国際医療福祉大大学院 竹内教授が提唱 「水分、食事、排便、運動」で対応 問題行動と原因を整理
「水、飯、排便、運動」をキ-ワ-ドにした認知症 ケアが、道内を始め全国で広がっている。提唱す るのは国際医療福祉大大学院の竹内孝仁教授 (67)。1月中旬、札幌で2日間にわたって開か れた研修会をのぞいてみた。(中原洋之輔)
「80代女性Aさん。『物を取られる』との妄想があ り、ホ-ム入居後は帰宅しょうとしたり、意味不明 な言動をしたりすることもありました・・・」約200人が参加した研修会 で、札幌市内の老人ホ-ムの担当者が事例を報告した。Aさんはアル ツハイマ-型認知症と診断され、昨年4月にホ-ムに入居。当初は水 分摂取量が1日500~900㍉㍑、食事は800~1200㌔㌍だった。 入居後、食生活を改善し、最終的には水分は1500㍉㍑、食事は17 00㌔㌍に達した。さらに、自宅で焼酎を飲んでいたことが分かり、飲 酒を少しだけ認めたところ、現在では帰宅願望や妄想はほとんどなく なり、職員に「手伝うことは?」と尋ねるほどに意欲も戻ったという。脱 水状態や1人きりになると、徘徊や暴言などが始まる-。竹内教授は、 介護現場で経験的に知られていた、こうした認知症に伴う問題行動と その原因を整理し、その治療法として「水、飯・・・」を提唱した。具体的 には1日1500㍉㍑の水分をとって脱水症状を治し、1500㍉㌍の食 事で栄養状態を改善し、適度な運動と排便を促して、心身を落ち着か せる。竹内教授は「この4つを徹底して低下した認知力を元に戻せば、 異常行動の大半が治ることがある」と話す。それでも改善しない場合は、 個別ケアを検討する。竹内教授は認知症を6タイプに分類。それぞれの ケア方法を示している。
- 身体不調型 室内を歩き回るなどの興奮状態が特徴で、最多 のタイプ。脱水や便秘を再点検し「水、飯・・・」を徹底
- 環境不適応型 入浴や食事などを拒否。担当者を決めてなじみ の関係を
- 知的衰退型 家や外出先で迷子になる。目印を付けるなどして 認知を支援
- 葛藤型 異物を食べる異食や暴力など。孤独や抑圧が背景に あり、1人にしないなどの対応を
- 遊離型 周囲に無関心。食事当番などの役割を与える
- 回帰型 子供の任侠をあやしたりする。思い出話などに寄り添う。
冒頭のAさんの場合、「水、飯・・・」の不足のほか、好きな酒を飲めない 状況が心を抑圧したと考えられる。それらを改善した結果、「以前の普通 のお婆ちゃんに戻った」(施設関係者)という。複数のタイプが重なるケ- スもあり、適切なケアは簡単ではないが、研修参加者は「ケアが明確で 実践しやすい」と口をそろえる。認知症に“待ったなし”で対応する現場で は、この分かりやすさも魅力のようだ。
竹内教授 理論学び、家庭で実践を
竹内教授は高齢者のリハビリが専門で、1970年代から首都圏の 特別養護老人ホ-ムなどて介護現場とかかわってきた。その経験か ら、「認知症のさまざまな病状で一番つらい思いをしているのは、患 者本人。そこから介護を見直すべきだ」と話す。大切なのは、異常な 行動がいつ、どこで、どのような状況で起きたかを観察し記録するこ と。「その上で『水、飯・・・』を徹底し、さらに6タイプを正確に判定し なくては、適切なケアに結びつかない」と指摘する。竹内教授は「認 知症は治る。そのためにも理論的な認知症ケアを学んでほしい。家 庭でも取り組めます」と強調している。
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竹内教授は、一般向けのガイドブック「家族で治そう認知症などで、 ケア方法を詳しく紹介している。
家族で治そう認知症 (介護科学シリーズ) 価格:¥ 501(税込) 発売日:2008-04 |