アートフェアで熊谷守一の作品を見かけて惹かれてしまった、という話は以前に書いた。その後、何度か千早の美術館を訪れ、今月半ばに館内に販売用として飾られていたリトグラフの「御嶽」を購入した。最初、絶筆の「あげ羽蝶」にしようと思ったのだが、リトグラフが実物の四分の一のサイズでちょっと印象が違ってしまい、買おうか買うまいか迷ってしまった。その時、同じ壁面の入り口側に飾られていた「御嶽」を妻が眺めていて「これいいね」と言った。なるほどいいなと思い購入したのである。今日、額装されたものが届いたので、さっそく玄関に飾った。写真だと伝わらないのだが、我が家のような粗末なところでも、たとえリトグラフとはいえ気に入った作品が飾ってあるとその場の空気が変わるような気がする。これには美術館の館長である榧さんが同作品の絵葉書に作品の説明を書いてくださり、そういう心遣いにも感激してしまった。
自分の生活の場に絵や写真を飾るようになったのは2012年からだ。前年末に勤務先から解雇され、気分を変えようと僅かばかりの退職金でそれまでの自分なら買わないようなものを買ってみようと版画を買った。たまたま或る新聞社のサイトで山口晃がアダチと組んで制作した浮世絵作品「新東都名所 東海道中 日本橋 改」について語っている動画を見て、興味を惹かれてその場でアダチのサイトから購入予約をしたのである。版画が特別好きというわけではないのだが、気に入った肉筆画を買うほどの余裕はなく、かといって内容の無いものを買う気もなく、結果として版画になる。いつかは肉筆画をポンと買えるようになりたいとは思っているが、それがいつのことになるのか具体的な目処は残念ながらまだない。
部屋に何かを飾ることで化学反応のようにその場の空気が変化するという経験をすると、それが病みつきになる。また、同じ作品がいつも同じに見えるわけではないということも経験することになる。そういうことが愉快なのである。