○有機農業を北海道にどう根付かせますか 理解深め就農も支援(ポラン広場北海道流通センタ-代表)
「自動車は軽から高級車まで価格が違う。それ を消費者が買うのは中身が違うから。でも、野菜 は野菜一般なんですね。中身の違いを知っても らわなくては」札幌市東区の商業施設「アリオ札 幌」のオ-ガニックレストラン「きっちんぽらん」で、経営者の笛木康雄さ んは熱っぽく語った。
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テ-ブルに置かれた冊子「生産者のさんのご紹介」には、農産物を 提供している農家の写真と住所、栽培規模、ジャガイモ、タマネギな どの作物名が並ぶ。 笛木さんは、2001年に全国初の有機専門農 協である北海道有機農協の設立に携わり05年春まで専務理事を務 めるなど、化学肥料や農薬に頼らない農業推進の一翼を、流通の立 場から担い続けてきた。05年秋のレストラン開店も、消費者の理解 を一層深め、調理を通して新規就農者を育てる狙いからだ。「価格は 割高でも安全・安心で栄養分が違います」食の信頼を揺るがす出来 事が後を絶たない。昨年は食品偽装が全国で相次いで発覚した。中 国製冷凍ギョ-ザによる中毒事件は一部輸入農産物の危うさをあら ためて痛感させた。日本は食糧自給率(カロリ-ベ-ス)が40%を切 り、先進国で最低水準。食料基地・北海道の踏ん張りどころだが、道 内の農家戸数は減る一方。有機認定農家も約330戸と全体の0・6% 程度にとどまる。「有機JAS(日本農林規格)表示は信頼の最後の砦。 でも、有機認定農家は大きくは増えていません。道は09年度で一千 戸の計画ですが、無理なのではとの声も聞かれます」だが、笛木さん は「環境は整ってきた」と言い切る。国内外の大きなうねりを感じてい るからだ。「世界的には有機農業が急速に定着してきています。1位 のオ-ストラリアは06年で有機認定圃場が1200万㌶。2位は中国 の350万㌶で国内の富裕層や欧州輸出向けなど経済戦略として進 めています。日本はまだ5千㌶です」。道内は約1700㌶と全国の三 分の一を占め、気候・環境が適するこの地でこそ拠点化を急がなけれ ば、との思いが笛木さんにはある。
日本でも有機農業推進法が06年成立した。「国が姿勢を示した意 義は大きい」。推進法に先立ち、道は05年に「食の安全・安心条例」 を制定し「有機農業の推進」を明確に盛り込んだ。「道の試験研究機 関に研究予算がつき、農家が相談できるようになった。農協も指導 に中心的役割を果たしてほしい」
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笛木さんは札幌で生産にも取り組みだした。札幌市の特定法人貸 付事業を利用して遊休農地を借り、昨夏から有機栽培を始めた。 「札幌に遊休農地は約2百㌶。仮にサラリ-マンらが兼業農家とし て1千人で取り組めば、知り合い10人で理解は1万世帯に広がる」 この4月から道外から20人程度に限定して希望者を集め、就農者育 成の研修事業も始める。なにゆえにここまで「有機」にこだわるのか。 埼玉県から北海道に渡り、市内の豆腐店に勤めていた1982年、と にかくうまい有機野菜のダイコンに出合ったのが始まりで「その後の 人生が変わった」。それから26年になる。団塊の世代、学生運動の 世代でもある。「親の世代を戦争犯罪人と言っていたが、この4、50 年で地域社会は崩壊し、食文化も消え、食品添加物が当たり前にな った。われわれは子や孫の世代から社会を崩壊させたと非難されか ねない」笛木さんにとって、有機農業は「食」を通した次世代への責務 なのかもれない。熱い思いは、だからこそ、持続するのだろう。
あとがき:笛木さんは「食」の立場から地球温暖化にも触れる。「生産 者と消費者を信頼で結ぶ有機農業は、地産知消にもなります。輸入 に膨大なエネルギ-を使わなくてもいい」。有機農業が北海道にふさわ しい農業の一分野だとすれば、さまざまな立場からの情報発信がもっ と必要だと感じた。 文・編集委員 田村俊雄 写真・編集委員 河野正敏 ※毎週木曜日午前8・40から約十分間、STVにてその熱い思いを オン・エア中!