報道によりますと、スウェーデンとフィンランドの北欧二国は、いよいよNATO加盟を正式に申請するそうです。非同盟政策を転換してのNATO加盟申請の理由としては、ウクライナ危機によるロシアからの軍事的脅威の高まりへの対応との指摘がありますが、メディアの報じ方からしますと、欧米諸国の動きは、あたかも第三次世界大戦への発展が織り込み済みなような印象を受けます。
とりわけここ数日、ロシア側から’好戦的’と非難されても致し方ないような報道が続いています。今般の北欧二国のNATO加盟も、どちらかと申しますと、対ロ陣営の形成、あるいは、西側諸国の結束強化の流れの一環としての解説が少なくありません。あたかも、’ロシア相手に戦う体制が整った’とでも言わんばかりなのです(その一方で、奇妙なことに、ウクライナでの戦況についてはロシア軍の劣勢が連日のごとくに報じられている…)。
こうした中、メディアの論壇でも、NATOとロシアとが全面戦争に至った場合、ロシアによる核兵器の使用があり得るか、否か、という問題が、議論の主題の一つとして持ち上がっています。軍事の専門家によれば、ロシアによる核の先制使用の可能性は決して低くはないそうです。’窮鼠猫を噛む’とも言われますように、通常兵器にあってNATOに劣位するロシアは、核の使用を以ってしか勝利を得ることができないからです。また、前回の記事でも指摘したのですが、敗北後におけるプーチン大統領等の責任者に対する軍事裁判、並びに、天文学的な賠償金の支払いを怖れ、ロシアは、ウクライナ危機を’絶対に負けられない戦い’と見なすかもしれません。勝つためには手段を択ばず、となりますと、ロシアによる核兵器の使用も杞憂では済まされなくなります。
今後、ロシアが核を使用する可能性が高いとしますと、北欧二国が早期にNATOに加盟したとしても、両国の加盟を以ってしても核戦争を防ぐことはできないこととなります。見方を変えれば、北欧二国は、’核の傘’を得るという目論見が外れ、むしろ、NATO加盟により核戦争に巻き込まれる導火線を自国に引き入れてしまうことになりかねないのです。ロシアは、フィンランドに対して’軍事的脅威はない’と伝えたと報じられていますが、ウクライナ危機を機にフィンランドもスウェーデンも、ロシアから核攻撃を受けるリスクが高まります。ウクライナのために自国が壊滅しかねないのですから、NATO加盟の是非の判断はより複雑となるはずです(既に、政府は正式に加盟を申請してしまいましたが、議会での批准手続きもあり、引き返しは可能では…)。
北欧二国のNATO加盟表明に対しては、ロシアが報復を示唆するなど攻撃的な反応を見せており、事態がエスカレートする展開も予測されます。むしろ、危機が増幅される可能性も否定はできなくなるのですが、第三次世界大戦、あるいは、核戦争の回避という目的に照らせば、北欧二カ国は、別の方法を模索すべきかもしれません。
この目的のために最も望ましいのは、NATO加盟による‘核の傘’の獲得ではなく、同盟なき核武装、すなわち、北欧二国が単独で核を保有することなのでしょう(非同盟核武装中立政策)。同政策でも、ロシアによる核兵器の先制使用のリスクを100%防ぐことはできないにせよ、北欧二国とロシアとの間に武力衝突が発生していない現状にあっては、同状態を平和裏に維持することはできます(ロシアは、両国を攻撃する根拠がない…)。たとえウクライナ危機が世界大戦に発展したとしても、北欧二国には軍事同盟による参戦のドミノ倒しが及ばず、大戦の規模を限定する効果は期待できるのです。
NPT体制がハードルとなって非同盟核武装中立政策を選択することが難しい場合には、先日合意されたイギリスによる安全保障の提供を活用するという方法もありましょう。同合意は、北欧二国がNATOに加盟するまでの間の暫定的な措置とされていますが、イギリスから核の傘の提供を受けつつもNATO加盟に対するロシアの反発を和らげる、並びに、政府間合意の段階ですので、NATO対ロシアの戦争に発展した場合にも、合意破棄が比較的容易になる(第三次世界大戦からの迅速な逃避可能性…)、といったメリットがあります。両国の加盟に対してはトルコが難色を示しておりますので、意図せずして同状態に至るかもしれません。
ウクライナ危機を目の当たりにして、北欧二国がNATO加盟を急ぐのは理解に難くありません。しかしながら、核の抑止力を求めているならば、NATO加盟が唯一の道とは限らないように思えます。第三次世界大戦、並びに、核戦争という人類滅亡の危機から脱する、あるいは、歩かされないためには、むしろ、別の道を選んだ方が賢明なようにも思えるのです。