人づくり 「伝説の社員」生んだ信頼
市場原理主義が広がる中で迎えた世界不況。 企業は先を競うように従業員を削減する。道内で は約12万人が失業中だ。その陰で社員を守り、 育てながら、荒波を乗り越えていく企業がある。 函館市の戸沼建設。ここに「伝説の社員」がいる。 中卒で漢字も満足に書けなかった日雇い作業員 が33年前、仕事への情熱を買われて正社員とな り、3年前に常務まで上り詰めた。「研修会で若手 から続々とアイデアが出たのはうれしかった」。伝説の主人公、梅木克 美さん(58)は後輩の成長に相好を崩す。梅木さんの入社時、戸沼 平八社長(72)は、まずラジオの話し方講座で言葉遣いを学ばせた。 そして、大卒の後輩が次々と収得した「一級土木施工管理技士」の受 験を熱心に勧めた。梅木さんは「取れなきゃ会社を辞める」と決意し、 皆が帰宅した後にこっそり会社に戻って勉強に励み、宿願を達成。中 堅社員への道を歩んでいった。
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社員は現在約30人。「大手と違い、中小は人がすべて」(戸沼社長) との理念で、梅木さんの出世物語に象徴される「人づくり」を徹底する。 決算の詳細を毎年社員に説明し、それに応えた社員らが自ら勉強会 を開き、責任感とやる気を高める。それが現作業の改良や新工法のス ム-ズな導入を生み、受注増につながっている。公共工事の削減で、 道内の建設業者は過去7年で3千社も減り、今も多くが経営難に苦し む。だが、同社は売上高が最盛期の6割の約12億円に減りながらも 人員削減は行わず、本年度も23年連続の黒字となる見通しだ。「社員 教育を含め、これまで、どんな経営をしてきいかが、激変時代の差にな る」。戸沼社長は強調する。トヨタ6千人、NECグル-プ1万人以上・・。 相次ぐ非正規従業員の削減計画数だ。全国では3月までに12万5千 人の非正規労働者が失職する見込みで、さらにソニ-や三洋電機など は正社員削減にも手を付ける。果たして、これほどまでに人を切るのは 経営のあるべき姿といえるのか-。
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「頑張る契約社員が正社員になるのはうれしい。皆がやる気になる」。 呉服販売を軸に多角化を進める和光(札幌市)。昨年、正社員に昇格 した和物雑貨店の責任者、木村朱理さん(31)が笑顔を見せる。不況 を一丸になつて乗り切ろうと、田中傳右衛門社長(60)は近く数人を 社員に昇格させる。昨年、脳梗塞など患ったベテラン社員らのため、 小樽の遊休地に朝鮮ニンジンを栽培する事業にも乗り出した。田中社 長は言い切る。「中小企業は社長と社員の信頼で成り立つ。人生を懸 けて働く人を道具のように扱えない」
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派遣切り、人員整理、倒産などが相次ぎ、出口の見えない不況の真っ ただ中にある道内で、「不況に負けない」と必死に踏ん張り、業績を上 げる働き手や経営者たちがいる。その姿を追った。