新得のカボチャ<無農薬で病気予防> 千葉の長ネギ<茎太く甘みも増す>
「塩は農地や作物に有害」という常識に逆らう 「海水農法」が、道内外の一部農家で始まって いる。研究者の間では海水の利用に異論もあ るが、自然の力を利用して化学肥料や農薬を 減らす安全な農業の可能性を示しているともい えそうだ。(帯広報道部 中村征太郎)十勝管内新得町の野菜農家 平賀元蔵さん(69)は、2年前からカボチャ畑の一部で葉に海水を 試験散布している。葉などが白くなるうどんこ病予防のためだ。約 30年前に有機農業を始め、病気対策に酢やトウガラシなどを試した 末の最後の一手だった。10年前「農業の講演会でだれかが話した のを覚えていた」だけで、効果への確信はなかった。散布時期は病 気が出始める6月末にした。2年前は四千倍に薄めて効果がなかっ た。昨年は三百倍にしたところ、病気の進行が20日ほど遅くなり、 病気が葉一面に広がる前に収穫できた。平賀さんは「糖度や収量に 変化がない。今年は百倍まで濃度を上げてみる」と話す。
台風の塩害契機
「九十九里海っ子ねぎ」。千葉県の山武群市農協(山武市)が札幌 にも出荷したことがある長ネギの新商品だ。全国有数の長ネギ産 地の同農協は二年前に海水を使い始め、今は長ネギ農家140戸 のうち53戸が計20㌶に導入している。収穫直前の1月中旬、横芝 光町の九十九里浜から3㌔ほど内陸の長ネギ畑で、滝田修さん(45) が「海水をかけると甘くなるし、白い茎の部分も太くなった」と、水で 薄めた海水を葉に噴霧していた。一帯の農家は九十九里浜の海水 を10倍に薄め、成長期の9月から収穫前まで10~15日置きに噴霧 機で葉にまく。海水を使わない長ネギに比べ、茎の直径2・1㌢以上 の2Lの割合は1割以上多い47%。1箱(5㌔)の価格はレギュラ- 品の2倍近い2500円前後だ。
作物別に試験を
同農協が海水を導入したきっかけは2002年の台風による塩害だっ た。ブロッコリ-などが枯れた一方、長ネギは生き残り、「食べてみた ら甘かった」(滝田さん)。海水を長年まき続けることについて、東京 農大の渡辺和彦客員教授(作物栄養学)は「露地栽培で、散布終了 後1ヵ月間に2百㍉程度の雨が降るなら、塩分は表土から地下水脈に 流れるので問題はない」と指摘する。これに対し、帯広畜産大の筒木 潔教授(土壌学)は「長年散布すると土壌内の栄養分の構成比率が 変わるかもしれない」と懸念する。塩に含まれるナトリウムを植物が取 り込むと、光合成に必要なカリウムを流出させる可能性があるからで、 渡辺客員教授もタマネギやキュウリなどは塩に弱いとし「作物ごとに試 験栽培が必要」という。