運動野きたえ楽しい人=當瀬規嗣解説
私たちの体を動かすのは大脳です。大脳の表面には、ちょうど頭の てっぺん辺りから耳の上の辺りまで、左右に帯状の盛り上がりがつ ながっていて、ここにある無数の神経細胞から全身の筋肉に指令が 発せられています。この部分を運動野といいます。運動野の神経細 胞たちは、それぞれ担当するからだの部分か゛決まっています。頭の てっぺんあたりは足で、そこから順に腰、胴、胸と並び、腕から手、指、 その次は額から顔、そして口、舌と続きます。そして動きが細かくなる 手、指、口、舌を担当する神経細胞の数が圧倒的に多く、たとえば胴 回りの部分を担当する神経細胞より、指を担当する神経細胞の方が はるかに多いのです。胴回りよりはるかに小さい指にたくさんの神経 細胞を動員して、はじめて細かい指の動きが可能になります。おはし が使えるのも、鉛筆を使って文字を書けるのも、このしくみのおかげで す。そして、唇や舌を担当する神経細胞の数も指に匹敵するぐらいの 数です。これは、言葉を発することが、非常に複雑な運動を必要してい ることを示すものです。人は、言葉と道具を駆使して文明を築いてきま した。大脳の運動野は、人にとって言葉と道具がいかに大事なもので あるのかを如実に示しています。よく認知症予防に、楽しい会話、書道 や手芸など手先を良く使うことが推奨されますが、なるほど、言葉と道 具は人らしく生きてゆく原点なのですね。口八丁手八丁で運動野を使っ て、楽しい人生を過ごそうではありませんか! (とうせ・のりつぐ=札医大医学部長)