京大・山中教授らマウスで成功
さまざまな組織に成長できる万能細胞の人工多能性幹細胞(iPS 細胞)を、マウスの肝臓と胃粘膜の細胞からつくることに京都大の 山中伸弥教授らが成功し、14日の米科学誌サイエンス電子版に 発表した。iPS細胞の作製には、発がん性が否定できない特殊な ウイルスを使うが、肝臓や胃からできたiPS細胞は、皮膚由来のiP S細胞よりがん化の危険が低いことが判明。細胞の種類や手法の 工夫によってこのウイルスを使わない道も可能になりそうで、山中 教授は「臨床応用に向けて前進した」と話している。山中教授らは、 これまで人やマウスの皮膚から作製に成功。今回は肝臓や胃粘膜 の細胞に四種類の遺伝子をウイルスで組み込み、iPS細胞をつくっ た。これらは皮膚由来のiPS細胞と比べると、ウイルスが細胞の染 色体に入り込む箇所が少なかった。またiPS細胞をマウスの受精卵 に混ぜて成長させる実験で、皮膚由来のものは約4割に腫瘍がで きたが、肝臓と胃のiPS細胞ではほとんどできなかった。iPS細胞を めぐっては、ウイルスがもとの細胞が持つ特定のがん遺伝子を刺激 しているとの仮説があった。山中教授はデ-タを分析してこの説も 否定。「今後は血球細胞などでも試し、安全性を高めたい」と話して いる。
安全な細胞作製に意義
国立成育医療センタ-研究所の阿久津英憲室長の話 肝臓や胃粘 膜などの上皮細胞は分化が進んでいて、iPS細胞などをつくるのに 不向きだと考えられていたので驚きだ。肝臓と胃、皮膚由来のiPS細 胞に、発がん性など性質の違いがあることが分かったのも興味深い。 ウイルスの挙動にも大きな違いがあり、詳しく調べることで、より安全 で治療目的に近い万能細胞をつくるのに役立つだろう。