怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「言葉で治療する」鎌田實

2014-10-29 07:46:05 | 
以前病院に勤めていた頃、患者さんへの説明を「ムンテラ」と言っていた。
ドイツ語で「ムントテラピー」。ムントは言葉。テラピーは治療。直訳すると「言葉で癒す」です。相手の心理状態を考慮しながら、相手の心に届くように丁寧にわかりやすい言葉で、具体的に説明することが大切。
でも医療現場の実態では、そんな「ムンテラ」にはなかなか巡り会えない。
この本は「週刊朝日」に連載されていたものですが、「医療者によって傷ついた言葉、励まされたことば」の体験募集に寄せられた手紙、メールから医療や介護に中の言葉に拘り、言葉によって相互理解、信頼、納得を得ることを考察している。

日本の医療に対して国民は今、不安や不満、不信感を募らせている。この本にも患者さんの話を聞こうともせずに、心無い言葉をぶつけ、悲しみと絶望に陥らせる医療従事者がたくさん出てくる。
今の病院は忙しくてゆとりがない。要領を得ない患者の話など聞いていたら診察が回らない。加えて医療事故はすぐに訴訟にとなるのでバリヤーを張って事務的になろうがこちらの主張はしておかないといけない。とても家族の感情までは考えてはおれない。
だがそれは悪循環で、患者さんに寄り添い家族を安心させてくれる医療は評価が高く、たとえ治らなくても「納得する」ことができ、訴訟などと言われずに逆に感謝される。訴訟を未然に防ぐつもりで張ったバリヤーが患者さん、家族の不信感を招き、医事紛争を増やしている。
でも自分の病院時代の経験でも患者さんや家族の心に寄り添うというのは時間と手間とテクニックが必要で、正直そんなことができるドクターは限られていたし診療報酬などの制約による経営上の観点から無理にでも退院してもらわなくてはいけないこともままあった。
医療側としてはワンオブゼムなのだが、患者さんとしては自分だけがすべてで他の患者さんのことも考えずに延々と自己主張する人もいて甘い顔ばかりしていられない。それにしてもこの本で取り上げられている医療従事者の言葉はひどい。切り口上で突き離し患者さんの気持ちなんて少しも顧慮していない。そうだよね~こういう人たちっているんだよね~と感じてしまうことがすごく悲しいのですが、まれな例と言えないことが悲しい現実です。
鎌田先生は医師だけにそんなことは百も承知で、でもコミュニケーションの大切さを訴えています。そして患者さんを安心させ、信頼を得て、感謝された例を語ります。毎日病室にきて声をかけてくれる医師は最高と。そういえば私の経験でも毎朝一番に病棟を回り患者さんを一人一人見ている医師は患者さんだけでなく看護師からも厚く信頼されていました。
それにしても、この本に紹介されているのですが、日本のがん医療に満足している人は33%、6割以上の人が満足していない。なされた治療説明についても理解できなかった人は44%。心のケアについても8割以上の人が十分に受けていない。
加えてがん患者が亡くなると、7割の家族が抑うつ状態になるという。本人にも家族にも心のケアが必要なのにほとんどなされていないことも原因かもしれない。病気の治療の前に精神的にがんに負けてしまいそうです。
がんで落ち込まないための5か条があるので書いておきます。
①がんになったことの原因探しをしたり、自分を責めたりしない。
②がんイコール死と思いこまないようにする。多くのがんが助かるようになったということを自分に言い聞かせる。
③主治医とは納得できるまで話し合い、信頼関係を作る。
④がんに生活や考え方を支配されない。自分ががんをコントロールするのだと自分に言い聞かせる。
⑤落ち込みが長い場合は、早めに専門医の精神的ケアを受ける。
日本の医療水準は世界有数で、結果として平均寿命でも世界一なのに、こんなにも不満が強いのが現状です。患者さんに納得してもらい信頼関係を築き、満足して感謝される医療を行うのにはどうすればいいのか、医療従事者のコミュニケーション能力を向上させる必要があるのでしょうが、こういうことは教育されているのでしょうか。
同時に患者の側も自己主張するだけでなく医療従事者に感謝とリスペクトをしないと信頼関係とはいかないのでしょう。どちらも道は遠しですが、鎌田先生のあきらめずに投げ出さない努力に期待します。

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