物を食べるためのかむという行為には、脳を 活性化する作用がある。味覚や食感などさま ざまな情報が、かむことで脳にもたらされるか らだ。
神奈川歯科大の小野塚実教授(生体機能学)は「かむ行為で脳が 活性化する割合は、若者より、お年寄りの方が大きいようだ」と話し ている。小野塚教授らは、機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)を使 い、若者のグル-プと高齢者のグル-プで、それぞれガムをかむ 前と二分間かんだ後の脳の様子を調べた。ガムをかんだ後は、 記憶を司る脳の海馬と呼ばれる部分が、双方とも活性化している ことが分かった。しかし、若者と高齢者では違いがあった。若者は 活性化した部位が少なかったのに対して、高齢者は海馬だけでな く前頭前野など脳の知的機能にかかわる、さまざまな部位で活性 化が起っていた。
なぜ、世代で差が出るのだろうか。若者は視覚や聴覚、触覚など の五感が敏感に働き常に情報が脳に伝達されているため、ガムを かむ程度の刺激では脳があまり活性化しない。高齢者は五感が 衰えていることもあって、若者ほど情報が脳に伝わっておらず、 ガムをかむことで情報が脳に伝達され、脳が活性化しているらし い。小野塚教授は「お年寄りの場合は、海馬が萎縮していることも 多く、脳に伝わった情報は、前頭前野などの部位が補完しながら 処理している。このため、脳が広範囲に活性化しているのが、fM RIでとらえられる」と説明する。ガムをかむことによって海馬か゛ど れだけ活性化するのかを、何枚もの風景写真を続けて見せ、再び 見せた写真が同じものかどうかを答えてもらう記憶力テストで調べ た結果がある。かむ前と二分間かんだ後の正答率は、19~26歳 の31人ではほとんど変わらなかったが、60~76歳の57人では 7ポイント近く上昇したという。小野塚教授は「お年寄りにとって、 かむという行為は、脳への大切な情報伝達の手段。うまく取り入れ れば、早期の認知症やその予備軍の症状改善が図れるかもしれ ない」と期待をかけている。義歯などでもキチットケアし、常に挿入し、 食後は必ず歯ぐきもブラッシングして、口腔内を正常化に近い状態 にしておくことが重要なことのようです。