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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

全諸国による核保相互抑止体制が望ましい理由

2022年05月17日 12時33分53秒 | 国際政治
 ウクライナ危機は、これまで曖昧にされてきた核の両面性、すなわち、破壊力と抑止力に関する判断を、現実における政策選択の問題として問うこととなりました。国連安保理の常任理事国であり、それ故に核を保有するロシアが同紛争の当事国であることにも依るのですが、どちらの側面をより高く評価するのか、そして、その国の立場、即ち、核保有国か否か、並びに、軍事力のレベルにより政策の結果が変わってしまうのです。本日は、幾つかの関係をパターン化して整理してみることとします。なお、関係のパターン化に際しては、国家を、核大国、核中小国、並びに、非核中小国の三者に分けています。

 先ずもって、軍事大国にとりまして核の寡占的保有は、他の中小の非核保有国に対して、絶対的な破壊力と抑止力のまさに両面の保有を意味します。大国による核保有は、国際社会において圧倒的な優位性と自国の安全性を約束するのです。この点、現行のNPTは、核を保有する大国に優越的な地位を認めると共に、核を保有しない非核中小国を軍事的に劣位な地位に固定化してしまうため、不平等な体制と言わざるを得ません。(パターン1 核大国>非核中小国)

その一方で、これらの軍事核大国間の関係にありましては、核保有は、破壊力並びに抑止力ともに相互に均衡関係が成立する基盤となり得ます(相互確証破壊論…)。冷戦期にあって超大国として君臨していた米ソが直接的に戦火を交える事態に至らなかったのも、核による力の均衡が保たれていたからなのでしょう。言い換えますと、相互確証破壊論では、核大国間の核の抑止力が平和を実現する作用としてより高く評価されているのです。(パターン2 核大国≑核大国)

それでは、核を保有している大国と核を保有している中小国との関係はどうでしょうか。合法的な核保有であれ、既成事実としての保有であれ、このケースでは、中小の核保有国は、絶対的ではないにせよ、軍事大国に対して一定の攻撃力並びに抑止力を働かせることができます。とりわけ、イギリスのようにSLBMを搭載した潜水艦等による反撃力を常備している場合には、より強い抑止力を得ることができるのです。(パターン3 核大国≧核中小国)

次に、核大国との関係を抜きにした核中小国相互間の関係を見てみましょう。相互に核を保有している核中小国の間では、小規模ながらも相互確証破壊が成立し得ます。核の使用は核による報復として自国の破滅をも招きかねませんので、核大国間と同様に相互的な抑止力が強く働くのです。仮に、核の拡散が人類を危険に晒すとしますと、それは、国民に責任を負う国家による核保有ではなく、テロ組織や暴力主義を行動原則と知る非国家組織体となりましょう。(パターン4 核中小国≑核中小国)

一方、中小国において核保有国と非核保有国に分かれている場合には、前者が後者に対して圧倒的な破壊力並びに抑止力を持つことは言うまでもありません。NPT体制にあって北朝鮮やイランによる核保有が軍事大国であるアメリカのみならず中小の周辺諸国に危機感をもたらす理由も、核保有による軍事バランスを逆転し得る攻撃的な破壊力の飛躍的な増強にあります。(パターン5 核中小国>非核中小国)

なお、現実の世界には軍事同盟が存在していますので、核大国が非核中小国に対して核の傘を提供しているケースもあります。自らは核を保有していなくとも、同盟国が核大国であれ、核中小国であれ、核保有国である場合には、その抑止力を借りることができるのです。もっとも、この場合、提供を受けた側における抑止力のレベルは、同盟国である核大国による報復核反撃の如何にかかってきます。しばしば指摘されているように、核保有国である同盟国が、自国への核による反撃を怖れて核による報復を躊躇する場合には、核の抑止力レベルは著しく低下するのです。しかも、同盟国のために核のボタンを押すか否かについては、人間の意思が介在しますので、核兵器という物理的な力の保有状態のみが関係性の決定要因とはならず、さらに不確実性は増します。(パターン6 核大国+非核中小国≧核大国or核中小国)

以上に6つのパターンに分けてみましたが、こうした類型化は、国際社会にあって最も平和維持に効果的な体制を見出すに当たって役立ちます。抑止力による均衡、即ち等式が最も多く含まれるパターンの組み合わせが最も安全な体制であると言えますし、逆に、これが最も少ないパターンの組み合わせは極めてリスキーな体制となるからです。この観点から評価しますと、最も危険な体制はパターン1+パターン5の組み合わせとなり、これは、まさしく今日のNPTを基調とした今日の核管理体制に当たります。そして、国家間に軍事力の差がある現状を前提とすれば(大国もあれば中小国もある…)、比較的安全な組み合わせは、パターン2+パターン3+パターン4となります。

つまり、合理的に考えれば、NPT体制よりも全ての諸国が核を保有し、相互に抑止力を働まかせる体制の方が平和への貢献度が高いこととなりましょう。いささか理屈っぽくなりましたが、パターン分類を用いたこの説明、いかがでしょうか。

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