万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ウクライナ危機と台湾危機―台湾の核武装問題

2022年05月10日 14時58分18秒 | 国際政治
 地理的に遠いウクライナで発生した危機は、即、極東にも波及することとなりました。その理由は、ロシアの軍事侵攻が将来における中国による台湾進攻を予測させたからです。ロシアと中国との間には、’国柄’としての共通性があります。両国とも帝国意識を今日まで引きずっていることに加えて、過去と現在という違いこそあれ、共産主義体制を経験しています。これらは独裁との親和性の高さをも意味し、両国の拡張主義的傾向をも説明しているのです。

 このため、極東にあっても台湾問題が強く意識されることとなったのですが、ウクライナ危機の展開から、中国の台湾に対する今後の対応については、凡そ二つの見解に分かれているようです。その一つは、ロシアに倣って中国も武力による一方的な現状の変更を試み、電撃的な台湾進攻を実行するというものです。このシナリオは、今後、ウクライナ危機においてロシア側が軍事力であれ、交渉であれ、その目的を達成すれば、現実のものとなる可能性が高くなることでしょう。その一方で、ウクライナ危機によって中国による台湾併呑の野望は打ち砕かれるという、正反対の見解もあります。ロシアの軍事行動が途中で挫折し、ウクライナ側がロシア軍の自国領域内からの排除に成功した場合、中国は、台湾進攻に二の足を踏むとの予測です。しかも、国際社会が一斉にロシアを批判すれば、中国にとりましては、軍事行動が取り難い状況となります。

 何れの予測であれ、中国の今後の行動は、将来におけるウクライナ危機の如何によって変わるのでしょう。このため、同国は、目下、ウクライナ危機の推移を注意深く観察しているものと推測されます。もっとも、国際社会も、人民解放軍による台湾進攻があり得るリスクである以上、手をこまねいて見ている方はありません。それを事前に阻止できるならば、あらゆる手段を尽くすべきと言えましょう。中国による台湾進攻は、政治問題の側面を含むロシア以上に明白な国際法違反行為です。そこで考えられるのは、台湾の核武装です。

 ウクライナ危機をめぐっては、仮に、同国がブタペスト覚書によって核兵器を放棄しなければ、ロシアは同国への侵攻に躊躇したであろうとする指摘があります。台湾もまたウクライナと同様に’核の傘’のない状況下にあることには変わりはなく、核による対中抑止力は働いていません。言い換えますと、中国から軍事侵攻を受けやすい条件を備えているのです。

 なお、台湾は、NPTの正式な加盟国ではなく、1971年のアルバニア決議により中国に国連代表権が認められたのに伴い、国連のみならずNPTからも脱退しています。ただし、1955年にアメリカとの間で締結された原子力協力協定、並びに、IAEAとの間に結ばれている保護措置協定の効力は維持されており、IAEAによる査察義務を負う事実上のNPT加盟国の立場にあります。

 それでは、台湾は、核武装することができるのでしょうか。方法としては、凡そ二つの道があるように思えます。その一つは、アメリカから核兵器の提供を受けるというものです。アメリカと台湾との間には、1979年の米華相互防衛条約の終了に際して台湾関係法が成立しています。アメリカ側に台湾防衛に関するフリーハンドがあり、かつ、目的を台湾防衛に限定しているとはいえ、アメリカは、台湾に対して米国製の兵器を提供することができます。今般成立した「武器貸与法」にも近い内容となるのですが(ウクライナにも核の提供は可能?)、台湾関係法に定められた’米国製兵器’には、アメリカが核保有国である故に、核兵器も含まれるものと解されます。

 もう一つの道は、台湾独自の核武装です。台湾は、上述したようにNPTの締約国ではありませんし、同国が受けている中国からの軍事的脅威を知らない国はありません。台湾が核武装を行った場合、中国以外の国にあって反対を表明する国は殆ど皆無であるかもしれません。台湾では、三か所の原子力発電所が稼働しておりますし、今日の台湾のテクノロジーをもってすれば、核兵器の自力開発はそれほどハードルが高いものでもないのです。

 台湾の核武装は、台湾のみならず、日本国を含む中国からの軍事的脅威に直面している全ての諸国の問題でもあります。そしてそれは、今日の欠陥に満ちたNPT体制の抜本的改革、あるいは、解散にも繋がるのではないかと思うのです。

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