万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国政府は第三次世界大戦の回避に尽くすべきでは?

2022年05月19日 15時03分10秒 | 日本政治
 今般のウクライナ危機に際しては、多くの人々が、偶発的な事件を機に世界大戦に発展する事態を懸念しております。しかも、次なる世界大戦は核戦争を招きかねず、全人類の存亡危機と言っても過言ではありません。’その次がない戦争’、それこそが第三次世界大戦となりましょう(最終戦争?)。

第一次世界大戦では、’サラエボの一発の銃声’が軍事同盟の連鎖的発動によりヨーロッパ全域を戦場と化すことになりました。一方、第二次世界大戦は、独ソによるポーランド分割の合意―独ソ不可侵条約秘密議定書―に端を発しており、この大戦も、軍事同盟の連鎖性が戦火を世界大に広げています(日本国の真珠湾攻撃による日独伊三国同盟の発動…)。ヨーロッパほど、軍事同盟の連鎖性のリスクを痛いほど経験した地域はないのですが、今般のウクライナ危機に際しては、スウェーデンとフィンランドに続き、永世中立国として知られるスイスにあってもNATO加盟の議論が起きているそうです。

軍事力には攻撃力と抑止力の二面性がありますので、軍事同盟にあっても、ベネフィットとリスクの両面があります。今般のNATO拡大にあっても、ベネフィットとしては、’核の傘’の提供による新規加盟国の対ロ安全保障の強化、並びに、NATO側の戦略的行動範囲の拡大等を上げることができます。核の傘の下にあるNATO加盟国に対しては、さしものロシアも、国境を越えての自軍の進軍には躊躇することでしょう。その一方で、加盟リスクとしては、上述したように、軍事同盟国間における集団的自衛権の連鎖的発動によるヨーロッパ大戦、並びに、世界大戦化を挙げることができます。しかも、同大戦が、双方による核の応酬となる核戦争ともなれば、人類滅亡のリスクは一気に最大値まで上昇するのです。

それでは、核時代における軍事同盟のベネフィットとリスクとの間の比較衡量では、どちらに傾くのでしょうか。この問題、核の使用可能性のレベルによって比較衡量の結果が大きく違ってきます。例えば、NPT体制にあって国連常任理事国でもある核保有国がその先制使用を固く自らに禁じるならば、核は抑止力のみとして働くこととなります。また、イスラエル、インド、パキスタン、並びに、北朝鮮といった既成事実として核を保有している諸国があったとしても、これらの国との間に個別的な紛争要因がなければ、核攻撃を受けるリスクはそれ程には高くはありません。核使用の可能性が低いレベルにある場合には、軍事同盟は、主として通常戦力の相互的な強化を意味し、考慮すべきリスクは、相手国の通常兵器によって自軍が被る被害リスク、並びに、戦争に負けた際に生じる敗戦リスクに留まるのです。

ところが、今般、ウクライナ危機に際してロシアは核兵器の先制使用に言及しており、状況が一変しています。何故ならば、核兵器が攻撃兵器として使用された場合には、たとえ最終的に戦争に勝利したとしても、復興が極めて難しくなる程に国土が破壊され、国民の多くも命を失いかねないからです。目下、アメリカのCNNは、ウクライナにあって捕虜となったロシア兵が民間人の殺害を認めたため、戦争犯罪により終身刑の判決を受ける可能性があると報じていますが、核兵器の使用は、大規模な民間人殺害を意味します。国土や国民が被る損害は通常兵器の比ではなく、’核戦争には勝者はいない’と称されるのも、同兵器の桁違いの破壊力並びに殺傷力によります。核の攻撃兵器としての使用可能性は、それが高いほど、軍事同盟におけるベネフィットとリスクの天秤をよりリスク方面へと傾かせるのです。

実戦における核使用の可能性の高まりは、軍事同盟のリスクを比例的に高めることとなるのですが、対ロシア政策については、ロシアが、戦術核であれ、戦略核であれ、核兵器の先制使用を示唆している以上、第三次世界大戦に発展する可能性は否めません。そして、同大戦が人類滅亡を招きかねないとしますと、その回避こそ、最優先事項とすべきように思えます。つまり、紛争をロシア・ウクライナの二国間に留めることにこそ、各国政府とも、最大の努力を払うべきなのではないかと思うのです(第三次世界大戦は、超国家権力体との三次元戦争でもあるので、人類一般が敗者とならないためにも同戦争を阻止する必要がある…)。

目下、日本国政府も、ウクライナ支援を軸にNATOとの結束強化に向けて既に動き出しておりますが、戦時体制の整備のみに傾注するよりも、再発防止のための条項を組み込んだ中立的な立場からの調停案を提案した方が、よほど平和に貢献するかもしれません。人類が真に負けてはいけない’戦争’とは、第三次世界大戦を望む勢力との戦いなのですから。

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