『オフェリアと影の一座』
ミヒャエル・エンデ 作
フリードリヒ・ヘッヘルマン 絵
図書館には、本当にたくさんの絵本が並んでいて、以前気に入った絵本をまた見つけ出す、というのはけっこう難しいものです。
どうしても読みたい場合は、PCでリクエストしておいたり、司書さんに尋ねたりするのですが。
でも、ある日、ぽんと本棚に立てかけある絵本を見て、「あっ、この絵本!」と思わず再会できることもあります。
この『オフェリアと影の一座』もそうでした。
以前読んで気になっていたのに、すっかり忘れてて、久しぶりに図書館に行ったときに見つけ、思わず手にとってしまいました。
文を書いているのは、エンデ。
そう、『モモ』や『はてしない物語』の作者です。
物語も幻想的なのですが、絵がまたすごく幻想的で、このお話にぴったり。
まるでお芝居を観ているように引き込まれます。
そう、これはお芝居を演じる一座のおはなし・・・。
親から立派な大女優になってもらいたいと、名前までお芝居にちなんでつけられたオフェリアさん。
残念ながら、声が小さすぎて大女優にはなれませんでした。
でも、お芝居は大好きで、声が小さいことをいかして、舞台の役者が途中でつかえないように、小声でせりふをささやく仕事に就きました。
そして、その仕事に打ち込み、世界中の悲劇・喜劇を覚えてしまうほど。
ところが時代が移り、小さな町の劇場は閉じられることに。
オフェリアさんもお払い箱です。
最後の公演がすみ、オフェリアさんが立ち去りかねてひとりでいると、誰のものでもない影カゲスキイを見つけます。
旦那さまもいないオフェリアさんは、その寂しそうな影を連れて帰ります。
その後も持ち主のない影が、噂をききつけやってきます。
クライノイヤー、ヒトリウス、ムナシーゼ・・・。
そのうち影同士でけんかをするようになり、困ったオフェリアさんは影たちに芝居のせりふを教えるのでした。
影たちは自由自在に形を変えることができます。
夜になると影たちは、すばらしいお芝居を演じてみせるようになりました。
ところが、世間の人たちは、なんとなくオフェリアさんのことをあやしいおばあさんだと思い始めます。
そして、とうとうアパートから追い出されてしまったのです。
トランクと、影たちのはいっているハンドバッグだけを持って、あてどない旅に出たオフェリアさん。
疲れて眠りこけている間に、影たちはご恩返しをしようと相談します。
そして小さな村で、白いシーツで垂れ幕をつくり、お芝居を始めたのです。
これがうけて、見物代も稼げるようになりました。
オフェリアさんは車を買って、影たちを引き連れ、世界中を駆けめぐるようになりました。
その車には、きれいな文字でこう書いてあるのです。
オフェリアと影の一座
さて、お話はここでおしまいにしてもいいのですが、じつはまだつづきがあります
そう、作者が言うように、ここで「めでたし、めでたし」では終わらないのです。
ある日オフェリアさんは吹雪にあって、車が立ち往生してしまいます。
そこへ現われた大きな影。
その大きな、暗い影をも、オフェリアさんは引き受けてしまうのでした・・・。
この先は、胸にじーんときて、読むと泣いてしまいそうになります。
好きなことに一途なオフェリアさん、そして最後まで潔いオフェリアさん。
大女優にはなれなかったけれど、この、舞台の役者にせりふを教えるプロンプターという仕事が、彼女の天職のように思えるのです。
好きだからこそやってきた仕事。それが持ち主のない影を引き受けたことで、とんでもないことになりましたが、それでも影たちにお芝居を教えることで、またひとつ人生が開けていきます。そして、最後には・・・。
とにかく、変幻自在な影たちの様子や、行くあてのないオフェリアさんの淋しそうな後姿、おそろしい森の吹雪に、最後の方のページの厳かな美しさなど、絵がとても素晴らしいので、ぜひ手にとって読んでみてください。
そうそう、最後には
オフェリアと光の一座
って、呼ばれるようになるんですよ。