ほぼ是好日。

日々是好日、とまではいかないけれど、
今日もぼちぼちいきまひょか。
何かいいことあるかなあ。

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』

2007-06-08 | 読むこと。


    『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』
         米原 万里 


昨年亡くなられた米原万理さん。
彼女に興味を持ちながら、まだ一冊も読んでいなかったのは、ロシアや東欧の国々が私にとってあまり馴染みがなかったせいかもしれません。
若いころ世界のあちこちに憧れていた私も、それらの国々についてはあまり詳しくは知りませんでした。

世界が東と西に分かれていた時代、スパイ映画というときまって悪役は東側。
華やかな西欧に比べて、ロシア・東欧というのは、得体が知れずどこか暗いイメージがつきまとうのでした。
おまけに東欧というと政治的にもややこしそうで、世界史に疎い私はまずそのあたりでお手上げになりそう・・・。
しかしそんな心配をよそに、読み始めたらこれがおもしろいんです。

米原万理さんは日本共産党幹部だった父の都合で、1960年から1064年にかけてチェコのプラハに滞在し、在プラハ・ソビエト学校に通いました。
このエッセイは、9才から14才という多感な時期に、そこで出会った友達との思い出とその後の再会の様子が描かれています。

彼女の軽妙な語り口で語られる思春期の少女たちの賑やかさ、様々な国籍をもつ個性的な友人たち、そして30年後激動の東欧で彼女たちとの再会と、ぐいぐい引き込まれて読んでしまいます。

そして読みすすむうちに感じられるのは、彼女たちが背負う故国の重み。
戦後、平和にどっぷりとつかってのほほんと過ごしてきた私たちには、普段ほとんど意識することのない故国に対する思いです。

故国に一度も行ったことのないギリシア人のリッツァ、ルーマニアの要人の娘で貴族並みの贅沢な暮らしをしながら共産主義思想を口にするアーニャ、ユーゴスラビアを愛しながら民族紛争に巻き込まれるヤスミンカ。
私が初めて知るような複雑な国と国との事情、内戦、民族紛争の中で彼女たちは生きているのです。

「歴史の教科書の中の出来事」と捉えがちな過去の大事件の中で、確かにその時代にも人々はその日その日を一生懸命暮らしていたのだ、というあたりまえのことに気づき、その歴史的大事件に巻き込まれ、翻弄されたであろう多くの人々の人生を思わずにはいられません。
そしてそれは、今日接する遠い海外のニュースにおいても、です。

当時ニュースに疎かった私でさえ知っていたユーゴスラビアの民族紛争。
そのさなかに、米原さんは友人ヤスミンカの消息を尋ねてユーゴスラビアへ赴きます。
そこで彼女はボスニアに移住したと聞き絶望的になるのですが・・・。
このあたり、はたしてヤスミンカと無事再会できるのか、ハラハラ、ドキドキの連続でした。

少女時代の友達という身近で大切な人を通して描かれていただけに、私には遠い国の出来事でしたなかった二十世紀後半の激動の東欧史が、とても生々しい出来事として感じられました。

最近興味を持ちはじめたチェコという国。
浦沢直樹の漫画『monster』から始まって、プラハの古い町並みや絵本・あやつり人形なんかを見てみたいなあ、という単純な動機でしかなかったのですが、今はもっといろいろ知りたくなりました。
いつか行けるといいなあ

コメント (4)
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