないような気がします。TPPの本質は中国に対抗するアメリカ主導の経済同盟であり、その性格は非常に政治的なのではとも思うのですが、それだけに紆余曲折がありそうです。
まあ前著と同じく一般の啓蒙書であり難しい数表もなくて、すらすらと読むことができます。アベノミクスが曲がり角に差し掛かっているだけによく吟味しながら読む必要があります。
コメント
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