ヒトの目にも完備=當瀬規嗣解説
ホ-ムビデオカメラは今では家庭の必需品になりましたね。学校の 運動会や学芸会になると、カメラの放列となって、それは壮観なもの です。昔、私の父親が8㍉フイルム家庭用映写機に凝って、いろん なものを映していました。しょせん素人ですので、画面が安定せず見 づらかったものです。動きのある絵を撮ろうとして、映しながらカメラを 動かしたり歩き回ったりしたからです。皆さんも似たような経験がおあ りではないかと思います。よく考えると、ヒトの目も、父親のカメラと同 じような状況にあります。歩いたり、首を動かしたり、目というカメラは 位置が定まらず不安定です。でも、そんな時でも目で見える映像がブ レて見えにくいと感じることはほとんどありませんね。これは、目のちょ うど後ろにある中脳の働きによるものなのです。眼球を動かす神経が 出ている中脳には、目に見える映像情報や、耳の奥にあって頭の動 きをとらえる前庭からの情報が集約されています。ヒトの目は、対象の ものに焦点を合わせると、それが映像の中心になるように眼球を動か して調整します。そのときに、体が動いたり、頭が動いたりしたときは、 その動きに合わせて眼球が動いてブレが起きないようにしているので す。これを「前庭眼反射」といいます。このしくみのおかげで、ヒトは走っ たり運動したりしている最中でも、正確にものを見ることができるので す。最近のデジタルカメラには手ブレ補正がついていますね。つまりヒト の目には大昔から手ブレ補正が完備されていたわけです。ヒトの体は つくづくすごいものだと思います。
※「いい顔」で、読者から「額の広さ」についてご質問をいただきました。 文中で「大脳が発達した人はオデコが広い・・・」としましたが、これは他 の動物に比べ、人間は頭の前の部分が発達し、高度な精神作用があ ることを指摘したものです。他人と比較して、オデコの広さい゛能力に差 があるものでは決してありません。誤解ないように、あらためて確認させ ていただきます。(とうせ・のりつぐ=札医大医学部長)