最近、「あなたと読む恋の歌百首」という文庫本を頂いた。俵万智が選んだ101の短歌に彼女が解説を付けたものである。わずか31文字で、これほど多くのことを語ることができるのか、と解説を読みながら感心した。短歌だけを読んでも、私には、せいぜい倍の61文字分の情報しか拾うことができないのである。情けない程に教養が無いということだ。解説によると、その歌だけで独立して何事かを表現しているものもあまたあるのだが、詩集のなかで前後の歌との併せ技で世界観を描いているものも少なくない。歌詠みの間では常識となっているような歌に掛けて詠んだものもある。こういうものは、さすがに解説がないとわからない。文法を知らないことによる理解の欠如もある。例えば、過去を表現する助動詞には「き」と「けり」があって、「き」は直接経験を、「けり」は伝聞を表すのだそうだ。また、「き」は回想、「けり」は詠嘆の要素が強いとも書いてある。こういうことを知らないと、歌から広がるイメージの奥行きが得られない。それにしても、言葉というのは無限の可能性に満ちている。
以前、映像翻訳の教室に通っていた時、宿題はたいてい3分間ほどの字幕や吹き替え原稿の作成だった。この時、3分間で伝えることのできる情報量の大きさに驚愕したことがある。1分間という時間はこれほど長いのに、一生があっという間に感じられるのは何故だろう、と不思議になる。
さて、その101首のなかで、気に入って書き留めたものが10首あった。
赦せよと請うことなかれ赦すとはひまわりの花の枯れるさびしさ 松実啓子
春芽ふく樹林の枝々くぐりゆきわれは愛する言ひ訳をせず 中城ふみ子
いつかふたりになるためのひとりやがてひとりになるためのふたり 浅井和代
ゆるされてやや寂しきはしのび逢ふ深きあはれを失いしこと 岡本かの子
うら恋しさやかに恋とならぬまに別れて遠きさまざまの人 若山牧水
一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております 山崎方代
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ 種村弘
暖かき春の河原の石しきて背中あはせに君と語りぬ 馬場あき子
愛うすくなりつつ旅をつづけ来て支線別るる駅に別れき 高嶋健一
あやまてる愛などありや冬の夜に白く濁れるオリーブの油 黒田淑子
以前、映像翻訳の教室に通っていた時、宿題はたいてい3分間ほどの字幕や吹き替え原稿の作成だった。この時、3分間で伝えることのできる情報量の大きさに驚愕したことがある。1分間という時間はこれほど長いのに、一生があっという間に感じられるのは何故だろう、と不思議になる。
さて、その101首のなかで、気に入って書き留めたものが10首あった。
赦せよと請うことなかれ赦すとはひまわりの花の枯れるさびしさ 松実啓子
春芽ふく樹林の枝々くぐりゆきわれは愛する言ひ訳をせず 中城ふみ子
いつかふたりになるためのひとりやがてひとりになるためのふたり 浅井和代
ゆるされてやや寂しきはしのび逢ふ深きあはれを失いしこと 岡本かの子
うら恋しさやかに恋とならぬまに別れて遠きさまざまの人 若山牧水
一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております 山崎方代
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ 種村弘
暖かき春の河原の石しきて背中あはせに君と語りぬ 馬場あき子
愛うすくなりつつ旅をつづけ来て支線別るる駅に別れき 高嶋健一
あやまてる愛などありや冬の夜に白く濁れるオリーブの油 黒田淑子