万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ユネスコ記憶遺産問題-資料の事実性と関係国の同意が必要では?

2015年10月16日 08時49分45秒 | 国際政治
シベリア抑留の登録批判=世界記憶遺産でロシア
 先日、ユネスコの記憶遺産に中国が申請していた”南京大虐殺”の登録が決定された件について、日本国内では強い批判が起きています。ところが、同時に、日本国が申請したシベリア抑留者の関連史料も登録が決まったことから、ロシアが「ユネスコの政治利用」として撤回を要求する展開に至っています。

 ロシアの主張は、戦争関連の資料は、”被害国”による”加害国”に対する政治的圧力や非難を含むため、人類共通の記憶遺産としては相応しくない、ということなのでしょう。しかしながら、”政治性”を基準としますと、戦争関連の資料は全て資格を失いますので、既に登録されている記憶遺産も登録から外す必要があります。仮に、”政治性”を問題とするならば、ロシアは、ユネスコ記憶遺産の制度改革案として訴えるべきであり、この点に関して国際的な合意が成立すれば、全ての加盟国が従うことでしょう。その一方で、”南京大虐殺”資料の登録決定に対する日本国の批判の焦点は、資料の事実性、並びに、相手国の同意の欠如にあります。”南京大虐殺”の資料には、審査過程において厳密な検証が行われておらず、虚偽のものが含まれていると指摘されています。一方、シベリア抑留者関連資料は何れも紛れもない”本物”であり、贋物ではありません。また、相手国の同意についても、”南京大虐殺”の登録については日本国は一貫して反対の立場を表明していますが、シベリア抑留者関連資料の登録申請に際しては、ロシア側からのサポートがあったそうです。申請に際しての関連国全ての合意は、資料が現在の”政治”ではなく、平和裏に過去の”歴史遺産”へと移行したことを意味するとも言えます。

 以上から、ユネスコの記憶遺産登録制度における選定基準の主たる改革点として挙げられるのは、(1)資料の事実性と(2)関係国の同意です。ロシアの批判点である”政治性”は、後者の問題に含めることができるからです。この二つの要件を欠いている場合には、”政治問題”、即ち、国際的な対立要因ともなりかねませんので(国連の精神に反する…)、ユネスコで合意が成立した暁には、たとえ既に登録が決定された記憶遺産であっても、再審査に付すべきではないかと思うのです。”日本はパンドラの箱を先に開けた”とするロシアの批判は、案外、後日、褒め言葉となるかもしれません。

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コメント (2)
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