地方分権問題で提言「神野直彦東大大学院経済学研究科教授」 ■問われる成長路線
- 今の日本はバランスを失いながら突き進む、タイタニック(沈 没した豪華客船)のような状態です。社会がぼろぼろだから、 当然年金をはじめ次々と問題が起る。秋からは、消費税論 議が待っています。きちんと政策論議をしなければならない 時期なのに、争点がぼけています。
- 日本社会は、成長と再分配、市場と民主主義など、いつも 「バランス」を考えてきました。今はそれらをすべて失う方向 にかじを切ろうとしている。地方と東京の地域間格差が広がり、 大都市でも貧困層が急増する中、格差についてイエスと言う かノ-と言うか。現内閣(安部内閣)が進める成長路線に是か 非かという選択が迫られています。
- 何のために生きていくのか、というミッション(使命)や、何が 豊かさなのかわからないまま、過剰な豊かさを目指し走り続け ている。人間には、ものがほしいという『所有欲求』と、人間同 士でふれあいたいという『存在欲求』があります。私たちは所 有欲求に重点を置いてきましたが、これからは、人間が本来 めている幸福、存在欲求の充実が大事なのです。
■信頼のきずな大切
- 牛ミンチ偽装事件もそうですが、建物や食の安全をいくら チェックしても、検査する人間を信頼できなければ不安は 消えない。信頼できず、チェック回数を増やせば、コストも 拡大し、非効率になる。経済学では、住民の協調した行動 が社会の効率性を高めることを『ソ-シャル・キャピタル』と 言います。経済成長を決定するのは人間の信頼のきずな、 なんです。
- 今の日本がおかしい根源は、人間は生活するために仕事 をしているはずなのに、仕事のために生活を、と逆転してい るところです。過剰な豊かさを求めずとも、地域に人がふれ あい、助け合う生活の場があれば、自然に人が集まり、次 の時代の新しい産業を作り出すことができる。今、多くの人 は『生活』がぼろぼろになっていると感じているのではない でしょうか。だけど、いまはどこの地域でも頼りは『人間』な んです。
格差社会:経済協力開発機構(OECD)によると、日本の生産年齢 人口(18歳以上65歳以下)の相対的貧困率(平均所得の半分以下 の人の割合)は2000年時点で13・5%。主要先進国の中では、 米国(13・7%)に次いで高い。規制緩和や市場原理優先の政索が 進み、労働市場ではパ-トや派遣など非正規社員が増大。正規社 員との待遇格差が広がった。社会保障などセ-ティ-ネットが十分に 機能しない中、専門家からは親の所得格差が教育機会の不平等化 を招き、階層の固定化につながると懸念する声が出ている。