花粉管 なぜ卵細胞にたどり着く? 名大チ-ム 細胞外に分泌のタンパク質
雄の花粉が、雌のめしべにくっつくことで始まる植物の受精。この受精を正しく成立させるために、めしべ側に備わっているとされ、140年前から植物学者らが探し求めていた受精の鍵となる物質を、東山哲也名古屋大教授(37)らのチ-ムがついに発見した。
被子植物が受精に至る一連の過程は、①めしべの先端に花粉が付く②花粉はめしべ内部に向け、太さ百分の一㍉の花粉管を伸ばし始める③大きなめしべの中を花粉管は迷うことなく進み、めしべ下部の卵細胞に到達④花粉管の中を精細胞が運ばれ、卵細胞と受精。
トレニアに着目
ここで最大の疑問は、なぜ花粉管が正確に卵細胞までたどり着けるかという点。1869年にフランスの研究者が、花粉管を導く「誘引物質」があるのでは-と実験で示して以来、世界中で探索が続けられたが発見に至らず、「幻の存在と考えられたこともあった」(東山さん)という。東山さんらは、初夏-秋に紫や白などの花を咲かせる園芸植物のトレニアに着目。ほとんどの花は卵細胞などが厚い組織で覆われているが、トレニアでは外部に飛び出しており、研究に使いやすい。花粉を付けたトレニアのめしべの先端を切り取ってシャ-レで培養。花粉管が延びていく様子を、直接観察できるようにした。まず花粉管の先端に、卵細胞を含み、種子のもととなる「胚珠」を近づけて動かした。すると、花粉管は胚珠の後を追うように延びることから、誘引物質は幻ではなく、実在すると確認できた。詳しく調べると、胚珠の中で卵細胞の隣にある「助細胞」が、誘引物質を分泌していることが判明。そこで、助細胞だけを取り出し、どんな遺伝子が働いているかを解析した。その結果、助細胞ただけで強く働く2つの遺伝子を発見。これらの遺伝子を働かないようにした胚珠には花粉管が近づかないことも確認。これらの遺伝子がつくるタンパク質を、花粉管の先端近くに置くと、花粉管がその方向に伸びることから誘引物質と判断した。
受容体探し課題
東山さんは「(魚を誘う)釣りの疑似餌から、ルア-と命名した。ルア-を使い花粉管を自在に曲げて文字も描ける」と話す。過去には、カルシウムイオンなどが誘引物質の候補と考えられていた。「正体が、細胞外に分泌されるタンパク質とは驚き。これをきっかけに、さまざまな植物の誘引物質探しが加速するだろう」(東山さん)という。誘引物質は、たとえ近縁の種でも同じものがないことが分かっており、自然界で近縁同士の交雑を避け、種を維持する仕組みとみられている。これを逆手にとって、別の種の誘引物質を注入して受精に導くことができれば、新種の作物を作り出せるかもしれない。東山さんは「長年の謎を解析できたが、ルアー感知の仕組みが花粉管に存在するはず。ルア-の受容体探しが世界中の次なる競争になる」と話している。