１１月 ９日

　　　　　　　　　　　　　　　　（　冬の川　）


冬の河崖より芥投げすてられ　　　　　　　　　　　　　　沢木欣一


磨崖仏冬川の砂明らかに　　　　　　　　　　　　　　　　細見綾子


木を挽いて音あをあをと冬の川　　　　　　　　　　　　　 秋元不死男


冬の河渡舟に犬を立たせ来る 　　　　　　　　　　　　　　岡部六弥太


冬の川細りて鯉の一列に 　　　　　　　　　　　　　　　　古川充子


冬の河浅みの澄みのけふも暮る 　　　　　　　　　　　　　松村蒼石


沿ひ行けば夜の雲うつる冬の川 　　　　　　　　　　　　　山口誓子


冬川やのぼり初めたる夕芥 　　　　　　　　　　　　　　　杉田久女

１１月 ８日

　　　　　　　　　　　　　　　　　（　立冬・冬に入る・冬立つ・今朝の冬　）


師と並び反故焚きし庭冬に入る　　　　　　　　　　　栗田やすし


立冬のことに草木のかがやける 　　　　　　　　　　　　沢木欣一


冬来れば母の手織りの紺深し　　　　　　　　　　　　　細見綾子


冬に入る水に夜毎の月明り 　　　　　　　　　　　　　　飯田龍太


くづすことも積木の遊び冬来る 　　　　　　　　　　　　上田日差子


立冬の女生きいき両手に荷 　　　　　　　　　　　　　　岡本眸


安来節踊る手足も冬に入る 　　　　　　　　　　　　　　川野祀子


杉山の杉の波濤や冬に入る 　　　　　　　　　　　　　　宮坂静生






冬珊瑚の実

１１月 ６日

　　　　　　　　　　　　　　　（　みかん・蜜柑　）


保線詰所窓に蜜柑を並べあり　　　　　　　　　沢木欣一


食卓のみかんに日さす母の家　　　　　　　　　細見綾子


みかん一つ机に乗せて駐在所 　　　　　　　　　斉藤葉子


海彦をときどき呼んで蜜柑摘 　　　　　　　　　　鷹羽狩行


みかん山九九を唱へて子の通る 　　　　　　　　山崎祐子


のこりものに福あるみかん一つかな 　　　　　　久保田万太郎


みかん剥く世事に詳しき指短か 　　　　　　　　　鍵和田釉子

１１月 ４日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（　黄葉・黄落　）


黄落や子の新居より富士見ゆる　　　　　　　　　　　　　　　栗田やすし


黄落の色納経の大和絵に　　　　　　　　　　　　　　　　　　細見綾子


一色に黄葉の島夕日せり 　　　　　　　　　　　　　　　　　　大熊輝一


黄葉して思慮ふかぶかと銀杏の木 　　　　　　　　　　　　　　鷹羽狩行


紅葉から黄葉へ渡す丹塗橋 　　　　　　　　　　　　　　　　　堀 葦男


鹿を呼ぶホルンを遠く黄葉散る 　　　　　　　　　　　　　　　北野美樹


黄落やドイツ製ナイフの重き 　　　　　　　　　　　　　　　　小川軽舟


黄落の干戈交ふるごとくなり　　　　　　　　　　　　　　　　　 岡本眸


いづこより流れ球あり黄落期 　　　　　　　　　　　　　　　　能村登四郎

１１月 ３日

　　　　　　　　　　　　　　（　文化の日　）


筆立に天眼鏡や文化の日　　　　　　　　　　　　　　栗田やすし


地下街に鮮魚鮮菜文化の日 　　　　　　　　　　　　　鷹羽狩行


炭の粉に汚れ文化の日の父よ 　　　　　　　　　　　　菖浦あや


文化の日小銭とび散る石畳 　　　　　　　　　　　　　飯田龍太


ゆるぎなき師をわれ持てり文化の日 　　　　　　　　　町田しげき


風入れの寺宝絵巻や文化の日　　　　　　　　　　　　 冨樫藤予


路地に住む人間国宝文化の日 　　　　　　　　　　　　日比野睦子


文化の日幹は画鋲をあまた刺す 　　　　　　　　　　　福永耕二