治療法、支援これから 原因めぐり異なる見解・ 健保適用外に負担重く
交通事故やスポ-ツ外傷、転倒などをきっかけ に脳や脊髄の周囲を流れる脊髄液が体内に漏 れ、頭痛やめまい、体のだるさなどを引き起こす とされる「脳脊髄液減少症」。厚生労働省が研 究チ-ムを発足させ究明に乗り出したが、現段 階では医学界での見解が分かれるため「病気」 とは認められていない。いつ、誰にでも起りうる 同症への理解を求め、現状などをまとめた。
同症治療の第一人者で国際医療福祉大学熱海病院(静岡県熱海 市)の篠永正道教授は2002年、「交通事故によるむち打ちなどの 外傷後に、頭痛など体の不調が改善しない患者の一部に髄液が漏 れている」と提唱。同症の患者は数十万人とも言われ、道内にも百 三十人以上いる。ただ、外傷で髄液が漏れるのか、むち打ちが原因 となるのかなどをめぐり医学界では見解が分かれている。整形外科 医で福井大医学部の馬場久敏教授は「むち打ちで髄液が漏れるこ とはない。しびれや頭痛は、軽い頸部脊髄損傷などによるもの」など と主張。同症は現在、健康保険の適用を受けていない。司法の判断 も慎重だ。患者・家族支援協会(和歌山)によると、患者が交通事故 の相手に損害賠償を求めてリ、保険会社に治療費の支出を求める訴 訟を全国で起こしているが、事故と髄液漏れの因果関係を認めた例 は福岡など地方裁判所での3件にとどまる。札幌でも40代男性が交 通事故の加害者を相手に起こした訴訟が始まったが、見通しは不透 明だ。こうした中で発足した厚労省の研究チ-ムは脳神経外科や整 形外科、放射線科などの専門家15人で構成。患者のデ-タを集め 始め、約200例となった時点で中間結果をまとめる。座長の嘉山孝 正・山形大医学部教授は「明確な診断基準と画像解析法をまとめた い」と話し、診断方法を確立、三年目に治療法の検証を行う見通しを 示している。同症の治療には、脊髄液が漏れている場所に自分の血 液を注入してふさぐ「ブラッドパッチ」と呼ばれる治療法が有効とされる。 道内では唯一治療を行う小樽第二病院は「新患の予約は今年5月ま で埋まっている」(高橋医療部長)。 健康保険が適用されないパッチ療法も含め1回30万円ほどを負担。 頼みの保険会社も健康保険適用外の症状に対しては、治療費の支 払いを拒むケ-スが多い。中でも生活保護の受給世帯は、健康保険 適用外の治療は医療費扶助の対象とならないため、現状では同症の 治療は受けられない。このため「将来を担う子どもたちを救いたい」と 基金設立構想も浮上している。高橋医療部長は「小児期に発症し、 30歳を超えて分かった患者が多い。だるさなどから『根性がない』な どと言われないよう、子どもの治療に取り組みたい」と話す。設立時 期は未定だが、「基金は広く一般に募集したい」としている。 問い合わせは脳脊髄液減少症患者・家族支援協会の新・東京事務所 ℡045・716・4646(平日午後1時~4時)へ。