簡単明快 企業に浸透
ブリテッシュ・エアウェイズの旅客機は排出する CO2の相殺費用を乗客から寄付してもらう= ロンドン・ヒ-スロ-空港(ロイタ-)
英北東部のニュ-カッスル市を歩くと、太陽光 パネルを設置した住宅にしばしば行き当たる。 「環境先進地」の欧州では、太陽光パネルは珍し くないが、この街のものは「カ-ボン・オフセット」 (炭素相殺)事業で設置されたことに特徴がある。 欧州では今、英国生まれのこの温暖化防止策が、 各地を席巻している。二酸化炭素(CO2)を排出した個人や企業が、 植林や新エネルギ-開発などCO2削減事業に資金を拠出し、排出分 を相殺する仕組みだ。ニュ-カッスル市は2003年10月、世界初の 「CO2=排出ゼロ都市」を目指し、この事業に乗り出した。事業責任 者のチャ-ルズ・ヘンダ-ソンさんは「温暖化問題で人々が求めてい るのは『簡単な答え』だ」と話す。CO2削減の重要性は理解できても、 普通の市民はその方法が分からないし、企業も排出ゼロの達成は容 易ではない。そして、市民や企業を含む社会全体の参加がなければ 削減は進まない。カ-ボン・オフセットは、そんな現実への分かりやす い回答だった。
1㌧14ポンド拠出
同市は、CO2の1㌧のオフセットに必要な資金を約14ポンド(約3, 120円)と算出。生活のさまざまな場面での排出量が簡単に分かる 「計算機」をインタ-ネットに設置し、市民や企業に参加を呼びかけた。 例えば、1400㏄の乗用車を一年間運転した場合の排出量は4㌧弱。 相殺のために提供された資金は基金として積み立てられ、太陽パネル 設置などのCO2削減事業に活用される。
カ-ボン・オフセットはその後、05年に英航空会社ブリテッシュ・エ アウェイズが導入し、一気に知名度が上がった。航空機がCO2の 相殺費用の一部を乗客に寄付してもらう。東京・ロンドン間は一人 2㌧強、約3,600円。さらに、欧州の航空会社や旅行会社が続々 と同じ方法を採用し、英大手銀行や英政府は、航空機を利用する 出張にオフセットを義務付けるまでになった。企業にCO2削減の助 言などを行い、カ-ボン・オフセット業務を世界で初めてビジネスに 変えたカ-ボン・ニュ-トラル社(ロンドン)。同社のジョナサン・ショ ブリ-専務は「企業の活動は顧客や下請けを通じて社会に広げる。 この意味は大きい。大手ス-パ-のテスコは取引先だけで6万社で す」と、事業の有効性を説く。契約先は、リコ-やホンダなど日本企 業も含め大企業だけで250社を超える。
市民参加課題
ただ、現状では、オフセット事業への参画は企業に偏り、個人の参 加は決して多くない。ニュ-カッスル市のヘンダ-ソンさんも「オフ セット資金のうち市民は2割。行政資金がなければ、活動自体が 維持できない」と打ち明ける。日々の生活に懸命で、資金提供の 余裕などない市民も少なからずいる。カ-ボン・オフセットの登場で、 温暖化対策はビジネス・チャンスになったものの、「市民参加」は依 然大きな課題として残されている。(高田昌幸)